数日が過ぎた。
——本当に元どおりになるのだろうか?
その不安が表情に出ていたのか、レムが明るく言う。
「スバルくん。そんなに心配しなくても。必ず元どおりになります。それまでレムが一生懸命お世話しますから!」
「サンキュー、レム。ま、こんな機会だからレムに甘えさせてもらうよ」
大きな枕を背にして半身を起こしているスバルの口元にスプーンを運び、レムがスープを飲ませてくれていた。ようやくこうして食事も――レムに食べさせてもらってだが――口にできるようになった。
体も、少しずつ動くようになってきていた。と言っても、左腕と右手が少し。芋虫のようにのたくることは出来たが、足に関してはまだ歩ける状態にはほど遠かった。体を起こすのにも、まだレムの手助けが必要だったし、用をたす時はトイレまで連れて行って――正確には運ばれて、だが――もらった。ただ、オムツは外されていて、最初の羞恥プレーを考えるとそれだけはずいぶんましだ。
薬は、続けて飲んでいたが、普通に口移しで――いや、それだって決して普通でないのだが――飲まされるだけだった。
ここ数日は、薬を飲まされるたびに眠ってしまうということはなくなった。おそらく今までは強力な誘眠剤的な効力のある薬を飲まされていたのだろう。逆に今は、薬を飲まされた後、気まずさでレムの顔をまともに見られない。だが、気まずさの原因は、口移しの他にもあった……。
それにしても。
あの日、レムに薬を飲ませてもらったあの日の溶けるような甘いキス……あれは夢だったのだろうか。
「な、なぁ、レム。その薬、まだ飲まないとダメなのか? それに、口元に持って来てくれたら、普通に飲めるんだけど」
「ダメですよ。まだ」
「いや、けっしてダメじゃないと思うんですが」
「絶対にダメです。全部レムに任せて、いえ、やらせてください! そもそも、ベアトリス様が、毎回新しいお薬を調合してくださっているおかげで、スバルくんは起き上がれるようになったんですよ! ですから、全部、一滴残らず飲んでもらわないと。それがレムの役目でもあるんですから!」
「ベアトリスの薬?」
「さあ、横になって、目を閉じてください」
スバルは、レムの介助でベットに横たわった。いつものように薬を口に含み、スバルにそれを飲ませるレム。
本当はスバルも、レムの唇の感触が心地いい。本当はしばらくこのままでいたいと思っていた。それにしても女の子の唇の柔らかいことと言ったら! この世の中に、こんな気持ちの良い瞬間があることが驚きだった。
レムの唇の感触を確かめるように、スバルの舌が自然とレムに伸びる。
—— !
驚いたように顔を上げたレムは、両手を口に手を当てて、スバルの顔をじっと見つめた。
その大きな青い瞳から目をそらすように、赤くなった顔をふいっと顔を背けるスバル。
「クスッ」
一瞬いたずらっぽく笑うと、咳払いを一つしてから、何もなかったようにレムはこう言った。
「さ、さあ、寝る前に、体を拭きましょうか、スバルくん」
「いや、今日はいいよ。うん。今日はやめておく」
「ダメですよ。今日も、じゃないですか。そもそも、ここ何日か体を綺麗にしてません!」
「いや、いいって」
「だめです!」
スバルは、レムとのキスと、彼女から発せられる甘い匂いのせいで、自身の股間が大きく膨らんでいるのを感じていた。今もまさに、その状態になっている。この由々しき事態こそが、ここ数日、レムに対してスバルが気まずさを感じている一番の原因だった。
——絶対気づかれちゃダメだ! それだけはダメだ! 死んでもダメだ!
「いやって言っても、今日は拭いちゃいますよ!」
そう言って、スバルに掛けられているタオルケットを引きはがそうとするレム。
「た、たのむ。い、いや、お願いします! お願いですから、それだけは――」
スバルがとっさに力のない左手で、彼女の手からタオルケットを奪い取ろうとしたその瞬間。
ふにゅっ。
何か。柔らかい何かの手応えがあった。
「ひゃっ!」
レムの胸をスバルの左手が鷲掴みにしていた。
突然のことに、スバルの手から離れようとしたレムは、自分の手をベッドの上について、スバルの脇に座り込んだ。だが、ベッドに突くはずだったレムのその手は、スバルの体の硬い棒のようなものの上にぴったりと重なっていた。
「あ……」
自分の手元に目をやったレムが、一体何に触れているのかを理解した途端に硬直する。その顔がみるみる赤くなってゆく。
この状況をどうすればいいのか。
かたや力がないとはいえ、その左手がレムの胸を掴み、かたや、その手から逃げようとした瞬間、すばるの股間にある硬い何かに、うっすらとその正体がわかっている〈何か〉に手をついている、この抜き差しならぬ状況。
長い時間が流れた。いや、実際には数秒だったかもしれない。
だが、二人の間にはかなり長い時間が流れたように感じられた。
スバルはハッと我に返った。
「うぁぁぁ、ごめん!」
その声にレムも我に返ったのか、あわててスバルに触れている手を引っ込め、顔を伏せながら胸の上で両手を握った。
「ごめん、ごめん、ごめん、ごめん!」
「……」
「わざとじゃないんだ! わざとじゃぁぁぁぁ!」
「あ、あの。スバルくん」
レムはゆっくりと顔を上げ、スバルを見つめた。白い頬は赤く染まり、瞳は今にも泣き出しそうなほど潤んでいる。あの時見た、あの表情だった。
「スバルくん、レムは、レムは男の子のこと、あんまり解んなくて……。でも、いま、あの、スバルくんの、あの」
——やっぱりばれてるぅぅぅぅ!
「あ、あの、スバルくん。レムはもう子供じゃありませんから、これがどう言うことなのかはわかります。いえ、ちゃんとはわかりませんけど」
聞き取れるギリギリの声で
「こ、ここ何日か、スバルくんが、その、体を、その、苦しそうだったのは、これのせい、ですか?」
スバルはレムの視線から顔を背けた。
その通りだった――。
実は、この世界に飛ばされてからのスバルは、全く自分で処理をしていなかった。つまり、オナニーを全くしていなかった。毎日バタバタ、てんやわんやの大騒ぎで、それどころではなかったのだ。
ところが。
この寝たきり状態がつづき、徐々に体力が回復するにつれて、思い出したように、そこがムズムズするようになった。
そしてここ数日は毎朝、そしてレムに薬を飲まされるたびに、レムから発せられる甘くていい匂いに反応したスバルのそこは形を変えて、存在を主張していた。スバルはごく普通の男子だ。この生理現象は自分では如何ともしがたく、当然のことだった。
ここで手が自由になるなら、誰もいない時に処理していたはずだ。しかし、今、この状態では、如何にもこうにもならない。
あちら側にいた時は、一日に二度も三度もしていたスバルにとって、ここ数日辛い日が続いていた。
恥ずかしさで顔を横に向けたまま、
「いや、そ、それは、その」
消えるような声しか出なかった。
スバルの隣に腰を下ろしたまま、レムはその両手を自分の胸にあて、再び俯いた。
時間が過ぎた。開け放たれた窓の外から、虫の声だけが聞こえていた。
「あ、あの」
スバルがようやく言葉を発しようとしたその時、力のないスバルの左手を、レムの両手が優しく持ち上げ、その手の甲を自分の唇に当てた。そのままスバルの手を、今度は自分の胸にあてがって、小さな声でこう言った。
「スバルくん、わかりますか? すごくドキドキしているの、わかりますか?」
レムの心臓の鼓動が、その手のひらから伝わって来た。自分と同じくらいに。いや、それ以上にドキドキしている。
呼吸に合わせて上下する胸の柔らかさと暖かさに、スバルの心臓の鼓動もレムに負けないほど高鳴り、喉から飛び出そうになった。喉はカラカラに干上がっていった。
スバルが顔をレムの方に戻す。二人の目と目が合った。
レムは変わらず目を潤ませ、頬を染め、優しく微笑んでいた。そして大きく息を吸ってから
「スバルくん、さっきスバルくんの、その、あの、触ってしまったとき、びっくりしましたけど……でも、あの、とっても嬉しかったんです!」
「え?」
「スバルくんが元気になってるって思って。だ、だって、こ、これって、そうですよね? だから、とっても嬉しいんです。でも、スバルくんのその苦しそうな顔を見ると、どうしていいのか、わからなくて。だって、レムのせいでこんな……」
頬を染めたままレムが話し続けた。
「だ、だから、スバルくん、レムがお手伝いします。レムのせいなんです。だから、全部レムが!」
レムはそう言うと、再び、今度はしっかりと、大きくなったままのスバルのものの上に手をあてがった。
「うっ」
突然のことに思わず声が出た。
レムは、その声に驚いて、あてがった手をとっさに放した。
「ご、ごめんなさい。痛くしちゃいましたか?」
「い、いや、ちが……そ……ちがくっ」
スバルも、自分で自分が何を言っているのかわからなかった。
レムはホッとした表情で、改めて、今度は優しく、そしてゆっくりと形を確かめながら、まるで子猫を撫でるように、タオルケットの上からその手を動かした。
誰かに触られるのは初めてだった。正確には、形を変えている部分を触られるのはこれが初めてのことだった。タオル越しに、しかも手のひらでゆっくりと撫でられるだけで、スバルの思考はしびれて停止した。
一度手を離したレムは、ゆっくりとスバルからタオルケットを取り去り、スバルのガウンの前をはだける。ついで、下着もそっと脱がせた。そして改めて、そっとスバルに手を伸ばし、
「す、スバルくん。レムに教えてください。どうしたら、いいですか?」
優しく握りこんで、問いかける。
本当は、スバルに触れている手を動かして欲しかった。レムに思い切り自分のものをしごいて欲しかった。だが、そんなことを言う勇気も余裕も全くなかった。
それに、今こうしてレムの柔らかい手で握られているだけで、そこからどんどん快感が湧き上がってくる。それだけでも、スバルはもう限界ぎりぎりだった。
そしてこうも思った。
——この瞬間が永遠に続いて欲しい。
快感に浸っていると
「こうするんですか?」
レムが、握った手をゆるゆると動かし始めた。
「あ……」
スバルは知らず知らずのうちに、自ら腰を動かしていた。動かないレムの手の中から、動かしづらい体で、懸命に快楽を取り入れようとしていた。
それを見たレムは、彼の下腹を優しく押さえてその動きを止めると、自分の右手を、ゆっくりと上下させた。
ほんのすこしの時間、そうしていると、
「ううっ、くっ」
突然スバルの苦しそうな声に、レムはその手を止めた。
「スバルくん、大丈夫ですか? どこか苦しいんですか?」
「き、気持ちいいんだ。ものすごく気持ちがいいんだよ、レム」
もう否定も拒否もできなかった。その快感に抗うことなど到底無理な話だった。
「そのまま、続けて」
「はい……スバルくん」
レムが再び手を上下に数回動かした。その途端、急にレムに握られている部分がぐっと硬く、そしてさらに太くなる。と、同時に、スバルが声をあげて痙攣した。
「ううっ、いくっ!」
「えっ? えっ?」
スバルの切迫した声と、引付けを起こしたような体の動きに驚いたレムの手が、パッとスバルから離れた。
その刹那。
スバルから、白濁した液が勢いよく飛び散った。
「わっ! び、びっくりしました!」
最初に飛び出た白い体液は、放物線を描いて、仰向けで寝ているスバルの顔の近くまで飛び、続けざまに胸、腹、そして下半身に飛び散った。
射精の瞬間に手を離されたスバルは、困惑した。自身の一番気持ちのいい瞬間が肩すかしにあったようだった。
「レム、レム! やめないで! そのまま続けてくれ!」
と懇願するスバル。
呆然とその光景を見ていたレムは、スバルの声で我に返ると、あわてて握り直し、再びその手を動かした。
小さな白い手に握られている部分は、まだ、びくんびくんと波打っている。先ほど勢いよく飛び散った白い液は、今では少しの量だけが、その先端から漏れていた。