五日が過ぎた。レムは、毎晩スバルの手を握って夜を過ごした。日に数回、薬を飲ませた効果があったのか、スバルの顔色は少しずつ良くなり、時々、寝言のような声を口にするようにもなっていた。
流石に毎日のスバルの世話にも慣れ、裸の部分を目にしても、最初ほど平常心を失うこともなくなっていた。それでも、薬をスバルの口に運ぶたびに、あの疼きを感じてしまう。
その感覚は、以前から幾度となく感じたものと同じだった。決まって夜に、それは訪れた。
最初はよくわからなかった。ベッドに潜り込み、お腹を抱えるようにしてその感覚が通り過ぎるのを待っていた。そうして幾夜も過ごしているうちに、指が自然とその場所に伸びるようになった。下着の上からそっと触ると、なんとなく心地よくてふんわりした気持ちになる。
だがそれ以上のことは何も起こらなかった。無意識のうちに手を止め自制していた。それは背徳と、それ以上に姉への贖罪なのかもしれなかった。
——レムは、スバルくんと、一体どうしたいのでしょう……。
スバルの体の世話をしていると、あの時、自分と姉の体に起こったことを思い出す。
屋敷でメイド見習いとして働き始めて、一年ほどが過ぎたころ。それは突然訪れた。前日から下腹部の鈍痛を感じていたレムだったが、朝食の片付けをし終わったころ、内股を温かい何かが滴っていくのを感じた。
——あれ?
白いストッキングの上の部分が、赤く染まっている——。あわててスカートの裾を持ち上げ覗き込むと、白いかわいいショーツが、自分から流れ出る血で真っ赤になっていた。
「ひっ……」
息を飲み、叫び声をあげかける。
「どうしたんですの? レム?」
後ろから聞こえたフレデリカの声に、泣きそうな顔で振り向くレム。
「ふ、フレデリカ——」
「レム、一体……」
フレデリカはそう言いかけると、
「まぁ、レムもですの……」
優しい口調でそう言った。
階段から降りてきたフレデリカの隣には、珍しく彼女と手をつないでいるラムの姿があった。そしてラムの白いストッキングにもまた、レムと同様に、赤い血がにじんでいた。
「さぁ、二人とも、浴室へ」
何が起こっているのか理解しているようなラムと、不安で目に涙をためているレム。血で汚れた体を一旦綺麗にさせながら、新しい下着と、手のひらほどの大きさの薄いシート状のものを用意するフレデリカ。
「綺麗になりましたの? でしたらこれを使いましょう」
赤と青、それぞれのネグリジェに着替えさせたフレデリカは、大きなベッドが設えられた部屋に二人を連れて行くと、二人をそのベッドに寝かせた。
ベッドの脇には水差しと、何かの薬が置いてある。
「今日はこのまま、ここで休んでいてよろしいですのよ。二人ともお腹の痛みは?」
かすかに頷く二人。その答えがわかっていたように、小さな錠剤を二人の口に入れ、それを飲ませると、
「ラムは、わかっているようですね。レムは、どうなのでしょうか?」
「あの、これは……」
「レム、あなたの体が、大人になったのですわ」
「大人?」
「そう。大人の女性には、必ず訪れるものですのよ。もちろん私にもありますわ……」
お茶を飲みながらフレデリカが二人に話し始める。女性の生理について、優しく丁寧に。そして、子供を作る行為に話が及ぶ。ある程度知識があったラム、あまり考えたことがなかったレム。
今までは排泄にしか使ったことのない自分の部分が、生殖のための器官でもあると知った時の驚きと、その行為がどのように行われるのかを聞いた時の衝撃。二人は顔を赤らめて、フレデリカの言葉に耳を傾けた。
思えば、そういう教育を受ける前に、たった二人きりになってしまった。普段の基礎的な教育と、女性が適任の教育。それがこの屋敷で二人にもたらされたのは偶然なのか、それとも何らかの力が働いているのか、レムにはわからなかった。
その後、生理が定期的に訪れるようになると、それに伴い体の変化も大きくなっていった。背丈はもちろん、胸の膨らみや臀部の丸み、体全体の線が大人のそれに少しずつ近づいてゆく。
そして、あの妙な感覚。普段はかすかに、でも時に強く。フレデリカの言っていた子供を作るため、自然と湧き上がる感じというのはこのことなのだろうか——。
気づくと声が、かすかにスバルの口から漏れている。
「う……」
その目を開け天井を見上げている。
「気がつきましたか? スバルくん」
——ようやく! ようやく気づいてくれた!
「あ……う……」
掠れた声が、レムに何かを伝えようとする。
「レムです。わかりますか? スバルくん」
レムは泣き出しそうなのをこらえて、スバルに優しく声をかけた。
「え……え、む?」
体を動かすことができないスバルの右ほほに、自分の手をそっと触れながら、
「はい……スバルくんのレムです!」
そう答えるのがやっとだ。
「お、お……おうして……」
おそらくスバルは、自分の状況を把握していない。
「あまり無理に話そうとしないで、今はまだ、何も考えずにゆっくり休んでください」
レムの顔に目だけを向けて、でも、自分の顔をきちんと見つめてくれるその目に、胸がいっぱいになる。
「スバルくん……」
今はとにかく、体を休ませること。そう言われていたレムは、薬の瓶に手を伸ばし、その液体を口に含んだ。
今まで通りに、薬を飲ませようとするレム。だが、意識があるスバルに、直接口移しで薬を飲ませるのは、かなり勇気のいることだった。ためらいながら、ゆっくりとスバルの口に自分の口を近づける。今度は意識のある口が、ちょっと驚いたように開いて反応する。
いつもそうしていたように、ゆっくりと優しく、スバルの喉に液体を流し込む。
「む、ん~~~んっ!」
一滴もこぼさないように。ゆっくりと。ゆっくりと。
「ほぉぉっ」
大きく息を吐き、スバルは再び瞼を閉じた。
「お薬です、スバルくん。それを飲んで、今はゆっくり寝てください」
涙が一粒、その顔を見下ろすレムの頬を伝わって落ちた。