※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

27 / 104
青の章・8

 冷静になって考えると、昨夜はかなり恥ずかしいことをしてしまった。

 

——スバルくんにどんな顔を見せたらいいのでしょうか? はしたない子って思われてたらどうしましょう……もしかして、嫌われちゃってたら……ううん、それはないはずですよね、きっと。そうだといいんですけど……。それに、もしかして、もしかして、もう大きくなっていたら、最初に出してあげたほうがいいのでしょうか……でも、朝から?  

 

 翌朝、スバルの部屋の前まで朝食のワゴンを押しながら、そんなことをぐるぐると考えていると、

 

「何をそんなに思い詰めているのかしら?」

 

 声がした。

 

 ぎくりとして振り返ると、ベアトリスが澄ました顔をして、レムを見上げていた。

 

「お、おはようございます。ベアトリス様」

 

「おはようなのよ。妹の方は調子はどうかしら? 昨日の薬はかなり役に立ったはずなのよ。進展はあったのかしら?」

 

「し、進展……ですか? あ、あの、その、い、いったい何を」

 

「やれやれ、なのよ。ベティの薬がイマイチってことかしら?」

 

 そう言って、小さな手に持っていた薬瓶をレムに手渡した。

 

「今日はこれを飲ませるといいのよ。朝食の前に飲ませるのが一番いいかしら。ただし、効き目がちょっと強いから、口移しはしない方がいいのよ。わかったかしら? さて、ベティはちょっとあれと話があるかしら」

 

 先にスバルの部屋に消えるベアトリス。たった今手渡された薬の瓶に目をやりながら、ベアトリスの言っていた言葉を思い返す。

 

——薬が役に立つ? 進展……進展って一体……。

 

 短い会話を終え、あっという間にベアトリスが出てきた。澄ました顔のベアトリスと目が合うと、さっきのやりとりを思い出して、顔が赤くなる。

 

「本当にめんどくさい連中なのよ。ロズワールも、一体何を考えているのかしら。本当は自分たちでなんとかするのが普通かしら」

 

 どこか、優しさを感じる口調でそう独り言を言って、隣の部屋に入って行く。おそらくもうベアトリスは禁書庫の中だろう。レムはワゴンを押しながら部屋に入った。

 

 スバルの顔を見ると、昨日のことを思い出して、顔が赤くなる。

 

「お、おはようございます。スバルくん。気分はどうですか?」

 

「お、おはよう。いいよ、うん。気分はいい、すごくいいよ」

 

 目と目が合う。

 

「あ、あの昨日は……」

 

「あの……昨日の……」

 

 言葉が重なった。

 

——こ、こんな時、どう話したら、何を話したらいいんでしょう……。

 

 ふと、窓が開いて、爽やかな風が部屋に入り込んでいるのに気づいた。

 

「ま、窓は誰が開けたんですか? ベアトリス様が?」 

 

「そう……そう。ベア子が開けてったよ。く、薬の話もしてったっけ。新しい薬がどうのって」

 

「そ、そうですか……」

 

 やっぱりスバルの顔をまともにみられない。レムはスバルに背を向けて、新しく調合された薬をグラスに注いだ。

 

「スバルくん、朝ごはんにしましょう。その前にこのお薬を飲ませなさい、って……」

 

「あぁ、薬、薬、ね。わかった、うん」

 

「あ、あの今日は、グラスで……」

 

——効き目が強い……強いって……。

 

「ベアトリス様が……」

 

 そう言って、スバルの口元に、薬の入ったグラスを寄せた。スバルの顔を見ると、どうしても昨日のことを思い出してしまう。つい、あの部分を頭に浮かべてしまう。グラスを持った手が震えて、顔が赤くなっていく。

 

「お、ああ、うん。うんそのままで」

 

 自分の動揺を隠したくて、

 

「スバルくん、朝食にしましょう。何から食べますか?」

 

 ワゴンに向かう、レム。

 

 と、

 

「あ、あれ? お、おい、レム……」

 

 その声に振り返ったレムの目に入り込んできたのは、タオルケットを剥ぎ取り、半身を起こして、手をまじまじと見つめているスバルの姿だった。

「す、スバルくん! スバルくん!」

 

 そう叫びながら、レムはベッドに飛び込んで、スバルに抱きついた。

 

「どわっ! お、おい、ちょ、落ち着けって!」

 

 そのスバルの言葉も耳に入らず、無意識に、自分の胸にスバルを抱え込んで、

 

「スバルくん! スバルくん! スバルくん!」

 

 繰り返しスバルの名前を呼んだ。

 

「く、苦しいっ!」

 

「い、いぎが、でぎない……」

 

 その言葉で我に返るレム。パッとスバルの頭を抱えていた手を離す。

 

「うううう。死ぬかと思った……」

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

 スバルの驚いた顔が、自分の胸の前にあった。思わず涙がこみ上げた。

 

 昨日まで、いや、さっきまで体を動かせなかった、手も自由に動かせなかったスバルが、ようやく——。

 

「もう一度、確かめてください。もう一度腕を、手を動かしてみてください」

 

 スバルはレムの顔の前に両手をかざすと、見せつけるかのように、その手で握って開いてを繰り返した。

 

「ほれ」

 

 レムは自然にスバルの手をとって、その指に自分の指を絡めた。暖かく包み込むようなスバルの手。

 

「ああ、スバルくん!」

 

 その手を自分の後ろに回して、

 

「スバルくん、レムのことをぎゅっとしてください!」

 

「ぎゅっと、って……」

 

「ぎゅっとです!」

 

——ぎゅっと抱きしめて! レムを抱きしめてください! スバルくん!

 

「わ、わかった。わかったよ、レム」

 

 おずおずと、そして力を入れて、スバルがレムの背中を抱きしめた。レムはそのまま、スバルの口に自分の口をあてがう。

 

「むむむぅっ」

 

——やっと、やっと! 

 

 涙が溢れる。唇を離してスバルの顔を覗く。驚いている顔のスバル。そんなスバルが愛おしくて、嬉しくて。今度はその頭を抱きかかえて、自分の胸元に引き寄せた。スバルの髪が、自分の頬をくすぐる。その髪も、自分が綺麗に世話をしているのに、やっぱりスバルの匂いがする。

 

——スバルくん! スバルくん! レムは、レムは……。

 

 そう思った瞬間、突然、下半身に痺れるような甘い感覚が走り、

 

「ひやっ!」 

 

 驚いたレムは、背中をのけぞらせ、腰を浮かせた。体の力が抜けてゆく。そのままスバルに頭を預ける。スバルもまた、レムを抱きかかえるように、そのままベッドに倒れこんだ。レムを抱いているスバルの腕に力が入る。レムにスバルの荒い息遣いが聞こえてくる。

 

 そして——。

 

 再び、新たな甘い刺激を感じて、体をビクつかせると、一体何が自分に起こっているのか、状況をようやく理解した。

 

 スバルの固くなったものが、自分を直撃していた。最初に抱きついた瞬間からその体勢だったのだ。全く意識していなかった。そして今は、男の人の、いや、大好きな男の子のそれが、自分のその部分に触れて、甘美な刺激を与えている。まるで……まるで自分の中に入りたいと言葉にしているように……。そしてレム自身もそれを……。

 

 そのことにようやく気づいて、レムの顔がカーッと熱くなった。スバルの目が気になる。

 

——お願いだから、気づかないで!

 

 恐る恐る見上げると、スバルもまた、顔を赤くして、困ったような嬉しいような表情をしている。

 

 もうどうしていいのかわからず、お互いに見つめ合う。

 

——もう、レムは……レムは、自分に正直になってもいいですか? スバルくん……。

 

 レムはゆっくりと顔を近づけて、自分の唇をスバルの唇に重ねた。今度は本物の、恋人同士がするような、キスになった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。