「お客様、どこか痒いところはありますか?」
たっぷりと泡立てた洗髪剤を桃色の髪になじませながら、頭皮をマッサージするように指先に力を入れる。
「そうね、全体をくまなくやってちょうだい。あとは——」
一週間ほど前のレムと同じく、体にタオルを巻いたラムが、ベンチに座って髪を洗われていた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「姉様、レムがスバルくんにしてもらった事、最初から全部してもらうといいんじゃないでしょうか?」
ようやく機嫌が直ったラムに、レムがこう提案した。
「スバルくん、姉様をお願いしてもいいですか? あの、スバルくんのしたいことをしてあげるお約束は、その後で……」
「お、おう……。も、もちろん、いいぜ。あれだよな、髪を洗うところからでいいよな?」
「でも……」
素直にそのまま、「はい、よろしく」とは言えず、ラムは目を伏せたまま、どっちつかずの返事を繰り返していた。
「なあ、ラム」
スバルが優しい口調で話しかける。
「さっき、俺がしてほしいこと、二人でしてくれるって言ってただろ? 俺、ラムとレムに、いっぱい気持ちいいことしてもらいたい。二人とエッチなこと、いっぱいしたい。でもさ、ラムの調子が悪かったら、そんなこと頼めないじゃないか」
「そ、そうかもしれないけど……」
「だからさ、今ここで例のマナのやつ、したい。俺がやりたいんだ。で、ついでに——っていうのはあれだけど、レムにしたみたいに、先に髪洗ってやるよ。どうだ?」
ラムは顔を赤くしたまま、素直にその言葉に頷く。隣では相変わらずレムがニコニコして、二人の会話を聞いていた。
「じゃ、早速——」
スバルは、そう言いながら湯船から出ようとして立ち上がった。
「あっ!」
レムが声をあげる。
「あー。もう隠しても仕方ないだろ。さっきの厨房からずーっとこのまんま」
スバルの腰に巻かれたタオルの前の部分が、上向きに天幕を張っていた。苦笑いしながら、湯船から出たスバルは、一度浴室の外へ出ると、大きなタオルを数枚手にして戻ってきた。
「このタオル、使っていいよな?」
そう言って、洗い場のベンチの上にそのタオルを敷く。そして、うんうん、と頷いてから振り向いて、
「いいぜ、ラム。レムも後で洗ってやるよ」
一瞬、ぱあっと顔を輝かせるレム。だが、思い直したように、
「いえ、今日はスバルくんは姉様をお願いします。その後で、レムと姉様とでスバルくんのお世話をいっぱいいっぱいしますから!」
その言葉で、スバルの大きくなったままの部分が、びくんと反応した。 思わず腰が引けたような格好になってしまう。レムもラムも、そんなスバルの様子を湯船に浸かったまま眺めている。レムはそんなスバルに顔を向けたままで、
「姉様。スバルくん、髪を洗うのも上手なんですよ」
「も、ってことは、他も上手ってことよね……」
「はい! スバルくんは、お屋敷のお仕事以外はなんでも器用ですから!」
微妙にずれている二人の会話に、いつものレムの毒舌が混じる。
「う……。それ、あんま嬉しくない……」
それを聞いたスバルは、そうボソッとつぶやきつつ、浴槽へ声をかける。
「ラム、いいぜ。こっち来いよ」
ラムがレムに顔を向けると、レムはニッコリして頷いた。
「……じゃあ、お願いするわ」
そう言いながら、湯船から出たラムが遠慮がちにスバルの方へ向かう。だが、数歩歩いたところで、突然ふらつき、その場にへたり込みそうになった。
「お、おい!」
「姉様!」
レムが慌てて湯船から飛び出しかける。だがそれより早く、そばにいたスバルがとっさにラムの腕を取って、バランスを崩した小さなその体を支えた。
「大丈夫。ちょっとのぼせただけ」
そう言って、スバルが支えている腕に手を掛ける、ラム。顔色があまり良くない。スバルは、そんな彼女を立たせながら、
「本当に大丈夫か?」
小声で話すスバルに、ラムは無言のまま頷いた。
「姉様? 大丈夫ですか?」
湯船で立ち上がったまま、レムが心配そうに二人の様子を伺っている。
「大丈夫よ、レム。とりあえず、髪を洗ってもらうわ」
ラムはそういうと、スバルの手を離して、準備されていたベンチに腰掛けた。
「姉様……」
ラムの気持ちはわかる。ただただ妹に余計な心配をかけたくないのだ。スバルは、ベンチに腰掛けたラムの正面にしゃがんで背を向けると、目の前の蛇口を全開にした。洗い桶にお湯が音を立てながら溜まっていく。
「おまえ……、我慢してたな?」
レムに聞こえないように、鏡の方を向いたままラムに話しかける、スバル。
「調子悪いの、隠してたんだろ?」
「だ、だって……出血してたし、流石にして欲しいとは言えないわ。それに——」
ラムに最後まで言わせず、スバルは、
「それ、わからなくないけどさ、でも隠し事はなしなんだろ?」
そう言いながら、洗い桶を持って立ち上がる。浴槽では、レムが心配そうな表情でこちらを見ていた。お腹のあたりで両手を握りしめているのは、不安になっている証拠だ。
「レム、大丈夫だ。ちょっとだけ
そう言ってから、
「あのさ、レム」
「は、はい……」
「気づいてないみたいだけど、レムの綺麗なおっぱいと、かわいい割れ目が丸見えになってるぜ!」
「あ!」
さっきまで体に巻いていたはずのタオルが、湯船にプカプカと浮いている。盛大に音を立てて、慌てて湯船にしゃがみ込む、レム。
「す、す、す……」
顔を真っ赤にしたレムは、浮いているタオルを手繰り寄せながら、
「す、スバルくん! その言い方は、ちょっといやらしすぎますっ!」
「あははは! わりいわりい。でも、レム、レムはほんと綺麗だし、かわいいよ、うん」
二人の掛け合いに、ラムも、
「レム、下はともかく、あんまりバルスにレムの胸を見せつけないでちょうだい。バルスの気が散るし、比べられると、ラムも落ち込むわ」
澄ました声で、合いの手を入れた。
「もう! スバルくんも姉様も、知りません!」
さらに。
「そうだ、レム! あのさ」
「な、なんですか……」
顔を赤くしたまま、レムが聞き返す。
「俺のしたいこと、で思い出したんだけどさ。ラムの後で、レムのへそを洗ってみたい」
「!!」
レムは一瞬固まって、
「だ、だめです! 絶対だめです! ほ、ほんっと、スバルくんは意地悪です!」
そう言うと、くるりと向こうを向いてしまった。
「あはははは。うそうそ! 嫌なことはしないって」
「もういいですっ!」
スバルは笑いながら、改めてラムの髪にお湯をかけ、洗髪剤を手に取った。正面の鏡でその様子を見ていたラムが、タイミングを見計らって話し始める。
「バルス、ごめんなさい。でも、ありがとう」
髪を洗われながら、蛇口から出ている音に紛れない程度の声で、ラムが続ける。
「なんだよ、改まって」
「バルスにあれをしてもらってから、ちょうど一週間ね。でも、今回は前ほど切羽詰まっていないの……。おそらく、バルスのマッサージュが効いたのね。だからあの時とは違って随分と体が楽よ」
「ほんとか?」
「ええ、嘘じゃないわ。確かにマナ不足なことは否めないし、正直、してほしい。でも、さっきふらついたのは、本当にちょっと逆上せていたせいもあったと思うわ。心配かけて、ごめんなさい」
「いや、普通に心配かけてくれてもいいぜ。俺もレムも、気を使ってるラムを見る方が嫌だよ」
泡立った桃色の髪に指を入れ、丁寧に洗いながらそう答えるスバル。目を瞑ったままのラムの口元に、ふっ、と小さく笑みがこぼれた。洗髪の気持ち良さだけが、その笑みの理由ではなかった。
「お客様、どこか痒いところはありますか?」
黙ったままのラムに、スバルは声の調子を普段通りに戻して、例の定番のセリフ。
「そうね、もっと力を入れて、全体をくまなくやってちょうだい。あと、横のところが——そう、そこ。そこが特に気持ちいいわね」
ラムもいつもの調子で、遠慮のかけらもなくスバルに指示をする。
「ホント、姉様はぶれないな!」
苦笑いしながら、ちらりと振り返る。湯船では、肩までお湯に浸かったレムが、こちらに向き直って心配そうに様子を伺っていた。スバルは口の動きだけで、
〈だ・い・じ・ょ・う・ぶ・だ〉
とレムに伝え、軽く頷いた。
それを見たレムは、ホッとした表情で目を伏せた。そして改めてスバルに微笑むと、頬を染めながら、さっきのスバルと同じように口だけを動かす。
〈だ・い・す・き〉
それを見た途端、スバルは自分の顔がカーッと熱くなるのを感じて、慌てて正面に向き直った。
「えへん、えへん」
突然、ラムが妙な咳払いをした。
「な、なんだよ」
「バルス、手が止まってるわ。あと、余計なお世話かもしれないけれど、顔が真っ赤よ?」
「な、なんでそんなのわかるんだよ!」
ラムは「はあっ」と大きなため息をひとつついて、
「だって、正面の鏡で全部見えるもの。ほんと、ご馳走様ね」
「う……」
何も言い返せない。結局、黙って顔を赤くしたまま、スバルは手桶を持ち上げて、ラムの頭にお湯をかけた。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて。じゃあ、次は背中洗うけどさ、背中だけ出せるか?」
マッサージ洗髪が終わって、ボディタオルを泡立てながら、スバルはつい先日のレムの姿を思い出していた。あの時は恥ずかしがって、器用に背中だけが出るようにタオルを体に巻いていた、レム。だから特に何も考えずに、ラムにもそう声をかけたのだが——、
「え? そんな器用なことできないわ」
胸の前でくくっていたタオルを外し、腰のあたりまで下ろす、ラム。
「これでいい?」
白くて細い肩と、腰までの女の子らしい綺麗な線が姿を現した。もう少しだけタオルを下せば、魅力的なお尻が見えるはずだ。
スバルは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。見えそうで見えなかったり、一部が隠れていたり、二人のそんな姿が目に入るたび、いちいちドギマギする。その度にいきり立っている部分に力が入る。
「なに見とれてるの? ラムの背中が綺麗なのはラムも知っているけど、バルスはこんなことでも興奮するタイプ?」
「あ、いや……」
なんと答えていいのか。ふと、正面の鏡に、少しだけ恥ずかしそうにしているラムの顔と、綺麗な二つの膨らみが映っているのが見えた。
鏡ごしに二人の目があう。スバルの視線に気づいて、さっと両腕で胸を隠すラム。
「バルス、あのね。今更なんだけど……、ラムも、本当はちょっとだけ恥ずかしいの」
普段とは全く違う、恥じらうようなそのラムの口調に、スバル、二度目の痛恨の一撃。
「あ、ご、ごめん」
スバルはさっと顔を背けて、うつむいた。自分でも顔が赤くなっているのがわかる。
「スバルくん?」
すぐ後ろでレムの声がした。
「どわっ! びっくりした!」
驚いて振り向くスバル。いつの間にか浴槽から出たレムが、二人のすぐそばに立っていた。
「そんなに驚かないでください! レムも姉様の体を洗ってあげたくって……」
「あ、そっか。わかった。じゃあ、ラムの前の方洗ってやってくれ」
洗ってあげたい、と言うのはきっと嘘ではない。だが、心配に思う気持ちがおそらく大きいのだろう。
「レムになら、見られても平気だろ?」
明るい口調で、自分が手にしているタオルをレムに渡す。
「そ、そうね……。見られるのは平気だけど、洗ってもらうのはちょっと恥ずかしい……気がしなくもないけど」
ラムが言い終える前に、レムはその手を取って優しく洗い始めている。スバルはさっき持ってきたタオルの束から、小さめのタオルをもう一枚取り上げて、ラムの背中を洗い始めた。
レムのタオルが細い首に差し掛かる。ラムは頭をのけぞらせながら、くすっと笑って、
「これは、女王様になった気分ね」
「そりゃそうだよな」
誰かに体を洗ってもらう気持ち良さは、すでに知っている。それが同時に二人から、となると、その気持ち良さも倍増だろう。
「レムの
「……今気づいたけどさ、姉様、俺に対する普段の言葉遣いがすでに女王様なんじゃね?」
スバルは、かわいい女王様に命令されたとおりに手に力を加えると、こっそりとため息をついた。