「どこか痒いところがあったら言ってくださいね!」
洗い場のベンチに座ったスバルの背後に立って、レムがスバルの髪の毛を洗っていた。
「え……」
「え? ど、どうしたんですか? スバルくん」
「い、いや。なんでもない。すごく気持ちいいよ」
自分で髪を適当に切るようになって、しばらく経っていた。だから誰かに髪を洗ってもらうのも本当に久しぶりのことだった。床屋か美容院のようなレムのその何気無い一言が、引きこもっていたかつての自分の事をちくりとさした気がした。
「スバルくん、もっと色々レムにして欲しいことを言ってくれていいんですよ?」
「いや、もうたくさんしてもらってるし」
——それに、大切なことをたくさん教えてもらったよ……。
「でも、レムがもっとしてあげたいんです!」
髪を流して、背中を洗い始める。
「スバルくんの背中、大きいですね!」
「そ、そうか?」
そのまま黙り込むスバル。その様子を見て心配そうに、
「スバルくん?」
誰かに背中を流してもらうのが、こんなに気持ちのいいものだったのか。あの快楽とは全然違う心地よさがある。しかもそれが好きな女の子にしてもらえるなんて。でも……これじゃ……。
「あ、いや。ごめんごめん。あんまり気持ちよくて……つい黙っちゃったぜ」
「うふふ。嬉しいです!」
レムは嬉しそうに笑った。
「スバルくん、こっちを向いてください。前を洗いますね」
スバルの手を取って、鏡と逆の方を向かせる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「なんですか?」
「いや、いくらなんでも、全身洗ってもらうのは……」
もちろんスバルは行ったことはなかったが、そういうサービスをする大人の店があることを、知識として知っている。だから、今レムがしてくれていることに、後ろめたさも感じていた。
「突然どうしたんですか? もしかして恥ずかしい、とか?」
「そうじゃないんだ。いや、恥ずかしいのもあるけど……なんで、こんなにまで俺にしてくれるんだ?」
一瞬、え? という顔をして、すぐににっこり笑うレム。
「だって……レムはスバルくんが大好きですから……」
「い、いや、そういうことじゃなくって」
「もしかして、スバルくんは……レムがするのが嫌なんですか?」
突然しゅんとして、悲しそうな顔をする。
「ちがう! ちがうちがう! そうじゃない! うれしい! 本当に嬉しいよ! でも、申し訳ないっていうか……あー、なんって言ったらいいんだ!」
レムはその言葉でパッと明るい表情になった。こんなにもコロコロ表情が変わるのも、本当に可愛い。可愛いんだけど——。
「レムも、俺にしてほしいこと、言ってくれ。そしたらおあいこだし、俺もレムに色々してあげたいし」
うーん。と、腕を組んでしばし考える。
「わかった! じゃあこうしよう。レムが俺に何か一つしてくれたら、俺も何かする。レムの言うことなんでも聞くっていうのはどうだ?」
「え? でも……」
「いや、それがいい。そうしよう。決まりな!」
「あ、あの……」
「俺もしてあげたいんだ。レム。だって俺、レムのこと——」
「わ、わかりました。スバルくんがそんなに言うなら、レムもそれに甘えちゃいますよ?」
「うん。いいよ。なんでも言ってくれ」
「じゃあ、レムにスバルくんの体を洗わせてください!」
「だから、なんでそうなるの……」
「はい、スバルくん、上むいて万歳してくださいね!」
結局全身を洗われるスバル。
——本当に、今のうちこの奉仕グセをなんとかしないと……。好きとか嫌いとかそう言う以前の問題だな、これは。
そう思ってレムのされるままになっていると、レムの手が腰に巻かれているタオルの下に伸びた。
「スバルくん、あの……ここはタオルじゃなくて、手で洗ったほうがいいですよね……」
返事をする間も無く、泡だらけの小さな手に包まれるのを感じて、
「ううっ」
スバルはうめき声をあげた。
「スバルくん、レムはもう、スバルくんが気持ちいいかどうか、すぐ分かるようになりましたよ! 今は気持ちいいんですよね?」
スバルのそこが、ふたたび膨らみ始める。
「もうレムの好きにして……」
「はい! スバルくん!」
止まらないレムの手の動きに、自分の意思に反してどんどん大きくなるスバル。そんなスバルの様子を見ながら、レムはとても嬉しそうに、手を動かし続ける。
「スバルくん、やっぱり出しますか?」
「まってまって! さっきも言ったけど、もう今日は出しすぎだから! ちょっと休ませて!」
「え、でも……スバルくんは一日に何度も出すって」
「もうその話は忘れて! 聞かなかったことにして!」
今日はもう三度も出している。だがこのままだと、またあの快感に抗えなくなってしまう。スバルはレムの肩に手を置くと、その青い瞳を見つめて言った。
「レム。あの、出すときはレムの中がいい」
「え?」
「出すときはレムの中に出したい。だから、レムの痛みが無くなったら、そのときまた繋がってレムの中にいっぱい出したい……」
「レムに、いっぱい……」
レムの顔がみるみる赤くなって、スバルに触れている手がようやく止まった。
「レムにしてもらって出すのはすごく気持ちいいけどさ。でも今日はもう一休みして、また次、レムの中にいっぱい出してもいいか?」
こうでも言わないと、本当に際限なくしてくれようとするだろう。レムの場合、特にそうなりそうだ、と思った。冗談抜きで。スバルを握ったまま、レムが答えた。
「わ、わかりました。そ、そんなに言うなら仕方がありませんね。じゃあ、その、今度レムの中にいっぱい出してくださいね。その、スバルくんが良ければ、あ、明日の夜、とか……」
「わ、わかった。じゃあ、その、明日……」
「約束ですよ!」
ようやくレムの手から解放されたスバルは、自分がホッとしているのか、それともちょっと残念なのかよくわからなかった。
「スバルくん、もう一度温まりますか?」
スバルの体を流し終えたレムが、スバルに聞いた。
「いや、待った待った。次、俺だから。俺がレムの体を洗う番だから!」
「え! そんなこと、スバルくんはしなくていいです!」
「いやいやいや。何を言ってるんですか、レムさん。俺も洗ってやるよ。そもそもそう言う話で一緒に風呂入ってるんだから!」
「え、で、でも……。その、洗ってもらうのは、は、恥ずかしいです……」
「レムさんや、何を今更おっしゃっているのですか? ワタクシ、さっきまでレムさんに体の隅々まで洗われてましたが?」
「それはそれです!」
「えー。じゃあ、明日の約束、無しな」
もちろん、その約束を誰よりも望んでいるのは自分だということはわかっている。それでも、勢いに任せて口にしてみた。何より、レムの反応が知りたかった。
「え……。そ、それは困ります。れ、レムはとても楽しみに……」
困った表情をして、スバルを見つめるレム。その青い瞳に涙が浮かび始めている。
「あ! あ! 泣かない、泣かない! わ、わかった。悪かった! 俺も明日は楽しみだから! レムといっぱいしたいから!」
結局本音が出てしまった。
「ご、ごめんレム。意地悪だったな……。じゃあ、あの、タオルで隠れているところ以外、それならいいだろ?」
「そ、それなら……。えーと」
「髪! 髪と、手と足? あと、せっかくだから、背中だけ。それでどうだ?」
「わ、わかりました。スバルくんがそう言うなら、レムもして欲しいかもしれません」
妙なところで素直じゃないレム。そんなところも、とっても可愛くて。
「じゃあ、髪から洗いましょうか、お客さん! レム、場所代わってくれ」
そう言ってレムをベンチに座らせると、手桶のお湯をレムの頭にかける。
「シャンプーはこれ使えばいいのか?」
「しゃんぷー? 洗髪剤のことですか? そうです。これ、使ってください。保湿剤はこれでお願いしますね」
さっき自分がされていたように、泡を立ててレムの髪の毛を洗っていく。
「痒いところはありますか?」
「え……と、ない……です」
「ほんとか? それ? ありそうな口ぶりだけど?」
「あ、あのほんとは、その横の……そ、そこです! あとは……」
目を閉じて、気持ちよさそうにしているレムの顔を見ていると、なんだかスバルも嬉しくなる。
「レム。俺に遠慮しなくていいから。素直になんでも言ってくれていいんだぜ」
「は、はい。わかりました。スバルくん」
髪を流して、レムの手を取るスバル。
「じゃ、背中を流しましょうかね。……てか、レム。そのタオル、取っちゃえよ」
「え、で、でも……」
「絶対見ないからさ」
でもでも、とレムが繰り返す。
「うー。じゃあ、向こう向いてるから、背中だけ出すようにタオル巻き直せよ」
「わ、わかりました。じゃあ、向こう向いていてくださいね。絶対に見ちゃダメですよ!」
スバルは、何だか鶴のなんとかみたいだなと思いながら、レムの準備が終わるのを待った。
「はい。いいですよ。スバルくん。じゃあ、お願いします」
振り返ると、一体どうやって巻いているのか、お尻の部分と前身部分を上手にタオルで隠して座っている。まるであの、一部の人間を死に追いやってしまうという悪魔のセーターのようだ。
「レム、お前器用だな……」
「そんな、器用すぎてお嫁さんにしたいだなんて、照れます……」
「いや、そこまでは……でも、でもさ。お嫁さんって——」
「あ、あの、スバルくん。背中、お願いしてもいいですか?」
「あ、ああ。わかった。じゃ、リラックス——あー、えーと、体の力を抜いて、くつろいでくださいませ」
泡立てたタオルを持ったスバルの手が、レムのうなじから小さな肩、腕をやさしく洗い流していく。その手が背中にたどり着くと、
「す、スバルくん。気持ちいいです! でも、もう少しだけ力を入れてくれても構いませんよ?」
いつものレムの言い回しが出た。それがなんだか可笑しくて。
「な、何笑ってるんですか? レムの背中、何か変ですか?」
「いや、なんでもない。レムの背中は小さくて可愛いな、って思ってさ」
「可愛いだなんて、そんな……」
「本当だぜ? 肩も細くて綺麗だし、ウエストもキュッとしまってて、さ」
「うふふふ。スバルくんにそう言われると、レムはとっても嬉しいです……」
ニコニコしながら、背中を洗われるレム。スバルは、その小さな背中を洗い終えると、そのまま首と肩をマッサージする。
「あ、あ、それ、気持ちいいです! 気持ちいいです! スバルくん!」
「レム、これ、働きすぎじゃないか? なんだか張ってるけど……」
「そうでしょうか? 働きすぎ、ってことはないと思うのですが。でも、スバルくんがしてくれるから、気持ちいいのかもしれません!」
「お褒めの言葉、ありがたく頂戴しましょう」
そう言って二人は笑った。
「じゃ、あとは足、かな? ほんとは全身洗ってあげたいんだけどさ」
「ぜ、全身はまた今度で……スバルくん、ちょっとだけ向こうを向いていてくださいね」
——また今度、ね。その今度は一体いつになるんだろ? ロズワールとエミリアが戻ってきたら、二人でまた一緒に、ってことはできなくなるだろうな。それに、そもそもラムの目もあるし……。
「お待たせしました。じゃあ、お願いします」
浴場に来た時と同じようにタオルを巻き直したレムが、立ったまま恥ずかしそうに言った。
「じゃ、足あげて」
「は、はい……」
内股になって、足の隙間を隠すように片足を上げるレム。その両手はしっかりとタオルの胸元と裾を押さえている。
その恥じらいも、本当に可愛くて。どんな仕草でも、どんな表情でも、レムの全てが愛おしい。スバルは、さっきベッドの中で思ったことを、改めてここで思い返していた。
「スバルくん、顔が赤いですよ? のぼせちゃいましたか?」
「え? ああ、いや、大丈夫だ。じゃ……」
そのレムの足を、跪いて手に取る。それはまるで——。
「では、女王様。私スバルめが、御御足洗わせていただきます」
「す、スバルくん!」
レムが真っ赤になって、抗議する。
「あはははは! 冗談だよ! 冗談!」
スバルの手が、レムの綺麗な足にタオルを当てた。上の方には触らないように気をつけながら、優しくマッサージをするように洗っていく。
と。
「あ……。あっ、んんっ。あっ……」
レムが身をよじり始めた。
「れ、レム? 大丈夫か? もしかしてくすぐったい?」
「い、いえ……。だいじょ……ああんっ」
「れ、レム、危ない!」
足の力が抜けたのか、ふらつくレムを、スバルはとっさに立ち上がって抱きかかえた。
「大丈夫か?」
「は、はい……気持ちよくて、ちょっと力が抜けちゃいました」
「ごめん。さっきみたいに座ってもらえばよかったな」
スバルは、レムをベンチに座らせると、改めてレムの足に手を伸ばした。その瞬間、パッと足の隙間をタオルの上から押さえる、レム。
「レム、心配しなくても、見たりしないから。レムが見てもいいって言わない限り、見ないから」
「は、はい。スバルくん。あの、わかっているんですけど、でもやっぱり、恥ずかしくて……どうしてそんなにニコニコしてるんですか?」
どうやら知らないうちに、ニヤニヤしていたらしい。だが、いやらしい気持ちではなく、レムのその恥じらいが可愛くて。
「いや、なんでもないんだ。後で、きちんと言葉にして言うよ」
そ言ういいながらスバルの手が、レムの足の指に触れると、
「あ! あっ! あっ! す、スバルくん……。それは……。ああんっ!」
レムがいきなり、今度はさっきよりも大きく身をよじり始めた。スバルも今度は倒れる心配がないので、そのまま足の指を洗い続ける。
「あ、あ、んっ……くっ……」
「レム、もしかして、ここ、感じるのか?」
「わ、わかんないです……で、でも……んんっ」
——へええ。レムは足の指が気持ちいいんだな。
もう片方の足を手にとって、さっきレムがスバルにそうしたように、手にたくさんの泡をとって愛撫するように触ると、
「あああっ! あっ! す、スバルくん! も、もう十分……あっ! も、もう、き、綺麗になりましたから……んんっ! そ、それ以上されると……ああっ」
——これ以上続けると、どうなるんだ? ちょっと見て見たいかも。
一度レムの足から手を離し、お湯をかけて石鹸を落とす。
「はあっ……はあっ」
レムの荒い息遣いだけが聞こえてくる。
「大丈夫か? レム」
「は、はい。スバルく——」
スバルは、レムが言い終わらないうちにその足を再び取ると、今度は足の指をパクッと咥えて、舌先で舐め回した。
「ひやああっ! い、いやあああん! あ、あ、あっ! そ、そんな! す、スバルくん、き、汚……ああっ!」
五本の指を代わる代わる、そして、足を入れ替えて。スバルの舌が指の股をくすぐり、指がスバルの口に吸われる度、レムは声を上げて身悶えた。
「す、スバルくん、待って! ま、待って下さ……ああっ! お、お願いです! 待って!」
ようやくスバルの口がレムの足から離れると、ハアハアと息を荒げながらレムが言った。
「す、スバルくん……スバルくんは、とっても意地悪です……レムは……れ、レムは、あの……我慢できなく……」
「あ、え……?」
「レムは、その……あ、あの……スバルくん……こ、こんなこと言うといやらしい子って思われちゃうかもしれませんけど……でも……あの、レムはスバルくんに気持ちいことをして欲しくなっちゃいました……」
レムは真っ赤な顔をしたまま、スバルを可愛らしく睨みつけた。