それは、二人が素敵な初体験を終えた後の、ピロートーク中のことだった。
「スバルくん、もしよかったら、お風呂に行きませんか?」
「え?」
「あの、倒れてから入っていませんよね? レムがさっき綺麗にしましたけど、やっぱりお風呂の方がすっきりすると思うんです」
「え? え? いつ綺麗にしたの? そんなの知らなかったんですけど!」
「あ、あの、スバルくんが眠っているときに……」
そう言えば、結構汗をかいたはずなのに、なんだか体がスッキリさっぱりしている。寝てる間にって、二人の関係は主人と召使のそれじゃないはずだ。その召使いだって、そんなことはしない。そもそも、レムの献身ぶりは目に余るものがある。二人は対等なんだから。この際だからきちんと言っておかないと——。
「レム」
「は、はい!」
「あのなぁ。そんなのしなくていいんだよ。だって、二人で一緒にセッ……あー、その、二人で一緒に……えー」
レムの前ではどうしてもその言葉が言えなくて。尻すぼみに小声になってしまうスバルに、
「はい! 二人で一緒に、いっぱいしちゃいましたね!」
レムが嬉しそうに答える。
「う、うん。しちゃったんだけど……。いや、そうじゃなくて。レムは俺の召使じゃないんだから、そんなに色々しなくてもいいんだよ。そんな関係、俺、ちょっとやだぜ。それに、そんなだったら俺だって、レムの体を綺麗にしてあげたいし!」
決していやらしい意味ではなく、普通に口から出た言葉だった。
「あ! じゃあ、一緒に入りませんか?」
パッと顔を輝かせて、そうレムが言った。
「いや、どうしてそうなるの? そう言うことを言ってるんじゃ……」
というわけで、スバルとレムの二人は、浴室の入り口にいた。
バスタオルを巻いたレムと、同じく腰にタオルを巻いたスバル。これだけだと、温泉に来た普通のラブラブカップルだった。だが、この二人は、
「いや、だから。大丈夫だって!」
「ダメです! ちゃんと力が入らなくて、転んだりしたらどうするんですか! ここまでだって心配だったんですから!」
レムがしっかりとスバルをお姫様抱っこして、浴室に入って来たのだった。
今お湯が張られているのは、少し前に、
「最初は足を温めてから入るのがいいそうですよ、スバルくん」
「いや、最初は掛け湯をするとか、体を軽く洗ってから入るんじゃないの?」
「え? 体はレムがさっき綺麗にしましたから、それは省いてもいいんじゃ……それに……」
「ん? それに?」
「い、いいえ。なんでもありません」
その答えはすぐにわかった。スバルは、ふーっ、と言いながら、肩までお湯に浸かる。だがレムは、体にタオルを巻いたまま、お湯に浸かろうとしていた。
「タオルを体に巻いたまま入るのは、マナー違反じゃないのか?」
「だ、だって、は、裸を見られるのは、ちょっと恥ずかしいです……」
そういうスバルも、実はタオルを腰に巻いたままだった。さっき、お互いに全てを見せ合ったはずなのに、なぜか気恥ずかしい。
「ははっ。なんだか変だな、俺たち」
「そうですね」
嬉しそうに笑うレムが、本当に愛おしい。その気持ちを伝えたくて、
「れ、レム。あの、俺……」
そう言いかけた時、
「つっ……」
腰までお湯に浸かったレムの顔が少しゆがんだ。
「どっか痛むのか?」
「あ、な、なんでもありません」
「んー? 大丈夫か?」
「だ、大丈夫です!」
「痛いって言えば、レム。あ、あの時、痛くしてごめんな。俺、初めてで、あんまりうまくできなくて……」
「大丈夫ですよ。スバルくん。レムも初めてで、二人おんなじです!」
レムは肩までお湯に浸かると、頭をスバルの左肩にもたれ掛けた。
「ふうっ」
レムの頭の重さに、嬉しさを感じる。
「んー、やっぱ風呂はいいな」
「そうですね」
「レムの言った通りだったな」
「そう言ってもらえると、レムも嬉しいです」
「それにしても、こうやってレムと一緒に入ってると、温泉に来たみたいだな。そもそも、あっちのでっかい方は、まるっきり銭湯だし……」
「オンセン?」
レムが不思議そうな表情を浮かべた。
「あー、温泉とか銭湯とか、そういうのないのかな?」
「オンセンに戦闘、ですか……?」
レムがますます不思議そうな変な顔をしている。
「そうそう。町の人が入りに来るでっかい風呂っていうか……」
「あ、公衆浴場なら、多分」
「あ、あんだ。そりゃそっか」
「でも、男の人と女の人が一緒に入るのは……」
「いやいや、そういうのは少ないんじゃないかな。大抵は別だぜ。でも昔ながらの温泉は、男女一緒の混浴のところもあるんだよ」
「え……それ、レムは恥ずかしくて入れないかもしれません」
「ま、普通そうだよな。でもそういう人のために、家族風呂とかっていうのもあんだぜ」
「家族風呂?」
「そう、家族風呂。小さい子供と一緒に入れたり、本当に家族だけで入れるやつ」
「へええ。それならスバルくんと一緒に入れますね! あと、姉様と一緒にも入れます! あ、でもでも、姉様とスバルくんは別々で……」
レムがうーん、と一度考える。
「こ、困りました。レムはどちらと一緒に入ればいいんでしょう?」
「いやいや、普通にラムと一緒に入ってやれよ、そこは」
「じゃ、スバルくんとはその後で!」
「その後って、どんだけ風呂好きなんだよ! そもそもまだ行ってないし。あるかもわかんないし」
「そうですね」
ふふふっ、とレムが可愛らしく笑った。
「もっと聞きたいです。その、オンセンのお話」
「うーん、そうだな。俺もあんまり行ったことないけど、露天風呂とか。あとはそうだな。湯上りにコーヒー牛乳とか。あ、でも、そりゃ銭湯だな。んー、お揃いの浴衣を着て散歩する、とかか?」
変わらず不思議そうな表情で聞いていたレムが、スバルのある言葉に反応した。
「ユカタ?」
「そう。浴衣。えーと、ガウンっぽい形で、でも、綺麗な色とか柄とか、種類がいっぱいあってさ。それを帯っていうベルトみたいなので結ぶんだよ」
これくらいの幅の、と、スバルが手で説明をする。
「女の子が着ると可愛んだ。あと、足元は下駄。そうだなあ、レムはきっと似合うだろうな」
「それって……」
ふと何かに気づいたような表情をするレム。
「なに? 浴衣あるの?」
「い、いえ。それがユカタかどうかわかりませんが、姉様とレムが生まれた村では、みんなそういう格好をしていました。あれがそうなのでしょうか」
「へええ。レムの生まれた村は着物で生活してたのか」
「キモノ? あれがキモノ……」
「ん。見てないからわかんねーけど、着物があるんなら、浴衣もあるんじゃね? あとは温泉か銭湯があれば完璧、だけどな」
「スバルくん、いつかレムをそのオンセンかセントウに連れて行ってくださいね!」
「そうだな。温泉なんかは、みんなで行くと楽しいんじゃないかな」
なんでもありのこの世界に、着物があるなら、きっと温泉や銭湯だってあるのだろう。隣のレムが嬉しそうにニコニコしている。
「な、なんだよ。何がそんなに嬉しいの?」
「嬉しいですよ! だって、いつかスバルくんと一緒にお風呂に入れるなんて! まるで夢のようです!」
「そ、そうか? いや、まってまって。今、もうすでに一緒に入ってるけどね!」
照れ臭くて、どうしていいかわからない。何か話題を。そう思っているとレムが先に口を開いた。
「スバルくん、あの、聞いてもいいですか?」
「ん? なんだ?」
「気になってたんですけど、あの……スバルくんが、あ、あの……出すときに行くって言うのは、どこに行くんですか?」
「へ?」
「あの、スバルくんが、何度かそう言ってから、出してたんです、けど……」
「あ……」
なんのことを言っているのか、ようやくわかった。
「ど、どこだろう……。そんなこと考えたことなかった……って、なんで今そんなこと聞くの?」
「聞きたかったんですけど、聞きそびれちゃって……。スバルくんはどこに行くんでしょう?」
「し、真剣に聞かれても、俺も、わかんない……よ。た、ただ、なんとなく……」
「じゃ、じゃあ、こんど、レムも言ってみますね。行きます! って。だから、今度またレムのこと、その、き、気持ちよく……」
「レム、やめて! それ以上ここでその話は! のぼせちゃうから! 俺、死んじゃうから!」
スバルはレムから顔を背けると、激しく頭を振った。
「あ、じゃあ、冷たいタオルを!」
レムはさっと立ち上がると、跨ぐように浴槽に片膝をついて、そばに置いてあったタオルに手を伸ばした。その瞬間、前にかがんだレムの全部が丸見えになった。スバルの目が大きく見開き、その部分に釘付けになった。
「れ、れむさん。ちょ、ちょっとその格好は、刺激が強すぎます」
「あ!」
レムは慌てて直立すると、パッとタオルの上からお尻の部分を手で隠した。
「み、見ました?」
振り返りながら、恐る恐る言葉にするレム。
「み、みた……か、可愛かった……」
お互い真っ赤な顔をして、黙り込む。すでにスバルは、非常に困ったことになりつつあった。
「スバルくん……見ていいのは、レムの覚悟ができている時だけです!」
レムは冷たいタオルを絞ってスバルの額に当てると、今度はスバルの足の間に入り込み、後ろ向きにピタリとその間に収まった。
「スバルくんがレムを見れないようにしちゃいます!」
「いや、密着度が増してない? これ」
そんなスバルを無視するように、
「ふうっ」
レムは気持ちよさそうに顔をのけぞらせ、スバルの肩に頭を乗せた。
「レム……」
レムの顔を覗き込んだスバルの唇が、レムの柔らかな唇に触れる。スバルの手が自然とレムの胸に伸びる。タオル越しに柔らかな膨らみの感触を確かめるように、その手が優しく動く。レムはそのスバルの手に自分の手を重ねた。
「す、スバルくん。あの、レムに、スバルくんの硬くなってる部分が当たってます……」
そして、少しだけ言いづらそうにそう言うと、スバルの目を覗き込んだ。
「し、仕方ないだろ! さっきレムのあんな……その、か、可愛いところ見ちゃったんだから!」
二人とも真っ赤になっているのは、熱いお湯のせいだけではなかった。
「今ここで、だ、出しますか?」
「え、あー、その……」
「た、ただ……じ、実は、あの、お湯が滲みて……ちょっと痛くて……。あの、レムの中に入るのは……あの、スバルくんと繋がるのは今日はもうお休みでもいいですか?」
「あ! れ、レム、大丈夫か? あの、ごめん……」
「大丈夫です。きっと、あと何度か……その……」
そこまで言いかけて、声が小さくなる。そんなレムがやっぱり可愛くて。スバルは後ろからレムをぎゅっと抱きしめた。
「ちゅっ、ちゅっ……」
スバルの唇が、レムのうなじに繰り返し触れる。その度に、レムの口からため息が漏れる。その唇が形のいいレムの耳を優しく食むと、
「ああっ……」
レムの体がぶるっと震えた。
「それ、く、くすぐったいです……」
その恥ずかしげな一言一言が、とても可愛い。スバルはその声が聞きたくて、何度もレムのうなじと耳に唇を這わせた。そうして、空いている手をレムのあの場所に伸ばそうとした途端、スバルの大きくなった部分から甘美な痺れが走った。
「うっ」
スバルの口からうめき声が漏れた。レムが後ろ手に大きくなったスバルを握り込んで、さすり始めていた。
「スバルくん、もうこんなになってますよ」
「あっ……くっ……」
指が探りながら、覚えたての敏感な部分を刺激する。
「れ、レム……それ以上されると、我慢できなくなっちまう……」
「いいんですよ、我慢しなくても! 今出しますか?」
「いやいや、そうじゃなくって! 今日はもういいから! もう十分だから!」
「でも……」
「いいんだってば! すぐ治るから! それよりこのままだと上気せるぜ、二人とも」
「そ、そうですね……。じゃあ、体を洗いましょうか!」
レムはそう言って立ち上がると、スバルへ手を差し伸べた。
黒丸です。こんにちは。
紫紺の夢・番外篇です。最初は本篇に入れようと思っていた部分を、 構成し直して書いてみました。ちょっとだけ長いので、3回に分けて投稿させていただきます。こちらも最後までお付き合いのほど、どうぞよろしくお願いします!