やはりあたしの青春百合コメはまちがっている。 作:四月一日 今日
優美子の手首もまた、とても細かった。強く握った為に血管が収縮してトクトクといっている。
すぐ目の前の優美子はさっきまでとは大きく違って「何事だ」と言わんばかりに目を見開いていたが、しばらくしてその美しい顔の眉間の部分にシワがよっていった。
「結衣、あんた・・・何してるし」
その声は教室でよく聞く様に不満気だが、少しばかりの不安を含んでいる様にも聞こえる。
あたしもいつもなら身体を強ばらせて目を逸らしたかもしれないが、昨日、大人の階段を上ってしまったからか不思議と恐怖を感じなかった。
「何って、優美子が教えてって言ったんじゃん。」
思わず語気が強くなる。
「ちょっと、意味わかんないんだけど」
あたしもきっと“普通”ならこんな行動、意味がわからないと思う。
それでも、今はその“普通”じゃないのだ。自分でもよく分からないが、きっと、あたしはどこか壊れてしまっているのだ。
だからこの時ばかりは優美子を、どうしようもなく五月蝿いと思ってしまったのだ。
両手は、優美子の両手首を掴む事でもう使えない。でも、優美子の口を閉じたい。
まぁ、一つしか手段はないんだけど。
だから次の瞬間には、あたしはすっかり新鮮味を失ったキスの味を思い出していた。
ゆきのんとはまた違う柔らかさ。僅かに湿っている。顔が近くて体温が伝わってくる。
勢い良くキスしたからか優美子はぎゅっと目を瞑っていた。しかし、しばらくしてその感触にすぐさま驚いた様に目を開くと身体をじたばたとさせ始めた。身体を捩り力む度に吐息があたしの口の中に入ってくる。不思議とそれはとても甘い。それに、とても気持ちが良い。
だからもう少しの間キスを続けていたかったのだが、優美子が勢い良くブンブンと顔を振り始めたので唇同士があっさりと離れた。
「初めてだったのに・・・」
あたしを真っ直ぐ見つめる優美子の瞳は濡れていた。そんな優美子自身はとても綺麗で、どこか儚い印象をあたしに抱かせる。時たま見せてくれる優美子の弱い一面だ。
「そうだったんだ。意外だね。」
一言ポツリとそう漏らすと、そんな光景に我慢出来なくなったあたしは今度は自分の身体で優美子の左腕を挟み、右手で優美子の右手首を掴んだ。今、あたしの左手は完全にフリーだ。
その左手で優美子の顎を摘むように掴むと、今度はもっと押し付けるようにして唇を重ねた。
「そうだったんだ、じゃないし・・・っん!?」
あたしはすかさず自分の唇の隙間から舌を出して優美子の唇に這わせる。瞬間、優美子は今までにないくらいに暴れ始めた。
優美子はあたしが挟んだ方の手であたしのブラウスの背中側を引っ張りながら細い脚をあたしの脚に巻き付けてくる。
あたしが少しぐらついた瞬間だった。
優美子があたしを突き飛ばした。優美子の右手首を掴んだままだったので一緒に保健室の床へと倒れ込む。
聞いた事のないゴンっという音が頭を駆け抜けた。同時にキーン耳鳴りがして、一瞬視界が明滅する。
次の瞬間襲って来たのは強烈な痛みだった。頭が割れるように痛い。痛すぎて思わずぎゅっと瞑った目が開けられない。
しかし、しばらくして身体の感覚が戻って来ると、あたしの上半身、それも前半分に少しの重みと柔らかさを感じた。鼻をシャンプーと香水の良い匂いが抜けていく。
耳鳴りが治まると、
「ちょっ、結衣!?大丈夫!?」
聞き慣れた親友の声が聞こえて来た。ゆさゆさとあたしの肩を揺さぶりながら「どうしようどうしよう」と独りでに呟いている。
あたしはその声にゆっくりと目を開けた。ぽたぽたと顔に温い何かが落ちてくる。
「あ、優美子」
無意識的にそう呟いた。
まだ意識がはっきりしていないのか、何もかもがぼんやりしている。
遠くにチャイムの音が聞こえる。一限目の始まりを告げるチャイムだろうか。そう言えば、一限目は英語だっけ?
こんな時に限ってそんな事を考えてしまう。
こんな時?そう言えば今ってあたし、何してるんだろ。
優美子ってば、なんでそんな顔してるの?っていうか、なんか近くない?あれ?でもなんで、声が遠くに聞こえるんだろ。そんなに口を開けて叫んでるのに・・・。
最後に目に映っていたのは、あたしに覆いかぶさる優美子の、心配そうな顔だった。
今回は少し短めで申し訳ないです。
意外や意外、まさかのエロ回じゃなかったというね。期待した方ごめんなさい(笑)今回はじっくりと、もどかしさ重視でいくのかもしれませんね。
相手があーしさんだからこその百合SS。次週もお楽しみに!