「では、ラム、レム、留守中頼んだよ。特にレム、彼の一切は君にお願いする」
「私からもお願いね。スバルの目が覚めても、無理させないように、ちゃんと見てててあげてね」
翌日、ロズワールとエミリアは、そう言い残してから王都に向かった。深々とお辞儀をして二人を送り出す双子のメイド。竜車が門から出て、その姿が見えなくなると、
「レム、これ……」
ラムはそう言って、ポケットから薬瓶を取り出し、レムに渡した。
「姉様、これは……」
そこまで言いかけて、硬直するレム。
「まぁ、そう言うわけだから、バルスの面倒はレムがしっかりなさい。知っていて黙っていたラムの責任も少しだけあるから、ちょっとは手伝ってあげるけど」
「ね、姉様。あの……」
言いかけたレムの言葉を遮るように、
「それにしても、あんな男のどこがいいのかしら。可愛い妹とはいえ、その趣味には若干の……いいえ、大きすぎる疑問を感じるわ」
ラムは肩をすくめると、屋敷に戻って行った。
レムの手に残された瓶のラベルにはこう書かれていた。
『※注意 以下の薬物または食品とは組み合わせないこと。——、—— 、——』
部屋のドアを静かに閉める。ベッドには土気色をしたスバルが眠っていた。すでに命に別状はなく、ベアトリスが調合する薬を飲ませ続ければ、一週間かからずに意識が戻ると、ロズワールは言った。
ベッドの横に椅子を引き寄せて、スバルの顔を見下ろすレム。その目に涙が浮かんでいる。
——いくらなんでも、今回のこの一件は許されることではない。全ては自分の責任だ。せっかく自分を救い出してくれた恩人をこんな目に遭わせるなんて、あまりにも身勝手で——。
ドアがかちゃりと開いて、
「様子はどうなのかしら?」
ベアトリスがそう言いながら部屋に入ってきた。慌てて目を拭うレム。
「あ、あの、今の所、まだ……」
「そんなに慌てなくていいのよ。意識が戻るにはまだまだ時間がかかるかしら。とりあえず追加の薬を持ってきてやったのよ。そいつに飲ませるといいかしら」
そう言って、液体の入った瓶をレムに渡す。
「ありがとうございます。ベアトリス様。あ、あの、今回の……」
「いい気味なのよ! しばらくはベティも静かに過ごせて、嬉しいかしら」
こんなところには一秒でも長くいられないとでも言うようにそう言葉を吐き捨てて踵を返す、ベアトリス。開いたドアからたくさんの本棚が見える。
「確認するのを忘れていたかしら。ちゃんと一滴も残さず……飲ませているのかしら?」
「は、はい……」
「な、ならいいのよ。それにしてもロズワールも何を考えてるのか、ベティーにはよくわからないのよ。そもそもあれはだたの……」
パタンとドアが閉まる。直接書庫に帰ったのだろう。レムはその中に足を踏み入れたことはなかったが、すでにあのドアの外は、屋敷の廊下になっているはずだ。
ベアトリスに渡された薬をテーブルに置くと、レムは一度ぎゅっと目をつぶり大きく息を吸い込んだ。覚悟を決めたように、スバルにかかっているタオルケットをめくる。その青い目に傷だらけの体が飛び込んでくる。
腹部の大きな傷は、この屋敷に運び込まれることになった原因。他の複数の傷は、魔獣騒ぎの時にスバルが負った傷だった。その複数の傷の方は自分が原因だ。それを思うと、またしてもじんわり涙が浮かんでくる。
大きく首を振り、涙を振り払って、スバルの掛け布を全て取り去る。
昨日スバルをこの部屋に運び込んだ後、ロズワールがその魔力でスバルの肉体の崩壊をとめた。ことなきを得たものの、口はもとより、身体中の穴と言う穴から、流れ出る血やら何やらで、スバルの体はぐちゃぐちゃになっていた。レムは青い顔のまま、無我夢中でその体を綺麗にした。
「レム、私も何か手伝うわ」
そう言って手を貸そうとするエミリアに、
「いえいえ、それには及びません。彼の面倒はレムとラムに任せて……エミリア様は他にやらなければいけないことが山ほどおありでしょう。そうそう、明日からの王都への御準備もお忘れなく」
と、ロズワール。
「エミリア様、ありがとうございます。でもレム一人で大丈夫です。エミリア様はどうぞご自分の責務を。ロズワール様も、ありがとうございます」
意図してではなかったが、誰にも触れさせないとでも言うような、そんな言い方になっているのには、レム自身気づいていなかった。
——レムがスバルくんを……。
優しくスバルの体を抱きかかえると、そっとその下からシーツを取り、新しい綺麗なものに取り替える。昨日は我を忘れて看病していたレムも、改めてスバルの体を目にすると、顔が赤くなってしまう。清拭用の薬剤で、優しく体を拭く、レム。ちょっとためらってから、下腹部のオムツがわりの布に手をかける——。
「バルスはどう?」
ラムが洗いたてのリネンを手に部屋に入ってきた。とっさにスバルから手を離すレム。
「いえ、変わりありません、姉様」
「それにしても、面倒な男ね。傷が治ったと思ったら、今度は……」
「ね、姉様……そのことなんですが……」
「いいわレム、それ以上言わなくても。起こってしまったことは仕方がないし、今はロズワール様とエミリア様が戻ってこられるまで、きっちりと世話をしましょう」
躊躇しているレムに代わって、スバルから汚れたオムツを取り去るラム。
「血の塊はもう出ていないわね。ラムも少しだけ焦ったけど、もう大丈夫なんじゃない?」
「は、はい、姉様。このまま良くなるといいのですが……」
「さっさと綺麗にしてしまうわよ」
なんの躊躇もなく、スバルに手を伸ばすと、軽く持ち上げてその周辺を拭き始める、ラム。レムはそんなラムを気にしないように、気を張りながら他の部分を清める。が、つい、ちらりちらりと、ラムが手につかんでいるその部分に目をやってしまう。
「レム、気になるのなら、もっと堂々と見て触ってもいいと、ラムは思うわ。どうせバルスの意識はないのだし」
「ね、姉様!」
「レムもそういう年頃だし、興味があるのは当然だわ。いい機会だから、いろいろと……。バルスも涙を流して喜ぶんじゃないかしら」
顔を上げてラムを見ると、冷静な物言いとは裏腹に、ほんのりと顔を赤くしている。そのレムの目線に気づくと、その手をパッと離して、
「さあ、ラムは汚れ物を片付けてくるから、あとはレムに任せるわ」
そういって、汚れた布を取りまとめると、ドアに向かった。部屋の扉を閉じる間際、
「ラムも……。いいえ、とにかく上手くやりなさい」
「ね、姉様!」
パタンとドアが閉まる。普段感情をあまり見せない姉が、ふと見せた表情がちょっと気になる。ここのところ、同様の表情をたまに見せることがある。あれは一体——。
ベッドに目を戻す。スバルは眠り続けている。ラムが途中で放棄したタオルは、そのままスバルの股間をわずかに隠していた。
「す、スバルくん、失礼します……」
返事がないのはわかっていたが、そう声をかけて、股間に手を伸ばした。タオル越しに感じるスバルのもの。手を添えて持ち上げながら、裏側、下の方についている袋のような部分、そしてお尻と、全てを丁寧に綺麗にしていく。
——こ、これが女の人の中に入って、精を放つ部分……。
ラムは興味があるのが当然と言っていた。そんなものには興味は全くないと言うと嘘になる。二人だけしかいない静かな部屋の中で、改めて目にする男の子の器官に、自分の手が触れているものに、レムの心臓は爆発しそうだった。
——でもスバルくんが寝ているのに、許可なく見るのは失礼すぎます……。
そう真面目に考えてしまう。手を止めて凝視してしまう自分をなんとか制しながら、スバルの体を綺麗にすると、新しい布をあてがい、綺麗なタオルケットを肩までかける。そして、枕元の瓶の中身を口に含むと、そっとスバルに口付けながら、少しずつ、喉に薬を流し込んだ。
——早く良くなってください……。
突然、下腹部にじんわり、切ないような疼きを覚えたレムは、清拭具を手に抱えて、急ぎ足でスバルの部屋から退散した。