「い、いい匂いがするな……」
厨房の扉を開けた途端、美味しそうな匂いがスバルの胃袋を刺激した。調理していた二人が、同時に振り向いた。
「スバルくん、おなか減りましたよね? ちょっと待ってくださいね」
「バルス、手伝いはいいから、その辺に座っていてちょうだい」
その二人の目線がスバルの股間に移動する。自分のどこに注目されているのかに気づいたスバルは、慌てて前を隠した。
「う……あ、あの、今は治ってるから! 大丈夫だから! で、でも、あんまり刺激しないでくれると、うれしい……かも」
双子は顔を見合わせると、意味ありげにほほ笑んだ。
「なに? なんなの?」
スバルが焦りながら二人に聞く。
「何でもないわ」
「何でもありません」
そう言って台所に向き直った二人の手元から、ジューっと食欲をそそる音が弾け、香ばしい香りが立ちのぼる。スバルの腹がぐううっと鳴ると、ラムがすかさず、口元を緩めながら振り返った。
「バルスは自分の欲求に正直だわね」
「そ、そうか?」
「そうよ。睡眠欲、性欲ときて、今は食欲……。他には何が欲しいの? 強欲なバルスは」
「スバルくん、他に欲しいものはありますか?」
「いや、ない! 今はない、ない!」
「何でも遠慮なく言ってくださいね!」
「わ、わかった……」
手元に目線を戻したラムが、ぼそっとつぶやいた。
「まあ、食べ終わったら……ね」
「そうですね……」
レムも、ラムの言葉に反応する。
「え? 何?」
「それよりバルス、じゃーじ、他にも持ってたの?」
スバルの問いかけを無視したラムが、手元を見たまま言う。
「ん? あ、そう。レムが作ってくれたやつ。あ、レム……そのサンキューな。でもごめん。一枚目がボロボロになってからと思ってたんだけど、早速新しいの下ろしちゃった」
「いいんですよ、スバルくん。使ってもらえることがレムはとってもうれしいですから!」
「あと二人の制服も汚しちゃって……」
「ああ、とりあえずエプロンだけ変えたの」
「そ、そっか……。あ、あの、さ。さっきのハンカチだけど、本当に洗わなくて、いいのか? 俺、ちゃんと——」
椅子に腰掛けたまま、言いづらそうにモジモジとしていたスバルがようやく口にする。だが、スバルが最後まで言い切る前に、
「それはいいです!」
「それはいいのよ!」
二人がそろって首を何度も横に振った。
「さあ、朝食にしましょう!」
「そうね、朝食にしましょう」
スバルが続きを言う前に、二人がテーブルに皿を載せる。再びスバルの腹が盛大に鳴った。
「う……」
「スバルくん! レムは今日も、スバルくんのために腕を振るいましたよ!」
「さ、サンキュ! 旨そうだ!」
「バルス、ラムも腕を振るったわ」
すかさずラムが口を挟む。
「お、おう! ——どのあたりに?」
「今日のスープは姉様が作ったんですよ!」
「へええ。どれどれ」
ひとさじすくって口にしてみる。
「うん。普通にうまい!」
「普通は余計だと、ラムは思うわ」
ちょっとだけムッとした表情で答えるラム。
「あ、いや、そういう意味じゃないって! ほんとにうまいよ、うん! 特にこの、胡椒? 山椒? ああ、ペッパ、か。これがぴりりといい味出してる……と思う」
「ま、そういう事にしといてあげる」
彼女はじと目でスバルを見つめると、自身もスープに口を付けた。レムも調理台にイスを寄せると、ラムの隣に座ってラムのスープに口を付ける。
「……」
「どした?」
「いえ、何でもありません。姉様のスープ、おいしいですよ!」
微妙な雰囲気の中、三人とも口数少なく食事が進んでいく。それにしても、いつもとは違って二人とも何か言いたげな様子だ。スバルは気づかないふりをして、二人がその何かを口にするのを待っていた。
その食事もそろそろ終わりに近づいた頃、レムが口を開いた。
「スバルくん、今日はコーフもあるんですよ? いつものお茶とどっちがいいですか?」
銀色の容器を二つ、左右の手に持って、にっこりと微笑んでいる。いつもと変わらない、かわいい笑顔。
「こーふ? ああ、コーフね。じゃあ、久しぶりにコーフがいいかな」
「そう言えば、スバルくんはコーフに絵を描くのが上手でしたね」
「ああ、そんなこともあったっけ?」
「実は、レムはあの後こっそり練習をしたんですけど……」
「え? 練習したの?」
「は、はい。でも、スバルくんみたいに上手にできなくって」
「そう言えば、そんなことあったわね」
スバルがこの屋敷で働き始めてから、数日たったころ。ちょうどこの場所で、ささやかなラテアート合戦があった。
何度やってもうまくいかないレムに対して、普段そういう事をほとんどしないラムが、器用にも一発でスバルの書く『漢字』でラテアートを描いてみせたのだった。
「実は、レムはその練習でお屋敷のコーフを全部使ってしまって……」
「いや、お前……、全部って。いったいどんだけ練習したんだよ!」
「それはもう、飲み過ぎで胃が痛くなるくらいよ」
「ね、姉様。あまりスバルくんにばらさないでください!」
顔を赤らめて、コーフを淹れるレム。
「ああ、いい匂いだ。いつものお茶もあれだけど、たまにはコーフもいいよな」
「そういえば」
ラムが何かを思い出したようにスバルに向き直った。
「レムのこと、いちなんとかの匂いがするって言っていたでしょう?」
「うん?」
「ね、姉様!」
「それってなんのこと?」
「いちなんとかって、なんだ?」
スバルが眉をひそめる。
「その、レムの匂いを嗅ぎ——」
「姉様! もうやめに——」
レムが顔を赤くして会話を止めようとした。だが、スバルはレムの懇願に気付かず、思い出したように答える。
「ああ、わかった。イチゴみたいって言ったのか、俺」
「いちご?」
「そう、小さい果物でさ、赤くて甘酸っぱい——」
このくらいの、と、指で輪を作って二人に説明する。
「ああ、わかったわ、スロベリの事ね?」
レムは顔を染めたまま、二人の顔を見比べている。
「そんなおいしそうな匂い、する?」
「そう思ったんだよ」
「香油じゃなくって?」
「違うと思う……けどな。二人とも、いつもこうなんっていうか、果物みたいな、すごくいい匂いがするぜ?」
スバルは体を乗り出すと、レムに顔を近づけて鼻を鳴らした。
「キャッ」
とっさに胸を隠すように腕を交差して、体をのけ反らせるレム。そんなレムをよそに、
「いい匂い?」
んー、と考えながら、ラムは人さし指をあごの下に置いて、彼女にしては珍しいかわいらしい仕草をする。
「それ、経験のない男の子の……」
そこまで言いかけて、一度スバルに目線を送る、ラム。
「——ああ、バルスは経験済みね。まあでも、お風呂上がりならともかく、香油でも使わない限り、それほどいい匂いはしないと思うわよ。汗をかけば汗臭くなるし……」
そして、涼しい顔で一言。
「どっちにしても、それってただの幻想じゃない? ね、レム?」
「そ、そうですね……。できればお風呂には毎日入りたいです……」
微妙にとんちんかんな答えのレム。
「そっかな……。いや、今も二人からいい匂いがすると思うけど……な」
納得のいかない口調なのはスバル。
「お風呂といえば、バルス、その……今、バルスはあまりきれいな状態じゃないんじゃない?」
「え? あ、そ、そうかも……その……臭う?」
「スバルくんからは、スバルくんの匂いがしますよ。スバルくん」
「俺って、どんな匂いしてんの?」
「スバルくんは、スバルくんのいい匂いです」
「いやいや。それこそ、まじ幻想だろ」
「ラムは、バルスのいい匂いっていうのはわからないけれど」
カップから口を離して、ラムが続ける。
「コーフを飲み終わったら、ちょっとお風呂でさっぱりしてきたら? あとの片づけはしておくから」
「そうですね。ゆっくりお風呂に入ってきてください、スバルくん」
「やっぱ、臭ってんのか……?」
笑顔で朝風呂を勧める二人に、スバルは下半身に視線を落としながら、ぼそっとつぶやいた。
「話は変わるけど」
と、ラム。スバルが顔を上げる。
「なんだ?」
「ちょっと聞きたいことがあるわ」
「だからなんだよ?」
「バルスは……、というか男の子は、かしら。女の子の裸と下着とどっちが好きなの?」
「へ?」
ラムは飲みかけのカップを調理テーブルに置くと、ゆっくりとレムの後ろに移動した。
「その……興味があるのよ。男の子が女の子の裸を見て、どうなるのかはもう知っているわ。でも、今日の夢のことを考えると、下着にも興味があるのかどうか、聞いておこうと思って」
そう言いながら、レムの背後から手を伸ばし、その可愛らしい手からカップを優しく取り上げた。
「姉様?」
「い、いや……。興味は……無くはないっていうか、その……」
「正直に言いなさい。今、レムの下着姿を見たいと思ってる?」
「!」
その言葉で、レムの顔が真っ赤になった。スバルは、二人に顔を向けたまま正直に頷いて、上目遣いのままコーフを一口。ラムは手にしたカップを自分のカップの隣にそっと置いて——。
「よくできました、と言っておくわ。じゃあ、ご褒美をあげましょう」
その言葉と同時に。ラムはレムを後ろから抱きかかえ、ひょいと持ち上げた。その途端、スカートが大きくめくれ上がり、両足がMの字の形に広がった。
「ブーッ!」
スバルが口に含んだコーフを思い切り吹き出す。
「ね、ね、ね……っ!」
慌ててその手から逃れようとするレム。だが、想像以上にラムの力が強い。彼女は恥ずかしさのあまり、顔を手で隠した。
「レム、バルスがどうしても見たいって言ってるわ」
「そ、そ、そんなこと……」
指の隙間からそっと様子をのぞく。テーブルを挟んで正面に座っているスバルは、吹き出したコーフを拭うのも忘れて、顔を赤くしたままでレムの一番恥ずかしい部分を凝視している。
「ほら、ね?」
「あ、いや、その……」
慌てて顔を背けるスバル。だが。
「もう遅いわ、バルス。レムもバルスに見られるのは嫌なの?」
顔を真っ赤にしたまま、スバルの様子を見ていたレムは、
「す、スバルくんがどうしてもって言うなら、レムは……」
「バルス、レムがいいって言ってるわ。ほら、こっちに来なさい」
その言葉一つで、まるで催眠術にかかったように、スバルがのろのろと調理テーブルを回り込んでくる。
「その椅子に座りなさい」
すでにスバルは、ラムの言うがままだ。椅子に腰を下ろしたスバルの目の高さに、レムのその部分が見えている。
大きくめくれ上がったスカート。白いペチコートと真っ白い綺麗な太もも。そこから伸びるガーターベルトと、白いストッキング。メイド服っていうものを考えた奴は絶対天才だ、と思う。それとも、このロズワール邸で使用されるメイド服が特別なのだろうか。
そして。そして。大きく広げられた両足の真ん中に見えているレムの下着。その白い下着で隠されている秘密の部分は、もうすでに一度目にしているはずなのに、今のこの状態にも目が釘付けになってしまう。
「もっと近くで見ていいのよ? バルス」
自分もほんのりと頬を染めて、妹のその部分にスバルを誘う、ラム。レムは胸の前で手を包み、恥ずかしそうに横を向いている。スバルが、レムに少しずつ顔を近づけていく。
両足の付け根にあらわれた
さらに顔を近づける。二人は否定していたが、やっぱり甘くてなんとも言えない、いい匂いがほんのりと鼻をくすぐっている。
よく見ると、布の中心部分にうっすらとシミのようなものが出来始めている。これがなんなのか、スバルはすでに知ってたし、おそらくは本人も気づいているに違いない。
すでに喉がカラカラに干上がっていたスバルは、今すぐ、その要因となっているレムの甘い甘い蜜を口にしたくてたまらなくなった。
「さ、さわっても……口をつけて……ここにキスしていい、か?」
その言葉一つで、抱えられてるその体全体に、震えが走る。レムは目を固く閉じたまま、じっとスバルの次の行動を待っているようだった。そんなレムに手を伸ばしかけたその時。
「ここまでよ」
ラムは突然そう言い放つと、レムを抱えたまま突然後ろ向きになって、スバルから全てを奪い去った。
「え……?」
「あ……」
二人の口から、同時に声が漏れた。
「言ったでしょう? 公私混同はしたくないって。この場所でこの制服でそう言うことは無しよ」
「う……」
肩越しにスバルに話しかけながら、レムをゆっくりと下ろす。
「姉様……」
「お、お前、どの口が言うんだよ……」
肩すかしをくらったスバルが、なんとか言葉にする。そんなスバルを軽くあしらうように、
「さ、片付けはしておくから、お風呂に入ってきてちょうだい。とりあえず、向こうを向いていてあげるから。そのままじゃ歩くの大変でしょ?」
さっきのレムの姿にしっかりと反応してしまっているその部分を確認すると、ラムは鼻歌交じりで調理台を片づけ始めた。