やはりあたしの青春百合コメはまちがっている。 作:四月一日 今日
プロローグ
「――――だってヒッキー言ってたじゃん。事故がなくても一人だったって。事故は関係ないんだって。・・・・・あたしも、こんな性格だからさ。いつか悩んで奉仕部連れてかれてた。で、ヒッキーに会うの」
もしかしたら在り得たかもしれない未来・・・だなんて思わない。あたしにはその確信があったから。
でも、今も目の前でひねくれてるこの人は何も考えずに素直にお礼すらを受け取ってくれない。言いたい事だってまだまだある。なのに・・・
うまく表現できないもどかしさが、あたしの言葉に熱を籠らせた。
「そしたらヒッキーがまたああやってくっだらないバカな斜め下すぎる解決法だしてさ。助けてもらうんだ、きっと。」
ヒッキーのどこか脆く一度壊れたら元には戻らない様なそんな顔を見ると、本人が否定しても偶々でもその優しさに触れたことを思い出すと、どうしようもなく身体が熱くなる。
他の誰かが彼の優しさに気が付く前に、ゆきのんがゆきのん自身の気持ちに気が付く前にあたしのものにしたいという気持ちが口から言葉のなって溢れてくる。
「それでさ」
まさか三年の祭りの帰りにもこんな話をするとは思わなかったなぁ。
今日は七夕祭りの日だったので今年も一緒に行きたいと思って勇気を振り絞ったのだ。でも、やはりと言ってはなんだが帰りにまた家まで送ってもらっていたら、ちょうど電柱のところでふと去年の事を思い出してしまった。今日はただ楽しかったていう思いでだけでよかったのに。
でも、もう無理だ。無理だよヒッキー...。
あたしは我慢できなかった。
ヒッキーが誰かのものになってしまうのも。迷惑になってしまう言葉を伝えないのも。
「それで、きっと...」
ヴヴっと。
くぐもった震動音が巾着から漏れ聞こえてきた。携帯が鳴っているのだ。
「あ...」
決心がぐらりと揺れる。
「あたしは...」
でも、もう止まれない。
「携帯いいのk―――」
「―――きっとまた、ヒッキーを好きになるの。」
* * *
胸が
案の定、次の日ヒッキーは奉仕部に来なかった。教室で「昨日の事なら忘れて!」と気にしてない様に言っても、一言「ん。」というだけ。
なんとなく結果が見えていたのに。今までの関係が壊れてしまうかもしれないとわかっていたのに。あたしは止まれなかったんだ。
もう元には戻れないし、戻らない。あの日常は過去のものになってしまったんだ。
ゆきのんがいれてくれた紅茶の香りが鼻腔をくすぐり、あたしを思考の海から引っ張り上げてくれる。
「大丈夫?何か悩み事があるみたいだけれど。」
ゆきのんはそう言ってあたしの前に紅茶を置いた。心配そうにしてあたしの顔を覗き込んでくる。
「あー、あはは...なんでもないよ?」
頑張って笑顔で取り繕ったけど、ゆきのんにはバレてるんだろうな。
あたしが紅茶に手を伸ばした所で、ゆきのんは口を開いた。
「今日比企谷君が来てない事と関係があるのかしら。」
さすがの鋭さにあたしは身体を震わせた。
だからいつもの様に努めようと紅茶に手を伸ばそうとしたのに、その手は自然にそのままゆきのんに伸びていた。
ゆきのんはそれ以上何も聞かずに自分の肩に乗せられたあたしの手に、そっとそのきれいな手を重ねる。
ただただ今は人肌が恋しかっただけかもしれない。少しだけいつもより誰かに触れていたいと思ってたのかもしれない。だからたぶん、ゆきのんに手を伸ばしたんだ。今くらいはぎゅっと抱きしめてもいつもみたいに「ちょっと、由比ヶ浜さん」っていう文句は言わないでくれるかな。
そもそもどうしてあたしは止まれなかったんだろな...。
目に涙を浮かべながらそんなことを思っているとゆきのんの肩に置いた手にいつの間にか力が入っていたのか、それに重ねられた手がふいにぎゅっとあたしの手を握った。
「あなたが何をしたとしても、私はいつでもあなたの味方よ」
ドクンと心臓が脈打つ。
なんだか急に切なくなり、気づけばあたしはゆきのんを思い切り抱きしめていた。
これ以上力を入れてしまえばぽきんと折れてしまいそうな身体、そこから伸びるしなやかな手。まるで濡れている様な綺麗な黒髪からは夏に合わせてか清涼感のある香りが立ち込め、同性のあたしでもドキドキする。
いつもならこれでスッキリしてゆきのんに「ありがとね!」と笑顔で言えるのだが、何でだろ、もう少し近くにいきたいと思った。思ってしまったんだ。
「ずっと味方でいてくれる」ってゆきのんが言ってくれたからかな、それともまだ心が痛いままだからかな。
違う。
単純にまだ人肌が恋しかったんだ。
だから、もう少しだけ。もう少しだけ。と思って顔をゆきのんの首元に埋めた。ほんとはそれだけで満足するはずだった。
なのに、魔が差したんだ。
あたしの吐息がくすぐったいのか、鼻息が首筋に当たるたびにゆきのんは小さく「んっ...」って。吐息が耳に当たるたびに「あっ...」って。
自分でもよくわからない。何がしたいのかわからない。
でも、すぐ目の前にある形のいい耳に吸い込まれるように、あたしはそれをパクリと咥えた。