やはりあたしの青春百合コメはまちがっている。 作:四月一日 今日
1
「――――えっ!?んんっ...。」
いきなりの事でやはり驚いたのか、ゆきのんは華奢な身体をビクリとさせた。
薄い右耳朶のフニフニとした柔らかさがあたしの唇も触覚を支配し、清涼感のあるシャンプーと嫌じゃない少しの汗の匂いが嗅覚をマヒさせる。
ほんの数秒の間だけだったにも関わらずゆきのんが身を捩る姿は視覚までをも満たし、もっと、もっとと、この見とれてしまうほど美しい彼女をめちゃくちゃにしたいという欲望を掻き立てた。
あたしの薄っすらと汗をかいた背中がゾクゾクする感覚に、あたしは今だけは他に何もいらないとさえ思えた。
耳朶を咥えてしばらくすると、ふるふると身体を震わせ始めたゆきのんに胸が締め付けられるほどの愛おしさを覚えたあたしは、一度口を話してから手をゆきのんの頭の方へと伸ばした。指が見るからにサラサラとした髪に触れる、と思ったところでゆきのんは「ちょ、ちょっといいかしら由比ヶ浜さん」と手を躱して、あたしから離れる様に席を立った。
「ん?どうかした?」
あえて。あえてあたしは知らないふりをした。だってゆきのんは、
「い、いえ。そのいつもより距離が近いと思ったから...」
「そうかな。友達なら普通じゃない?」
あたし以外に「友達」と呼べる人がいないから。「友達」という距離感を知らないから。
「だからさ、こっち来てよ。」
あたしは座ったままだったから、ゆきのんを見る目線が自然と上目遣いになった。そして、その状態であたしがウルウルと目を潤ませるとゆきのんはあたしのお願いを断れない事を知っている。きっとあたしも、ゆきのんにされたらと断れないんだけど。
しばらくの間ゆきのんは視線をあっちこっちと巡らせていたが、案の定、あたしの目を見たとたん身体をビクリとさせていつもみたいにどこか心配げに、どこかあきらめたようにあたしの元に来てくれた。トントンっと軽く横の椅子を叩くと、ゆきのんはふぅっと短く息を吐いてからストンとそこに座る。
あたしがすかさずゆきのんの肩に寄り掛かると、その何とも女の子らしい身体をまたビクリとさせた。
「あの...、由比ヶ浜さん?やっぱり近くないかしら...。」
あたしは鼻がゆきのんの顎のすぐ下にくっつくように顔を鎖骨に擦り付けて顔を見上げた。そうして改めてわかるゆきのんのびっくりするくらい長いまつげ、透き通るような白い肌。
近すぎてあたしの吐息が首元を撫ぜてくすぐったいのか、ゆきのんはプルプルと震えている。その光景がなんだかとても愛おしくて、もっと近くに居たいと思って、その絹のようなきめ細かい肌に触れたいと思った。
ああ、ゆきのん、可愛すぎるよ...。
見ているだけでは我慢できなくなったあたしは目線のすぐ近くにある首筋を触ろうと決めたのだがしかし、そこに伸ばしたのは「手」ではなく
「―――ひゃうっ!」
まったくの無意識だった。自分でも驚きだ。
あたしが伸ばしたのは、なんと「舌」だった。
あたしの舌がそこに触れた瞬間、ゆきのんは元から良かった姿勢をさらにピンとさせて、可愛らしく悲鳴にも似た声をあげる。自分の声が恥ずかしかったのか、それに気づいた瞬間ゆきのんは耳まで真っ赤にして、
「な、ななな、何を!?」
と切れ長の目を大きく剥いた。
どうしよう、可愛すぎる...と思ったのもつかの間、あたしはすぐにゆきのんの首に手を回して離れようとするのをグッと押さえて
「え...ちょっと...。由比ヶ浜さ―――ひゃあぁっ!」
再びその滑らかな首筋に舌を這わせた。ゆきのんのあまじょっぱい汗の味と、シャンプーとその汗の匂いとで頭がクラクラする。
そのままあたしが舌を鎖骨近くから耳の裏までをつつつとなぞると、ゆきのんは「あああぁぁ...」と言葉にならない声をあげた。そのいやいやと首を振るゆきのんの姿はあたしを酷く興奮させて、舌で右側を責めているだけでは物足りず、空いている手でゆきのんの左耳を指で挟んだ。
「―――いやぁ...。ふあぁぁぁあ...っ!?」
薄い耳を指で挟んでフニフニと揉んでみたり、中に指先を侵入させてかき回したりと普段とは違う熱を帯びるまで続ける。ゆきのんがビクビクと身体を震わせ始めた姿になんだか背筋がゾクゾクしたあたしは、そのまま上半身を少し起こして右耳に口を近づけた。
もっともっと、この可愛い子が乱れる姿を見たいと舌先をチロりと出した所で、ふいに両肩を掴まれる。
「ゆ、由比ヶ浜さん...。さすがにこれは友達のする範囲を超えていると思うのだけれど」
そのままグイっとあたしを引き離したゆきのんは、紅く染まって上気した頬に手を添えた。
しばらくそのまましゃべらないでいるとさすがに言い過ぎたと勘違いしたのか、ゆきのんは「由比ヶ浜さん?」とあたしの顔を覗き込んだ。
心配する彼女も可愛い。もっとめちゃくちゃにしたい。してみたい。
だからあたしは
「嫌だった...?」
と、またあの上目遣いで、また目を潤ませて、できるだけ申し訳なさそうに聞いた。
我ながら、ズルい女だと思う。