※この作品はR-18です。

ビッキーがガングニール(意味深)に侵食されちゃう話   作:nagato_12

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本編にはふたなり要素が含まれます。

読む人を選ぶ内容だと思うので、読まれる方はどうかご注意ください。




生えちゃった

 それは突然――ワタシが教室でいつも通り、リディアンで授業を受けているときに起きた。

 

(…………?)

 

 ただでさえギリギリなラインを彷徨っている自分の成績を、これ以上落としてなるものかと必死に先生の話に耳を傾けていたワタシは、ふと気が付いた違和感に、ペンを走らせていた手の動きを止めた。

 

 もじり。椅子に座っていた自分の身を軽くよじって、『それ』がなにかの拍子やただの気のせいではないことを確かめる。

 

 違和感――というよりそれは、痒みや疼きといった、気にしなければ気にならないような、そんな些細なものだった。

 しかし、それを発している場所というのが問題で、それは――自分の下腹部、からのものだった。

 

(うっあ、やばい……もしかして始まっちゃったのカナ。どうしよう、今日に限ってナプキン持ってきてないのに……)

 

 場所が場所なだけに、気にしないわけにはいかない。ワタシは胸に重たいものが降って来たような、そんな暗い気分になった。

 今日からまた一週間、ワタシは面倒な思いをしなければならないのかと考えるだけで、少し憂鬱になってしまう。

 

 いわゆる『重たいタイプ』ではないと自覚している自分ではあるが、たとえ痛みや辛さが人より軽いとはいえ、決して楽なわけでない。時と場合を選んでくれないこの問題は、女として生まれたからには仕方なく向き合わねばならないものだが、やはり面倒な気持ちはどうやったって否みようがないものだった。

 

(……うーん、もうちょっと後だと思ってたのになぁ。今月は早めだぁ)

 

 まったくもって、大した苦労である。

 このときばかりはどうしても、自分の性別を恨めしく思ってしまうのは仕方ないことだった。

 

なぜ毎月毎月、こうも自分たちは陰鬱な気分を味わなければならないのか。『人類は呪われている』とはよく言ったもので、なかでも女子に対して掛けられたソレは、男子よりも頭一つ抜けて酷いんじゃないかと直接、神様にでも文句を言ってやりたくなるというものだった。

 

そう、こんな思いをするならいっそ――

 

(あーあ、ワタシが男の子だったら――こんな思いしなくて楽だったのになぁ。あとでこっそり未来にでも頼んで、ナプキン借りなきゃ……)

 

 こんな非常時ほど頼りになってくれる、隣に座る自分の幼馴染のことを考えつつ、ワタシは止まってしまっていた自分の右手を動かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 授業が終わって。

 

「ひーびき、途中から貴女、手がお留守だったみたいだけれど、また居眠りでもしてたの? それともなにか考え事?」

 

 授業で使っていた教科書を鞄へと仕舞い込みながら、未来が話しかけてきた。その声には少なからずの呆れた調子が含まれており、真面目に授業を受けていなかったと思しき親友に対して、責めるような響きが混じっている。

 

 しかし――未来からのそんな言葉を受けた、ワタシはというと――

 

「……ッひ、ぅ。ふ……ぅ、ん」

 

 机の上に上体を突っ伏したまま、熱っぽい息を吐き出すのが、やっとだった。

 

「……っ!? ど、どうしたの響っ?」

 

 ワタシの様子がおかしいことにすぐに気が付いて、慌てたようにワタシの顔を覗き込んでくる親友。彼女の表情が、不安げに揺れるのがわかった。

 

 お互いの身体が近付いて、ふわりと嗅ぎ慣れた彼女の匂いがワタシの鼻をつく。普段ならそれは、嗅ぐだけで心の底から落ち着けるような、大好きな〝陽だまり〟の匂い――のはずなのに。

 

「――ッッ!!!?」

 

 ドクンっと、思わず心臓が止まってしまうじゃないかと心配になるくらい、ワタシの鼓動は大きく脈打った。

 

「きゃっ」

 

「ッぅ、ぁ――ご、ごめんッ……!!」

 

 驚いたワタシは弾かれたように椅子から立ち上がると、彼女から距離を取るかの様に、その場を駆け去った。立ち上がった拍子に、未来が短い悲鳴を上げたが、それに構っていられるような余裕は、ワタシの頭には残っていなかった。

 

 教室から飛び出して、真っ先に向かう先は校舎の端。

特徴的な赤いシンボルマークを見つけて、ワタシは息も絶え絶えにその中へと飛び込んだのだった。

 

 

 

 ワタシの身体を突如として襲った下半身の異変は、しかし時間が経つにつれて、段々と酷くなっていった。

 

 着擦れの際に起きるような、僅かな痒みのようなものに過ぎなかったはずのソレは、いつしかズキンズキンと、熱が膨らんでいくかのような奇妙な感覚へと変わっていき――かろうじて授業が終わる頃には、身悶えするような熱が、ワタシの腰の辺りを中心にして暴れ回っていた。

 

 痛みはまったくない。

 あるのは呼吸が苦しくなってしまうほどの、強烈な熱。

 

「――ッは、ひふ……ぐ、ぁ……ん」

 

 個室へと飛び込み、周囲の目から逃れたワタシは、ズルズルと腰が抜けたように便座へ座り込む。異常な熱っぽさに、たまらず両膝を擦り合わせながら悶えるが、待てど暮らせどそれが楽になっていく気配は一向に無かった。

 

(なに!? なんなのこれっ!? こんなのおかしいよ!?)

 

 自分の身体を苦しめる異常に、半ばパニックのような状態になる。必死に頭を回転させて原因を考えようとするが、ワタシの口からは苦悶の声が漏れるばかりで、まったく思考がまとまらない。

 

(と――とにかく、脱いで確かめないと)

 

 こうしている間にも、煮えるような熱を感じさせるその場所。とにかくこの目で確認してみなければと、ワタシは制服のスカートの中に両手を入れて、ショーツをずり下げた。

 

 外気に触れたことによって熱が逃げたのか、少しだけ症状が楽になる。

 

 いったい、ワタシの身体はどうなってしまったのだろうと、自分の最もデリケートな場所に目を向けると。

 

 

「――な、な、なに……? これ……」

 

 あまりの衝撃に、間抜けにもワタシは口に出して驚いてしまった。

 

 普段は衣服によって厳重に守られているはずのその場所。トイレやお風呂場でもない限り、ほとんど日の光を浴びることのない自分のその部位は、わざわざ注視する機会などそうそうありはしない。

 

 とはいえ、たとえ普段どれだけ気にしない場所であったとしても、それはかけがえのない自分の身体の一部であることには変わらない。『目に見える』ほどの変化が起こることなど、まずもってしてありえない場所なのだ。

 

 当たり前だ。朝ベッドの上で目が覚めたら、右手の指が6本に増えていた、なんて人はどこにも居ない。

 

 ――しかし、だった。

 ワタシの目に映ったその現実は、それと大して変わらないほどの大異変だった。

 

 自分が紛れも無い『女の子』であるはずの証。性別の象徴。

 

 うら若き乙女の秘密であるハズのその場所には――見覚えの無い、奇妙な肉の膨らみがあった。

 

 

 

 

 

 

    ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

 個室からよろよろと退出してトイレを出ると、そこには未来が心配が滲み出たような顔をして立っていた。

 

「大丈夫、響ッ!? どこか調子わるいのっ!?」

 

 ワタシの後を追いかけてきたのだろう。目尻にうっすら涙さえ浮かべて、ワタシの身を案じてくれた幼馴染。しかし、そんな彼女にワタシは、大した受け答えをすることすら出来なかった。

 

 あまりの衝撃にすっかり動揺しきってしまって、それどころではなかったのだ。

 

 『ごめん。体調がすこし悪いみたいだから、先に帰る』

 回らない頭で、かろうじてそんな意味合いの言葉を捻り出すと、ワタシは教室に鞄を取りに行くこともせずに、その足で学院を後にした。

 

もちろん未来は『心配だから私も帰るよ』と当たり前のように提案してくれたが、しかしそんな彼女からの申し出を、ワタシは受け入れることはしなかった。

虚勢を見せながら『本部に行って診てもらうから大丈夫』とだけ言った。

 

 未来には、自分の身に起きた異変について、なにも話さなかった。

 余計な心配をかけさせたくないという理由ももちろんあったし、それ以上にただ、気まずかったのだ。

 

 なにせ変調を来たしている部位が部位だ。いくらルームメイトで、毎日のように一緒にお風呂に入っている仲である未来であっても――いや、そんな未来だからこそ、こんな『気持ち悪いこと』を、告白するわけにはいかない。

 

 一体、自分の身体はどうなってしまったのか。せめてそれがわかるまでは、幼馴染には黙っておこう。それがトイレの中で、混乱したワタシが場当たり的に決めた、ひとまずの判断だった。

 

(と、とにかく診てもらわなきゃ――)

 

 熱にうかされる下半身を引きずるようにしながら、いつもより何倍も緩慢な動きで、S.O.N.G.の本部を目指す。

 

 この異常事態を目の前にして、ワタシの頭に真っ先に浮んだのが『病院』の二文字だった。どう考えたって普通じゃないこの変調は、いますぐにでもしかるべき医療機関にあたったほうが良いことは、火を見るよりも明らかなことである。

 

 だがしかし。

 一体〝こんなこと〟を、どうやって医師に相談すればいいと言うのだろう。

 

 熱によって判然としない今のワタシには――否、たとえ健康状態が良好だったとしても、今の自分の状態を正しく理解することなんて到底出来そうにない。

 それだけ、自分の身に起きていることが突飛過ぎていた――あまりにも変で、突き抜けていた。

 

 非現実で、超常的な事態だった――だからこそ。

 

(〝これ〟はきっと、シンフォギアが関係している、よね……?)

 そんなある程度の推察が、成立するのである。

 

 超常事態を専門として活動する、国連直轄の秘匿機関。

 自分が所属するあの組織には、こんなときに心強い人たちがたくさん在籍している。あの人たちに相談すれば、なにか自分の身に起きていることを知る手がかりを、きっと見つけてくれるはずなのだ。

 

 未来に告げた言葉に、嘘や偽りはなかった。

S.O.N.G.でメディカルチェックを受ければ、きっと――そんなわけでワタシは今、S.O.N.G.本部へおぼつかない足取りを向けているのだった。

 

(……で、でも)

 

 ただ、それには大きな問題が一つ。

 

(こんな恥ずかしいこと、いったい誰に相談すればいいんだよぉ……)

 

 どんなに言い繕ったところで、自分が思春期真っ只中の、年頃の女子であることは変わらない事実なわけで。

 

 学校で授業を受けていたら、秘部に異常が起きて困っています、誰か助けてくださいと、平気な顔をして相談できる女子が一体どこの世界にいるものか。

 いくら専門知識や実績を数多く持ち合わせているだろうS.O.N.G.の優秀なメディカルスタッフといえど、そんな恥ずかしい症状を女子である自分が、そう簡単に告白できるはずもなく。

 

「ぅぅう……っ、っぇ……」

 

 考えるだけで恥ずかしさのあまり泣き出しそうになるが、身体の中を容赦なく暴れまわっているこの熱を今すぐにでもどうにかしたいというのもまた、偽りようもない本心なのだった。

 

 こうなったら、誰か信頼を置ける人にこっそりと相談を持ちかけるしかない。

 恥辱を無理やり呑みこんで、頼れる人たちに内密で対処してもらえれば、乙女が負う心の傷は最小限に済む。

 

 ということは、である、

 いったい誰に相談すればいいのか――というのが問題になるわけで。

 

 

 師匠――は、たしかに頼りになるし、絶対にワタシの秘密を守って親身になってくれるだろうが、女子として大人の男性である師匠にこんな恥ずかしさの極致の様な相談を持ちかけるわけには絶対いかない。

 たとえ相談して事態が解決したとしても、その後が気まず過ぎる。二度と師匠の顔をまともに見ることが出来なくなるのは間違いないだろう。

 

 女子としての立花響が完全に死亡することは確定するし、最悪の場合、物理的にロープで首を吊る覚悟が決まる可能性まである選択肢だった。

 

 同様の理由で、緒川さんや藤尭さんも除外するとして。

 

 ならば、友里さんはどうだろう。同性だし、秘密は絶対に守ってくれるだろう。今のワタシにとってはもはや数少ない、現実的な選択肢かもしれない。とはいえ友里さんはオペレーターであって、医療に通じている人ではない。つまり、彼女に頼んで、こっそりと信頼の出来る医療スタッフを紹介してもらうことになるのだろうが――

 

(いくら同性でも……こんなこと、相談しにくいよぉ……)

 

 考えるだけで、顔から火が出そうな話だった。年上の同性に対して、自らの恥ずかしい部分に起きている異変を相談するだなんて、年頃の女子としてはどうやったって耐えられない苦痛だ。

 それに、あくまでオペレーターである友里さんに相談したところで、最終的に診てくれるのは医療スタッフの人である。たとえ医療に携わっている人だとしても、よく知らない人に診てもらうには少し、いやかなりの抵抗を持ってしまう。

 

「……んっ、ふう……っは、ぁ」

 

 歩くたびにショーツの生地が擦れて、自然と声が漏れる。地面を踏みしめるたびに、ずくんずくんと熱が増していくような感覚を覚えてしまい、歩くことすら少し辛い。

 

 ……駄目だ。ぼーっとしてしまう。風邪を引いたときのように、息が自然と上がっていってしまう。

 

 自分でも、限界がかなり近いことが嫌でもわかってしまった。もはや恥ずかしいなどとわがままを言っている場合ではない。女子としての羞恥心をひとまずかなぐり捨ててでも、誰かに治療をしてもらうほかない。

 

 そのときだった。

 

(そ、そうだ――あの子なら……っ)

 

 思いつく。今のワタシの現状を相談するにあたって、最も適切な人物を。

 ワタシが信頼していて、自分の身体の不調を告白することが出来て、なおかつその人物の手によって直接検査してもらえる、そんなうってつけの人物を。

 

 その人物とは残念ながら、完全な同性というわけではないが――だが、異性というわけでもない。それはどういうことか問われれば、その子は出自上の問題によって、つい先日までおよそ『性別』と呼ばれるものがない存在だったのである。

 聖遺物に対しての造詣も深く、こんな突飛な非日常な状況に対しての対応力も抜群に高い。

 

 頼りになる〝その子〟は今頃きっと、いつもの通り司令室でお仕事に励んでいるに違いなかった。

 

 

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

「はいエルフナインちゃん、あったかいものどうぞ」

 

「あっ、ありがとうございます」

 

 モニターに表示される数値を夢中で追いかけていたボクは、目の前に突然差し出されてきたカップに驚いて、横を向いた。そこにはにっこりと穏やかな微笑を浮かべている、先輩オペレーターである友里さんの姿。

 

 コーヒーの入ったカップを両手を使って受け取りながら、ボクは友里さんにお礼を述べる。

じんわりとした熱が手から伝わってきて、長時間のデータ整理ですっかり冷えきっていたボクの手をほぐしてくれた。

 

すると、それを見ていた隣の席の藤尭さんが、

 

「あれ、俺の分のどうぞは? 友里サン?」

 

 と、ボクが持つものを物欲しそうな目で眺めていたが、対する友里さんは、

 

「いくら払えるかによるわ」

 

「お金とるのっ!?」

 

 と涼しい顔でかわしていた。「あははは……」と苦笑いを返しつつ、ボクは淹れてもらったカップを傾ける。

 

 ……あったかいなぁ。

 

 思わず頬が緩んで、ほっこりとした。

 相変わらず友里さんが淹れてくれる『あったかいもの』は絶妙で、座りっぱなしの疲労が溶けていくかのようだった。

 

 ボクたちのいるS.O.N.G.発令所には現在、司令である弦十郎さんの姿はなく、また藤尭さんと友里さん以外のオペレーターの方々の姿も見当たらない。それはつまり、今はなにも異常の起きていない、平時の警戒レベルであることを意味していて、ボクたちは通常業務である警戒にあたりながら、データ整理などの雑務に追われていたのだった。

 

 ここのところは、ノイズが観測されるといった緊急事態もなく、また、S.O.N.G.本来の活動内容である超常災害などといった類の事件も発生していない。実に平穏で、のんびりとした日々を送ることが出来ていた。

 

 しかし、またいつ人類を脅かす脅威が襲ってくるか予想も出来ない以上、ボクたちはいつ訪れるとも知れない『もしも』に備えて、今日も自分たちが出来ることを精一杯こなし続けているのである。

 

 ちょうど自分が任されていた分のデータ整理も終わり、友里さんの淹れてくれたコーヒーで一息ついていた、そんなときだった。

 

 発令所の扉が開き、誰かが司令所内に入ってきた。

 てっきり、政府への説明義務などの処務にあたっていた風鳴司令が帰ってきたのかと思ったが、ボクたちはその入室してきた人物を見て、目を丸くする。

 

「あれ、ひっ――響さん?」

 

「あら? どうしたの響ちゃん」

 

 柔らかそうな明るい色をした、やや癖のあるショートの髪。そして、響さんのトレードマークである赤の髪留め。それはS.O.N.G.所属の少女、第三号聖遺物『ガングニール』に適合したシンフォギア装者である――立花響さんだった。

 

リディアンの制服に身を包んでいるところを見ると、どうやら学校帰りらしい彼女は、いつもなら弾けるような笑顔を浮かべて真っ先に自分から挨拶をしてくれるはずなのに、なぜか顔を俯かせて呆然と立ち尽くしている。

 

「学校、もう終わったの――って、あら? それにしては随分と早い時間ね?」

 

 モニターに表示されていた時刻を確認しながら、友里さんが戸惑ったような声を上げた。つられてボクも時間を見てみると、まだ時刻はお昼前を示している。

 たしかに、学校が終わるにはまだ早すぎる時間帯だ。ということは今日、響さんは学校を早引きしてきたということだろうか。

 

 はて。たしか今日は、装者のみなさんに学校を切り上げさせてまで行うような、重要なミーティングなどは予定されていなかったはずなのだが。それどころか、ミーティングはおろか基礎訓練といった様なものも、特にこれといって予定されていなかったはずである。

 

 それとも、ボクがうっかりしているだけで、今日はなにか特殊なスケジュールが装者のみなさんには予定されていたのだろうか、と。

そんな風にボクが考えを巡らせているときだった。

 

無言のまま立ち尽くしていた響さんが、足をゆっくりと踏み出してこちらへ向かって近付いてきた。一歩、二歩。その様子を見て、彼女の歩みが普段ではありえないほど弱々しいものであることに気が付き、ボクは少しだけ違和感を覚える。

 

 響さんは、数歩こちらに近付いて――しかし、それが限界だったという風に、ぺたんとその場に座り込んでしまった。

 

「響さんッ!?」

 

「響ちゃんッ!?」

 

 慌ててボクと友里さんが、椅子から立ち上がって彼女のもとへ走り寄る。藤尭さんもすぐに後ろから追いかけてきてくれたのが、背中越しの気配でわかった。

 

「え、えるふ……ない、ちゃ」

 

 駆け寄って彼女の顔を覗き込んで、驚いた。

 響さんは異常な量の汗をその額に浮べながら、苦しそうに浅く乱れた呼吸を繰り返していたのだ。目にはうっすら涙さえ浮かべていて、真っ赤になったその顔色は、健常な状態ではないことを一目瞭然に表している。

 

「どうしたんですか響さんッ!? 響さんッ!?」

 

「藤尭くんっ! 急いで救護班に連絡してっ!」

 

「わ、わかった――」

 

 響さんの明らかな異変に、鋭い声で指示を飛ばす友里さん。その指示を受け、慌てたように藤尭さんが司令所に設置された操作パネルへと駆け寄っていく――すると。

 

「だ――だめぇ、っ、やめ……てぇ、ッ!」

 

 苦しげだが、たしかな力強さを伴った声で、響さん本人からの拒絶の声があがった。

 本部内に常駐しているだろう医療スタッフへ、回線を繋ごうとした藤尭さんの手が、その声によって止められる。

 

「ど、どうして? 響ちゃん……?」

 

 再び戸惑ったような、友里さんの声。

 

「そうですよ響さんっ、はやく医療スタッフに診てもらったほうが――」

 

「――おねが、い。えるふないん、ちゃん……ぁ。っふ、おねがいだから、やめ、てぇ……ッ、は」

 

 苦悶に満ちた響さんの声。大切な人のそんな苦しそうな様子に、胸の奥にぎゅっと締め付けられたような痛みが走る。

 

「で、でも――」

 

「えるふないんちゃんに、っふ……み、診て、もらいっ、たいの……っ。だか、ら……ほかのひと、っふぁ……は、よばないッ、でぇ」

 

 身体を小刻みに震わしながら、やっとの調子で言葉をつむぐ響さん。その頬にはボロボロと涙が伝い、相当苦しそうなことは誰の目にも明らかだった。

 

 『ボクに診てもらいたい』。

他でもない響さんからの、そんな要望を受ける。

 

きっとそれには、なにか彼女なりの理由があって、そんな判断を余儀なくされるような深刻な状態に陥っているのではないか。

ボクの頭に、直感めいた想像がよぎる――ならばと、ボクはそれ以上の余計な追及をせず、その代わりにキッと自らの気を引き締めた。

 

「――わかりました響さん。ではとにかく、メディカルルームへ向かいましょう。友里さん、藤尭さん。メディカルスタッフには事情を説明し、一時的に部屋を空けてもらえるように打診して頂けますか?」

 

 おそらくボクと同じ様な判断を下したのだろう、二人は小さく頷くと、どこかに回線を繋いで連絡を取り始めてくれた。

 

「ごめ……ねっ、えるふないん、ぅ……ちゃぁ……ふ」

 

 肩をまわして響さんの身体を支えながら、歩行をサポートする。すると密着した彼女の身体から、異様な高さの体温を感じた。

 

 ……あまり余裕はない。ボクは冷静さを失わない様に自身に心がけながら、メディカルルームのある方へ響さんと歩き出した。

 

 欠けがえのない恩人である、あの響さんが目の前で苦しんでいる――これ以上、絶対に響さんを辛い目に合わせてなるものか。

 ボクに出来ることを精一杯に――最大限に使って、響さんを助けなきゃ。

 

 ボクは固い決意を抱きながら、響さんの身体を強く抱きしめるのだった。

 

 

 

    ◇   ◇   ◇

 

 

 

 S.O.N.G.艦内に設備されたメディカルルームで、一通りのスキャンチェックを終えてから、ボクは響さんを連れて自室にしている研究室へと向かった。ここならば他の職員の目がない為、彼女の要望に最も的確に沿うことが出来ると判断した為である。

 

 部屋に入って、なるべく彼女に負担が懸からないように、椅子を用意して座ってもらう。身体を冷やさないように毛布を用意しようかと提案したが「今はだいじょうぶ」と彼女が断ったので、ボクは彼女と対面する位置取りでもう一つの椅子に腰掛けた。

 

「……ごめんね。心配かけちゃって」

 

「いいえ、大丈夫です。気にしないでください」

 

 メディカルルームに常備されていた解熱剤が効いたのか、響さんの呼吸はひとまずの落ち着きを見せているようで、ボクはそっと胸を撫で下ろした。とはいえ、とても楽観視できる状況ではない。

特別、医療の知識に秀でているわけでもない自分が、素人判断をするのはとても危険だ。

 

響さんがいくらか話せるうちにと、ボクは口を開いた。

 

「――響さん、S.O.N.G.の救護スタッフの皆さんは、とても優秀な方たちです。ボクなんかよりも、正しく響さんの身体の治療をすることが出来ます」

 

「……う、うん。そう、なんだけどね」

 

 ボクの言葉に、なんだか気まずそうに言葉を濁す響さん。

 

「……ということは、です。にもかかわらず、ボクのことを頼って頂けたということは、なにか特別な事情があったと捉えて問題ないでしょうか」

 

 言外に、響さんの言葉を待つ。メディカルチェックの結果が出る前に、なるべく本人から事情を訊いて、現状を把握しておきたかったのだ。

 

「え、っとね……エルフナインちゃん」

 

 バツが悪そうに顔を俯かせて、響さんは切り出す。普段の彼女らしくないその様子に、それ相応の緊急事態が発生しているんじゃないかと、ボクの中に生まれていた危惧の色が強まる。

 

「……へんなの――ワタシの身体」

 

 言葉を選ぶようにして、慎重に唇を動かす響さん。ボクは黙って、その続きを待った。

 

「今日、リディアンでいつものように授業を受けていたんだけど、そのときに、すごく身体が熱くなって……」

 

 発熱症状のようなものを口にする響さん。

ボクがS.O.N.G.に来る以前の話――かつて彼女が『融合症例第一号』と呼ばれていた頃、聖遺物の侵食が進んだ彼女は、異常なほどの熱をその身体に帯びていたと、本部に残されていた記録データで見た記憶がある。もしやまた――嫌な想像が、ボクの頭をよぎる。

 

 解熱剤である程度の不快感は落ち着いていても、発熱そのものは十分に取り除けていないようで、響さんの顔はかなり赤い。潤んだ瞳でこちらを見ながら、響さんは意を決したように言い放った。

 

「そ、れがね……えっと、その……したっ、からなの」

 

「……した、ですか?」

 

 尻すぼみになっていく響さんの言葉の意味を、ボクは咄嗟には捉え切れず、そのまま問い返してしまう。

 した? 下? それとも舌?

 

「だ、だから、その……んなの、子の……」

 

「えっと、すみません響さん……。辛いときに無理を強いてしまって心苦しいんですか、もう少し声を大きくしていただけると……」

 

「~~っ……だからそのっ――おんなのこのっ、トコから……」

 

 真っ赤になりながら、響さんは言った。

 

「…………」

 

 脳をフル回転させながら、少しでも今の響さんを襲っている謎の異常の手がかりがないか探していたボクはしかし、そんな響さんからの告白を受けて、完全に固まってしまう。

 

 おんなのこ――女の子?

 

「あつくって、くるしかったから、トイレでこっそりと確認してみたんだけど……そのっ、へんなのが、くっついてて……ッ」

 

 どう、しよぉ……エルフナインちゃん……ッ!

 気の毒なくらいに顔を赤くさせて、涙目どころか、大粒の涙さえ零しながら響さんがコチラを見ていた。

 

 いつも元気ハツラツで気丈に振舞う響さんが、ボクの前で、年相応の少女らしい弱々しい声を上げながらしゃくりあげている。

 

 そんな光景に、すっかり機能不全に陥ってしまっていたボクの頭が復旧する。

 

「……なるほど、事情はある程度了解しました。すみません、ボクの配慮が足りませんでした……」

 

 響さんが医療スタッフの診断を拒否した理由も、友里さんたちの付き添いを断ってまでボクと二人きりの診断を希望した理由も、すべての疑問に納得がいく。

 ボクが想定していたケースの何倍も、今の響さんが抱えている問題は繊細で異常なものであるようだった。

 

それなのに無遠慮に問診だなんて、なんてボクは気遣いが足りていないことを……。

 

「い、いいのっ、エルフナインちゃんはわるくないんだよ……っ、ご、ごめんね、こんなへんな相談しちゃって……っ」

 

謝るボクを、響さんは自らの涙を拭いながら、寛容で許してくれる。

 

ボクは不甲斐ない自分に腹が立った。原因不明の異変に突如として晒された響さんは、どんなに心細かったことだろう。きっと今だって必死に平気を装っているだけで、本当は怖くてたまらないはずである。

 

恩人である響さんが苦しんでいるんだ。ならばボクに出来ることはなんだ、考えろ――。

 

 

 ボクが出来ること――それは今、響さんの身に起きている事象の解明と、その解決だ。

 

「響さん、問題が問題なので、あらためてお尋ねしたいことがいくつかあります。それにはもしかしたら、響さんの自尊心を傷つけてしまうような無遠慮な質問がいくつか含まれているかもしれません。その場合は、無理に答えていただかなくても大丈夫です」

 

 慎重に、ボクは響さんに向き直る。

 

「……うん、わかった。おねがい、します」

 

 響さんはぐっと覚悟を決めるように、真っ直ぐボクの目を見据えてくれるのだった。

 

 

 

 

 

「まずはじめに。今は痛みや圧迫感などはありますか?」

 

「ううん、ぜんぜんへいき。ただ熱くって、すごくはずかしい……だけかな。でも、お薬のおかげなのか、熱であたまがボーっとしちゃうことはなくなったとおもう」

 

「そのほかに、身体に異常や違和感などはありますか?」

 

「……たぶんない、かな。さっき歩くのがつらかったのも、熱のせいだし……」

 

「今の状態になったのは、いつぐらいからなのでしょうか?」

 

「ほんとについさっきなの……。さっきまでリディアンで普通に授業をうけていたから……こわくなっちゃって、思わず学校からとびだしてきちゃった……」

 

「そのことを、誰か他の方に言いましたか?」

 

「……ううん。未来にも、いってないよ。はずかしかったから。きっと今ごろすっごくしんぱいしてると思う」

 

「熱を発している箇所がどこなのか……正確にはわかりますか?」

 

「……ッ。え、っと……その、い、いちばん、デリケートな場所から、だとおもう……最初は、せいりがじまっちゃったのかなって、そんなかんちがいをしちゃったぐらいだから……」

 

「さっき響さんは、トイレで確認したと仰っていましたが、そのときに他になにか異常はありましたか?」

 

「……わ、わかんない。こわくって、よくみれなかった……」

 

「異物、と仰ってましたが、それはいったいどんなものでしょう?」

 

「……皮膚のかたまり、みたいな。へんなのが、生えるみたいに、あったと思う……」

 

「それを触ったりしましたか?」

 

「……う、ううん。こわかったから……」

 

「響さんの中で、なにか現在の状態について、原因などに心当たりはありますか?」

 

「な、ない。今日の朝だって、ふつうにごはん食べられたし、別にへんなことはなにもなかったよ……」

 

「一番最近で、ガングニールを纏ったのはいつのことですか?」

 

「え? あ、ぁえと……たしか先週? だとおもう。アルカノイズがでたって要請があったから、たぶんそのときに……」

 

 

 

 

 

「そうですか、ありがとうございました。メディカルチェックの結果が出ない限り、これ以上ボクから質問できませんね……。逆になにか、響さんからボクに対して質問はありますか?」

 

 思いつく限りの質疑を終えて、ボクは逆に響さんに尋ねてみる。

 

 医療にとって、コミュニケーションは大切なファクターだ。医師からの問診には、状態の把握以外にも、未知の症状によって不安に襲われている患者に、いくらかの安心感を与えるといった心理的カウンセリングの役割も担っている。

 

 話したら落ち着いた、というのは、存外に無視できない効果である。彼女の症状がいまだ全くの未知である以上、こういった基礎処置は欠かせない。

 

 響さんは、ボクからの問いかけに少し考えていたようだったが、やがて表情を曇らせながら口を開いた。

 

「えっと――ね。エルフナインちゃん、このことは師匠やほかのみんなには……」

 

「ええ、わかっていますよ」

 

 言いずらそうにしている響さんの言葉を、代わりにボクが続ける。

 

「このことは決して誰にも言いません。とりあえずはボクの胸の中だけに留めておきます。出来れば他の人の助力などは受けずに、ボク一人のチカラで響さんの症状が解決できれば、それが一番なのですが……それはすみません、メディカルチェックの結果を見ない限りには、今の段階では判断が付きかねます」

 

「うん……ありがとう」

 

 ほっとしたように、身体の強張りがいくらか和らいだ様子の響さん。

 

 正直言って、カウンセリング効果以外での問診の結果はあまり奮わなかった。

 

 性器付近に、異常な熱を感じるということ――そして、謎の異物らしい物体の発生。

 

 彼女から聞き出すことが出来た症状らしい症状というのはその2つだけで、その原因にあたる様なものにも、響さんは心当たりが無いと言っている。つまり問診の段階では、あまり響さんの状態を把握してあげることが出来なかった。

 

 異物――。

 聞いた限り、あまり良い印象を受けない単語だ。おそらく異常の原因はそれで間違いないのだろうが、それを調べるためにはどうしても――

 

「――響さん。これ以上、響さんを追い詰めるようなことは、ボクもしたくないんですが……」

 

「……っ、わ、わかってる……み、見ないとエルフナインちゃんも、よくわかんないよねっ……?」

 

 ぎゅっと瞼を閉じて、今度は響さんがボクの言葉の先回りをする。

 本人も薄々覚悟していたことなのだろう。ボクはそれ以上、余計なことはなにも言わず、ただ、

 

「ええ。出来れば、患部を見せていただけると助かります」

 

 とだけ言った。

 

「……わ、わかったっ」

 

 響さんが、椅子からそろそろと立ち上がる。熱による影響のせいなのか、それとも自らが置かれている異様な状況のせいなのか、響さんの顔はずっと、真っ赤なままだった。

 

 

 

 

 

 

   ◇   ◇   ◇

 

 

 

 

 

 

「患部を見せていただけると助かります」

 

 エルフナインちゃんの言葉に、ワタシの手がわずかに震える。

 

 そりゃあ身体の診察をお願いしているのだから、その患部を見せてと言われるのは当然のことだ。

 おかしくなった場所を一切晒さずに、原因を正しく特定できる人なんて、お医者さんにだっていないだろう。

 

 エルフナインちゃんのサファイア色をした綺麗な瞳が、じっとワタシの下半身を映している。それが当然のことであることはわかっているのに、無意識に足が竦んでしまう。

 

 返事をしたいのに、すぐには声が出ない。

 

 そこで自分の喉がいやに乾燥してしまっていることに気が付いた。羞恥心と緊張感が同時にやってきて、目の前がクラクラしてくる。

 

「……わ、わかったっ」

 

 なんとかそれだけからがら答えて、ワタシは静かに椅子から立ち上がった。

そして、自分のスカートの中へ手を差し込んで、ショーツを摺り下げようとする――が。

 

(あはは……これはちょっと、予想以上かも……)

 

 がくがくと手が震えて、上手くできない。

 ワタシがいるこの場所は、トイレの個室でもなければお風呂場でもない。エルフナインちゃんが日々、研究に励んでいる研究室だ。普通の場所であり、日常の一角であり、脱衣するような場所では決してない。

 

 目の前には、自分よりも一回りも二回りも小さな身体のエルフナインちゃんが、座ったままこちらを見ている。

 

 ワタシたち装者の戦いを裏で支えてくれる、大切な仲間であり、大切なお友達。

 そんな彼女の前で、ワタシは肌を――女の子が一番、隠さなきゃいけない場所を、晒そうとしている。

 

 そう思うだけで、金縛りに逢ったかのように自分の身体が動かなくなってしまっていた。

 

 かたかたと膝が笑って、情けなさと恥ずかしさで、自然とワタシの目から涙が零れてしまう。

 

「……ご、ごめっ、ね、すぐ、ぬぐか……らっ」

 

「――いえ、大丈夫ですよ」

 

 ワタシがそのままの姿勢で動けないでいると、対面に座っていたエルフナインちゃんがおもむろに椅子から立ち上がった。

 

「……?」

 

「脱ぐのが恥ずかしいのは、当然のことですから。お気になさらず――それなら、こうしましょうか」

 

 そう言って、エルフナインちゃんが自分の穿いていた短い丈のズボンに手をかけた。

 

「えっ!?」

 

「よいしょっと」

 

 驚いたワタシをよそに、まるでなんでもないことをするかのようにして、エルフナインちゃんがあっさりと自分の衣服を脱いだ。パサリとズボンが床に落ち、まるで陶器のように美しい肌をした、エルフナインちゃんの生白い足が外の空気に晒される。

 

 なんの装飾もされていない、シンプルな真っ白い下着がワタシの視界に飛び込んでくる。

 

「な、なにを――」

 

「響さんだけに、恥ずかしい思いはさせられませんからね」

 

 やや照れたように、その場ではにかんでみせるエルフナインちゃん。

 

 ああ、なんてこの子は――優しい子なんだ。自分だって恥ずかしいはずなのに、エルフナインちゃんはワタシが気負わないように身体を張って、配慮をしてくれたんだ。

友達が見せてくれたそんな気遣いに、おもわず鼻の奥がツンとしてしまう。

 

(エルフナインちゃんの気持ちを、無駄にしちゃ駄目だ――っ)

 

ワタシの中で決意が固まる。スカートの中で止まったままの親指に、ワタシはショーツのゴムを引っ掛けると、そのまま下にずり落とした。

 ぽとりと。自分の足を通ってショーツが落ちる。熱を持った場所に直接風が抜けて、思わずぶるりと身体を震わせてしまう。

 

「――安心してください。ボクも、同じ分だけ脱ぎますから」

 

 それを見ていたエルフナインちゃんは、まるでそれが前もって打ち合わせていた合図だったかのように、にっこりと人懐っこい笑みを浮かべて、自分の下着にまで手をかけた。

 

「……ごめんね」

 

 エルフナインちゃんのキメの細かい白磁色の肌が、惜しげもなくワタシの前に晒される。それもこれもすべて――自分のせいだ。自分の身体を襲った謎の異変の仕業。自分なんかのために、その自らの裸体を晒してくれたエルフナインちゃんに、ワタシは大きな罪悪感を覚えてしまう。

 

「いいんです。もともとボクは性別がない存在でしたから、それほどこういったシチュエーションに、特別恥ずかしいといった感情を覚えたりしません」

 

 エルフナインちゃんはそう言って、くるりとその場でターンしてみせた。自分にとってこんなことはなんでもないと、そう言いたげなアピールだ。シミ一つないエルフナインちゃんの綺麗な肌に、いけないと判っていてもついつい目を奪われてしまう。

 

「もともとはボクに生殖器は存在していなかったんですが、キャロルと融合したことによって――ほら。ボクの身体は、キャロルの身体でもあるという、なによりの証拠です」

 

 自らの秘めた場所をあけっぴろげに指で指し示して、エルフナインちゃん。

 誰の目にも留まったことがないであろう、彼女の秘密の場所。ぴったりと閉じて、一文字に線を引いているその部位には、一本の茂みも見当たらない。それが果たして、身体の元の持ち主であるキャロルちゃんが生まれ持っていた特徴なのか、それともエルフナインちゃんの体躯がまだ未発達だという証なのか、ワタシには判断のつきにくいところだった。

 

 まるで作り物のように綺麗なその場所に、同性(こうして目の当たりにした以上、今のエルフナインちゃんは誰がどう見ても立派な女の子と言ってもいいだろう)はずのワタシまで、ドキドキしてしまいそうになる。

 

「……あはは、ちょっとスースーしますね」

 

それでも――そう言って笑っている彼女の頬が、うっすらと赤く染まっていることを見逃すワタシじゃない。

 

(エルフナインちゃん……わざと気丈に振舞ってくれてるんだ……)

 

 彼女の優しさに、また泣きそうになってしまう。

 ここまでくるともはや――ワタシの中に、迷いや羞恥などとった甘えはなかった。

 

「……じゃ、じゃあワタシも、えっと……ハイ」

 

 ぐいっと、スカートの裾を自らの手で摘み上げて、ワタシは自分の素肌をエルフナインちゃんへ晒し出す。最後の砦だったスカートの護りを失い、ワタシの下半身を言いようもない開放感が駆け抜けていく。

 

 エルフナインちゃんの丸くて大きな瞳が、ワタシの一番恥ずかしい場所に向けられた。いたって真剣な眼差しの彼女の視線に、しかしなくなっていたはずの羞恥が、ワタシの中で再び猛威を振るう。

 

(う、っわ……わ、ワタシいま……恥ずかしいとこ、自分で見せちゃってる……)

 

 顔が赤くなったのが、自分でもわかった。この研究室に鏡がないのがせめてもの救いだろう。きっと今、自分はとても他人に見せられないような情けない姿をしてしまっているだろうから。

 

「――ッ!? こ、これはまさか? いやそんな――っ」

 

 ワタシの患部を目の当たりにしたエルフナインちゃんの瞳が、そこで強い驚きの光を宿す。

 

「……ひ、響さんッ。トイレで貴女が確認したという異物というのは――はじめから、こんな形をしていましたか……ッ!?」

 

「……えっ?」

 

 ひどく動揺した様子のエルフナインちゃんに指摘されて――そこでようやくワタシは、自らの身体を見た。

 

「――ッ!? きゃ、きゃぁああッ!!?」

 

 思わず、ワタシの口から大きな悲鳴が漏れた。

 

 見慣れたはずのワタシの裸体。いつもならばなだらかな曲線を描いているはずのその秘部には、しかし。

 トイレで自分が確認したときよりも、一回りも二回りも大きくなった――

 

 一つの――否、〝一本〟の肉の異物が在った。

 

「……ボクが見る限り、ですが――しかし、これは」

 

 エルフナインちゃんが、険しい表情をして、躊躇いがちに言った。

 

「――男性器に、酷似した物体であると……判断します」

 

 ワタシはそれを聞いて、自分の目の前が真っ暗になるような、そんな錯覚を覚えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 つづくカモ?

 




きっとこれから、イケない一人遊びを覚えちゃうんですよこのビッキーは(ゲス顔)
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