ディープダンジョン 作:□リ
・作中の時系列は不定です。本編と比べると明確な矛盾が存在しますが、気にしてはいけません。魔法の言葉、パラレルです
始まりは、ただの気まぐれだった。
たまたまちょっと時間が空いていて、たまたまディレイが明けていたから、ちょっと顔が見たくて、いつもと違う時間にフェイトを喚んでみた。ただそれだけだったのだ。
「『
呼びかけに応じ、いつものように現れる球状魔法陣。
すぐさま、いつものように砕ける。
そして、跡にはいつものようにフェイトの姿が……姿が……肌色だった。
「え……?」
頭上に掲げた手は、何かを握っていたように軽くグーを作っている。
普段は頭の横や後ろで束ねられていることの多い、艶やかな金色の髪は、今は無造作に背中に流されている。
少し上気した顔は、ポカンとこちらを見ている。
年相応の、ささやかな2つの膨らみの先端には、桜色のポッチが確認できる。血流が良くなっているからだろうか、心なしか固く尖っているようにも。
そこから可愛いおヘソを通り越して更に下まで視線を向ければ、両足の付け根にはつるつるの無毛の割れ目がピッタリと閉じていて、思わず目が吸い寄せられる。
髪も、肌も、しとどに濡れており、照明の照り返しでキラキラと光って幻想的な雰囲気をかもし出していた。
どれくらいそうしていたのだろう。
無意識のうちに全身(と特定部位)を舐め回すように見ていた俺の目が、彼女の目とあう。
「あ……え、あ……あ……」
それまで呆とした様相で固まっていたフェイトの顔が目まぐるしく百面相し、
「き、きゃぁぁぁあああああ!?」
爆発した。
「ご、ごめん!!」
悲鳴を切っ掛けに、俺にかけられた金縛りも解ける。
両手を抱え込むようにしながらしゃがみ込むフェイトに謝罪の声をかけながら、急ぎ送還を実行。
彼女が球状魔法陣に包まれ消え去った後、滴る水で濡れていたはずの床も、何事もなかったかのように元通り乾いた状態となっていた。
それは、あたかも今しがたの出来事が白昼夢に過ぎないと言っているようであった。
……いや、夢であったなら良かったのだが。
どうしよう、嫌われた、かも。
「ごめんなさい!!」
「は、葉月!? あ、頭を上げてよ!」
翌日、フェイトを召喚してまず真っ先にしたことは、当然のごとく土下座である。むしろ土下座したまま喚び出した。
もし許してもらえなかったらどうしようと思うと、怖くて怖くて喚び出すのにも随分と躊躇った。
フェイトに拒絶されたらこの先、生きていける気がしない。こんな右も左もわからぬ状況で迷宮に放り出され、それでもここまでやってこれたのはフェイトがずっと一緒にいてくれたからこそだ。
「本当に済まなかった! どうかこの通り!」
「あれは事故だし、そんなに謝らなくても……」
でも怖いからって、そのままにしておくわけには絶対にいかない。召喚しない限り会えないんだから、時間が解決するなんてことはあり得ない。
むしろ時間を置けば置いただけ、余計に怖気づく姿が容易に想像できる。
「許してくれ、俺にできることなら何でもするから……!」
だから、勇気を振り絞って喚んだ。
そしてできることは、誠心誠意、謝ることのみ……!
「私なら全然気にしてないから。ね? ほら、頭を上げて」
謝ることのみ……と、気合を入れて床に這いつくばっていたら、頬に暖かくて柔らかいものが触れる。
思わず顔を上げると、俺の頬に手を当てたフェイトが、ニッコリと微笑んでいた。
「やっと、こっち向いてくれた」
「許して、くれるのか?」
「許すも許さないもないよ、葉月。私は全然、怒ってなんていないんだから」
恐る恐る聞いてみると、それこそ怒ったような口調で咎められてしまった。
でも言葉通り全然怒ってる風ではなく、むしろこちらのことを気遣ってくれている。
天使か。
「それより、私の方こそ昨日は大きな声を出してゴメンね。いきなりだったから、ビックリしちゃって」
「うん? ああいや、それは俺があんな状態で喚んでしまったのが悪かったんだから……」
あんな状態。
口にするとついうっかり昨晩の状況を思い浮かべてしまい、血流が下半身に集中する。
いかん、こんなときに何を考えているんだ。煩悩退散!
「それは仕方ないよ。私がどうしてるのか、こっちからじゃわからないんだし」
フェイトも昨日のことを思い出してしまったのか、薄っすらと頬を赤らめている。
それがまた可愛いと思うと同時に、それが昨日の行いのせいだと思うと死にたくなってくる。
「私が大騒ぎしちゃったから、葉月も慌てちゃったんだよね? 本当に、ゴメンね」
「いやいや、フェイトが謝ることないから! 悪いのは全部俺だから!」
それから暫く、自分が悪い、いや自分が悪いと互いに言い合いになり、最終的には二人とも吹き出してしまった。
「フフ。おかしいね、私たち。お互いに謝りあって」
「はは、本当だな。でも良かったよ。もし許してもらえなかったらどうしようって思ってた」
いつまでも譲らず言い合っていても仕方ないし、お互い様ということで落着したが、やっぱり女の子の裸を見てしまったというのは大問題だ。
許してもらえなかったらというのもそうだし、フェイトが気に病んではいないかということも心配してたので、こうして目の前で朗らかに笑ってくれるのを見て本当に安心した。
「大げさなんだから。ビックリしたし、ちょっと恥ずかしかったけど、葉月なら別に構わないよ?」
心臓が跳ねる。
今、なんかとんでもない言葉を聞いたような……?
「そりゃあ、知らない男の人に見られるのは嫌だけど、葉月だったら、平気、だよ?」
い、いきなり何を言ってくれるんだ、この娘は!?
はにかみながらそんなこと言われて、こっちの心臓がバックバクである。
いったいどういう意味でそんなことを……
「家族なら、お風呂に一緒に入るくらい普通だしね」
あ、ああ。家族、家族ね、うん。
そう思ってくれるなら、こっちも嬉しいな。はは。
自分もフェイトも、どことなく笑いがぎこちなかった気もするが、ともあれこの場は一旦お開きとして、昼から改めて迷宮に潜ることにした。
こうして昨日の件が無事に片付き、俺はすっかり安心してた。
このときは。
結果から言うと、今日の迷宮探索は散々であった。
あまりに酷くて、まだまだ時間はあったのに早々に切り上げて帰ってきてしまった。
朝の会話ですっかり片付いたと思い込んでいた自分が浅はかだったと言ってもいい。
昨日の後遺症は、まだ根強く残っていたのだ。
主に自分に。というか自分だけに。
自分が前に立って敵と戦っているときはいい。それなら余計なものを見る余裕なんてない。
だけど例えばフェイトが前に立ったとき、マントの影からちらりと薄いバリアジャケットに包まれたお尻が見えて、昨日ことを連想してしまったり。
向かい合って相談してるときに少し下にある薄い胸の膨らみが気になって、先端の桜色を幻視してしまったり。
ときには、むき出しの眩い太ももから、付け根にある割れ目を想像してしまったり。
そう、つまりはついついフェイトが気になってしまい、甚だ集中力に欠ける顛末だったのである。
いや、でもそれだけであればまだ良かった。
今日は浅いところを確認に回っていただけだし、ちょっと調子が悪いくらいで誤魔化せる範疇のはずだった。
一番まずかったのは、そこから関連して、午前中は意図的に頭から追い出していた昨晩の所業を思い出してしまったことである。
具体的に何をしでかしたかというと、裸召喚の件でどうにも眠れなかった俺は、フェイトの裸を思い浮かべながら欲望を処理してしまったのだ。
こんな環境に放り込まれて命を脅かされ続け、いつの間に随分と溜まっていたのは確かであるのだが、そんなもの言い訳にもなりゃしない。
フェイトの体を見ると裸身を思い浮かべてしまい、裸を思い浮かべると昨晩の処理を思い出してしまい、そうなると酷い罪悪感に襲われてフェイトの顔をマトモに見れなくなる。
こんな精神状態でマトモに動けるわけがなく、フェイトからこっぴどくお叱りを受けてしまうのも当然のことであった。
命の掛かった戦場において余計なことを気にして集中力を散漫にするとか、本当に死んでもおかしくないのだ。
涙ながらに詰め寄られて、平身低頭するしかない。
「本当に……どうしちゃったの? 何か悩みがあるなら、言ってよ。私じゃ、頼りにならないかもしれないけど……」
「ごめん、本当にごめん。でも、そんなんじゃないんだ。今日はちょっと調子が悪かっただけで、明日からはちゃんとするから……!」
挙句、心配かけた上に気まで使わせてしまった。罪悪感で死にたい。
でも理由なんて言えるわけもなく。
そんな俺の様子に、暫く何事かを考えていたフェイトは、こう言った。
「もしかして葉月、まだ昨日のことを気にしてるの……?」
グハァッ!?
き、気づかれてしまった!?
「だって、今日は何かずっと、私の方をチラチラと見てたし……」
気づかれてた!
エロい目線で見てたって、気づかれてた!?
「朝のでもう解決したんじゃないの? それとも、やっぱり私のこと怒ってるの……?」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
「そうじゃなくて?」
なんでそうなるんだ。
フェイトに悪いことなんてどこもない。悪いのは全部自分だ。
そう思って否定しようとするも、顔を寄せてじっと見つめられ、とても耐えられなくて目を逸らしてしまう。
「目も合わせてくれないんだ……」
「違うから! ええとな……」
泣きそうな顔でそんなことを言わせてしまった。
フェイトが今にも零れ落ちそうに目を潤ませてるのは、全部自分のせいである。
全くもって不甲斐ない話であり、何としてもこのままにしておくわけにはいかない。
だからと言って、正直に話すことなんてとてもできない。
フェイトに嫌な思いをさせた上に自分も苦しむだけだ。
うずく良心をねじ伏せながら必死に捻り出した説明は、フェイトの、女の子の裸を見てしまった罪悪感でつい気にしてしまったと、それだけだった。
スケベ心に気づかれていなくて本当に良かったとホッとしてしまう自分が、実に醜くて嫌になる。
「そんなこと気にしなくて良いって言ったのに……」
「そう言われても、気になっちゃうんだよ……」
「そういうものなの?」
「そういうもんなの」
嫌にはなるが、何とか納得してくれたようでやっぱりホッとする。
今日は醜態を晒してしまったが、明日からはまたいつも通りに戻れるだろう。
「あ、そうだ」
と、そう思っていたところに、彼女は特大の爆弾を放り込んでくれた。
「じゃあ、今日は一緒にお風呂に入ろ?」
それならお互い様だよね、なんて付け加えながら。
一転、機嫌を直したフェイトに引っ張られ、流されるままに更衣所まで案内させられてしまった。
自室にはマトモな風呂なんてついてない、しょっぱいシャワーがあるだけだとは抵抗してみたが、それでも構わないとか。
今までは時間もなかったし一時的な仮の体だからとそのままにしていたけど、迷宮から帰って埃っぽくなってると、お湯で流したいという欲求はあったらしい。
更衣所に着いたフェイトは、早速とばかりにバリアジャケットを解除し、上着を脱ぎ始めた。
こちらとしては、このまま流されていいのか、強引にでも跳ね除けるべきじゃないのかと仕切りに心の中から訴える声が聞こえるが、どうしても実行に移せないまま右往左往している。
「どうしたの、葉月? 」
「いや、やっぱりこれは不味いんじゃないかと……」
「不味いって、何が?」
「あー、うん。女の子は、そう簡単に肌を晒しちゃ駄目だと思うぞ」
露出の高いフェイトに言うのはどことなく間が抜けてる感があるが、今は冗談ではない。
欲望に流されずよくぞ言ったと、自画自賛したいところである。
「でも、葉月はもう見たでしょ?」
「あれは事故だって!?」
「フフ、冗談だよ。意地悪言ってゴメンね」
心臓に悪い冗談はやめて欲しい。
「でも、簡単じゃないよ? 葉月だから、だよ」
心臓に悪い発言はやめて欲しい。
「それとも、葉月は私とお風呂に入るの、嫌? 嫌ならやめるけど……」
「い……嫌、じゃない」
すまん、無理だ。嘘はつけない。
「本当? 無理してない?」
「ちょ、ちょっと恥ずかしい、かな」
「なんだ、葉月も同じなんだね。本当は私も、ちょっとだけ恥ずかしいんだ」
なんだー、そうかー、同じなんだー。ハハハウフフ。
なんて、笑い合ってる場合じゃなくて。
「あ、そうだ! そういえば、できることなら何でもする、って言ってたよね。朝」
あれ、そんなこと言ったっけ? 言った気がするな、そういえば。
「それじゃあ、これで今日のこと全部許してあげる。というのはどう?」
あれだけやらかして全部許すとか、天使か。いや、今は小悪魔だった。
なんか今日はいやにフェイトが積極的な気がする。
おかげでこっちの調子も狂いっぱなしだ。
いつもならおかしく思うシチュエーションなのかもしれないが、もう自分もいっぱいいっぱいなのだ。
フェイトと一緒にお風呂という誘惑にはいかにも抗しがたく、鈍りまくった思考のままとうとう、わかった、それでいいよと頷いてしまった。
シュルシュルと衣擦れの音を立てながら、一枚また一枚と服を脱いでいく。
既にフェイトは上着にズボンも取り払い、今はシャツの裾に手をかけている。下半身を覆うのは白いパンツだけで、スラリと伸びる太ももが眩しい。
いや、太ももは普段から露出しているわけだが、股間を隠しているもの自体が秘されるべき下着であるというだけで雰囲気が全然違う。
何というか、とても、犯罪的だ。
もちろん、フェイトの脱衣姿をじっと観察しているわけにはいかない(そうしたいのはやまやまだが)ので、あくまでチラ見にとどめて自分も脱ぎ始める。
シャツはもう脱いだ。
そしてズボンに手をかけたわけだが……下半身に血が集まって、ヤバイ。幸い下は大きめのトランクスだから、少しくらいなら誤魔化せるだろうか。
そんなことを考え逡巡しつつもまたフェイトの方をチラリと見ると、目があう。
「え、えと。葉月も、大分たくましくなったよね」
「そ、そりゃあ、こっち来てからずっと鍛えてるしな」
どうも彼女も、こちらが気になってチラチラと窺っていたらしい。
考えてみれば、彼女の周りに大人の男はほとんど居なかったはずだ。
恥ずかしげにしながらも、興味深げに俺の体を見ている。
さすがにこちらも恥ずかしいのでやめて欲しいと伝えると、慌てて背を向けた。
前から彼女の姿を見られないのは少なからず残念ではあるものの、これはチャンスだ。
素早く下を全て脱ぎ捨て、タオルを手に取って半勃ち状態の息子を隠すことに成功する。
完璧だ……。
脱ぎ終えてしまえば、あとは軽くお喋りでもしながら、ゆっくりとフェイトの後ろ姿を眺めるだけである。
「私ね、こういうの、ちょっと憧れてたんだ」
「こういうのって?」
「ほら、私、父親の顔も知らないから……」
なるほど、幼いころに一緒にお風呂に入った記憶もない、と。
「あ、でも、葉月が父さんみたいとか、そういうことは思ってないよ!?」
うん、そう思われていたらさすがにショックだ。せめてお兄さんにして欲しい。
……散々情けないところを見られてるし、もしかしたら弟扱いされている可能性も否定しきれないのが辛いところである。
そんな話をしてる合間にフェイトは下着も足から抜き取り、一糸まとわぬ姿を晒す。
以前は前から、今回は後ろから見ているわけだが、フェイトの裸は本当に綺麗だ。
日頃から訓練を積んでいる成果であろう、歳の割には鍛えられていて、痩せ細っているわけでもないのにスマートな体型を形作っている。
もちろんガッチリしていたりなんてことは全くなく、ひきしまった筋肉の上には薄っすらと脂肪が乗り、滑らかで少女らしいラインを描く。
まだ二次性徴が始まって間もない頃だろうが、それでも乳房や臀部が発達し始めてたり、腰がやや括れてきているのは見て取れた。
そして肌は驚くほど透き通るように白く、シミやホクロ、傷も全然見当たらない。そういえば彼女はクローンで、見た目の年齢以上に外の世界に出てからの時間は短いんだった。(鞭の傷跡も残っていないようで良かった)
あの肌に触れたら、いったいどんな感触がするのだろうか。
そんな不埒な思いを押し込めながら、俺はフェイトを浴室へと案内するのであった。
ところで、フェイトも前くらいは隠してもいいんじゃないだろうか。……見るけど。
先にも言ったように、俺の部屋についている浴室はとてもしょぼい。
何せ初期設定のままだ。プールにあるようなシャワーから、辛うじてお湯が出るレベルである。
今なら多少の余裕はあるし、もっといいものを『ショップ』で購入することもできたのだが、どうせ自分一人しか使わないのだから構わないだろうと思っていたのだ。
しかし、こんなことになるとわかっていたのなら、もっといい設備に更新していたものを……。
ちなみに当然のようにシャワーヘッドも一つしかないため、二人で共用しなければならない。
なかなかハードルの高いプレイだ。プレイ言うんじゃねえ。
取り敢えずフェイトを前に立たせる形で、お湯を出す。
「ふふ、ちょっと狭いね」
「だから言ったろう?」
部屋自体も狭いし、何より一つのシャワーを二人で浴びてる以上、かなり近づく必要がある。
つまり、下を見ると自分の胸元あたりにフェイトのつむじが見える。
心なしか、湯気に混じって甘い匂いが立ち上ってくる気がする。
「うん。でも、何だか楽しいね」
「そうか?」
「そうだよ。戦うばかりじゃなくて、二人で何かをするのは楽しいよ。葉月は、そうじゃない?」
「ああ……そうだな。うん。楽しいな」
「でしょ」
二人で一緒に風呂だなんて、いったいどうなることかと思ったが、とても和やかな雰囲気でいい感じだ。
素晴らしく目の保養にもなったし、あとはこのまま上がって、明日からはまたいつも通りにやっていけるだろう。
……などと、すっかり油断していた。
だから、回避できなかったのだ。
フェイトがシャワーの範囲からはみ出た部分を流すために、半歩後ろに下がるのを。
「あ……きゃっ」
「おっと」
フェイトの踵が、一瞬だけ俺の足の甲に乗っかった。大して痛くもないし、何の問題もない。
フェイトの後頭部が、俺の胸元にぶつかる。それは一向に構わない。
フェイトの背中が、俺のお腹に寄りかかっている。幾らでもバッチコイだ。
フェイトの腰に、俺の固くなったナニの亀頭が押し付けられている。大問題だ。
ちょっと擦れて気持ちいい……なんて考えている場合じゃない。
さっ、とバランスを崩したフェイトの肩を支え、前に戻してやる。
フェイトの柔肌が離れていくのを残念にも思うが、それすらもこの問題の前には霞む。
「あ、ごめんね。ありがと……う?」
頼むから、気づいてくれるなよ。
そんな俺の願いは、即座に裏切られたわけで。
ぶつかったときに何か違和感でもあったのだろうか。お礼を言いながら振り向いたフェイトの視線は一瞬だけ下を向いた。
あくまで一瞬であり、すぐにこちらの顔の方に向けていたのだが、その一瞬で見えてしまったのだろう。次の瞬間には目を見開いて、猛然と顔ごと下を向いた。
その視線の先にあるのは、俺の股間。そこから生える、そそり立ったブツ。
「あ、フェ、フェイト! ち、違うんだ! これは」
いったい何が違うのか、もはや自分でも何を言っているのかわからない。
このとき俺の頭を占めていたのは、ただ「終わった」という言葉のみである。
見られてはいけないものを凝視され、完全にパニックになってしまっていたのだ。
そしてこのパニックは、フェイトの予想だにしなかった反応で更に明後日の方向へとかっ飛んでいく。
「は……葉月、な、なにこれ! どうしちゃったの!?」
「違うんだ、話を聞いてく……おうっ!?」
「おちんちんがこんなに腫れちゃって、どうしたの!? 病気じゃないの!?」
この瞬間、股間から脳髄まで電撃が走った。
猛ったモノが、柔らかく、温かいものに包み込まれた感触。
そう、フェイトの小さな両手が、俺の股間をギュッと握り込んでいたのだ。
「ひどい……パンパンに膨れ上がってる。大丈夫? 痛くないの、葉月?」
あくまで、彼女にあるのは心配一色である。
不安そうな顔でジッと元気いっぱいのナニを見つめながら、微かにさすってくる。
「あ、ああ。大丈夫、大丈夫だから、落ち着いて。な?」
すぐにでも彼女を引き剥がさなければならない。
でも離して欲しくない。
二律背反に苛まれ、まるで積極的な行動に移れない。
「本当? 変な無理とか我慢なんて、しなくていいんだよ……?」
それが、臨界点だった。
その言葉で、風呂に入る前からずっと我慢し、押し殺し続けていた何かが解き放たれてしまったようだ。
つまり、具体的には、だ。
「きゃあっ!?」
暴発してしまったのである。手の刺激とかに耐えかねて。
先端から放出された白い粘液は、間近に見ていたフェイトの顔面を汚し、胸元に飛び散り、お腹にまで流れた。
「な、なにこれ。膿……? こんなものが、おちんちんの中に溜まっていたの?」
フェイトの手の中で発射するのは、凄まじいまでの快感と解放感を俺に与えた。
今だったら何でも許せる気がする。今は何もする気はしないけど。
「あ、萎んできた……。ねぇ、葉月。これ、どうなってるの。本当に、大丈夫なの?」
一方のフェイトは、自分の顔や体が汚されていることには全く気にかけず、変わらずこちら(の顔と股間)を不安げに、心配そうに見ている。
こんな良い娘に何も知らぬままこんなことをさせてしまって、俺は地獄へ落ちるべきなのかもしれない。いや、落ちるべきだろう……。
溜まっていた欲求を放出したことで、気づかぬ間に茹だっていた頭もすっかり冷えた。
いったい何をやっているのだろう、俺は。
フェイトの好意に漬け込んでいやらしいことさせて、これじゃあただの変態、いや、性悪な変質者以外の何者でもない。
このまま暫く一人で落ち込んでいたい気分だ。
だが、そうするわけにはいかない。
俺のことなんてどうでもいいが、フェイトだけは安心させてやらねば。
タオルでフェイトの顔を拭ってやりながら、俺はこれが病気でも何でもないこと。心配することも気にすることも何もないことを、説明した。
ただ、フェイトは今ひとつ納得し切れていないようだった。
まあ、詳細を省いていたのでそれも仕方ない。だからと言って、今ここで彼女に性教育するなんて、俺には無理だ。
とにかく心配する必要はないということだけを強く言い聞かせて、何とか引き下がってもらった。
「葉月がそう言うなら信じるけど……もし何かあったら、遠慮せずに言ってね?」
もう本当に必死だった。
近くから向かい合って何もかも丸見えだったが、そんなことも気にしてる余裕はないくらいだ。
「あ、そうだ。リンディ母さんやクロノに相談すれば、何かわかるかも」
このことは絶対に、誰にも言わないでくれと、今日一番の必死さで頼み込んだのは言うまでもないだろう。
この後は、特に変わったことは何もなかった。
風呂から上がってすぐにフェイトは帰ったし、次に来たときはもういつも通りだった。
……いや、悪い。少し嘘付いた。
暫くはこのことが忘れられず、集中力を欠いて叱られることもあったが、大きな問題には繋がらなかった。
また一緒に入ろうなどと言われることもなかったが、それは残念でもあり、ホッとしたことでもあった。
こうして一旦は迷宮の日常に戻った俺たちであるが、フェイトが学校で性教育を受け、あれが何だったのかを知ったとき、また一騒動起きることになる。
それは、また別の話。
[オマケ]
夕食後にシャワーを浴びている最中、いつもの感覚が走った。
それが、あ、葉月が喚んでくれたんだなと、私に教えてくれる。
こんな時間にどうしたんだろう、何かあったのかな。
最近は召喚時間が長くなったこともあって、日中だけで済ますようになっていた。
緊急事態だったら大変だけど、最初の頃みたいにちょっと話すために喚んでくれたのだったら嬉しいかも。
なんて、しばらく呑気に考えていてから、ふと気づく。
召喚されたときは、そのときの服装や格好のまま向こうへと行く。
今、私はシャワーを浴びている。
つまり、何も身につけていない裸なわけで……え、ど、どうしよう!?
大変なことに気づいて思わずパニックになっているところに、追い打ちのように向こうから記憶が戻ってきた。
「…………~~~~!!!」
思わずシャワーヘッドを取り落とし、うずくまってしまう。
見られた。見られてしまった。どうしよう、すごく恥ずかしい。
『フェイト、どうしたんだい!? (精神リンクが)なんかすごいことになってるけど!』
「だ、大丈夫! ちょっと滑っただけ、何でもないよ」
『そうかい? それならいいんだけど……』
いけない。大きな物音を立てたから、アルフに心配させてしまった。
今ひとつ納得してない風であるアルフを説得し、気を取り直す。
そうだ、大丈夫。全然大丈夫。ちょっと裸を見られただけ。
これが全然知らない人だったら嫌だったけど、葉月なら別に嫌じゃない。
ほら、家族なら一緒にお風呂くらい入るはずだし。なぜかクロノは恥ずかしがって入ってくれなかったけど。
うん、だからへっちゃら。
ちょっと(本当はものすごく)恥ずかしかったけど、こんなこと気にしちゃ駄目だよね。葉月にも失礼だ。
ああ、でもどうしよう。
いきなりだったから、びっくりして大声を出しちゃった。
葉月、怒ってないかな……?
次に喚ばれたとき、謝らなきゃ。
この後、これを切っ掛けに色々とエスカレートしていくなんて、このときの私には全然思い至らなかったのでした。