※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

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 ロズワール邸での平穏な日々が続いた──そうなるはずだった。
 だがたいして命に危険のない、ものすごく面白いとんでもない事件が、スバルをはじめとする面々に次々と襲いかかる。
 
 そんな事件の一つ、それはエミリア歌唱力暴露事件だった。そしてそれに立ち向かうべく、彼らはたちあがった──たちあがった、の?

——これはいつかどこかで、

あったかもしれないしなかったかもしれない、
黒色にほど近い濃い紫色(ダークパープル)の夢の中のお話——



 のエクストラストーリー、ここに開幕!

※オリジナル短編集第一巻、及び第二巻に基づく



紫紺の夢 EX.「王都!」その1・始まりはいつも……

「時にス〜バルくん。君はどこでリュリーレを覚えたんだい?」

 

「なんだよ。いきなりだな、ロズっち」

 

 朝食後のいつものひと時。ティーカップを手に持ったままのロズワールがスバルにそう問いかけた。

 

「い〜やぁ、スバルくんにはいろいろと意外な面があると思っているのだけーれど、リュリーレをなかなか器用に弾きこなしていると聞いた時には、正直驚かされたからねーえ」

 

「そうなんです、ロズワール様! スバルくんはリュリーレがとても上手なんです! レムは感嘆しました!」

 

 レムが間髪入れずに合いの手を打つ。

 

「そうよね、レム。私もスバルにあんな才能があったなんて、知らなかったわ」

 

 エミリアもレムの意見に同意した。

 

「二人がそう言うのなら、これはもう間違いない、ということだろう? かなりの腕前、ということだーね」

 

「いやいやいや。ちょっとは弾けるけどそこまでじゃ——」

 

 謙遜するスバルをよそに、さらにエミリアがたたみかける。

 

「そうなのロズワール。それだけじゃなくて、スバルってリュリーレを弾きながら歌を——」

 

 だがそこまで言って、エミリアはふと口をつぐんだ。そして消え入るような声でつぶやいた。

 

「それに比べて私の歌は……」

 

「え、エミリアたん?」

 

 瞬時に場の空気が重くなる。おそらく彼女の頭の中で、バケツを被った自身の姿が思い浮かんでいるのだろう。今日日(きょうび)聞かない〝トホホ〟と言った感じで肩を落とすエミリア。似たような立場のベアトリスは明後日の方を向いたまま、黙ってカップに口をつけている。

 

「い、いや、それほど——かもしれないけど、で、でも最近はずいぶん……」

 

 スバル、必死のフォローも甲斐なく、さらに表情を暗くするエミリア。重い空気に、どよんとした澱みが混じり始める。誰も何も発言できない、やや緊迫した時間。が、ロズワールの一言がその沈黙を破った。

 

「確かに、本人が気に病んでいる通り、エミリア様はその声色の割には、歌がちょーっとだけ残念らしいからねーぇ。スバルくんの特訓もあって、だいぶよい方向になってきてはいるそうだが——」

 

 彼は手にしていたカップをテーブルにおくと、頬杖をついて一同を見渡した。

 

「さぁーて、ここからが本題だぁーよ。近々王都で、王立歌劇団による新作公演があってね」

 

 いきなり変わった話に、えっ? と、顔を上げてロズワールの方に向き直るエミリア。

 

「もちろん、リリアナくんが聴かせてくれたものとは随分と違うだろうが——」

 

 リリアナ・マスカレード。ロリ味全開の吟遊詩人——有体に言えば流しのシンガーソングライター——である彼女は、以前、アーラム村で詩吟を奏でていたところをこのロズワール邸に招待され、今ここにいる面々の前で楽曲を披露した。

 性格的には残念なところが多々見受けられた彼女ではあったが、その腕前は超一流。彼女がリュリーレ片手に歌い紡ぐその詩吟に、エミリアはもちろん、ベアトリス、スバル、そして意外なことにレムが大いに感銘を受けたのだった——。

 

「——興味、あるかい?」

 

 一呼吸置いて発せられたロズワールの言葉に、場の空気が一変した。先程までの落ち込み様とは打って変わって、その言葉に顔を輝かせたエミリアは、うんうん、と首を縦に振った。レムも綺麗に膨らんだ胸の前で手のひらを合わせ、目を大きく見開いている。その隣のラムはといえば、いつものようにすまし顔。向かいに座っているベアトリスは横目でチラリとロズワールを一瞥しただけで、ラム同様、すました表情を浮かべ続けていた。

 

「実は、エミリア様の特訓に私も少しだけ協力させてもらおうと思ってね。以前、スバルくんは良い音楽を聞くことも重要だと言っていたし、そこで今回、特別に鑑賞席を用意させていただいた、というわけだーよ」

 

「わあ! じゃあ、みんなで王都に行けるのね!」

 

 思わずエミリアが歓声をあげる。だが、ロズワールは目を閉じて首を横に振った。

 

「エミリア様。この歌劇団の公演、とーっても人気がありまして、残念ながら今回用意できたのは三席分だけなのですよ。もちろん一席はエミリア様。ですから今回はあと二名ということになりますねーぇ」

 

「えっ? そうなの……」

 

「で、スバルくん。君がエミリア様の声楽担当なのだから、ぜひとも一緒に行ってくれたまえ」

 

「え? 俺? ……って、いいのかよ、俺で」

 

 思いもかけず指名されたスバルは、自分を指差しながらやや困惑。

 

「もちろんだーとも。リュリーレを器用に弾くことのできる君なら、その公演を鑑賞する価値はあるだろう?」

 

「いや、それは嬉しいけど……。じゃあ、エミリアたんとロズっちと俺で王都にお出かけ、ってことか」

 

「いやいや。私は所用があってその日は屋敷から離れられない。そこでもうひと席分は君が好きにしていい」

 

「えっ?」

 

 いきなりそう言われても、では一体誰を選べば……。公私混同せず公平にその残り一席を選ぶのはなかなかに難しい——。

 と、執事服の袖がそっと引っ張られた。振り返ると、いつの間に隣に来たのか、レムがスバルの上着に手をかけていた。

 

「バルス、レムを連れて行きなさい」

 

 心なしか口元に笑み浮かべながら、目を伏せたままのラムが静かに言った。

 

「ロズワール様がお屋敷を離れられないと言うことは、必然的にラムもお屋敷を離れられないわ。それに王都へ行くなら、頼みたい用事もあるし。レムが一緒なら万全でしょう」

 

 再び横に顔を向けると——普段ならこういう時、一歩下がって他者にその場を譲るはずのレムが、その薄青色の瞳をキラキラと輝かせながらスバルを見つめている。

 もちろん、誰がなんと言おうとレムを連れて行きたい、と言うのがスバルの本音だ。だがここにはもう一人、ロズワールの話に興味を持ちそうな人物がいる。スバルは黙って会話を聞いていたベアトリスに顔を向けた。彼女もまた、リリアナの歌に大いに感銘を受けていた一人だ。そんな機会があれば是非にも観てみたいだろう。

 

「……残念ながら、ベティーは禁書庫から離れられないのよ」

 

 スバルが何を考えていたのか見透かしたように、両掌を上に向けながら首を横に振るベアトリス。

 

「姉妹の妹を連れて行くのがいいかしら」

 

 こうして、そしていきなり、エミリア陣営の王立歌劇団新作公演参加メンバーが決まったのだった。

 

 

 

 ——数日後。

 

「エミリア様、スバルくん、竜車の準備ができました!」

 

「じゃあ、行ってくるわね!」

 

 御者台からかけられた声に、エミリアが軽やかに竜車に乗り込む。スバルもエミリアに続こうと、手すりに手を伸ばした時だった。

 

「ちょっと待ってバルス。これ——」

 

 ラムが二つに折り畳まれた紙をスバルに差し出した。

 

「ん? なに?」

 

 渡された紙を開いてみると、そこには異国の文字がびっしりと並んでいた。

 

「見ての通り、ラムへのお土産の目録よ」

 

「わ、わかった……。えっと、これなんて書いてあるんだ?」

 

「ああ、ハ文字まだ勉強中だったわね……。まあ、レムに見てもらってちょうだい」

 

「見せればわかるんだな?」

 

「そう。売っている場所もレムが知っているわ」

 

「わ、わかった。そんでもって、二枚目のこれって……」 

 

「もちろんあれよ」

 

 手渡されたメモの二枚目。〝ボーク陽樹の種、ミリージア、バロエ茸、白色結晶——〟

 

 ラムの言う『あれ』とは、もちろん、先日スバルがや(・)ら(・)か(・)し(・)た(・)代償として、山林での採取を強いられた薬材の数々。それらが分かりやすく、綺麗なイ文字とロ文字で書かれている。

 

「えーと、こないだ命懸けで採ってきた分はどうしたんだよ?」

 

「バルス、備蓄はいくらあってもいいとラムは思っているわ。それに、危険を冒さず手に入るならそれに越したことないと思うけど?」

 

「ま、まあそうだな……。これは普通に——」

 

「まあ……買えると思うわ」

 

「で、一つ質問していいですか、お姉さま」

 

「なに?」

 

「なんでこっちはイとロの文字だけで書いてあるわけよ?」

 

「そんなこともわからないの? バルスが率先して……責任を持って手に入れるためよ。そうしたら、今度また必要になった時に、すぐに買いに行けるでしょう?」

 

「いや、でも——」

 

「何かしら?」

 

「い、いえ。なんでもありません……」

 

 スバルが最後まで言い切る前に、会話が強制終了する。

 

「わかったなら、早く乗りなさい。レムもエミリア様も待っているわ」

 

「お、OK! とりあえず了解だ。ま、姉様のためだ。ちゃんと店の場所覚えて帰ってくるぜ。じゃ、ちょっと行ってくるわ!」

 

 メモをポケットに入れたスバルが颯爽と竜車に乗り込んで、三人は王都へと出発したのだった。




 皆様こんにちは。初めましての方は初めまして!
 Kuromaru・黒丸です。お久しぶりです!

 アニメ三期もそろそろ終盤。いや、おもしろいですよね!
 今回、特に後半の作画がものすごく好き!
 この感じで二期と三期前半作り直してくれないかなぁ……。

 ってことで、EX「王都!」始めます! 最後までどうぞお付き合いください!

 ちなみに、更新は不定期(すみません……)& 前出の江戸前技法ではなくて、作り置き小分け冷凍&解凍方式でのお届けです!
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