※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

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番外篇「ラムとレムのブルーデイズ」・3

 スバルの手が、二人のお腹から下腹部へ滑っていった。手のひら全体で円を描きながら、優しくお腹を温めるようにマッサージしていく。香油のいい香りが、部屋いっぱいに広がっていた。

 

 ここまで終わったら、秘密兵器の登場だな。そんなことを思っていると、ふと、スバルの目が二人のある場所に止まった。

 

——へええ。二人とも、へその形までおんなじだ。まあ、いろいろ全くおんなじだったから、今更驚かないけど……。でも、ちゃんと見るのは初めてだな。縦長で細くて。へその形に綺麗とかあるのかどうかは知らんけど、二人ともやっぱ、綺麗だ。

 

 スバルは何も考えずに二人のへそに人差し指を入れて、同時にクリクリと穿(ほじ)った。

 

 その瞬間。

 

「ひゃぎいぃぃっ!」

「ぎゃひぃぃぃっ!」

 

 意味不明の叫び声が二人の口から飛び出し、二人は同時にベッドの上にガバッと跳ね起きた。

 

「な、何? 何っ?」

 

 スバルはスバルで、二人の突然の反応に驚いて、後ろに尻餅をつく格好になった。

 

「す、す、す、す、スバルくんっ!」

「ば、ば、ば、ば、ばるすっ!」

「え? え? え?」

 

 二人とも真っ赤な顔をして、お腹を両手で押さえている。

 

「な、な、な、な!」

「ど、ど、ど、ど!」

「え? なに? 何をしたの、俺?」

 

「なんてところを触るんですかっ!」

「どこを触ってるのよ! バカッ!」

「えええっ? なに? まさか、へそ?」

 

——へそ? そんなところが? うっそー。思ってもみなかった! へそ禁止なんて! そんな、言っといてくれないと……。

 

「あー、ごめん! ごめん! まさかへそが二人ともダメだなんて、知らなかった! ごめんごめん」

 

 手を合わせて二人に謝るスバル。二人はまだ顔を赤くしたまま、へそを隠している。

 

「あの、とにかくごめん。あの……」

 

——とにかく今は、何か違う話題にしなくては!

 

 膝立ちをしている二人の姿をじっくりと見て、スバルが言った。

 

「その、二人とも、おっぱい綺麗だな」

 

「ひゃっ! ど、どこを見てるんですかっ!」

「わわっ! ど、どこを見てるのよ!」

 

 慌てて片方の手で胸を隠す二人。

 

「いやいや、待った待った。へそ触ったのは俺が悪かったけど、それ、ちがくね?」

 

 二人は、まだ赤い顔のまま、今度はふくれっ面でスバルを可愛く睨んでいる。さっきまでは大胆にさらけ出していたのに。女の子の恥ずかしいポイントが、いまいち理解できない。

 

「と、とにかく、悪かった。も、もう触らないから。で、マッサージはどうする? もうお終いにした方が良ければ——」 

 

「ま、まだ続きがあるなら、や、やらせてあげてもいいわ」

「ま、まだ続きがあるなら、や、やってもらいたいですっ」

 

 スバルが言い終わる前に、二人の声が重なった。

 

「でも——」

「でも——」

 

「わ、わかった。大丈夫だ。絶対触らないようにするから。じゃあ、二人とも、もう一度横になってもらいましょうか。あ、今度はちゃんとタオルで隠しておくからな」

 

 スバルは、横になった二人の胸をタオルで隠すと、改めて二人のお腹に手を当てた。その途端、二人の体に緊張が走って——。

 

「す、スバルくん。レムは信じています……」

「バルス、次触ったら……わ、わかるわね」

 

「だ、大丈夫だって!」

 

 そこまで言われると、逆にもっと触りたくなってしまうのが人情。が、それをやったら、確実に命取りになるだろう。嘘偽りなく、本当の意味で。

 スバルは注意しながら、手のひらだけで、お腹のマッサージを開始した。ようやく二人の体から力が抜ける。そのまま二人の下腹部、ショーツギリギリのところまでマッサージをして、

 

「とりあえず、香油のマッサージは一旦終了な。でだ。お二人さん、ちょっと腰を浮かせてもらえませんかね?」

 

「こうですか?」

 

 二人はお腹を突き出すように、背中と腰を反らせた。そこへ、

 

「ほい!」

 

 スバルがタオルを筒状に丸めたようなものを差し込んだ。

 

「なんですか! これ! す、すごくいい感じなんですけど!」

 

「へっへー。だろ? ラムはどうよ?」

 

「こ、これは、一体なんなの?」 

 

「さっき二人が風呂に行ってる間に、作ったのさ。んー、俺も正式名称は知らない。名前をつけるとしたら、そうだな。ぽかぽか腰枕? とか?」

 

「ぽかぽかこしまくら?」

 

「バルス、これはどうやって……」

 

「よくぞ聞いてくれました、おねえさま。倉庫に残ってた火の魔鉱石のかけらを集めて、庭石に混ぜたんだよ。それを筒状にタオルで巻いて、出来上がり、ってわけ」

 

 この手のあったかグッズは前の世界に溢れるほど種類があった。ただ、そのほとんどは中の石を電子レンジで温めるものだ。残念ながら、電子レンジはこちらにはない。だが、その代わり魔鉱石という便利なものがある。

 その魔鉱石の中で、熱を発する火の魔鉱石の小粒のものと石を混ぜたら、簡単なカイロのようになるのではないだろうか——。それがうまくいった。細かいクズなので、おそらく発火の心配もないだろうと、スバルは考えていた。

 

「ちょうど二人とも腰が痛いって言ってたし。大きさも高さもちょうど良かったみたいだな」

 

「す、スバルくん。素晴らしすぎます! 素敵すぎです! もっと早くこういうのが欲しかったと、レムは心の底から思っています!」

 

「お褒めの言葉、ありがたく頂戴いたしましょう。で、おねえさまはいかがでしょうか?」

 

「くー」

 

「って、おい! もう寝てるんじゃない! 早い! まだ早い!」

 

 そう言いながら、二人の肩とお腹にそれぞれ、形の違うスバル特製ポカポカ枕をあてがった。

 

「はぁぁっ……なんて素敵なんでしょう……スバルくん、このお礼はどうしたら……」

 

「いや、お礼なんて、そんなのいいって。単なる思い付きだったし。ま、うまくいってよかったけど」

 

「でも、でも、このままじゃ、レムの気が晴れません。あ、やっぱり、その、出すのをお手伝いするとか……」

 

「え? いや、それはいいから!」

 

「でも、でも、でも、スバルくん。スバルくんのそこ、ずっと大きいままですよ」

 

「あ、あ! あの! これは、もう仕方ないんだよ! 自分じゃどうしようもないんだって!」

 

 突然無言になる二人。ただ、レムはそっとそこに手を伸ばしかける。

 

「だ、大丈夫だ! ちゃんと約束は守るから! だから、あの、見なかったことに、その、気づかなかったことに……してくんない?」

 

 レムはにっこり笑うと、

 

「レムの前では我慢しなくてもいいんですよ、スバルくん。でも、スバルくんが約束を守ろうとするその意思を、レムは尊重します」

 

「う。うん……頑張る……」

 

——素直にして欲しいって言えばよかったかな。

 

 そう思った瞬間。

 

「レム、甘やかしてはダメよ」

 

 やや冷たいセリフがラムの口から発せられた。

 

「ねえさま、いつ目が覚めたんだよ……」

 

「ラムはずっと起きていたわ」

 

「それ、絶対嘘だろ……口元によだれの跡があんぞ!」

 

「えっ?」

 

 パッと口元を拭うラム。もちろんそんなよだれの跡など、何もない。

 

「くっ……」

 

 ラムが悔しそうに顔を背ける。その様子を見たスバルは、一人ほくそ笑んだ。

 

——ようやく一矢報いたぜ!

 

「さ、仕上げに参りましょうかね」

 

「え? まだ続きがあるんですか?」

 

「まあ、な」

 

 そう言って、二人に大きなタオルケットをかける。

 

「じゃ、ちょいと失礼」

 

 二人の足だけをタオルケットから出して——。

 

 スバルの記憶では、テレビの中で芸能人がよくやられていたのがこれだ。かなり痛いようだが、適度な強さでやれば、すぐ寝てしまうくらい、気持ちがいいらしい。

 

 再び香油を手にとって、小さくて可愛い二人の足裏をマッサージする。

 

「あ、あ……す、スバルくん、そ、そこは……あっ!」

「あ……ば、バルス、ど、何処を触って……あ、あっ」

 

——あ、足の指もダメだった。そうだった! ってか、ラムもか。女の子っていろんなところがダメなんだな……。

 

「ああ、ごめんごめん。じゃあ、指は無しにするから」

 

 二人の足裏を——指抜きで——マッサージする。程なく二人から寝息が聞こえてきた。それでも両方の足が終わるまで、丁寧に、丁寧に、優しく、優しく。

 

——これで終了だぜ! 我ながらよくやった! 頑張った、よく頑張った! 俺!

 

 スバルは自分で自分の肩を揉みながら、二人を見下ろすと、にっこり笑った。 

 

 あとは、問題の……。

 

——レムがああ言っていたし、そっちも頑張るぜ! 見ててくれ、レム! あ、あんまり自信ないけど……。と、とりあえず風呂入ってから、水でもぶっかけて、冷ましてくるか。それまで、二人はここで寝かせとこう。

 

 そして。

 

 風呂から上がってきたスバルを待っていたものは、二人仲良く手を繋いで眠っている、可愛い双子の姿だった。もちろん彼女たちは、スバルがいくら揺すっても、全く目がさめる気配はなかった。

 

「ちぇっ。こうなると思ったんだ」

 

 スバルは、リネン室から余分に持ってきたシーツとタオルケットに包まって、一人寂しくベッドの下で丸まった。

 

 

 

 翌日。

 

「ラム、レム! おはよう……へ、へくしっ!」

 

 厨房の扉を開けると同時にくしゃみが出た。

 

「おはようございます。スバルくん」

 

「おはよう。バルス」

 

「スバルくん、やっぱり風邪をひいたんじゃぁ……」

 

 朝、一番最初に目が覚めたのがレムだった。ラムが隣でスヤスヤ眠っているのを見て、一体どこで寝ているのか、思い出すまでにしばらくかかった。ハッと気づいてスバルの姿を探すと、床で縮こまって寝ているのが目に入った。そのスバルをひょいとお姫様抱っこで抱き上げ、ベッドに戻したのだった。

 

「バルス、バカは何とかって言うけど、大丈夫なの? 熱はあるの?」

 

 最後の最後まで、スバルが起き出した後まで、彼のベッドでガーガー眠っていたのはラムだった。

 

「優しいの? 優しくないの? どっちなの? べっくし! いや、熱はないよ。たぶん。体の調子もそれほど悪くないし、何か俺の噂話でもしてた?」

 

「あ……今ちょうど姉様と」

 

「ん? ラムと、何か話、してたのか?」

 

「は、はい!」

 

 何だか嬉しそうに、レムが言った。

 

「す、スバルくん、もしかして王都で、その、マッサージュ屋さんを始めたら、行列ができるんじゃないでしょうか?」

 

「それは、ラムも少しだけ思うわ。バルスにあんな才能があったなんて、ただのスケベな男じゃなかったのね」

 

「あ、でも、スバルくんが他の女の人の体に触るのは、レムはちょっと嫌かもしれません」

 

「あら、ラムはいいの?」

 

「ね、姉様は特別です! だって……その、ね、姉様はいいんです!」

 

「嬉しいわ。じゃあ、こうしましょう。バルスはラムとレムの専属の、いえ、専用にしましょう」

 

「いやいや、まってまって。人をモノのように言っちゃってますけど! そこのお二人! 俺は赤いつ——っ、いや、何でもない……」

 

「なに? 言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどう? バルス」

 

「どうしたんですか? スバルくん。急に黙って」

 

「あ、いや、ほんと何でもないんだ。あ、あの、マッサージは、言ってくれれば、いつでもやるから。うん。ほんと」

 

——あっぶねー。つい、赤い角の専用モビル何ちゃらとか、言うとこだったー。赤で角とか、役満に振り込むとこだったぜ……。いや、レムのこともひっくるめると、ダブロンだった! 馬鹿か、ナツキスバル! ようやく二人、それを乗り越えたんだし、俺がちゃんと気を使ってあげないと。二人に、ずっと笑顔でいてほしいんなら、絶対、絶対に俺が守ってやらないと……。

 

 そんなことを思っていると、

 

「レムレム、バルスはいつでもマッサージュをしてくれるって言っているわ」

「姉様姉様、レムは早速、今日の夜もマッサージュしてもらおうと思います」

 

——え?

 

「レムレム、それは名案ね、でももっといい考えがあるわ」

「姉様姉様、それって、一体どんな考えなのでしょうか?」

 

——え? え?

 

 スバルの顔から血の気が引いていく。

 

「レムレム、これから毎月、ラムとレムが始まって終わるまで、毎日マッサージュしてもらうのはどうかしら」

「姉様姉様、これから毎月、姉様とレムが始まって終わるまで、ですか? それはとっても素敵すぎです!」

 

「バルスバルス、そう言うことだから、とりあえず今夜、よろしくお願いするわ!」

「スバルくんスバルくん、あの……姉様とレムのことを、よろしくお願いします!」 

 

——せっかく、あんなかっこよく覚悟を決めたのに、なんか違う話になってるんですけど……。ま、そのくらいなら、それでこの二人が笑顔でいられるんなら、い、いいのかな。

 

「ね、ねえさま、れ、レムさん、そ、そんなことでよろしければ、よ、喜んで……」

 

 そこまで言うと、ふと、あることに思い当たって——。

 

「そ、そういえばさ、あの、二人とも体調は? 大丈夫か?」

 

「え? スバルくんのおかげで、体が軽いです!」

 

「そうね、バルスのせいで、体が少しは楽だわね」

 

「内容に若干の違いと毒を感じる……。いや、大丈夫ならいいんだけどさ、ほら、いま、その、出血してるだろ? マッサージって、基本的には血行を良くしてコリをほぐすためのものだから、その、大丈夫なのかな、って」

 

「んー、そう言われてみると、そうかもしれませんが、レムはいつもと変わらないですよ」

 

「ラムも変わらないわね。でも、バルスの言うとおりかもしれない。じゃあ、始まる三日くらい前からマッサージュを始めて、後は様子見ながら、終わるまで計十日ってことでいいんじゃない?」

 

「十日も! レムは、レムはとっても幸せです!」

 

「あ、いや、そう言う意味で言ったんじゃ……」

 

「男に二言はない、そうよね? バルス。 それに……」

 

「そ、それに?」

 

「レムのことを本気で思ってるなら、ひと月に十日くらい、どってことないわ。そもそもその程度のことを嫌がる男に、ラムの可愛いレムはあげられ——」

 

「わ、わかった! わかりました! 前後合わせて十日! やらせていただきます! いや、是非やらせてください!」

 

 若干涙目のスバル。逆に、その言葉を聞いたラムとレムは、顔を見合わせてにっこりと笑った。

 

「あ! その前に! ラム! あれ、無しな! わざとやるの、絶対無しな!」

 

「わざと? なんのことですか?」 

 

 そう言うスバルとレムに、ラムは、

 

「さあ、何のことかしらね? バルスはやっぱり熱でもあるんじゃない?」

 

 白々しくそう言った。

 

「あ。あの、あと一つお伺いしてもよろしいでしょうか——」

 

 そう言った瞬間。

 

 ギロリ。

 

 ラムの目が、それ以上語ることを許さなかった。

 

「わ、わかった。は、話は終了、ってことで……。じ、じゃあ、今日の仕事を始めますか、おねえさま、れむさん……」

 

——もしかしてもしかすると、十日間、アレも禁止ってことになっちゃってる? まさか、そうなってる? おねえさま?

 

 がっくりと肩を落としたスバルとは対照的に、軽い足取りで仕事に取り掛かる、二人の可愛いメイド。

 

 今日もメイザース領はいい天気だった。

 

 

※ ※ ※ ※※※※※※※※※

 

 

 この一週間後——。スバルの例の約束が解禁になったあとで、何がどうしてどうなったのかは、この三人だけの秘密。

 

 

 

〈 紫紺の夢・番外編「ラムとレムのブルーデイズ」 了 〉




 
 KuroMaruです。こんにちは。

 紫紺の夢・番外篇、あと一話あります。どうぞ最後までお付き合いください!
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