だがたいして命に危険のない、ものすごく面白いとんでもない事件が、スバルをはじめとする面々に次々と襲いかかる。
そんな事件の一つ、それはエミリア歌唱力暴露事件だった。そしてそれに立ち向かうべく、彼らはたちあがった──たちあがった、の?
のエクストラストーリー、ここに開幕!
「時にス〜バルくん。君はどこでリュリーレを覚えたんだい?」
「なんだよ。いきなりだな、ロズっち」
朝食後のいつものひと時。ティーカップを手に持ったままのロズワールがスバルにそう問いかけた。
「い〜やぁ、スバルくんにはいろいろと意外な面があると思っているのだけーれど、リュリーレをなかなか器用に弾きこなしていると聞いた時には、正直驚かされたからねーえ」
「そうなんです、ロズワール様! スバルくんはリュリーレがとても上手なんです! レムは感嘆しました!」
レムが間髪入れずに合いの手を打つ。
「そうよね、レム。私もスバルにあんな才能があったなんて、知らなかったわ」
エミリアもレムの意見に同意した。
「二人がそう言うのなら、これはもう間違いない、ということだろう? かなりの腕前、ということだーね」
「いやいやいや。ちょっとは弾けるけどそこまでじゃ——」
謙遜するスバルをよそに、さらにエミリアがたたみかける。
「そうなのロズワール。それだけじゃなくて、スバルってリュリーレを弾きながら歌を——」
だがそこまで言って、エミリアはふと口をつぐんだ。そして消え入るような声でつぶやいた。
「それに比べて私の歌は……」
「え、エミリアたん?」
瞬時に場の空気が重くなる。おそらく彼女の頭の中で、バケツを被った自身の姿が思い浮かんでいるのだろう。
「い、いや、それほど——かもしれないけど、で、でも最近はずいぶん……」
スバル、必死のフォローも甲斐なく、さらに表情を暗くするエミリア。重い空気に、どよんとした澱みが混じり始める。誰も何も発言できない、やや緊迫した時間。が、ロズワールの一言がその沈黙を破った。
「確かに、本人が気に病んでいる通り、エミリア様はその声色の割には、歌がちょーっとだけ残念らしいからねーぇ。スバルくんの特訓もあって、だいぶよい方向になってきてはいるそうだが——」
彼は手にしていたカップをテーブルにおくと、頬杖をついて一同を見渡した。
「さぁーて、ここからが本題だぁーよ。近々王都で、王立歌劇団による新作公演があってね」
いきなり変わった話に、えっ? と、顔を上げてロズワールの方に向き直るエミリア。
「もちろん、リリアナくんが聴かせてくれたものとは随分と違うだろうが——」
リリアナ・マスカレード。ロリ味全開の吟遊詩人——有体に言えば流しのシンガーソングライター——である彼女は、以前、アーラム村で詩吟を奏でていたところをこのロズワール邸に招待され、今ここにいる面々の前で楽曲を披露した。
性格的には残念なところが多々見受けられた彼女ではあったが、その腕前は超一流。彼女がリュリーレ片手に歌い紡ぐその詩吟に、エミリアはもちろん、ベアトリス、スバル、そして意外なことにレムが大いに感銘を受けたのだった——。
「——興味、あるかい?」
一呼吸置いて発せられたロズワールの言葉に、場の空気が一変した。先程までの落ち込み様とは打って変わって、その言葉に顔を輝かせたエミリアは、うんうん、と首を縦に振った。レムも綺麗に膨らんだ胸の前で手のひらを合わせ、目を大きく見開いている。その隣のラムはといえば、いつものようにすまし顔。向かいに座っているベアトリスは横目でチラリとロズワールを一瞥しただけで、ラム同様、すました表情を浮かべ続けていた。
「実は、エミリア様の特訓に私も少しだけ協力させてもらおうと思ってね。以前、スバルくんは良い音楽を聞くことも重要だと言っていたし、そこで今回、特別に鑑賞席を用意させていただいた、というわけだーよ」
「わあ! じゃあ、みんなで王都に行けるのね!」
思わずエミリアが歓声をあげる。だが、ロズワールは目を閉じて首を横に振った。
「エミリア様。この歌劇団の公演、とーっても人気がありまして、残念ながら今回用意できたのは三席分だけなのですよ。もちろん一席はエミリア様。ですから今回はあと二名ということになりますねーぇ」
「えっ? そうなの……」
「で、スバルくん。君がエミリア様の声楽担当なのだから、ぜひとも一緒に行ってくれたまえ」
「え? 俺? ……って、いいのかよ、俺で」
思いもかけず指名されたスバルは、自分を指差しながらやや困惑。
「もちろんだーとも。リュリーレを器用に弾くことのできる君なら、その公演を鑑賞する価値はあるだろう?」
「いや、それは嬉しいけど……。じゃあ、エミリアたんとロズっちと俺で王都にお出かけ、ってことか」
「いやいや。私は所用があってその日は屋敷から離れられない。そこでもうひと席分は君が好きにしていい」
「えっ?」
いきなりそう言われても、では一体誰を選べば……。公私混同せず公平にその残り一席を選ぶのはなかなかに難しい——。
と、執事服の袖がそっと引っ張られた。振り返ると、いつの間に隣に来たのか、レムがスバルの上着に手をかけていた。
「バルス、レムを連れて行きなさい」
心なしか口元に笑み浮かべながら、目を伏せたままのラムが静かに言った。
「ロズワール様がお屋敷を離れられないと言うことは、必然的にラムもお屋敷を離れられないわ。それに王都へ行くなら、頼みたい用事もあるし。レムが一緒なら万全でしょう」
再び横に顔を向けると——普段ならこういう時、一歩下がって他者にその場を譲るはずのレムが、その薄青色の瞳をキラキラと輝かせながらスバルを見つめている。
もちろん、誰がなんと言おうとレムを連れて行きたい、と言うのがスバルの本音だ。だがここにはもう一人、ロズワールの話に興味を持ちそうな人物がいる。スバルは黙って会話を聞いていたベアトリスに顔を向けた。彼女もまた、リリアナの歌に大いに感銘を受けていた一人だ。そんな機会があれば是非にも観てみたいだろう。
「……残念ながら、ベティーは禁書庫から離れられないのよ」
スバルが何を考えていたのか見透かしたように、両掌を上に向けながら首を横に振るベアトリス。
「姉妹の妹を連れて行くのがいいかしら」
こうして、そしていきなり、エミリア陣営の王立歌劇団新作公演参加メンバーが決まったのだった。
——数日後。
「エミリア様、スバルくん、竜車の準備ができました!」
「じゃあ、行ってくるわね!」
御者台からかけられた声に、エミリアが軽やかに竜車に乗り込む。スバルもエミリアに続こうと、手すりに手を伸ばした時だった。
「ちょっと待ってバルス。これ——」
ラムが二つに折り畳まれた紙をスバルに差し出した。
「ん? なに?」
渡された紙を開いてみると、そこには異国の文字がびっしりと並んでいた。
「見ての通り、ラムへのお土産の目録よ」
「わ、わかった……。えっと、これなんて書いてあるんだ?」
「ああ、ハ文字まだ勉強中だったわね……。まあ、レムに見てもらってちょうだい」
「見せればわかるんだな?」
「そう。売っている場所もレムが知っているわ」
「わ、わかった。そんでもって、二枚目のこれって……」
「もちろんあれよ」
手渡されたメモの二枚目。〝ボーク陽樹の種、ミリージア、バロエ茸、白色結晶——〟
ラムの言う『あれ』とは、もちろん、先日スバルが
「えーと、こないだ命懸けで採ってきた分はどうしたんだよ?」
「バルス、備蓄はいくらあってもいいとラムは思っているわ。それに、危険を冒さず手に入るならそれに越したことないと思うけど?」
「ま、まあそうだな……。これは普通に——」
「まあ……買えると思うわ」
「で、一つ質問していいですか、お姉さま」
「なに?」
「なんでこっちはイとロの文字だけで書いてあるわけよ?」
「そんなこともわからないの? バルスが率先して……責任を持って手に入れるためよ。そうしたら、今度また必要になった時に、すぐに買いに行けるでしょう?」
「いや、でも——」
「何かしら?」
「い、いえ。なんでもありません……」
スバルが最後まで言い切る前に、会話が強制終了する。
「わかったなら、早く乗りなさい。レムもエミリア様も待っているわ」
「お、OK! とりあえず了解だ。ま、姉様のためだ。ちゃんと店の場所覚えて帰ってくるぜ。じゃ、ちょっと行ってくるわ!」
メモをポケットに入れたスバルが颯爽と竜車に乗り込んで、三人は王都へと出発したのだった。
皆様こんにちは。初めましての方は初めまして!
Kuromaru・黒丸です。お久しぶりです!
アニメ三期もそろそろ終盤。いや、おもしろいですよね!
今回、特に後半の作画がものすごく好き!
この感じで二期と三期前半作り直してくれないかなぁ……。
ってことで、EX「王都!」始めます! 最後までどうぞお付き合いください!
ちなみに、更新は不定期(すみません……)& 前出の江戸前技法ではなくて、作り置き小分け冷凍&解凍方式でのお届けです!