ベアトリスがスバルの寝ている部屋に姿を現したのは、翌日の早朝だった。
「なんだかこの部屋、魔女の悪臭とはまた違う匂いがするのよ」
そういって鼻を摘んだベアトリスが手を振りかざすと、全てのカーテンと窓が、一気に開け放たれた。眩しい朝の光が、部屋の中に降り注ぐ。
すでに目が覚めていたスバルは、動かせる左腕を使って体を起こしながら、
「よ、よっ、べ、ベアトリス。なんだか久しぶり! 元気だったか?」
――まさか、あれの匂いが残っているんじゃぁ。
いきなりのセリフに焦りまくるスバル。
「まあまあかしら? いきなりベティの部屋に入ってくる失礼な奴がいないぶん、平穏で結構なのよ」
「ほおお。って、それ、もしかして、俺のこと?」
「お前以外の誰がいるというのかしら?」
「……ですよねぇ」
いつものベアトリスだった。そのベアトリスは、怒っているような少しイライラしているような、よくわからない表情で、じっとスバルを見つめた。
「そういえば、お前が俺に薬を作ってくれてたのか?」
「ま、そうなるかしら?」
「そっか。あの、ありがとうな。お前がいなかったら死んでたかも、ってラムも言ってたし。って、結局何が原因だったんだ? 何か重病だったのか?」
「それは、双子の妹に聞いたらどうかしら? ベティはお前の病気が何なのかなんて興味はないのよ」
「ううう。冷たすぎる」
ある程度予想はしていた返事とはいえ、ちょっと凹むスバル。気を取り直して、
「でもさ、お前が調合してくれる薬なら、一気に治せたんじゃないのか? いや、いろいろしてもらって感謝はしてるんだが」
そう言うスバルに、
「それじゃ意味がないのよ。ま、今のところ効果はまずますってところかしら」
「うん? 意味? なんの? よくわからんが、ベア子もレムも、何か隠してねぇ?」
「やれやれ、なのよ」
ベアトリスは首を振りながら、両方の手のひらを上に向けて、ため息をついた。そしてこう言った。
「お前、ベティが何を言っているのか、わかっているのかしら? ま、どうでもいいかしら。とにかく、今日はまた違う薬を作ってきてやったのよ」
「治りが早くなるのか?」
「意味は違うけれど、似たようなことになるのかしら。双子の妹に渡しておいたから、きっちり飲ませてもらうのよ。じゃ、おとなしく寝て妹の世話になっていやがればいいかしら」
そういうや否や、ベアトリスはドアの方へと向かった。扉を開けると、今は廊下につながっていた。そのドアの脇にレムが控えていた。
すれ違いざま、ベアトリスと目が合い、顔を赤らめるレム。
「本当にめんどくさい連中なのよ。ロズワールも、一体何を考えているのかしら。本当は自分たちでなんとかするのが普通かしら」
ベアトリスはそう呟きながら、部屋のドアを閉めて出ていった。