やはりあたしの青春百合コメはまちがっている。 作:四月一日 今日
「────やめっ・・・んっ!?」
声をあげようとした瞬間、陽乃さんの柔らかくすべすべとした手があたしの口元を覆い隠した。そのまま学校をぐるりと囲んでいる塀へと押し付けられる。
それでもあたしは頭を振って逃げようと試みたのだが、
「逃げないでよね?」
手首までをガシッと掴まれて、そのままその手も顔の横の塀に付けられた。
身長は陽乃さんの方が少し高いが体格はあたしの方が比較的にはしっかりしている。
これならなんとか力で引き剥がせる。
そう思ったのだが、どんなに力を入れても陽乃さんの手はあたしから離れてくれない。
そんなあたしの様子を見たからか陽乃さんはニヤリといやらしく口角を上げてまたあの嗜虐的な笑みを浮かべると、「大人しくしてね?」とあたしの耳元で囁く様に言った。
笑顔から発せられたとは思えないほどの冷えきった声に、あたしの背中を悪寒が走り抜ける。心臓を直接握られているみたいだ。
額から汗を垂らすあたしに、陽乃さんはそのままさらに耳元に口を近づけるようにして続ける。
「ガハマちゃんの腕、どうしてアザがついてるのかな?」
それは陽乃さんが!と言おうとしたところで、あたしは、思い出した。思い出してしまった。
これは昨日、ゆきのんがバスの中であたしの手を
あたしがそれに気がついた瞬間、まるで何でも知っているかのように言う陽乃さんの目は光が消えたかのように暗く濁った。
その瞬間、
「───んんぐぅっ!?んんんんんんんん!!」
陽乃さんの空いた方の手は、あたしの胸、その先端を下着越しに思い切り捻った。同時に痛いよりも、じんじんと熱いという感覚が襲ってくる。
そんな自然と涙が零れるあたしを見てさっきよりも遥かに恍惚とした笑みを浮かべる陽乃さんに、あたしは身体の震えが止まらなかった。膝ががくがくと震えて力も入らない。
そしてもう、逃げようにも逃げられない。力では勝つ事が出来ないし、陽乃さんが乗ってきたはずの車はいつの間にか目の前から消えている。
それに、あたしの身体は抵抗する事を諦めて締まったように自分では動かなかった。
「声、出さないでね」
淡々とした声であたしに釘を刺すようにそう言うと、口元を覆っていた手をそっと外して、掴んだ手首を引くようにして学校の方へと足を向けた。
別に言っていないはずなのに、「反抗したらどうなっても知らないよ?」と言われているみたいで、あたしはされるがままにその華奢な身体のどこかから出している圧倒的な力でグイグイ引っ張られていく。
もし、この手が彼のものだったら・・・。
ふと、またそんな意味のない理想が頭に思い浮かぶ。
でも、そんなことは絶対にあり得ない。
下校する生徒がほとんどいない校庭を抜けて普段は生徒が出入りしないほう、所謂校舎の裏口から中へと入る。
しんと静まり返った廊下はまだ日中は残暑が残っているにも関わらず不自然なほど肌寒く、遠くの方に見える職員室の明かりが先生がまだ残っている事を教えてくれる。
あたしはローファー、陽乃さんはヒールを片手に持ち、靴下でペタペタと地面をたたきながら進んでいた。
徐々に落ち着きを取り戻しつつあったあたしには、もうここしかチャンスがないと思った。
あたしはここから逃げられない。
正確には逃がしてもらえない。
なら解決、いや、解消するにはやはりこれしかない。
あたしは大きく息を吸い込むと、
「——————えいっ!」
持っていたローファーですぐ近くの、つまり一階にある教室の窓を叩き割った。同時に静まり返っていた廊下に派手なパリーン!という音が響き渡る。
「ちょ、ちょっと!?」
案の定、陽乃さんは慌てていた。
そう。
逃げられない。でも、この場をどうにかしなきゃいけない。
その最善の策は、「一緒に捕まる」事だ。
次第にあたしたちの後方、職員室があるほうが騒がしくなってくる。あとはただここにいればいいだけ。あたしの勝ちだ。
しかし、あたしの考えが甘かった事に気が付いたのはものの数秒後だった。
「やってくれたねガハマちゃん。」
すこし呆れた様な、どこか起こっている様な声でそう言った陽乃さんの力と頭の回転速度を忘れていた。
「ほんとは保健室がよかったんだけど、予定変更ね」
踏ん張るために座り込んだあたしの腰に手を回すと、ひょいと軽々しく持ち上げた。
「きゃっ!」
しかし例え持ち合えたとは言えども保健室まではまだかなり距離がある。走っている間に職員室から出てきた先生たちに後ろ姿を見られるだろう。
しかし、
「もうここでいっか」
陽乃さんはそんな事は心配するような事じゃないという様にそう言うと、二階に上がる階段のすぐ横、用具準備室に駆け込んだ。
あたしは咄嗟に声を上げようとした瞬間、
「んんっ!?」
口に何かを詰められた。
口からその何かを出そうと伸ばした両手を流れるように掴んであたしの頭上に上げると、ここに元からあったであろうロープで支柱に括り付けた。
「ここが普段から空いてるところでよかったぁ~」
陽乃さんはほっと安心したように一息つくと、地面に背を付け身動きの取れないあたしの方へと視線を向けた。
明確な殺気というものを感じたのは、生まれて初めてだった。
嗜虐的な笑顔の中に、隠し切れないほどの何かが渦巻いているのが手の取るようにわかる。
震えるあたしに彼女は短くフフフと笑いかけると、そっと、そのしなやかな手をあたしのブラウスのボタンへと伸ばした。
今回はいつもよりは多めでしたが、これでやっと次週・・・。
ムフフな展開、お好きですか・・・?