「さあ、一度体を綺麗にしますね!」
体にタオルをあてがい、汗と激しく飛び散ったものを綺麗にしていると、
「わ、わりぃ……」
小さい声でスバルが言った。
「なんで謝るんですか? レムはスバルくんに気持ちよく……い、いえ、そもそも、今度のことはレムが……」
——そう。元はと言えばレムが……。
思い出したら、涙が滲んてきた。
「そういえば、そんなことを言っていたな。何がどうして、どうなったんだ?」
「…………」
「そんなに言えないことなのか?」
「い、いえ、そういうわけでは……ただ、あの……」
さっきまでとは違う意味で、鼓動が激しくなる、レム。
「ただ?」
「スバルくんはきっと怒るし、レムのこと嫌いになってしまいます……」
「いや、怒るとか嫌いになるとか、何があったのか分からなきゃ怒るに怒れないと思うぞ! それに、俺がレムを嫌いになるとか、あるわけないから!」
「ほ、ほんとですか?」
「ほんとだ!」
「ほんとに、ほんとですか?」
「ほんとにほんと……って、子供の言い合いじゃないんだから!」
「わ、わかりました」
——言わなきゃダメです。きちんとお話をしなければ……。
レムはスバルにタオルケットを掛けると、ベットの横に椅子を引き寄せて座った。覚悟を決めて、スバルに向き直る。
「じ、実は……」
「実は?」
スバルの体が起き上がり、ふむふむ、と言うようにレムの顔を覗き込んだ。その視線に耐えられず、目を伏せてしまうレム。その口がようやく開いた。
「スバルくんが食事中に倒れたのは、内臓が炎症を起こす病気で……その病気はそれほど珍しくないのだそうですが——」
「内臓? そういえば痛かったは右の下っ腹だったような。あれか? 盲腸的なやつ?」
「もうちょう? レムにはよくわかりませんが、とにかくお薬を飲めば、一日二日くらいでよくなる病気ということで……」
「手術とか、こっちにはないのか。まあ、薬飲んで一日二日で治るんなら……いや、まてまて。俺は一週間寝てたって言ってたな。そもそも盲腸で体が動かなくなるってなんだ? 体が動かなくなる薬なのか?」
「じ、実は……」
「実は、はさっき聞いた。で、なにがあった?」
「ちょうど何日か……前に……あの……」
レムの声がだんだん小さくなる。
「いいか、レム。腹を割って話そう。もう俺の恥ずかしいところはレムに全部見せた。今更隠し事は無しだ!」
「は、はい……。その、ちょうど村で珍しい木の実が手に入って……」
「珍しい木の実? まさかそれ、惚れ薬とか言うなよな!」
「い、いえ、あ、あの……その、それを煎じて飲むと、最初に目に入った人のそばから離れられなくなると言うか……、あ、惚れ薬と言うのとは違う気がするのですが……」
額に手を当てて絶句しているスバルの姿が、否応無しに目に突き刺さる。恐る恐る、言葉を続ける、レム。
「で、ですね……」
「レム。当ててみせよう。そのなんとかという実をある人物に飲ませた翌日、それは、とんでもない効果をその人物に発揮した、で合ってるか?」
「いえ、ちょっと違います。お夜食と一緒に煎じてお持ちしたのですが、スバルくんはもう寝てしまっていて……。それで、あの、朝の食事に少しだけスパイスがわりに……使って……みた……のですが……」
「で?」
「その、スバルくんが急に倒れてしまって、すぐにお屋敷にあったお薬を……そのお薬をスバルくんに……。でも、あの、レムがスバルくんに食べてもらった実は、その、お薬とは一緒に飲んではいけない組み合わせだったようで……」
「で?」
「あ、あの……そのせいで、スバルくんの体が……あの、全身があのボロボロに……なりかかって……」
あの瞬間の光景が蘇って、涙が溢れてきた。
「レムの、レムのせいです! レムのせいでスバルくんが、スバルくんが!」
もうこれ以上は続けられなかった。レムはベッドに泣き伏した。
「わ、わかった! わかったから! もういい! もうわかった!」
「レムが一生懸命看病してくれたおかげで、もうほとんど治ったから!」
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
「レム、もう十分だから。もう泣かない泣かない。ほら、顔あげて!」
「スバルくん、レムのこと嫌いに……」
「なってねーよ。そりゃ、ちょっとやりすぎだとは思うぞ。でも、嫌いになんてなってないって!」
——そんな優しい言葉をかけてもらう資格がレムには……。
「だいたいだ。そんなことがあったからこそ、レムに……レムに、その、あの……色々してもらえて……」
スバルの声が一瞬躊躇する。
「とにかく、だ。嫌いじゃないって! なんなら、もう一回、いや、一回と言わず何回だって、その、キ、キスとかしてあげても良くってよ!」
——スバルくん! スバルくん! スバルくん!
その言葉を聞いたレムは、ベッドに飛び込むと、夢中でスバルの唇に吸い付いた。
—— んんっ……
ひとしきり情熱的なキスが終わると
「大好きです。スバルくん」
そう言ってレムは、スバルの胸に顔を埋めた。スバルの手がレムの細い肩に抱きかかえ、空いている方の手が彼女の青い髪を優しく撫で続けた。