「んんっ……」
スバルに抱き寄せられ、自身はスバルの頭を抱え込んで、貪るようにキスをする。今までは恐る恐るだったのに、今はまるでそこからエネルギーを取り込むかのような、甘くて激しいキス。
「くちゅっ……くちゅっ……」
舌と舌とが絡み合い、音だけが部屋に漏れる。スバルの胸に、自分の胸を合わせる。さらに、体の奥に甘美な刺激を与える部分をスバルにぴったりとあてがって、その体温と鼓動を直に感じ取った。
スバルが、腰から手を離し、レムの髪を梳く。そのスバルの優しい指先がゾクゾクするくらいに気持ちがいい。
——なんて気持ちいいんでしょう! このままずっと、こうしてもらっていたいです……。
レムは体を起こしながら一度その唇から離れると、スバルの目を覗き込んだ。いつもより、ちょっとだけ潤んだような、優しい目が見える。愛おしさが募って、
「スバルくん……スバルくん……」
スバルの名前をつぶやくように繰り返しながら、今度はスバルの額に、頬に、唇に、顎に、その小さく可愛い口づけを繰り返し続けた。
——ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。ちゅっ。
今まで、切なくてもどうしていいかわからなかった、何か。それが今、心地よい刺激を与えられて、ようやくその姿を現し始めた。
「はぁっ……はぁっ……」
ため息ともつかない音が、自然と口から漏れ始める。体の奥が熱くなってくる。この尿意にも似た、甘い甘い感覚。スバルのものが自分を擦り上げるたびに、その感覚が強くなってくる。
昨日スバルが自然と腰を動かしたように、今度はレムが、無意識に、前後に小さく腰を動かしていた。
「れ、レム……ちょ、ちょっとま……」
スバルが何かを言っている——が、レムの耳には届かない。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ……」
——少しだけ。もう少しだけ、強く……。
いつの間にかガウンをはだけていた。目を閉じたまま、半身を起こす。両手をスバルの胸に置き、ぐっと体重をかける。その瞬間、ガウンの隙間から飛び出しているスバルとレムの密着が高まる。
——あと、ちょっとだけ……もうちょっと……だけ……。
レムは夢中で腰を動かし続けた。濡れた下着が、動きをさらにスムーズにした。スバルの腰がレムの動きに合わせて突き上げられると、
「あ……っ」
——も、漏れちゃう!
そう感じた瞬間。それは突然にやってきた。スバルに触れているところから、痺れるような何かが身体中を走り抜けた。思わず背中が仰け反って、さらに強く押し付ける格好になる。何かが体から漏れ出そうな、今まで経験したことのない感覚が、そこから身体中に広がった。ついで体を震えが包み、真っ白になった。
咳き込むような体の動きが止まると、
「……っ」
レムは目を閉じ、ゆっくりとスバルの胸の中に倒れこんだ。
「ふぅっ……ふぅっ……」
ささやかで、可愛らしい、レムにとって初めての
胸が爆発しそうなくらいに、ドキドキしている。荒い息がとまらない。今自分に起こったことが、一体何だったのか、わかっているようでわかっていなかった。
——こ、これって! れ、レムは……スバルくん! どうしましょう! レムは……レムは!
「お、おい……れ、れむさん?」
戸惑ったようなスバルの声にどう反応していいのかわからない。恥ずかしくて、嬉しくて、驚いて、でもやっぱり恥ずかしくて。
少しづつ呼吸が落ち着き始めると、レムは再び体を起こしてスバルを覗き込む。
——全部見てましたよね……わかっちゃいましたよね……今更ごまかせないですよね……スバルくん……。
正直に、今自分に起こったことを告白する、レム。
「す、スバルくん……どうしましょう……レムは……スバルくんの……あの……スバルくんに……」
もうどれだけ赤くなればいいのかと思うくらいに、頬が火照る。
「え? あ、あの……」
「その……き、気持ちよく……あの……」
——こう言う時、なんって言えばいいのでしょう……恥ずかしすぎます……。
「それって、も、もしかして、あの……」
レムを抱えている手に力が入り、レムに触れているスバルのものが、さらに密着度を増して。
「れ、レム!」
その声と、ドアをノックする音が重なった。
——!
聞きなれた声が部屋に入ってくる。
「レム? バルスの食事は済んだの?」
我ながら早かった——と思う。
反射的にレムの意識が額に集中する。いつもは隠されている白い角が青髪の中から現れ、輝きを放った瞬間、レムの周りの全てのものが、ネジの切れかかった時計のように、ゆっくりと動き始める。
スバルの頭を抱えて上半身を抱き上げる。スバルの体から離れて——ああん……寂しいような名残惜しいような感覚がレムのそこから伝わってくる……でも、今はそれどころではない——ベッドから飛び降りる。顔を向けて状況を確認する。ちょうど開いたドアの入り口から、スカートと白いストッキングに包まれた足が見え始めている。姉様! お願いです! もう少しゆっくり入ってきてください! もっとゆっくり! 着地して、次の動作に移る。食事を乗せたワゴンはベッドのすぐ横に置いてある。よかった! すかさずスプーンに手を伸ばし、食事を——いけません! スバルくんが! その……大きくなってる部分が丸見えになってます! 上半身をひねりタオルケットの端を掴むと、スバルの腰までかけて、シワを伸ばして綺麗にする……ああ、だめ! だめです! こんなに綺麗にしてしまっては、スバルくんの……す、スバルくんの、お、おち……か、形が、は、はっきりと……はっ! 恥ずかしがってる場合ではありません! スバルくんが気まずくならないように、自然に、そう自然にシワを……こ、これなら姉様にバレないはずです! お願い! お願いです! 間に合って! お願い! あ、髪! 髪を整えなくては! あとは、あとは、スカートのシワを伸ばして、はだけかかっている胸元を整えて。そう、スプーン! スプーンを手に持って——。
白い輝きが髪の中に消え、世界が再び動き出す。
「い、いいえ、姉様。今ちょうどお薬の効き具合をみていたところです。食事はこれから……」
——ま、間に合った!
「え? ええええ?」
驚いた声が、スバルの口から発せられた。あっけにとられて、ラムとレムの顔をを交互に見比べている。
「一体何に驚いているのかしら? 今更二人の顔を見比べても、ほとんど同じよ、バルス。それよりも、仕事があるのだから、レムにあまり世話をかけさせないで頂戴」
「い、いや……。わ、わかった。わかってるよ。もう一人で食べられるから、大丈夫だ、レム」
「だそうよ。適当なところで、こっちに来てちょうだい」
「わかりました、姉様。すぐに行きます」
ラムはレムの返事を聞くと、パタンとドアを閉めた。
「れ、レム……お前、本当は魔術師かなんかか?」
と、スバル。その言い回しにレムは可笑しくて、
「さすがにレムもちょっとだけ焦りました」
笑ってそう言った。
「とりあえず、ラムのところに行ったほうがいいんじゃないか? メシはこのまま自分で食べるからさ」
ちょっと考えて、
「そうですね。そのほうが良さそうです」
——姉様、何かを感じたのかもしれないですね。
「じゃあ、レムはお屋敷のお仕事に戻ります。食器は後で片付けに来ますけど……」
「うん? けど?」
スバルはしらばっくれているが、レムにはちゃんとわかっていた。そこが大きいままだ。ラムが入ってこなければ、もしかしたら、あのまま——その可能性は低かったかもしれないが、少なくとも昨日のように自分がしてあげるつもりだった。
だが、それは行われず、スバルは大きいまま。そして、スバルの腕はもう普通に動くようになった。昨日スバルが自分で言っていたではないか。それを一体どうするのか、を。
——だから。
レムは、スバルの耳元に顔を近づけて、ささやくようにこう言った。
「スバルくん、大きくなったままですよね? でも、手が動くようになったからと言って、自分でするのは禁止です!」
「な、な、なにを——」
——焦ったスバルくんの顔、可愛い……。でも何も知らないふりをしてごまかそうとしても、ダメです!
「自分でするのは禁止です!」
「……っ」
「その代わり——」
「う、うん?」
「夜まで待っていただけますか?」
「よ、夜って……」
「それまで、我慢してください! 約束しましたよ!」
スバルの顔を正面から覗き込む。顔を赤くしたスバルの表情が、やっぱり可愛い。レムは、その唇に軽くキスをして、鼻歌交じりで部屋を後にした。
ドアの外には、ラムが立っていた。
「ね、姉様、ず、ずっとそこに?」
「……もういいの?」
「は、はい。姉様」
「じゃ、さっさとやることを片付けましょう。と言っても、ほとんどのことをレムがやるのは変わりないけれど……。ベアトリス様も、ラムとレムだけの時はお食事も摂らないし、そうね、お昼だけ作って、夕食はそれぞれ摂りましょう」
「で、でも、姉様」
「レムも、その方がいいんじゃない? その方が色々時間が取れると思うし」
「姉様……?」
「深い意味はないわ。そういえば、資料室のことなんだけど……」
「資料室?」
「そう、ベアトリス様の禁書庫じゃなくて、このお屋敷の資料室。あそこの片付けと整理をロズワール様に頼まれていたのを忘れていたの。それ、レムにお願いするわ」
「え、ええ、わかりました、姉様」
「時間がかかるかもしれないから、夕方までのバルスの世話はラムがするわ。食事の用意だけお願い」
「はい、姉様」
——仕方ありませんね。お屋敷のお仕事を蔑ろにするわけにはいきませんから。スバルくん、夜まで待っていてくださいね!
「そうそう、レム」
ラムはそう言って、レムを呼び止めた。
「……個人的なことにあまり口を出すつもりはないけど、姉として一つ言っておくわ」
——ぎくり。
「そのストッキング、着替えてから仕事をしたほうがいいと、ラムは思うわ」
——え? あ!
ラムに気づかれないように、チラリと下を見る。なんだか、あまりよろしくないことになっているようだ。
「ね、ね、姉様、あの……その……」
「何があったのか今は詳しくは聞かないわ。ラムは、レムが幸せなら、それでいいの。でも……」
今日何度目かの赤面レムに、ラムが続ける。
「でも、本当に、よりによって、なんであんな弱そうなのがいいのかしら……? 機会があったら、今度ゆっくり聞かせてちょうだい」
そう呟きながら、ラムは仕事に向っていった。
ラムの姿が見えなくなってから、レムは恐る恐る下を覗き込んで確認した。
——うううううう……。
スカートの裾から見えている白いストッキングの上の部分が、水をこぼしたようにシミになっていた。