※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

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黒の章・3

「スバルくん、今日はいい天気ですよ!」

 

目が覚めたばかりのスバルに、レムは嬉しそうに声をかけた。

 

 レムが開け放った窓から、まばゆい日差しと気持ちのいい風が部屋の中に入っていた。空が青い。風に流れてゆく雲が白い。鳥のさえずりと、レムの声がスバルにはとても心地よく感じられた。

 

「ずいぶん顔色も良くなりましたね。あ、でも、体が動かせるようになるまで、まだもう少しかかるそうなので、無理をしないでくださいね!」

 

 嬉しそうに話しをするレムの声を聞いて、スバルの心も軽くなった。この状況はもう少し続きそうだが、手首と頭は動くようになってきた。頭痛も、もうない。ちょっとは安心して、このベッドで寝ていよう。なによりも、エミリアに心配をかけることだけはしたくなかった。

 

「思ったより大丈夫そうね、バルス」

 

 ドアの方から、やや冷たい聞き慣れた声がした。

 

「これもラムとレムの献身的な看病のおかげだわ。感謝しなさい、バルス」

 

「や、やあ。元気というか、なんというか。姉様はどうよ?」

 

 レムの双子の姉、ラム。

 

 さすが、双子だけあって、レムとラムの顔のつくりは全く同じだ。違うのは髪の色――レムはスカイブルー、ラムはライトピンクの髪の色をしている――と前髪の分け方、そして髪と同色の瞳だけだった。  

 強いて言えば、ラムは若干目がきつい。レムは少しだけ柔らかい。ただし、性格やその他、色々な意味で二人の中身が随分と違っているのを、スバルは既に知っている。

 

 おっと忘れていた。ラムの胸はレムのそれにくらべて、それほど大きくない。スバルの世界基準で言えばBカップってとこか。んー、Aカップってことはないだろう。多分。きっと。ぺったんこじゃないし。いや、いや、ぺったんこはAカップに失礼すぎか。それに比べると、レムはCとかDカップくらいだろうか。メイド服の胸の部分が、ふんわりとかっこよく盛り上がっている。

 実のところ、本物の女の子の裸の胸を見たことも触ったこともなかったので、これはかつていた世界の、さらにはネットの世界の中から拾った情報による憶測だ。そもそも、この世界にカップっていう単位があるのかないのか。

 

 推定B、ひょっとしたらAカップのラムは、レムとお揃いのメイド服を身にまとい、畳まれた白い布を手に持って、ベッドの左側に近づいた。

 

「ラムは何も変わらないわ。それよりも今、何か邪なことを考えていなかったかしら? いやらしい」

 

「そ、そ、そんなことあるかー!」

 

 そんなこと、あった。

 

「言い澱むところが怪しいわね」

 

 ずばり、だ。

 

「ま、なにを考えていたのかは、わからないけれど、一刻も早く働けるようになりなさい、バルス。仕事は溜まっているのよ、バルス」

 

「バルス、バルスって、そんなに滅んで欲しいのかよ!」

 

 一瞬間があって、

 

「あなたが倒れた時、それに近い状態だったのよ」

 

「へ? 滅びに近い?」

 

「そうよ。いきなり倒れたかと思ったら、そのまま意識は不明。ロズワール様とベアトリス様がいなければ、そのまま地獄行きだったわ。ま、バルスが地獄へ行きたいのは勝手だし、それはそれで構わないけど。とにかく、今こうやって話をしているのが不思議なくらいだわ」

 

「げ、マジかよ。なんでそんなことに……いや、まてまて、地獄って……」

 

「そうね、ほんと残念だわ」

 

 その会話を聞いて、顔を赤くして俯く、レム。

 

「おいおい、そんな悲しいこと言うなよ! 俺とラムの仲じゃないか!」

 

「そんな仲、今までもこれからも、どこにもないわ、バルス」

 

「くぅぅー。辛辣すぎてぐうの音もでねぇ!」

 

「ね、姉様……そ、そのくらいで」

 

 二人のやりとりに、ようやくレムが入ってきた。

 

「忘れていたわ、レム。今日はいい天気だし、やることをやってしまわなくてはダメね。さあ、取り掛かるわよ」

 

 ラムはそう言うと、スバルにかかっていた布を全て一気に取り去った。

 

 スバルの目に、自身の状態が飛び込んでくる。

 

 腹部の大きな傷は、最初にこの屋敷に運ばれるきっかけになった、あの腸狩りにやられたものだ。今思い出してもゾッとする女だった。まあでも、あの事件がきっかけで、この屋敷で働くことにもなったのだ。感謝というには程遠すぎる事件ではあったが。

 他の身体中の傷は、先日の魔獣騒ぎにできた傷だ。こちら側では、怪我を治すのと傷を消すのとはどうやら違うらしい。死ぬほどの怪我も治せる割には、多くの傷はそのままだ。

 

 男たるもの、多少の傷は勲章のようなもの。スバルは常々そう思っている。それにしても、引きこもりだった自分が、これだけの勲章をこんな短時間にもらえるとは。

 

——あの時、あの魔獣に襲われた時、この部屋でレムといろいろ話したっけ。そういえば、レム、明るくなったよなぁ。ってか、違う意味で明るくなりすぎだよなぁ。突っ走り気味というかなんというか……

 

 身体中につけられた傷を眺めながら、スバルはレムのあの時の涙を思い出していた。詳しくは知らないし、聞いてもいない。ただ、あの双子の間には大きな何かがあって。お互いがお互いのことを一番に大切に思っているのに、その想いには隔たりがあって……。

 あの事件の後、レムに関して言えば随分と変わった気がする。そして自分に対しても、ストレートに色々と……。嬉しいといえば嬉しいんだけど。

 

 それにしても、傷だらけだな。

 

 傷だらけ、だよな。

 

 今回覚えているのは、急に下っ腹が痛くなって、震えが止まらなくなって……。

 

 新しい傷は見当たらないし、何か悪いものでも食ったのか、俺。

 

 ところで。

 

 どして傷だらけの体が見えてる?

 

 ……

 

 …………

 

 ………………っ!

 

 

 スバルは腰に布が巻かれただけの、ほぼ素っ裸だった!

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