「何か、ご不満なのかな?」
その夜、いつものように、ラムはロズワールに一日の報告業務を行っていた。
「いえ、そのようなことは。ただ……」
「ただ?」
「その、王都にお出かけになる予定のことを、ラムは聞いておりませんでした」
「ああ、それが不満というわけだぁーね」
彼のオッドアイが、じっとラムの瞳を見つめる。それに耐えかねて、ラムは目を伏せた。
「なあに、いつもの単なる思いつきだよ。深い意味はない。エミリア様には、もっと広く勉強してもらわなければならないし。それに、彼のゲートに関して、手を打たねばなるまい。その方法を見つけに行くというのも、その理由だ。まあ、そう長くはかからないつもりだ。そう、彼が回復する頃には戻ってくるつもりさ」
「わかりました、ロズワール様。あと、ほかにご用件は……」
「ふむ。用件は、ラム、君の方にあるんじゃ、ないかな?」
目を伏せたまま、ラムが答える。
「は、はい。ロズワール様。いつもの……」
「さあ、おいで。しばらく留守にするから、今日は特に念入りにしようじゃないか」
「申し訳ありません……」
ロズワールの右胸に、いつものように収まると、
「星々の加護あれ——」
白い光が、かつて角のあった部分に注がれてゆく。額から力が注がれると同時に、体の奥が熱くなる。その熱さが、やがてラムの敏感な場所にまで伝わり始める。
「んっ。くっ、んっ」
聞かれたくない声が漏れてしまう。
「あっ、んっ、ん……」
普段よりも、長く力強い施術に、思わずロズワールの体に手を回してしまいそうになる。体に震えが走り、その場所に手を伸ばしてしまいそうになる。だが、それは決して彼に求めてはいけない。見られてはならない——。
注がれていたものが、すぅっと細くなり、やがてすっかりなくなると、ラムの体は痛みとけだるさから解放された。今回は、いつもに増して力が多く蓄えられた感触もあった。
「さあて、当面はこれでしのいでもらいたい。どうしても難しければ、いつもの宿に地竜を飛ばして、知らせるといい」
「申し訳ありません、ロズワール様。ご配慮ありがとうございます」
「いやいや。礼には及ばない。では明日から、レムと二人、よろしく頼むよ」
「わかりました、ロズワール様。それではお先に休ませていただきます——」
自室に戻ったラムは、いつものネグリジェに着替えると、バタンとベッドに横たわった。
——レムは今頃、バルスの担ぎ込まれた部屋で、懸命に看病をしているわね。
レムは気づいていないが、彼女の感情の起伏は、ほぼラムに伝わっている。それは言葉のような明確なものではないが、波動のような何かが、感覚として伝わってくるのだ。
警戒、怒り、悲しみ、そして虚無。ほんのひと月ほど前までは、それしかなかった。ところが、最近ではそれに、嬉しさ、楽しさ、恥ずかしさなども含まれるようになっている。ちょうど今は、悲しさと、嬉しさだろうか、その二つが入り混じっている気がする。
誰かに恋をする。それは自分には経験のないことだった。
——ロズワール様……。
彼に対する感情をなんと言えばいいのか。決して恋ではなく、決して愛でもない。いや、もしかしたら愛というものなのかもしれない。いつの間にか、憎しみが愛情に変わっている事には自覚があった。ただ、それが本当の愛なのかどうか、恋と愛情と愛とは何が違うのか、自分でもわからなかった。
そして、毎夜のあの施術。施されるたびに、どれだけ切ない思いをしているのか、それに気づいているのかいないのか、彼は決して自分に手を出そうとはしなかった。我慢できず、自ら求めたことも何度かあった。だが、そのたびにやんわりと拒絶されるだけだった。
小さな体に火をつけられ、放置され、出来ることといえば、自室に戻ってからさっきまでの感覚を追いながら、自分で自分を慰めることだけだった。だが、何度追い求めても、その先の何かにたどり着くことはなかった。
今日もこうして一人でベッドに横たわって、確かめるようにそっとそこに触れる。やはり、着替えたばかりの下着が、じんわりと濡れていた。今日は特に長く、強かった。毎夜の施術の前に、必ず風呂で体を綺麗にすることを習慣としていたが、その甲斐があったことは、一度もなかった。
もしレムがバルスとそういう関係になったら、自分はそれを羨ましいと思うだろうか。それとも——。
まだ経験のないラムは、ふとそんなことを思いながら、濡れている部分に手を伸ばし、下着の上から、自身の柔らかな筋を指でなぞった。そして、眠りにつくまで、ほんの少しの心地よさだけを味わった。
その感覚が実体のないものとして、毎夜、レムにも伝わっていたことには、ラムは全く気づいていなかった。