※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

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——これはいつかどこかで、あったかもしれないしなかったかもしれない、

黒色にほど近い濃い紫色(ダークパープル)の夢の中の、三人だけの内緒のお話——




紫紺の夢 EX.「ナントカの夢のナイショの話」その13

——知ってる天井だ。ま、そりゃそうだ。

 

 自室のベッドにゴロンと体を横たえ、スバルは天井を見上げていた。三人が浴室から出てきたのは、もうお昼も近い時間だった。そもそも今日は朝が遅かった。その理由を改めて思い返す。途端に、下半身の例の部分に力が入る。もっとも、スバルのその部分は風呂から上がっても、緊張を保ったままだった。

 

——俺、本当にレムのこと、好きなのかな?

 

 ふと、そんな考えが頭をよぎった。レムが自分のことを好いてくれているのは知っているし、もちろん自分だって同じくらいに彼女のことが好きだ。

 だがこれは——本当は、レムが好きだというより、あのことが好きなだけじゃないのか。例の薬のせいとはいえ、いくらなんでも情けないというか、格好悪すぎる。だがレムは、嫌な顔一つせずに自分のためだけに奉仕してくれている。

 そんな彼女にただただ甘え、与えてくれる快感に溺れているだけの自分は、それをレムが好きだと勘違いしているだけなのではないか。そう思うと、自分自身嫌気が差してくる。

 

 その思考をノックの音が遮った。

 

「スバルくん、お待たせしました」

「バルス、作ってきたわよ」

 

 ドアが開く音に体を起こしたスバルは、部屋に入ってきた二人の姿に、凍りついたように固まった。

 

「なに? どうしたの?」

「え? どうしたんですか?」

 

 みるみる顔が赤くなっていくのが自分でもわかる。

 

「あ、いや、その……」

 

 しどろもどろのスバル。それに対して二人は、訳がわからない、と言った様子。

 

「バルス、顔が真っ赤よ?」

「スバルくん、顔が赤くなってますよ」

 

「うっ……」

 

「バルスはさっきから、うう、とか、うっ、を連発してるわね。バルスはいつももっと……」

 

 いったん言葉を切る、ラム。

 

「——ああ、分かったわ。これが原因ね?」

 

 彼女は手に持っていたティーセットを机の上に置いた。レムも手にしていたトレイをその隣に並べた。二人はスバルの正面に直ると、初めてスバルと顔を合わせた時のように、手を取り合って向かい合わせの格好になった。

 

「どう? かわいい?」

 

 ラムが久しぶりのキメ顔で、スバルにウインクをする。もちろん二人とも抜群に可愛い。そんなことは言うまでもない。だが今、スバルを絶句させている原因は、それではなかった。

 

 これは寝巻きと言っていいのか、それとも違う何かなのか。スバルの乏しい知識の中で、一番近いのはいつものネグリジェ。だが。

 

 最初に目に入るのは、レースで飾られた白いブラトップだ。センター部分が蝶々結びで結ばれていて、可愛らしくて品のいいデザイン。大きさこそ違うが、二人の胸の形の良さがより引き立っている。

 トップスの下からワンピースのようにふわりと広がっている裾の部分は、光沢のある薄い素材——珍しくレムはピンク、ラムはブルー——でできていて、小さな白いショーツに包まれたお尻と、そこから伸びる綺麗な脚がうっすらと透けて見えている。

 そもそも、ほとんどミニと言っていいくらい短い丈なので、二人の動きによっては腰の部分の白い布が直接目に飛び込んできそうだ。

 おそらく前が大きく開くようになっているのだろう、前身頃にはブラと同じく蝶々結びのリボンがいくつか付いていて、それがまた可愛らしい。

 さらに目線をおろすと、レムは右、ラムは左、それぞれの足首に真白なガーターリングが巻かれ、そこに二人がいつも付けている髪飾りとお揃いの飾り紐があしらわれていた。

 

「う、うん……」

 

 二人のいつものネグリジェ姿はもちろん、一糸纏わぬ姿にだって直接触れたことがあるにもかかわらず、今この二人の姿を目の当たりにしてドギマギを隠すことができない。さらに、さっきまで頭の中でぐるぐるしていた悩み事など全く知らないとでも言うように、自然と股間に力が入ってしまう。

 

 思わずタオルケットでその部分を覆い、スバルは顔を赤くしたまま目を二人から外らせた。

 

「スバルくん、かわいい……」

 

「う……」

 

「本当に、う……、しか言わないわね」

 

「いや、その……ふ、二人ともかわいい……。すごく可愛い」

 

 そう言いながら、こっそりと盗み見るように視線を二人に戻すスバル。それを待っていたかのように、さらにラムが手を伸ばし、レムの裾を捲りあげた。レムもまた、ラムの裾に手を伸ばしている。

 

「な!」

 

 ちょうど臀部のふくらみと、それを包む白い布がちらりと見え隠れしている。お互いギリギリのところまでめくりあっているその光景に、スバルの目が釘付けになった。

 

「す、スバルくん……ど、どうですか? レムは……姉様とレムは魅力的ですか?」

 

 恥じらうようなレムの声に、タオルをさらに抱え込み、自身の股間を二人から隠そうとした。そうしている間にも一気に口の中が乾き始め、唾を飲み込むこともできない。

 

「ほらね、効果的面でしょう?」

 

「そ、そうですね、姉様。姉様の言う通りでした」

 

「勇気を出してよかったわね、レム」

 

「はい!」

 

「ま、まてまて! それ、二人で打ち合わせ済みなのかよ?」

 

 狼狽するスバルを軽く無視して、ラムが続ける。

 

「その様子だと、バルスのそこは小さくなっていないわね」

 

「だから! 火に油を注いでるって!」

 

「大丈夫ですよ、スバルくん。お昼ご飯を食べたら、またいっぱいしましょう!」

 

「だ、だから……」

 

 スバルは再び顔を背け、下を向いた。

 

「スバルくん?」

 

 思いがけず顔のすぐそばでレムの声がした。驚いて顔を上げたスバルの目の前に、レムの豊かな胸の膨らみがあった。

 

「……っ!」

 

「お腹減りましたよね?」

 

 身体をかがめてスバルを覗き込みながら、レムが可愛らしく微笑んでいた。

 

「とりあえずお昼にしませんか?」

 

「あ、そ、そうだな。うん……」

 

 なんとかレムの膨らみから視線を反らせる。

 

「バルスが前に言っていた『はんばーがー』っていうのを作ってみたわ」

 

 ラムはトレイをベッドの上に置くと、そのまま自分もベッドに座った。

 

「お肉をミンチにして丸めて焼くっていうのはどうかと思ったけど、まあ、あの『はんばーぐ』は確かに美味しかったわ。でもそれをパンに挟むなんてね」

 

「でも、似たようなものはあんだろ?」

 

「そうですね、お肉とお野菜を挟み込んだものは王都で見たことがありますよ」

 

「そうね。でもこのはんばーがーとは少し違うわ。それにしても……」

 

 いったん言葉を切って、続ける。

 

「この前は、窪みのある奇妙な鉄板を用意させたと思ったら、タコヤキとか言う料理をレムに作らせるし……」

 

「いや、お前も喜んで食ってただろ!」

 

「正直言うと、確かにアレも衝撃的な料理だったわ。ええ、それは認めてあげる」

 

 と(・)あ(・)る(・)小(・)さ(・)な(・)事(・)件(・)をきっかけに、レムはスバルに料理のアイディアを出すようせがむようになっていた。そのうちの一つがそのたこ焼きだった。村の鍛冶屋に特殊な鉄板と小さなレイピアをいくつか作ってもらったレムは、早速その鉄板を使い、自慢げにたこ焼きをくるくると焼き上げた。ただ一点、タコの代わりに肉片が入っていたのは、ご愛敬だ。

 

「はいはい。ありがとうございます。お姉様」

 

「それにしても、よくもまあ次々と思いつくわね」

 

「前も言ったけど、俺が考えたってより、俺の故郷の、いわば郷土料理ってやつだな」

 

「他にもいろいろありましたよ!」

 

 自身もベッドに上りながら、レムが嬉しそうに言った。

 

「他にはどんなのがあるの?」

 

「そうですね、レムが美味しいと思ったのはくれーぷ——」

 

「あー! ああー! ふ、フライドポテトもついてるな、これ!」

 

 慌てて話題を変えようとするスバル。

 

「そうね、『ふらいどぽてと』も作らせていただいたわ」

 

 そんなスバルを横目で捉えながら、ラムはスバルの見知った形で狐色に揚げられたものを口の中に放り込んだ。その様子を見て、スバルは小さく安堵のため息をついた。そんな二人をニコニコして見ていたレムは、ハンバーガーを一つ手に取ってスバルに手渡した。

 

「美味しくできたと思いますよ!」

 

「お、おう……。サンキュ」

 

 そしてバクリと一口。その途端、口いっぱいに旨味のある肉汁が溢れた。久しぶりの味わいだった。だが、その味はスバルがよく知るチェーン店のものとは違い、中のハンバーグはもちろん、バンズも野菜も、何もかもがしっかりとした本格的なものだった。

 

「美味いな、これ」

 

 もぐもぐしながら顔を上げると、二人ともスバルが手にしているものより一回りほど小さなハンバーガーを口にするところだった。

 

「ん……なかなかね、このはんばーがーも」

 

「美味しいです! さすがはスバルくんです!」

 

「いやいや、これ作ったのレムだろ? さすがなのはレムなんじゃね? それにこのフライドポテトも——」

 

 いい感じに塩味がきいているフレンチフライを頬張るスバル。

 

「——レムが作ったんだよな? もちろん」

 

 そう言ってもう一口。

 

「何が言いたいの?」

 

「い、いや、別に……」

 

「スバルくん、お茶をどうぞ。これは姉様が淹れましたよ」

 

「ラムの淹れたお茶は確かに美味い——と思うけどさ」

 

 実のところ、お茶——おそらくは紅茶——を美味しいと思うようになったのは、ラムが淹れるお茶を飲み続けたおかげでもある。が、そのあとの一言が余計だった。

 

「こーらの方がいい、って言いたいのね」

 

「!」

 

 予想外の切り返し。

 

「聞いているわ。それは極悪非道、死を招く黒い悪魔の飲み物だって」

 

「れ、レム……」

 

 レムは明後日の方を向いて、微妙な笑みを浮かべている。彼女にしては珍しい光景だが、さすがは姉妹。よく似ている。

 

「安心していいわ。ラムはそれ以上の事は知らないし、聞き出すつもりもないから。そんなことより早く食べてしまいなさい」

 

「そ、そうですね。温かいうちに……」

 

 なんとなく無言になる三人。その微妙な空気を嫌ったのか、レムが口を開いた。

 

「スバルくん、あの、はんばーがーには、他にも種類はあるんですか?」

 

「あー、そうだな。フィッシュバーガーとか、あとはチーズバーガー?」

 

「ふぃっしゅ?」

 

「ほう、ふぃっしゅはーガー」

 

 最後の一口を口に放り込んで、スバルが続ける。

 

「しほみおさ——んぐっ、白身の魚を揚げたやつにタルタルソースをたっぷり掛けてあんだよ」

 

「タルタルソース……。あのタルタルソースですか?」

 

 すでにタルタルソースは、マヨネーズと一緒にロズワール亭での定番となっている。

 

「そそ。タルタルソース」

 

 そこでスバルはあることに思い当たった。

 

「そう言えば、あんまり魚を食べないのか?」

 

 レムが作る料理はいちいちどれも美味しい。だがそれは肉と野菜が中心で、魚を調理しているのは見たことがない。

 

「いえ、食べないって事はありません。ただ、ロズワール様の領地はどちらかと言うと山あいなので……」

 

「そうね、この辺りだと魚料理は一般的じゃないわね。でもプリステラなんかじゃ、おそらく魚の種類も料理方法も豊富じゃないかしらね」

 

 ラムが説明を引き継いだ。

 

「ぷりすてら?」

 

「そう。水門都市プリステラ。行った事はないけど、とても風光明美だそうよ」

 

「へええ」

 

「レムも姉様も行った事はありませんが、ロズワール様はおそらく」

 

「そこって遠いのか?」

 

「そうね、竜車を飛ばして、少なくとも十日はかかるんじゃないかしらね」

 

「十日? 十日もかかるのか! じゃあ、フィッシュバーガーは無理だなぁ」

 

 やや落胆しながら、最後の一口を口に入れる。

 

「今度もし新鮮なお魚が手に入ったら、レムがそのふぃっしゅばーがーを作りますね! あ、なんでしたら二十日ほどお休みをいただいて——」

 

「いやいや! そこまでしなくていいから! そもそも帰りに十日もかかるなら腐っちまうよ!」

 

 と、一つアイディアが思い浮かんだスバルは、何も考えなしにそれを口にした。

 

「あ! ロズッち! ビューンと空飛んで買ってきてもらうって手もあるな」

 

「バルス、ロズワール様を小間使い扱いとはいい度胸ね。ロズワール様に対して不敬な……いえ、考えただけで、大きくなったままのバルスのものをちょん切るわよ」

 

 途端に冷たく切れ味鋭い口調になるラムに、スバルが青くなる。

 

「あ! 冗談! 冗談……あ、その、あの……ごめんなさい」

 

「わかればいいのよ」

 

 ラムは先ほどまでの殺気をすっと消すと、すまし顔でお茶を口にした。

 

「スバルくんスバルくん、他に何か食べたいスバルくんの郷土料理はありますか?」

 

 レムが出してくれた助け舟に、すかさず飛びつくスバル。

 

「んー、そうだな。ラーメンとか、カレーとか……」

 

「らーめんと、かれー? ですか?」

 

「二人とも、今ここでそういう話をするのはいいけれど、できればその料理が出来上がって味見をした後でラムを呼んでくれるかしら」

 

「う……。姉様、それはちゃっかりしすぎじゃないのか?」

「わかりました姉様! しっかりとスバルくんの郷土料理を会得します!」

 

「まぁ、とりあえず今度は食べすぎないことね」

 

「姉様……」

 

 話がいろいろまずい方向に行き始める。ここでスバルの特技、話題強引変更発動。

 

「ところでさ、その、二人が今着ているのは何ていうんだ?」

 

「これですか? これはベビードールです、スバルくん」

 

「べびーどーる? へええ。それってその、寝巻き、なのか?」

 

「まぁ、寝巻きというよりも、下着の一種になるのかしらね? どう? 似合っている?」

 

 なんとも女の子らしく、だが決して、他人には見せることのないであろうその格好。

 

「うん。かわいい……。すごく可愛い」

 

「一生懸命作った甲斐があったわね、レム」

 

「はい、姉様!」

 

「そ、それ、レムが作ったのか?」

 

「はい! 姉様のお誕生日の贈り物に、レムがつくったんです!」

 

 ニコニコしながら、嬉しそうに答えるレム。

 

「へええ……って、お前ら双子だよな? 姉様の誕生日って事は、レムも誕生日じゃねえの?」

 

「そうよ。だから色違いでお揃いを着ているのよ」

 

「そ、そっか。じゃあ、今レムが着てるのはラムが作ったのか?」

 

「レムよ」

 

 即答。しかもなんだか自慢げだ。

 

「姉様、そりゃあんまりじゃないでしょうかー?」

 

「レムは姉様とお揃いが嬉しいので。あと……スバルくんに気に入ってもらえて、レムはとっても嬉しいです」

 

 いつの間にか膝を抱えて座りなおしているレムが、ちょっと恥じらった感じで頬を染めて微笑んだ。

 

「レム……」

 

 その可愛らしい様子に、スバル、本日最大の痛恨の一撃。さらに——本人は無意識なのだろう——綺麗な両太ももの間に、白く小さな部分が見え隠れしている。それに気づいた途端、スバルの顔が真っ赤に染まり、心臓がバクバクする。さっきまで意識外だった例の器官にも力が入る。

 

「レム、それ、目の毒だわ」

 

「え?」

 

 ラムに指をさされ、顔を下に向ける。

 

「きゃっ!」

 

 レムは小さく悲鳴を上げると、慌てて座りなおしてその部分を手で抑えた。そしておずおずと、どこかで聞いたことのある台詞を口にした。

 

「み、みました?」

 

「う……あー、う、うん……見えた……その、れ、レムのパンツ……かわいかった」

 

「スバルくん……」

 

 レムも真っ赤になりながら、呟くように名前を呼ぶ。そんな二人の間に、甘い空気が漂い始めて——。

 

「さて!」

 

 そんな雰囲気を一蹴するように、ラムがベッドから降りた。

 

「ラムは後片付けをしてくるわ」

 

 そう言いながら、トレイに食器をまとめる。

 

「姉様、後片付けはレムが——」

 

「いいわ、レム。たまにはラムが片付けをするわ。そうね、少し時間がかかるかもしれないから、ま、お二人はごゆっくり」

 

 ラムは、二人が口を開く前にバタンとドアを閉めて姿を消した。残された二人はやや呆気にとられて、閉じたドアを見つめていた。

 

 少しの沈黙の後、レムは甘えるように、ゆっくりと両手をスバルに伸ばした。スバルもまたその手を優しく取って、レムの小さな体をだき抱えるように自分の方に寄せた。

 

 しばらく見つめ合った二人は、やがてお互いに顔を近づけ、誰に憚ることなく今一番したいことをした。

 




 
 なんだかバタバタしていて、2月は一話しか投稿できませんでした。すみません……。あと、今回は展開的にRのつかないお話になってしまったので、次話はなるべく早いタイミングでアップできるように、あと、R付き展開で頑張ります。

 それと、どことは言いませんがちょっとズル(?)しています。関連づけるつもりはなかったのですが、書いているうちにそうなっちゃって……。気になる方はあちらの方もどうぞよろしくお願いします。

Kuro Maru

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