あれから数日経過して。
ここしばらく研究所に顔を出さない博士を心配しつつも、彼から頼まれている作業を進めている。
今やっているのは、捕虜さんが乗ってきたジェクターの整備兼改良だ。
なにも派手に改造する、というわけではない。
思いのほか機体の損傷が数ヵ所見受けられたのでその補強と、最低限この機体だけでも戦闘区域を抜けられるようにするための装備強化などだ。
これは分かりきっている事だが、捕虜さんはいつまでもこの研究所にいるわけではないし、緊急事態につき匿った、なんて
立場上は一時的な捕虜だが、実際の所はただの保護。彼女の基本的なポテンシャルが回復し、ジェクターの修繕が終了すれば、元々所属していた艦隊に捕虜さんを引き渡すのは道理だ。
しかしながら、彼女の惑星と僕らの星は戦争をしている。穏便に取引をできるとは思えないので、最悪の場合は彼女とその機体だけで艦隊に戻れるような修繕を、この研究所で施さなくてはいけないのだ。
「……ふぅ」
一息ついて、僕は一旦工具を持った手を休めた。とりあえずひと段落ついた。まだ微調整と細かいチェックが残っているが、少し休憩しよう。
作業部屋を退室し、外に出た。そろそろ腹も減ってきたし、適当に昼ご飯も済ませるか。
しばらく歩くと、廊下で捕虜さんを見かけた。なにやら屈んで誰かと話している。
この研究所には俺と彼女、他にはアロさんしかいないはずだと思い、首をかしげた。客人の連絡も無かったし、誰と話してるんだ。
捕虜さんの近くまで来ると、彼女と話している人物が見えた。どうやら身長が小さいせいで、捕虜さんの背中で見えていなかったらしい。
会話をしていたのは、腰まであると思われる長い銀髪を後ろに一つでまとめている、袖から手が出ないほどブカブカの白衣を身に纏った少女──というより幼女に近かった。
「あっ、助手さん」
近づいてきた僕に気がついた捕虜さんに釣られる形で、銀髪ポニーテールの女の子も視線を僕へ移した。
「捕虜さん、その子は?」
「私も今さっき会ったばかりです。……あなた、お名前は」
そう言いながら屈んで女の子と目線を合わせる捕虜さん。いつも通りの眠そうな無表情だが、興味深そうな雰囲気はその声音からダダ漏れだ。捕虜さん、子供好きなのかな。
すると女の子は袖から出した人差し指をピンと上げ、少しドヤ顔で声を出した。
「ヒント1、この研究所には誰がいるでしょう」
「……あっ、もしかしてアロさんですか?」
「うぇぇっ、ば、バレるの早い……」
あまりにも素早い捕虜さんの返答に、出鼻をくじかれたように銀髪の子が動揺した。どうやら図星だ。
このかわいらしい銀髪ポニーテールロリは、ボディを入れ替えたアロさんらしい。
しっかし、新型のボディか。いつの間に……ていうか、何の為に……?
僕がいろいろ逡巡している間に、捕虜さんは少女となったアロさんを、撫でたり抱きしめたりしてかわいがり始めた。
「じゃあ今日からアロさん改めアロちゃんですね、スリスリ」
「ボディが小さいだけで、別に年齢退行したわけではないのだが……うぅ、おい捕虜、くすぐったいぞ」
アロさんの頭部の匂いをクンクン嗅いでいる捕虜さんをそのままに、僕は少女に質問をした。
「えっと、アロちゃんは何でそのボディに……?」
すると、彼女は鋭い目つきで僕を睨んだ。
「お前はちゃん付けするな、虫唾が走る」
「なんで!?」
吐き捨てるように告げ、銀髪少女はプイッと顔を逸らしてしまった。
どうやら僕に子ども扱いされるのは異常に嫌悪感があるらしい。とりあえず、いままで通りアロさんと呼ぼう。
あと、さっきの質問をもう一回。
「……それにしても、どうしてそんなボディに?」
「あのロボットチックな見た目では不自由だからだ。以前、博士の学会についていった時も……研究者どもにまともに相手をされなかった」
不貞腐れるように呟くアロさん。確かにそういう理由なら納得できるけど……。
いやいや、だったら僕みたいな成人男性のボディでもいいはずじゃ? なんで銀髪ロリ?
相変わらず疑問が消えないまま首をかしげると、アロさんがビシッと人差し指を僕に向けた。
「あと、お前のせいだ!」
「……えっ。それってどういう」
「お前が──ちょ、ちょっと捕虜、頭を抱きしめるのやめ……むぐっ」
「かわいいです、かわいいですね、アロちゃん。お姉ちゃんが抱きしめてあげます。スリスリ、ぎゅー」
何やらご立腹な様子のアロさんだが、捕虜さんにもみくちゃにされている。頬ずりされたり頭をなでられたり抱っこされたり、捕虜さんノリノリだな……相変わらず無表情だけど。
なんとも微笑ましい光景である。
地球人に、宇宙人に、アンドロイド。もうこの研究所に人種の壁はほとんどなくなっている。
はやく戦争も終わって、地球人の研究仲間とか欲しいな。本質は変わらない人間同士なんだし、平和的に落ち着くことを願うばかりだ。
「おーい! 助手くーん!!」
「ん?」
大きな声がしたので振り返ってみると、廊下の先から見慣れた白髭のじいさんが走ってくるのが見えた。なにやら大量に汗を流していて、息切れも起こしている。
僕らの目の前に来た博士は膝に手を置いてゼェゼェと何回か呼吸すると、その顔を上げた。
「どうしよう! 軍に捕虜くんの存在バレちゃった☆」
「───は?」