やはりあたしの青春百合コメはまちがっている。 作:四月一日 今日
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「————あー、やだなぁ...。」
あたしは普段よりも数百倍重い足取りを、いつもより数千倍は行きたくない奉仕部の部室へと向けていた。
昨日ゆきのんはああやって言ってくれたけど、どうしたって顔は合わせ辛い。
やっちゃったな~だなんて家に帰ってからいっぱい思ったけど、あたしはやらずに後悔するよりはやって後悔するタイプだとも思う。っていうのも、やはり単なるあたしへの都合の良い言い訳なんだよね...。
まあ、こんな事を考えていても仕方ない。どの道行かなくてはならないし、逆にここで行かなければもう話なんてでいないだろう。
あたしはいつの間にか着いていた部室の扉に手を掛けると、一息ついてからいつもの様に勢い良く...って、思わずノックしちゃった!?
慌ててあたしは扉を開けた。
「や、やっはろー!」
「...こんにちは、由比ヶ浜さん。」
少し間があったのはまあ仕方ないとして、いつもと変わらない返事にあたしは嬉しくなって伏せていた目を上げた。のだが、
「あ、あのさーゆきのん...って、ひっ!?」
キュッとしまった足首にすらりと伸びた形の良いふくらはぎ。肉付きの良いにもかかわらず細い太ももとお尻の上には優雅な曲線を描いたくびれと胸。
そして、ゆきのんと同様に異常に整った顔。
窓の外を向いていたのだろうか、顔だけを振り返ってその人の視線はあたしを捉えていた。
「どうどう?似てたでしょ?」
一緒にいてもう一年以上経つというのにはっきり言ってさっぱり分からなかった。
「や、やっはろーです...、陽乃さん...。」
その人、陽乃さんはまるでダンスでも踊るかのようにくるりとターンして身体ごとこちらに向くと、またあの時みたいな、クリスマスの時みたいな冷めた目をあたしに向けた。それだけであたしの身体は固まってしまう。
陽乃さんはそのままトントンとあたしの方へ二、三歩歩み寄ると、「ふーん」とつまらなさそうに言いながらあたしの足元から顔までを嘗め回す様に見てきた。背中に嫌な冷や汗が伝う。
「...ど、どうしました...?」
そんな陽乃さんのプレッシャーに耐え切れなくなったあたしは、また昔みたいにこの嫌な空気をなんとかしようとして思わず口を開いた。
あたしの言葉に陽乃さんは「ん?」と言ってあたしを見ると、いやらしく、嗜虐的に、口元をにやりと歪めて片頬だけにゆきのんと同じ小さなえくぼを浮かべた。
そんな光景に不覚にも思わず見とれていると、陽乃さんは一瞬にしてあたしの懐に寄り、
「君は綺麗なままなんだね。」
その形の良い唇をあたしの耳に付くくらいに近づけて、囁くようにそう言った。同時に、シャンプーと高級そうな香水のいい匂いがあたしを包み込む。
う、嘘...。まさか昨日の事を知られてる...?
いや、そんな事はないはず。だってゆきのんは言うはずないし、あたしも今日はそのことに関しては誰にも口にしていない。それに陽乃さんはゆきのんが乗って帰るはずだった車に乗って帰ったはずだから見られてもいないはず。
いったいどうして...
なんて思っていたのを陽乃さんは見ていたのだろう。
「へー、やっぱり何かあったんだ。」
こういうのを「カマかけられた」っていうのかな。あたしがしまったと思った時にはもう遅かった。
じりじりと詰め寄られていたあたしは、いつの間にか教室の端まで追いやられていた。背中が壁に着いた瞬間、
ドンっ
っと、あたしの顔のすぐ横をしなやかな手が通りすぎた。所謂「壁ドン」である。
人生初の壁ドンがこんな形だったからか、それともただただその彼女の冷めきった視線があたしを貫いていたからかもはやどちらか考えても分からないけど、あたしはドキリと胸を跳ねさせた。
陽乃さんの覗き込む様な瞳に吸い込まれそうになっていると、「もし、」と言ってゆっくりとその瞳を閉じた。
「君が雪乃ちゃんをあんな風に変えたのなら、私...」
そこまで言いかけるとあたしのそばから離れて部室の扉のすぐ前に行き、スマホを取り出した。ササっとそこに文字を打ち込むと扉に手を掛ける。
そしてまた顔だけをあたしに向け、
「君を壊しちゃうから。」
にっこりと思わず見とれるような笑顔を浮かべた。
「...っぷはぁ、はぁ、はぁ...。」
あたしはいつの間にか止めていた息を吐いた。身体中から一気に汗が噴き出て、腰が抜けた様に地面に座り込んだ。震えている肩を強く抱きしめる。
しばらくして、
「由比ヶ浜さん...?」
恐らくあの時陽乃さんが呼んだのであろうあたしの変えてしまった人、ゆきのんが部室に入ってきた。