赤の章・17
「で、その後、レムと彼の様子はどんな感じなのかな?」
ロズワールが屋敷に戻ってきたのは、王都に出かけてから三週ほどたってからだった。レムかラム、必ずどちらか片方を連れて行くことが慣わしとなっていた王都への旅程に、今回に限っては二人が同行しなかった理由はわからなかった。ただ、スバルのあの状態がその理由の一つだったはず。そうラムは思っていた。しかし——。
月の光の届かない夜の執務室で、ロズワールが、いつものようにラムの報告を静かに待っている。
「はい。レムとバルスは……その……」
「君が言い澱むとは珍しい。おそらく、私が望んでいた関係になった、と言うことで正しいのか、な?」
——やはり、そういうことね。
どういう方法を使ったのかはわからない。が、おそらく、スバルは何らかの病気もしくは怪我で倒れることになっていたのだろう。レムのあの惚れ薬はたまたまタイミングが重なっただけで、実のところ、それがあってもなくても、あの時血を吐いて倒れていたに違いなかった。
「は、はい。ロズワール様。レムとバルスは、肉体的に結ばれました。おそらく精神的にもかなり……」
「なるほど。で、まだ続きがありそうだね。さあ、話してごらん」
目を伏せて口を一文字に閉めてから、大きく深呼吸をする、ラム。そしてようやく口を開いた。
「ロズワール様。ラムは、あの夜からこの身も心もロズワール様に捧げてまいりました。でも……」
——ここから先のことは、想定外かしら……それとも……。
「うん? でも?」
ロズワールの目が、怪しく光る。ラムはその目を見ることができずに下を向いたまま、
「申し訳ありません、ロズワール様。ラムは……ラムはバルスに……この体を許してしまいました……」
小さく呟くように、そう言った。
「ほほぅ。なるほど。で、君自身はどうなのかな? 何を感じたのかな?」
「ロ、ロズワール様、おっしゃっている意味が……」
そんなラムのことは無視するように、
「かまわないとも。なぜそうなってしまったのか、まずはそこから話してみたまえ」
ラムは顔を上げて、ロズワールを見た。だが、細められた彼のその瞳は何一つ語ってはいない。逆に、いま自分がどんな顔をしているのかは、鏡を見るまでもなかった。恥辱と自身でもよくわからない喪失感の中、あの時自分に起こったことを、たどたどしく口にする。そんな彼女の言葉に、ロズワールは黙って耳を傾けていた。
ようやく全てを伝え終えると、
「さぁーて、ラム。話はわかった。私がいない場合の対処方法が見つかった、ということだぁーね」
ロズワールが、口を開いた。
「そ、それはわかりません。それに、ロズワール様に施術していただくほどには……」
「なるほど。どちらにせよ、今は多少なりともマナの補給が必要だと言うことなのかな?」
「は、はい。ロズワール様。申し訳ありません」
頭を下げるラムに、
「では、今夜は私の私室で行うとしようか。さあ、おいで」
ロズワールはそう言うと、彼女の細い肩を抱いて、執務室を後にした。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ノックの音がした。振り返ると、ドアを開けてレムが部屋を覗き込んでいる。
「スバルくん、起きてますか?」
レムが、部屋に滑り込むようにして入ってきた。
「ん? どうした? まだ起きてるけど? 今は、ロ文字の勉強中!」
スバルは練習帳を手にとって、ほら! と、レムに見せた。
「あ、あの、スバルくん……」
「なに? あ、もしかして夜食か? レム特製の!」
閉じたドアの前で、モジモジしながらレムがスバルを見つめる。
「あ、あの、いえ、そうじゃなくって……レムは、その、急に、が、我慢できなくなってしまって……」
レムの顔がみるみる赤く染まった。
「ん? あ……」
それが何なのかを理解した瞬間、スバルの股間もかっと熱くなった。
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紫紺の夢・エピローグ
長身の男が、一糸まとわぬ姿で、窓からやせ細った月を見上げていた。後ろのベッドでは少女が一人、同じく裸のまま、死んだように横たわっている。
マナの供給と同時に行われた挿入によって、経験したことのない強烈な感覚がその少女を襲った。その結果、彼女は気を失うほど激しく痙攣し、抱きつき、のけぞり、体を折り曲げて、何度も何度もベッドの上で跳ね上がった。
美しく、幼い未成熟の体に、欲情をぶつけるのも悪くはない。だが何よりも、それがどの程度、彼女の肉体と精神に影響をもたらすのかを知りたかった。その結果がこれほどとは。これは全くの想定外だった。
毎夜のように行われたマナの供給が、彼女の体に何をもたらしているのかは、わかっていた。欲情した彼女が、それを誘ってきたこともあった。だが、その効果の是非が不明だった。
欲していると思われるのは心外だった。だからこそ、あの少年を利用させてもらった。純潔にこだわりはなかったし、公私混同はしない主義だった。
赤く染まった下弦の月に雲がかかる。世界が漆黒に染まる。
これで——と、彼は思う。
知識は力であり、その冀求こそ、示された我が唯一の道。これでまた彼女に一歩近づくことが——。
彼は、無表情のまま、虚無の闇から手元に視線を落とした。細めたそのオッドアイが見つめるその手の中に、
「紫紺の夢」これにて終幕です。この物語を読んでくださった皆様、長らくお付き合いいただきまして、どうもありがとうございました。
この作品に関しての「後書き」のようなものは、活動報告に色々書かせていただきたいと思います。
で。
この三人とこれでサヨナラするのがちょっと寂しくて、番外篇を書きました(本篇に入れようと思っていたものの、うまく入れられなくて、それを「番外篇」として書き直した、というのが正解ですが)。もしよろしければ、引き続きそちらもお付き合いください。別枠ではなく、このまま「紫紺の夢」につけていく予定です。本篇同様R-18です。また、ご意見ご感想等をお聞かせいただければ幸いです。
では、もうしばらくお付き合い下さいませ。