「スバルくん、今日はいい天気ですよ!」
目が覚めたばかりのスバルに、レムは嬉しそうに声をかけた。
レムが開け放った窓から、まばゆい日差しと気持ちのいい風が部屋の中に入っていた。空が青い。風に流れてゆく雲が白い。鳥のさえずりと、レムの声がスバルにはとても心地よく感じられた。
「ずいぶん顔色も良くなりましたね。あ、でも、体が動かせるようになるまで、まだもう少しかかるそうなので、無理をしないでくださいね!」
嬉しそうに話しをするレムの声を聞いて、スバルの心も軽くなった。この状況はもう少し続きそうだが、手首と頭は動くようになってきた。頭痛も、もうない。ちょっとは安心して、このベッドで寝ていよう。なによりも、エミリアに心配をかけることだけはしたくなかった。
「思ったより大丈夫そうね、バルス」
ドアの方から、やや冷たい聞き慣れた声がした。
「これもラムとレムの献身的な看病のおかげだわ。感謝しなさい、バルス」
「や、やあ。元気というか、なんというか。姉様はどうよ?」
レムの双子の姉、ラム。
さすが、双子だけあって、レムとラムの顔のつくりは全く同じだ。違うのは髪の色――レムはスカイブルー、ラムはライトピンクの髪の色をしている――と前髪の分け方、そして髪と同色の瞳だけだった。
強いて言えば、ラムは若干目がきつい。レムは少しだけ柔らかい。ただし、性格やその他、色々な意味で二人の中身が随分と違っているのを、スバルは既に知っている。
おっと忘れていた。ラムの胸はレムのそれにくらべて、それほど大きくない。スバルの世界基準で言えばBカップってとこか。んー、Aカップってことはないだろう。多分。きっと。ぺったんこじゃないし。いや、いや、ぺったんこはAカップに失礼すぎか。それに比べると、レムはCとかDカップくらいだろうか。メイド服の胸の部分が、ふんわりとかっこよく盛り上がっている。
実のところ、本物の女の子の裸の胸を見たことも触ったこともなかったので、これはかつていた世界の、さらにはネットの世界の中から拾った情報による憶測だ。そもそも、この世界にカップっていう単位があるのかないのか。
推定B、ひょっとしたらAカップのラムは、レムとお揃いのメイド服を身にまとい、畳まれた白い布を手に持って、ベッドの左側に近づいた。
「ラムは何も変わらないわ。それよりも今、何か邪なことを考えていなかったかしら? いやらしい」
「そ、そ、そんなことあるかー!」
そんなこと、あった。
「言い澱むところが怪しいわね」
ずばり、だ。
「ま、なにを考えていたのかは、わからないけれど、一刻も早く働けるようになりなさい、バルス。仕事は溜まっているのよ、バルス」
「バルス、バルスって、そんなに滅んで欲しいのかよ!」
一瞬間があって、
「あなたが倒れた時、それに近い状態だったのよ」
「へ? 滅びに近い?」
「そうよ。いきなり倒れたかと思ったら、そのまま意識は不明。ロズワール様とベアトリス様がいなければ、そのまま地獄行きだったわ。ま、バルスが地獄へ行きたいのは勝手だし、それはそれで構わないけど。とにかく、今こうやって話をしているのが不思議なくらいだわ」
「げ、マジかよ。なんでそんなことに……いや、まてまて、地獄って……」
「そうね、ほんと残念だわ」
その会話を聞いて、顔を赤くして俯く、レム。
「おいおい、そんな悲しいこと言うなよ! 俺とラムの仲じゃないか!」
「そんな仲、今までもこれからも、どこにもないわ、バルス」
「くぅぅー。辛辣すぎてぐうの音もでねぇ!」
「ね、姉様……そ、そのくらいで」
二人のやりとりに、ようやくレムが入ってきた。
「忘れていたわ、レム。今日はいい天気だし、やることをやってしまわなくてはダメね。さあ、取り掛かるわよ」
ラムはそう言うと、スバルにかかっていた布を全て一気に取り去った。
スバルの目に、自身の状態が飛び込んでくる。
腹部の大きな傷は、最初にこの屋敷に運ばれるきっかけになった、あの腸狩りにやられたものだ。今思い出してもゾッとする女だった。まあでも、あの事件がきっかけで、この屋敷で働くことにもなったのだ。感謝というには程遠すぎる事件ではあったが。
他の身体中の傷は、先日の魔獣騒ぎにできた傷だ。こちら側では、怪我を治すのと傷を消すのとはどうやら違うらしい。死ぬほどの怪我も治せる割には、多くの傷はそのままだ。
男たるもの、多少の傷は勲章のようなもの。スバルは常々そう思っている。それにしても、引きこもりだった自分が、これだけの勲章をこんな短時間にもらえるとは。
——あの時、あの魔獣に襲われた時、この部屋でレムといろいろ話したっけ。そういえば、レム、明るくなったよなぁ。ってか、違う意味で明るくなりすぎだよなぁ。突っ走り気味というかなんというか……
身体中につけられた傷を眺めながら、スバルはレムのあの時の涙を思い出していた。詳しくは知らないし、聞いてもいない。ただ、あの双子の間には大きな何かがあって。お互いがお互いのことを一番に大切に思っているのに、その想いには隔たりがあって……。
あの事件の後、レムに関して言えば随分と変わった気がする。そして自分に対しても、ストレートに色々と……。嬉しいといえば嬉しいんだけど。
それにしても、傷だらけだな。
傷だらけ、だよな。
今回覚えているのは、急に下っ腹が痛くなって、震えが止まらなくなって……。
新しい傷は見当たらないし、何か悪いものでも食ったのか、俺。
ところで。
どして傷だらけの体が見えてる?
……
…………
………………っ!
スバルは腰に布が巻かれただけの、ほぼ素っ裸だった!