※この作品はR-18です。

紫紺の夢   作:Kuro Maru

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——これはいつかどこかで、

あったかもしれないしなかったかもしれない、
黒色にほど近い濃い紫色(ダークパープル)の夢の中のお話——




閑話「しおた」その2・すばるくん

「い、一体……、どうして……。なんですか、これ⁉」

 

 

 困惑するレムの耳に、聞き慣れない子供の声が入ってきた。

 

「ん……だれ?」

 

 彼女のその声で目を覚ました彼は、体を起こしながらさらにぱっちりとその目を大きく見開いた。そして丸出しの下半身に気づくと、慌てて布団を手繰り寄せた。

 

「わわっ! なに? なんなの⁉」

 

 顔を真っ赤にして剥き出しの部分を隠すその男の子を、レムもまた、目を見開いて見つめていた。ひと回り、いやふた回りくらい小さいが、その特徴のある目つきと、珍しい黒い髪は、ナツキスバル以外の何者でもなかった。

 

「す、スバルくん……なんですか?」

 

「えっ? 何でぼくの名前知ってんの?」

 

「も、もしかしてレムのこと——わからないのですか?」

 

「れ、れむ? れむって誰のこと?」

 

 そのひと言でレムの心臓は凍りついた。気を失ってしまいそうなその言葉に、一瞬、頭の中が真っ白になる。

 

 

「ね、熱はありませんよね……」

 

 さっきの言葉は気のせいだった、とでも言わんばかりに、レムは覆い被さるようにして彼のおでこに手を伸ばした。

 

「うわああっ」

 

 そんなレムから逃げるように、体をのけぞらせながら黒髪の少年が叫び声をあげる。

 

「えっ?」

 

 叫び声に戸惑うレムをよそに、その手から逃れた彼はパッと布団を跳ね除けてベッドから抜け出そうとした。

 

「わわわわっ!」

 

 だが、レムの手によって膝下まで下されていた衣服に足を取られた彼は、そのベッドの上から真っ逆さまに転げ落ちそうになった。

 

「あぶない!」

 

 例の力を使うまでもなくさっと正面に回り込んだレムは、そのふくよかな胸の中にしっかりと彼の体を抱え込んだ。

 

「そ、そんなに驚かないでください。それに、慌てると怪我をしますよ」

 

 自分の戸惑いがバレませんようにと願いながら小さな体をぎゅっと抱きしめると、彼女は優しく言葉をかけた。少年は抱きしめられたまま、じっとしていた。

 

「……ごめんなさい」

 

 しばらくして、胸の中から小さい声が聞こえた。

 

「大丈夫ですか? 立てますか?」

 

 ゆっくりと体を離して、ベッドの脇に立たせる。その途端、ピンと上を向いた可愛いものがレムの目に留まった。

 

「あ……」

 

 レムの口から漏れた声とその視線に気づいた彼は、パッと両手で股間を隠すと、

 

「み、見ないでよ!」

 

 そのままくるりと後ろを向いた。だが、今度はその小さなお尻に目が釘付けになった。

 

 ——か、かわいい……。

 

「ここ、どこなの?」

 

 小ぶりのお尻を見つめられているとも知らず、彼は戸惑った様子で後ろを振り返りながらそう聞いた。

 

「ま、まず、じゃーじを履いてください」

 

 レムは足首に絡まっている下着と、パジャマがわりのジャージを後ろからそのまま履かせようとした。だがそれは、彼の腰からはすぐにずり落ちてしまいそうだった。

 

「あ、これじゃあ、ちょっと大きすぎますね……。ちょっと押さえてもらえますか?」

 

「うん……」

 

 彼は、レムが履かせてくれたパンツとジャージを、一緒くたに引っ張り上げた。そもそも上着もぶかぶかになっていて、そのまま下に下ろせば、ワンピースのようにおしりまで隠せそうだ。

 

「ちょっとだけこのまま待っていてください。すばるくんに合う服を持ってきますから」

 

「うん……」

 

 

 

 一旦部屋の外に出たレムが戻ってきた時、彼は後ろを向いたまま、先程の場所でじっとしていた。

 

「これならちょうどいいはずです」

 

 レムは持ってきた衣類をベッドに置いた。そして後ろからジャージを脱がせようとすると、

 

「じ、自分でやれるよ!」

 

「そ、そうですね……。ではレムは向こうを向いていますから、着替え終わったら教えてくださいね」

 

 レムが背を向けると、彼が着替え始めるのがわかって——

 

「なにこれ!」

 

 突然大きな声がした。慌てて振り返ると、彼は真っ赤な顔をして、可愛らしい小さなショーツを両手で広げていた。

 

「これ、女の子のパンツじゃん!」

 

「それ、新品ですから——」

 

「ちがうよ! これって女の子の——」

 

 もちろんスバルの裸は何度も見たことがある。二人はすでに体を重ねているのだ。だが、自分よりも年下の——そうとしか思えない——男の子の全裸を目にするのは、これが初めてだった。

 

 細く、筋肉の付いていない華奢な体。今は心許ないほど小さくなっている、男の子の器官。何よりも違うのは、そこにあるはずの体毛が全く見当たらないことだった。何も隠されていないことで、ちょこんとついているその部分がより強調されている気がする。

 

 その男の子の部分を改めて認識したとたん、レムの顔は真っ赤に染まった。そんな視線に気づかないまま、彼は手に持った真っ白いショーツを睨みつけている。彼女は慌てて後ろを向いた。

 

「お、大きさがちょうどいいのがそれしかなくって……。でも、その、新品なので、心配しないで——」

 

「こんなのいやだよ!」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 こんな時、どうしていいのかわからない。そもそも、なぜ嫌がっているのかもよくわからないのだ。

 

「と、とりあえず、こっちを着てください」

 

 レムは裸を隠すように、ネグリジェを彼の小さな体にあてがった。

 

「それも女の子のじゃん!」

 

 小さいすばるが唇を尖らせて、懸命に抗議する。

 

「ち、違うのを持ってきますね——」

 

 

 

 レムは慌てて自室に戻ると、タンスの引き出しにしまってあった古い寝巻きを取り出した。

 

 ——これなら大丈夫でしょうか……。

 

「す、すばるくん……、これじゃだめですか?」

 

 急いで部屋にもどったレムが、少し前に使っていた青いパジャマをおそるおそる差し出すと、ネグリジェでお腹の辺りを隠していたすばるは、渋々それを受け取った。

 

「む、向こう向いてて!」

 

「あ……わ、わかりました」

 

 くるりと後ろを向いたレムは、とりあえずこの状況を把握しようとスバルの部屋を見渡した。いつもと変わらない机。文字の練習帳。椅子。小さいクローゼット。ドアにも窓にも、なんの異変も見当たらない。いったい何が原因で——

 

「き、着たよ」

 

「はい——か、かわいい!」

 

 振り返った瞬間に、普段想像できないような姿が目に入った。お古とはいえ、自分の青いパジャマに身を包んだすばる少年に、思ったことをつい口にしてしまった。

 

「か、かわいいって言うな!」

 

「ごめんなさい、つい……」

 

 

 謝罪の言葉を口にしつつ、まじまじと見つめてしまう。サイスが小さくなってしまって、もう使っていない寝巻き。このサイズがちょうどということは、今、目の前にいる小さいすばるはおそらく十二、三歳くらいだろう。

 

「あの、さ……。おねえちゃん、だれ?」

 

 その言葉が二の矢となって、彼女の灰色の脳細胞に突き刺さった。

 

「い、今、なんって……」

 

「だ、か、ら、おねえちゃん、だれなの?」

 

「——もう一度言ってください」

 

「あー、もー! おねえちゃんって、だれなの? ここ、どこ? ……ねえ、なんでそんなにニヤニヤしてんの!」

 

——はっ! 今、にやけていました? まさか本当ににやけていました?

 

 全く自覚がなかった。ただ、『おねえちゃん』と言われるたびに思わず背筋がぞくぞくし、なんとも言えない感情が湧き上がるのははっきりと認識していた。

 

「あ、こ、これはその……あの……」

 

 えへん。と、一つ咳払い。そして背筋をピンと伸ばして。

 

「おねえちゃんの名前はレムです。ここはロズワール様のお屋敷。レムはロズワール・L・メイザース辺境伯の筆頭使用人です。あなたは、なつきすばるくん、ですよね?」

 

「なんで僕の名前、知ってるの?」

 

「えっと、レムはなんでも知っているからです。すばるくんはレムのこと、覚えていないのですか?」

 

「えっと……ごめんなさい。全然知らない……」

 

「……わかりました。えっと」

 

 この状況をどう説明すればいいのか。こんな時、彼ならどうするだろう。レムは愛しい彼がそうするはずのことを、そのままなぞらえることにした。

 

「お腹減ってませんか? とりあえず厨房に行きましょう。レムが何か作ってあげます。そこでゆっくりお話をしましょう」

 

 そう言って小さなすばるの手をやや強引に取ると、レムは鼻歌交じりで厨房へ向かった。

 

 

 

△▼△▼△▼△

 

 

 

 厨房へ入ると、レムはいつもスバルが座っている椅子に小さなすばるを座らせた。

 

「何がいいですか? お腹すいてないですか?」

 

「う、うん。おなか、へってる……」

 

 戸惑いながら、でも正直にそう答える小さなすばる。

 

「わかりました。お飲み物は何がいいですか? お茶? コーフ?」

 

「……ジュースがいい」

 

「じゅーす……えっと、果汁ですよね。わかりました」

 

 保冷庫から作り置きのオラージュの果汁(オレンジジュース)を取り出して、グラスに注ぐ。そして手早く「さんどいっち」を作ると、その二つをトレーに乗せて、小さなすばるの目の前にそっと置いた。

 

「さあどうぞ、召し上がれ」

 

「あ、ありがと……」

 

 レムは自分の分のサンドイッチをテーブルに置いてすばるの正面の椅子を引いた。

 

「おいしいですか?」 

 

 椅子に座りながら、小さなすばるに話しかける。

 

「うん。おいしい」

 

「よかったです。じゃあ、レムも一緒に食べますね」

 

 レムは優しく笑いかけながら、自身もサンドイッチを小さな口に運んだ。

 

「すばるくん、すばるくんの歳は幾つですか?」

 

「え? ぼく? 十一才」

 

「そ、そうですか……」

 

「お姉ちゃんはいくつなの?」

 

「レムですか? レムは十七歳です」

 

「ふううん……」

 

 年齢を聞いてきた割には、あまり興味のない様子で、サンドイッチをぱくつくすばる。その様子を優しく見守りながら、レムは頭を巡らせていた。

 

 

 

——一体なぜこんなことに……。

 

 昨夜まではいつも通りのスバルだった。自分も屋敷の仕事を済ませてベッドに入るまでは特に何も変わったことはなかったはずだ。いくら考えても、答えは出ない。その答えを得るには、目の前の小さなすばるに聞いてみるしかない、と言うことはわかっていた。

 そして、自分がこの状況をどこか楽しんでいることにも気づいていた。自分の知らないスバル。いや、知ることのできないはずのスバルがそこにいる。その一端を知ることができる機会はそうないはずだ。もしかしたら「竜の思し召」かもしれない。

 

 そんなことを思いながらティーカップを手に取る。と、彼が上目遣いでチラチラと自分を見ているのに気がついた。

 

「どうかしましたか?」

 

「……ううん、なんでもない」

 

 そう言いながらも、やはり小さいすばるの視線は自分の顔に、そしてそこから少し下のあたりに集中している。

 

「えっと……すばるくんは、どこからきたのですか?」

 

 とりあえず当たり障りのない質問をしてみる。

 

「……わかんない」

 

「ご家族は?」

 

「わかんない……」

 

 首を振って答えるすばる。

 彼の言葉を聞いているうちに、レムはふと、ある可能性に思い当たった。口にするのも憚られる、あの狂人たち(魔女教)。その大罪司教の中に、このような記憶や成長に影響を及ぼす者がいるのかもしれない。だとしたら、これは一大事だ。いつの間にこの自分のテリトリーに入り込んだのか。

 

 だが、今の自分はあの時とは違う。命を掛けて、この小さいすばるを守らなければ——。

 

 

 

「おねえちゃん……怖い」

 

「えっ?」

 

 考(・)え(・)た(・)く(・)も(・)な(・)い(・)考(・)え(・)を頭に浮かべていたレムは、すばるのその一言ではっと我に帰った。

 

「あ……」

 

 彼らに対する憎しみが、知らないうちに顔に出ていたのだろう。それを取り繕うとして、レムは慌ててテーブルのティーポットに手を伸ばした。

 

 がちゃん!

 

 そこからはスローモションになった。掴み損なったティーポットがゆっくりとひっくり返っていく。外れた蓋と注ぎ口から、熱いお茶がしぶきをあげながら自分とは反対方向に——小さなすばるに向かって、溢れ散っていく。手にサンドイッチを持ったまま、黒い目を大きく見開いて、横倒しになったポットを見つめているすばるが見える。力を使う間も無く、茶葉で染められた綺麗な液体が、青いパジャマに襲いかかる。そして——

 

「あちちち!」

 

「ごめんなさい!」

 

 レムは、急いでテーブルの反対側に回ってすばるを立たせると、濡れたパジャマを半ば強引に剥ぎ取った。

 

「や、火傷は——」

 

 すばるの体のあちこちに触れながら、赤くなっているところがないか、入念にチェックする。

 

「熱かったところはどこですか! 痛いところは!」

 

 レムは泣きそうになりながら、体の至る所を触って、肌に異常がないかを確かめた。

 

「お、おねえちゃん……」

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい——」

 

 小さな体をこねくり回すレムに、

 

「だいじょうぶ! だいじょうぶだから!」

 

「でも……でも——」

 

「ほんとうにだいじょうぶだから!」

 

 顔を赤くして叫ぶすばる。その声でようやく手を止めたレムは、 膝立ちのまま、すばるの顔を見上げた。

 

「火傷……していないですか?」

 

「う、うん。だいじょうぶ」

 

「本当ですか?」

 

「ほんとう」

 

「本当の本当ですか?」

 

「うん。ほんとうのほんとう」

 

「よかった!」

 

 細い華奢な体をギュッと抱きしめながら、よかった、と何度も繰り返すレム。

 

「お、おねえちゃん。ぼく……」

 

「は、はい……」

 

 抱きしめていた手で、今度はその小さな体を支えるようにして自分から離すと、レムの目に、膨らんだ小さなすばるがいきなり飛び込んできて——

 

「あ、あのさ、は、はずかしいよ」

 

 厨房で一人素っ裸にされたすばるが、顔を赤くしながら可愛くレムを睨んでいる。

 

「あ……」

 

 股間にぶら下がっている小さなものの裏表までも無我夢中でチェックをしていたことに今更ながら気づいて、レムは再び顔を赤くした。

 

「ご、ごめんなさい」

 

 小さくても男の子だ。それなりに刺激が与えられると、本人の意思とは関係なく形が変わってしまうと言うことは知っていたはずなのに。

 慌ててパジャマを拾い上げて、すばるの股間を隠してあげようとした途端。

 

「へっくし!」

 

「あ……大変です! このままだと風邪をひいちゃいます!」

 

 顔を赤くしたまま、今度は、すばるのくしゃみ一つに過剰に反応するレム。彼女は素っ裸のすばるをひょいと抱えると、厨房のドアを開けて廊下に走り出た。

 

 

 

「お風呂に行きましょう!」

 

「え?」

 

 一階まで駆け下りたレムは、すばるを抱えたまま浴室に飛び込んだ。

 

「おふろ? なんで?」

 

「すばるくんの体が冷えちゃっているからです。それに——」

 

 すばるが手にしていたサンドイッチの具材——昨晩のうちに作っておいた卵ディップ。もちろんマヨネーズたっぷり——が、体のあちこちに付着している。原因はもちろんレムだ。奪い取ったサンドイッチからはみ出たディップを手につけたままで、すばるの体の隅々を触りまくっていたのだ。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「おねえちゃん、あやまってばっかり。ごめんなさいはいいから、もうおろしてよ」

 

「え、あ……ごめんなさい」

 

 股間を手で隠したままお姫様抱っこされていたすばるを、ようやく解放する。気づくと、自分の給仕服も黄色いディップでべったりと汚れていた。

 

「いいことを思いつきました! レムも着替えなければいけませんし、ついでなので一緒に入ります!」

 

「え?」

 

「ついでなので、レムも一緒にお風呂に入ります!」

 

「えええっ!」

 

「お風呂、嫌いですか?」

 

「えっ? き、嫌いじゃないけど……でも……」

 

 その言葉に顔を赤くして驚くすばるをよそに、てきぱきと給仕服を脱ぎ始るレム。

 

 襟飾りと飾り紐(りぼん)をはずし、袖を両腕から抜き去る。燕尾コルセットになっているタキシードトップをはずすと、彼女のふんわりとした綺麗な胸を包んでいる真っ白いキャミソールが姿を現す。ほどいたエプロンを手に抱えたまま、黒いスカートをパサリと足元に落とす。

 

 キャミソールを脱いで下着姿になったレムは、そこでようやく、目を見開いて自分を見ているすばるに気がついた。女の子の脱衣の様子を初めて目にしたすばるは、股間を隠すのも忘れてレム凝視したまま固まっていた。

 

 小さなすばるがピンと上向きになっている。それを目にした彼女は、にっこりと微笑んだ。

 

——ちいさいすばるくんも、かわいい!

 

 そのまま前屈みになって、ガーターベルトからストッキングをゆっくりと下す。ベルトを外し、それも畳んでカゴに放り込む。そして後ろに手を回してブラの留め具を外して——。

 

 

 ふわりと大きく揺れる二つの豊かなふくらみがあらわになった途端、すばるの小さなその部分は、さらに勢いよく跳ね上がった。

 

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