「あ、あの、スバルくん?」
「あ、あの、バルス……?」
いつの間にかラムもレムの隣で膝をついて、心配そうにスバルの様子を伺っている。
「あの、ごめん。その……約束、守れなくて、俺……。それに、レムがせっかく作ってくれたジャージまで汚しちまって……」
スバルは下を向いたまま、つぶやくように声を絞り出した。
「ふ、ふたりとも、ごめん……」
「よ、様子が変よ。本当に調子が悪いんじゃないの……?」
ラムはそう言って立ち上がった。
「レム、バルスをお願い。ラムはあの本を持ってくるわ。何かわかるかもしれない」
パッと部屋を飛び出していくラム。その後ろ姿を確認して、再びスバルに顔を戻すと、
「スバルくん……スバルくん! レムが! レムがついてますから!」
レムは立ち上がって、スバルを抱きかかえた。
「大丈夫です……大丈夫……」
スバルを抱きしめているその肩が震え始める。
「れ、レム? あ、あの……」
次いで、暖かい涙が抱きかかえられたスバルの頭にこぼれ落ちた。
「し、死なないで……死なないで! スバルくん!」
「え? い、いや——」
「レム! バルスをベッドに寝かせてちょうだい!」
そう言いながら、すぐにラムが戻ってきた。手には何やら分厚い本を抱えている。
「は、はい! 姉様!」
レムは自分より大きな体をひょいと抱えると、さっき剥がそうとしていたあのシーツの上に、スバルを寝かせようとした。
「わ! わ! ま、まった! まった!」
背中に何か冷たい感触を感じて、反射的に起き上がろうとする、スバル。だが、寝かしつけられたまま、全く身動きが取れない。
「とにかく、手遅れになる前に症状を確認しないと……」
「も、もしかして……精が枯れて、死に至る病気とか……ま、まさか呪いじゃ……」
あせるスバルを全く無視して、本をめくり、何やら調べ始めるラム。肩と胸に軽く手を添えるだけで、スバルの動きを封じ、姉の判断を待つレム。
久しぶりに、
「ちょ、待てって言ってんだろ!」
床に座り込んだラムは、聞こえているはずのスバルの言葉にも耳を貸さず、手にした本を開いて、ページをめくり続けている。
「お、お前ら、わざと……な訳ないよな。あの……」
二人の顔を交互に見比べる。二人とも、真剣な顔つきだ。違う意味でスバルの顔が赤くなっていく。
「び、病気じゃないから……。ごめん、俺……、あの、こ、これは……」
「落ち着きなさい、レム。どうやら違うようよ。夢精、載っていたわ……」
無意識に小声になったスバルのその言葉を、いつの間にか本のページをめくる手を止めていたラムが引き継いだ。
「え?」
「え?」
二人が同時に聞き返した。もちろんその意味するところは、全く違っていた。ラムもレムとそれほど変わらないほどに動揺していたということは、もうすでに全く無かったことになっていた。
レムは一度スバルの顔を覗き込んでからゆっくりベッドを降りると、どれどれ、というように、ラムの隣に膝をついた。
「ほら、ここ」
「あ、あの……それ、その本って、一体——」
何かよくわからないが、おそらくこちらの医学書的な専門書なのだろう。二人は額を寄せて、開かれたページに目を通している。
「す、スバルくん……、病気じゃないんですね。れ、レムは……レムは」
「だ、だから、違うって言ってんのに——」
その言葉を聞き終える前に、バッと立ち上がって、ベッドの上のスバルに抱きつく、レム。
「よかった! スバルくん!」
「ま、ま、待てって! ちょ……」
レムがスバルの顔中にキスの雨を降らせる。そんな二人の様子を、ラムは半ば呆れながらも優しい目で見つめている。しばらく待って、レムが落ちついた頃合いで、咳払いを一つ。
「こ、こほん」
ようやく自分の今の状態に気づいたのか、赤い顔をしてレムが体を起こした。
「ご、ごめんなさい、スバルくん……」
「だ、だから、違うって初めっから……」
「だ、だって! あんなスバルくんが暗い顔をしているのを、レムは初めて見ましたし……。ほ、本当に死んじゃうかと……」
レムの目に再び涙が浮かびはじめた。それを見たスバルは、レムの頬にそっと手を伸ばし優しくその涙を拭った。
「ごめん、レム。ラムも。ちゃんと言わなかった俺が悪かったよ」
ボソッと呟くスバルに、ラムが言葉を重ねた。
「まぁ、その、大きな病気ではないことがわかってよかったと、ラムは思うわ」
「本当によかった……」
ほっと胸を撫でおろすレム。ついでスバルの私室が和やかな空気に包まれた……と思ったその瞬間。
「ところで。これによると、夢精はとても気持ちのいいもの、らしいけど……」
「はえ?」
「えっ?」
ベッドの下から発せられたラムの冷静な一言が、スバルのHPをごっそりと削りとった。レムが、『そうなんですか?』とでも言いたげな表情で、スバルの顔を改めて覗き込んだ。
「で、どうだったの? 気持ちよかったの? その……いったいどんな夢を見ていたの?」
「ちょ、ちょとまて、待て。なんだその本?」
顔を赤くして、慌てるスバル。そんなスバルを、やや冷ややかな目で見上げるラム。
「見せたところで、バルスにはおそらく読めないし……。まあ、乙女の秘密とでも言っておくわ」
「そ、そんな風に言われたら、余計気になるじゃねえか!」
「と、とにかく」
ラムはスバルの訴えを軽く無視すると、かがんでいた体を起こして、その顔をじっと見つめた。
「そんな気持ちのいい目にあって、なんであんな死にそうになってたの?」
「そ、そうですよ、スバルくん! どうしてこの世の終わりのような……」
「お、俺、そんな死にそうになってた?」
気づいていなかったの? とでもいうように、姉妹二人が顔を見合わせる。スバルはスバルで、二人に知られた恥ずかしさのあまり、そこまで落ち込んでいたとは、自分自身気づいていなかった。
「あ、ごめん……。いや、ふ、二人に……その、知られたのが、めちゃめちゃ恥ずかしくて……」
いつの間にかスバルに馬乗りになっていたレムは、スバルの両手を取ると、真顔になった。
「スバルくん!」
「は、はい!」
「スバルくん、あの時、姉様とレムとスバルくんで約束しましたよね? 三人で隠し事は無しです!」
「は、はい……」
レムの真剣な眼差しに、気後れするスバル。見つめ合う二人をしばらく眺めて、もういいかしら、といった口調でラム。
「で、どんな夢を見て、そうなったの? ぜひ知りたいわ。そうでしょ? レム?」
「は、はい! 姉様。スバルくん、姉様とレムに教えてください。一体どんな夢だったんですか?」
「い、いや、その……。ちゃんとは覚えてないんだけど……」
一瞬躊躇するスバル。話してしまっていいものだろうか——。
「その、ふ、二人が……。レムとラム、お前ら二人が、で、出てきた……と、思う」
ラムとレムはお互い顔を見合わせて頬を染めた。そして同時にスバルに顔を向けた。
「そ、それ、レムはスバルくんと夢の中で何があったんですか! 思い出してください!」
「そ、それ、ラムはバルスに夢の中で、一体どんなことをされたの? 思い出しなさい!」
「だ、だから! そういうことをステレオで言うなって! は、恥ずかしいだろ……」
スバルの口から出た言葉に、一瞬「ん?」という顔をする二人。だが、その疑問はとりあえずどこかに置き去りにして、
「姉様姉様、レムはどうしてもその夢の内容を教えてもらいたいです!」
「レムレム、ラムもどうしてもその夢の内容を聞き出したいと思うわ!」
「ま、待てって! べ、別に絶対内緒ってわけじゃ……」
二人の顔がパッと明るくなる。
「言ってください! れ、レムはスバルくんと、夢の中で一体何をしたんですか⁉」
「話しなさい! ラムはバルスの夢の中で、一体どんないやらしい目にあったの⁉」
二人の表情と言っている内容が若干剥離していたが、そんなことは全く気にもしない、ややディレイがかった音声がスバルの耳に突き刺さった。
「い、いや……、その……」
躊躇するスバル。だが、二人はスバルの見た夢の内容に興味津々の様子で、
「は、早く話しててちょうだい。このあと仕事もあるのだし……」
「は、早く話してください。そうしないと、朝食も作れません!」
「い、今ここでその話をしないと、ダメなのか? どうしても?」
スバルの言葉に、二人が何度も頷く。 それを見たスバルは、大きくため息をひとつついて、ボソボソと話し始めた。
「お、俺も細かくは覚えてないんだけど……。ふ、二人の……、二人が俺に色々してくれて、って感じだった……。と思う……」
「え? それだけなの?」
「え? それだけですか?」
「だ、だから! そんなに細かく覚えてないんだって!」
ラムが腕を組んで「ほんとなの?」と言わんばかりの目をスバルに向ける。
「嘘くさいわね」
「嘘くさいです」
「ほ、本当なんだって! う、嘘じゃな……」
最後まで言い終える前に、突然、甘い痺れるような感覚が、スバルの下半身から体全体に伝わった。
「あ……」
顔を正面に回すと、跨ったままのレムの手が股間に伸び、スバルのその部分を下着の上からゆるゆると撫でていた。
「な、な、何を……」
「うふふっ」
レムはにっこり笑うと、指先でつまむようにスバルの輪郭を上下になぞり始めた。
「あ……あっ」
レムの手の動きに思考を止められ、スバルはそのまま目を閉じた。彼女の手の中で、気持ちのいい部分がどんどん力を増してゆく。レムの人差指が一番敏感な部分にあてがわれ——。
「え?」
レムの手の動きが突然止まった。
「れ、レム……」
レムがいたずらっぽい目でスバルの顔を覗き込む。
「スバルくん、全部話してください!」
「え、あ? いや、その……」
レムの手が再び動き始める。短く切りそろえられた爪の先で、その形を確かめるように指が動く。
「ああっ……レム……」
レムの手の中のその部分が「もっともっと」というようにいきり勃って……と、レムの手が再び止まる。
「ううっ」
「スバルくん? お話、聞かせてくれますよね?」
「い、いや、あの……」
レムの親指が、一番敏感な部分をクリクリとこねるように動く。その度に、スバルの口からうめき声が漏れる。何度かその声を聞いて満足したように、かすかに頷いたレムは、またピタリとその指を止めた。
「こ、これは、まさしく飴と鞭ね……」
ラムが思わずつぶやく。そんな姉をよそに、レムはスバルの両足に跨ったまま、可愛らしく微笑んでいた。