「うぁぁぁぁぁぁ! ちょ、ちょっと待った! まったぁぁぁぁぁ!」
スバルは慌てて前を隠そうとしたが、体が全く動かない。かろうじて動かせるのは頭と、指くらいで、文字どおり手も足も出ない状態だった。
「なんだこれ! なんだこれ! こ、こ、この……!」
叫ぶスバル。
「何を今更叫んでいるの? この数日でバルスの裸は見飽きたわ」
と、ラム。
「ええええええええええええっ! そんなばかなぁぁぁぁぁ!」
「恥ずかしがることはないわ、バルス。これもラムとレムの仕事ですもの。そもそも、最初にこの屋敷に運ばれてきたときにも、全員に見られているわ」
——そうだ。そうだった。あの日、最初にこの屋敷に連れてこられたとき、エミリアにも、そ、そ、そうなんだけど!
次の一言で、スバルの思考は遮られた。
「それに、さっさとオムツを替えてしまわないと、いい加減、臭くなるわよ」
——そ、そういえば、掛布を取られた瞬間、何か臭いがした気がする。いや、してる? してるのか、これ! ま、ま、まさか!
昨日までとはまた違った意味で顔を真っ赤にして、
「くぁwせdrftgyふじこlpぃぃぃぃぃっ!」
スバルは言葉になっていない何かを叫んだ。
「仕方がないですよ、スバルくん。レムは気にしてませんよ。姉様もあんな風に言ってますけど、スバルくんのお世話をするのは嫌じゃないんです」
——全く慰めになってない! どこの羞恥プレーだよ、これ。こんな趣味はねえぞ!
「ち、ちょっと、お、お伺いしても、よ、よ、よろしいでしょうか? も、もしかして意識のない間、ずっと、そ、その」
「はい! 姉様とレムで、いつも清潔にしてましたよ!」
「ううっ」
——男気が。俺の男気がぁぁぁぁ。
顔真っ赤にし、目を固くつぶって羞恥に耐えているスバルにお構いなく、ラムが局部にあてがわれていた布に手を伸ばす。
「いや、まってまってまってまって!」
「バルス、うるさい。少しは静かにできないの?」
「少しの間、目をつぶっていてくださいね。スバルくん。目があうと、レムもちょっと、あの、は、恥ずかしいです」
スバルの体の下に手を差し込みながらレムが声をかけた。
「大丈夫よ、バルス。もう大きいのは出ていないわ」
「ぐぅぅぅぅ」
スバルの動かない体を、細い腕で起こし――実際、この双子の方がスバルよりよっぽど力がある――その間にラムがシーツをまとめる。汚れているだろう部分は見たくもないし、そもそも想像すらしたくない。
泣きたいくらいの恥ずかしさに、スバルは、今こそ死んで、違う地点からリスタートしたいと、本気で思った。
「体を拭きますね」
——ううううう。
既に羞恥を通り越して、俎板の鯉だった。
——せめて、意識のないときにしてくれ!
ラムが左を中心に、レムが右を中心に、スバルの体にタオルをあてた。何か特殊な薬剤を使っているのだろうか。実際に彼女たちが体を拭き始めると、暖かいのにひんやりとして心地よかった。が、確かに心地よかったのは事実だったのだが、すぐにそれどころではなくなった。二人のタオルが胸部から腹部へ、そして、スバルが触られて一番困ったことになる場所に降りていく。
——ん? ちょいまち! まずい! まずいまずいまずいまずい! このまま下に行くと……まずいぃぃぃぃ!
「待った! 待った! 待った! マッタァァァァ!」
——な、なんとかして、それだけは阻止しなければ!
「もう十分だ! 十分だからこれで終わりにしてくれぇぇぇ!」
「何を言っているの、バルス。黙って綺麗にされなさい」
「そうですよ、スバルくん。もう少しですっかり綺麗になりますよ」
「そうじゃない! わざとだろ! 絶対わざとやってるだろう! これ以上の辱めはかんべんしてくれぇぇぇっ!」
「レム、バルスの足を開いてそちら側に曲げてちょうだい」
「姉様も、そっちの足を」
もう隠すどころか、丸見えだった。スバルの足が大きく広げられて、二人のタオルが下腹部から内腿を滑り降りる。足がすっかり綺麗になると、とうとうスバルの一番敏感な場所に二人の手がたどり着いた。
「レム、ラムは下を綺麗にするわ。レムはバルスの……」
「わかりました、姉様。レムはスバルくんの……」
二人の手が一瞬止まる。やはり恐れていたことになった。恐れていたことになっているに違いない。
スバルは恐る恐る瞼を開けた。
顔を赤くしたレムが、そう言いながらスバルのものを持ち上げて、タオルで包み込んだ。
隣ではラムが、ほんの少しだけだが、やはり頬を染めて、下の部分、一番汚れている場所を拭いていた。
「ぐうう」
もう、ぐうの音しか出すものがないスバルは、恥ずかしさのあまり、泣きたくなった。汚れている部分を綺麗してもらうのは、気持ち良いはずなのだが、それすらわからないくらいに、恥ずかしかった。
だが、今現在、最大級の問題は、そう、スバル自身が変化をしているかどうか、その一点だった。
「ん?」
レムがタオルで拭いているはずの箇所からは、なんの感触もなかった。いや、感触がないわけではない。自分で小用を足す時と、なんら変わらない感触しか感じられないのだ。
——た、助かったぁ。少なくとも今この瞬間だけは、男を貫いたぜ!
スバルは、ホッとして、再び目を閉じた。体から力が抜けるのがわかった。
「やっと力が抜けましたね。そのまま楽にしていてください。もう少しで終わりますから」
レムが声をかけた。
「そんなに体に力が入るのだから、もういい加減ベッドから出て仕事が出来るんじゃないの?」
ラムもスバルに声をかける。
「起きて仕事ができんなら、二人にこんな恥ずかしいことはしてもらわねェよ!」
全身を綺麗にされたスバルは、糊のきいた新しいシーツのベッドに改めて寝かされた。
「いわゆる恥辱の限りを受けた感じだけど、でも、あ、あの、ありが……」
「そうね、これは貸しにしておくわ。今度もしラムが倒れた時は、同じようにしてもらおうかしら」
遮るようにラム。
「へ? あ、いや、そ、そ、それは、あの、そんなことは……」
「何を真剣に考えているの、いやらしい。そんなことがあるわけないじゃない。ほんと下劣ね、バルスは」
「で、ですよねぇ」
「じゃ、ラムは洗い物をしてくるわ。あとのことはレムに任せるわ」
「はい、姉様。あとはレムが全部」
「何かあったら呼んでちょうだい」
ドアに向かいながらラムはこう続けた。
「そもそも普段の行いがよくないから、こういう目にあうというものよ」
いつもの毒舌。一瞬間があって、
「ま、今回の責任はレムと、レムの姉であるラムにもすこしだけあるわ。ほとんど無いも同然といってもいいくらいだけど。動けるようになるまで、きっちりと面倒は見させてもらうわ。だからといって、ラムの可愛い妹に何かしたら許さないわよ」
そう言って、ラムは部屋から汚れものを持って出て行った。
「この状態じゃ、したくても何もできねぇよ!」
「ス、スバルくん? あ、あの、何かしたいですか?」
「え? あ、いや、そ、そういう意味じゃない! そういう意味じゃないって!」
「レムはスバルくんになら、何をされても構いませんよ!」
「体が動かないからって、健全な男子に、そんなこと言うなよ! それよりも責任がどうのって、なんの話だ?」
「ごめんなさい。あ、あの、その……」
下を向いたまま口ごもるレム。
「んん? ま、いっか。わけ分かんねぇけど。とりあえずは動けるようになるのが先だな。それまで」
「も、もちろんです! レムの命に代えてもお世話します!」
「そんな大げさなことじゃねぇよ。あんまり張り切られると、ちょっと怖いし。今はお前たち姉妹の顔見ながらおとなしく寝ておくとするよ」
「はい!」
レムは可愛らしく微笑むと、サイドテーブルから薬のボトルを持ち上げ、中の液体をグラスに注いだ。
「じゃ、お薬を……」
「お、おう」
「あ、あの、スバルくん。そんな目で見つめられると、れ、レムもちょっと……」
「ご、ごめん……」
スバルは顔を赤くしたまま、目を閉じた。
スバルの両頬がレムの手のひらに包まれる。
レムの顔が近づいてくるのがわかる。
スバルの心臓の鼓動が早くなって、顔が火照る。
ふんわりと甘くていい匂いが漂って……。
石鹸の香り?
それともレム自身の香りだろうか。
ショートボブの毛先が、スバルの鼻やほほをくすぐった。
柔らかい唇がスバルの口を優しく塞ぎ、薬が口腔に注がれた。
冷たくてほんの少し甘い液体が、スバルの喉を潤す。
薬は飲みきった、と思う。
だが、レムのその柔らかい唇は、スバルの口を塞いだままだ。
——もう薬は飲み終わったんだけど
スバルが言葉を発しようとしたその時、レムの口から、レムの舌が、スバルの口の中に入り込み、何かを探るように口の中を弄った。そしてスバルの舌を探り当てて、その先端にちょんと触れた。
スバルはびっくりして、さらに口が開いた。
その開いた口に、さっきよりももっと大胆にレムの舌が入り込み、スバルの口腔を吸うと同時に彼の舌を絡め取ろうとした。
「んっー、んむー」
息ができない。そもそも、息をすることすら忘れている。女の子とキスをしたことがなかったスバルにとって、普通のキスどころか、ディープキスなど想像を絶する出来事だった。
レムの情熱のこもったキス。女の子の柔らかい舌がスバルの口の中で自由に動き回り、弄り、くすぐり、甘い味と香りが口腔内に爆発する。
そして。
とろけるほど、気持ちよかった。
どのくらいそうやっていただろうか。
「あぁ」
レムのため息ともつかない声とともに、ようやく二人の唇が離れる。
恐る恐る目を開けると、ポーッと上気したレムの顔がそばにあった。目が潤んでいる。泣きそうなのか、それとも違うのか、スバルにはわからなかった。
「レムがスバルくんにしてあげられることなら、なんでもします。大好きです。スバルくん」
レムの言葉を理解しないうちに、スバルの意識は遠のいた。