「うわー」
浴場に足を踏み入れた途端、手を繋いでいるすばるが声を上げた。
「ひろいなー、このお風呂。びっくり!」
「うふふ。そうですね。このお風呂はお屋敷の自慢の一つですから」
レムが、横目でそれとなく、すばるの股間をチェックする。腰に巻いたタオルに隠れているその部分はすっかり普段通りに戻っている。いつもの彼なら放出しないとなかなか収まらないはずの——いや、出しても大きいままの時が少なからずあるので、確実にそうとは言い切れないが、今のすばるのそこは、おとなしく静まっているように見えた。
それにしても、この小さなすばるの男の子の部分は、大きくなったり小さくなったり、とにかく目まぐるしくその形を変えている。おそらくその時々の感情に、素直に反応しているのだろう。今この瞬間に限って言えば、目の前に広がる大きな浴槽に意識をさらわれているに違いない。
二人の目の前では、広い円形の浴槽に張られた湯が、窓から差し込む陽の光をキラキラと反射させていた。その輝きの中からは絶えず湯気が立ち上り、光が透けるそのゆらめきは、まるで王族のための特別な施設のようだ。
——それはそうですよね。ロズワール様は王族ではないですけど、同じようなお立場ですし……。
これほどの立派な浴場がある屋敷は、この広いルグニカ王国内でもそう多くはないだろう。自分も初めてここに足を踏み入れた時は、今のすばると同じような気持ちになったものだ。
思えば、この広大な浴槽を使う時は、自分達姉妹だけの時間がずいぶん長かった。だからこの屋敷に招かれたエミリア、さらには——驚愕すべきことに——滅多に姿を現さなかったベアトリスまでもが、一緒に入浴する日が来るとは夢にも思っていなかった。
そもそもこれだけ広くて大きな浴場に、二人ぼっちは寂しすぎだ。だから、ここ数週間の状況はレムにとっても、楽しいひとときになっていた。
そしてレムのその想いは、あの日あの時、あの出来事の記憶に流れていった。
この王様の浴場でのあのことが、もし今日だったとしたら。こんなふうに日差したっぷりのなかで、例の秘密の営みが行われるとしたら。だが、こんなに明るいなか、自身の裸体をさらけ出すのは勇気がいるし、そもそもかなり恥ずかしいだろう……。それとも彼はそういう状況が好みだろうか。もしそうだとしたら——。
そう考えた途端、下腹部がじんわりと熱くなる。そして、体の奥から何かが〝じゅん〟と染み出したような気がして——。
「ねえ、ねえ! 泳いでもいい?」
繋いでいた手を解いて浴槽に駆け寄ろうとしたすばるが、甘い妄想からレムを現実に連れ戻した。あわてて後ろから抱きかかえる。
「だめですよ。先に体を洗ってから、それからです」
「わ、わかったよ……」
「あと、お風呂で走ってはいけません。あぶないですよ」
「う、うん……」
小さな体を抱きかかえたレムは、その華奢な体格にあらためて驚いた。その胸板はもちろん、腰回りもびっくりするくらい細い。ちょっと力を入れるとぽっきりと折れてしまいそうだ。身長差は、ちょうどレムといつものスバルと同じくらい。でも今は、その差が逆転している状況だ。
彼が自分を後ろから抱きしめるときは、こんな感じがしているのだろうか。
後ろからかかえられた当のすばるは、うつむいたままピタリと動きを止めている。もしかしたら叱られたと勘違いしたのかもしれない——。
「だいじょうぶですよ、すばるくん。レムは怒っているのではありません。でもすばるくんが怪我したら、レムは悲しいです」
「う、うん……」
体を硬くしたまま、小さく返事をするすばる。
「じゃあ体を洗いましょうか——」
そう言ってすばるの顔を覗き込もうとしたレムの目に入ってきたものは、タオルを押し上げるようにぴんと上を向いた例のものだった。
「あ……」
それを目にした途端、先ほどから感じていたモヤッとしたものが、疼きという感覚に形を変えて、レムの下腹部をキュンと締め付けた。少しだけ鼓動が早まり、それを迎え入れる準備を始めるのが、自分でもわかる。
レムの口から出た声はすばるを非難するものではなかったが、自分のそれを咎められたと勘違いしたすばるは、
「ご、ごめんなさい……」
と、小さく謝って、隠すようにその股間を両手で覆った。
——でも、どうして……。
そういえば、先ほどから彼が一番注視していたのは自分の胸だった。そしてその豊満な膨らみは、今まさに彼の背中にピタリとつけられている。タオルを巻いてはいるが、その柔らかな感触は小さなすばるにとって、股間を充血させるのに十分すぎる理由だった。
——ああ、だから……。
「恥ずかしがらなくてもいいんですよ、すばるくん。男の子がそうなるのは自然なことですから」
「で、でも——」
「だいじょうぶですから。さあ、体を洗いましょう」
レムは一番近くのベンチにすばるを座らせると、洗い桶に溜めたお湯ですばるの体を洗おうとした。ところが、いつもの彼の大きさどころか、今のすばるは自分よりも小さいのだ。これはどうも勝手が違う。
「すばるくんごめんなさい。ちょっと立ってもらってもいいですか?」
「え?」
すばるがその場で立ち上がると、今度はさっきまで座っていたベンチにレムが腰をかけた。
「これなら洗いやすいですね」
にっこりと笑いかけるレムに、すばるは背中を向けたままだ。レムはそのまま石鹸を泡立てて、小さな背中から洗い流していった。
「すばるくん、タオル取りますね」
返事を聞く前に、腰に巻かれたタオルをすばるから取り去るレム。とたんに小さな臀部が彼女の目に飛び込んでくる。
——かわいいです、すばるくん! ずるいくらい可愛いです!
もし正面の鏡がすばるの体で隠されていなければ、自分のにやけ顔が目に入っていたはずだった。ふやけた表情を浮かべながら、背中からその小さなお尻にかけて泡のついたタオルを滑らせる。そのタオルが尻の割れ目に差し込まれるたびに、細い体がびくんと反応した。そんなことがいちいち可愛くて。
食べてしまいたい、という気持ちというのはこういうことを言うのだろう。こんな感情が自分にあったことも新鮮な驚きだった。
「すばるくん、少し足を開いてください」
「う、うん……」
小さなすばるはもう既にレムの言いなりになっていた。後ろからすばるの股間に手を差し入れると、小さなお手玉に手が触れた。だが、さらにその先にあるはずのものの感触がない。おそらく先ほどの状態で上を向いたままなのだろう。
「はい、前を向いてください」
「えー」
「えー、じゃありません。前を向いてくれないと、ちゃんと洗えませんよ?」
「でも……」
「でも、も、なしです、すばるくん。はい、前を向いてください!」
「う、うん……」
観念したようにすばるが体をくるりと回した。予想通り、可愛らしいものが真上を向いたまま、ちょうどレムの顔の位置に現れた。もう少しでお腹にぴたりと着きそうなくらいに緊張している。
ついつい見つめてしまうその部分から一旦目を離して、首から肩、胸を泡で包んでいく。股間を飛ばして足まで洗い終えてから、あらためて愛おしい部分にそっと手を伸ばす。
「んんっ……」
レムの泡だらけの手がそれを包み込んだ途端に、すばるの口から、息が漏れた。
直接手にしてみると、普段の彼よりも二回りほど細いのがわかる。さらに、傘の部分はすっぽりと表皮に覆われたまま、その姿を表す様子がない。
「ここもきれいにしましょうね」
両手を添えてそっと根元に押し込むようにすると、鮮やかな薄桃色の部分がつるりと顔を出した。
洗い方はこれであっているはずだ。いつものスバルを洗うときは、必ず——というより、大きくなると自然とこの状態になるので、これが正しい方法のはずだった。
だが、さすがに自分にはついていない器官の知識はそれほど多くない。さらけ出されることに慣れていないその部分が、どれだけ敏感なのか、レムは知らなかった。だからすっかり剥け切ったそこに手を触れたときに、
「あぁぁぁぁっ!」
悲鳴にも似た声があがったのに、レムは驚いてしまった。
「あっ! 痛いですか? ご、ごめんなさい!」
「うううっ」
レムが慌てて手を離す。すっかりと剥けたすばるのそこは、ひくひくしながら上を向いたままだ。視線を上げると、すばるは目を瞑ったまま真っ赤な顔をしている。
「す、すばるくん。すばるくんはここを洗うときに、こうしていないのですか?」
「こ、こうって……?」
「えっと……、その、お、おちんちんの皮をこうしていないのですか?」
その言葉にすばるの視線が降りる。
「えっ?」
驚いた様子のすばるにレムは慌てた。
「ここはこうやって、中まできれいにしないとダメなんです……」
「そうなの? でも、すっごいひりひりする……」
レムは今度は恐る恐るそこに手を伸ばしすと、あらためて泡でそっと包み込んだ。
「うううっ」
「少しだけ我慢してくださいね、すばるくん。綺麗になったら、レムがすばるくんのこと気持ち良くしてあげますから」
「気持ちよくって……な、なに?」
「あ」
腰がひけるすばるに、思わずそう言ってしまった。いつもの癖で、自然と口から出てしまったのだ。自分がこの歳の頃、それがどういうことなのかも知らなかったし、もちろん自分で自分を慰めたこともなかった。今、このすばるもそのあたりの知識は全くないのかも知れない。
「ねえ、気持ちよくって、なに?」
——失敗しました。レムは余計なことを言ってしまったかも知れません……。
「ねえ、ねえ」
それが一体なんなのかなんとなく気づいているのだろうか、小さな器官を充血させたまま、すばるがしつこく聞き返す。
「ま、まず、きれいにしてしまいましょうね」
体全体にそっとお湯をかける。すばるのそこはお湯がかけられただけでびくりと反応している。よほど敏感になっているのだろう。
たしかに、いつもは優しくしてもらえるはずの自分の一番敏感な部分を、すっかり露呈させたまま石鹸で洗われ、さらにお湯をかけられたら、今のすばる以上の反応を返してしまうかもしれない。
——ごめんなさい、すばるくん。レムは男の子のことをあんまり知らなくて……。
すっかり泡が落とされた部分を、今度は根本から優しく引っ張るようにして、包皮を元に戻していく。レムの手が離れると、それはまるでばね仕掛けのように、跳ね上がってすばるの下腹部を打ちつけた。
「んんっ」
「は、はい。すばるくん。きれいになりましたよ!」
レムは、赤くなっている顔をごまかすように、つとめて明るくそう言った。
「さあ、すばるくん、湯船に——」
「ねえ、気持ちいいことって、なあに——」
二人の言葉が重なる。
「えっ?」
「気持ちいいこと!」
——もうすばるくんは、自分でしたりするのでしょうか……それとも……。
「すばるくんは、自分でしたことはありますか?」
「え? なにを?」
「そ、その……自分で、あの……だ、出したりしないんですか?」
「出す?」
——んー、すばるくん、なにも知らないんですね……。
「ねえ、なにを出すの?」
——もしかしたらレムがきちんと教えてあげないとダメかも知れませんね。いえ、レムがいろいろ教えてあげるべきですね。
「わかりました。レムがいろいろ教えてあげます。でもここじゃダメです。一度温まってから、レムのお部屋に行きましょう」
自分で自分を納得させるように頷くと、レムは小さなすばるを見上げたままにっこりと微笑んだ。