【注意】
・この作品は非公式に書かれた「艦隊これくしょん」の二次創作小説であり、原作ゲーム様とは一切関係ありません。
・性的な表現を含みます。
・ガールズラブ描写を含みます。
・一部暴力的、過激な表現を含みます。
・創作提督が登場します。
・文責は全て筆者にあります。
一つ、吐息が零れる。呼応するようにもう一つ。
ここにはふたりしかいない。いくつかの意味で。もしくはすべての意味で。
静かな月明かりがふたりの輪郭を浮き上がらせている。うっすらと舞う埃は光の帯になって、銀砂を撒いたようにきらきらと綺麗だ。
わたしがゆっくりと赤城の腰に手を回すと、白い肌の向こうにある筋肉がビクンと跳ねて、それから彼女は僅かに身を硬くする。そんなに緊張しなくてもいいのに、と思うのだが、かく言うわたしだって四肢が強張って絡繰り人形みたいな動きなのだから説得力など欠片もありはしない。初めはおずおずと、次第に激しく肌と肌が触れ合う。ふたりの接触面から冷たさが、続いて静かな温かさが伝達される。わたしたちは。わたしは。彼女は。静かに完結している。わたしはそう願っている。完結しているものは美しいと、わたしは素朴に信じている。
わたしの手が、ゆっくりと彼女の肢体を愛撫していく。彼女はされるがままで、息遣いだけが彼女の歓びを物語っている。お互いの顔は見えておらず、わたしはそのことに少なからず安堵を覚えている。
今のわたしは、きっとどうしようもなく醜いから。
わたしたちは求め合っている。わたしはそう信じている。彼女が何を思ってわたしに抱かれているのかを、わたしは絶対に知ることが出来ない。最も親密な関係の相手でさえ他者で、個人と個人の間に横たわる深い溝を越える方法を、人類は未だ発明するに至っていない。きっとこれからも、そんな方法が発明されることはなく、全ての愛は泣きだしたくなるほどに残酷であり続けるのだろう。理解したいと望みながら、決して理解すること叶わぬ一組の罪の形。それは普遍的にわたしたちを呪っている。
だからこれは愛し合うなんて呼べるものではなくて。もし彼女が真にわたしを愛してくれているのだとしても、わたしたちは一方的に愛するだけの、一組の孤独な個でしかいられない。
何かを愛する限りにおいてわたしはどうしようもなく傲慢で。だからきっとどうしようもなく醜い。
それならば。理解しえぬことは、あるいは祝福なのかもしれない。己の醜さを知られないで済むから。相手の醜さを知らないで済むから。
「提督」
彼女は囁くように、わたしの耳元にぬるい息を吐きかける。
「赤城。まだその呼び方なの」
わたしは彼女の名前を呼ぶ。
呼び方なんてのは呼ぶ方が決めるものだ。そんなことは知っている。それでも名前で呼んでもらいたいな、なんて考えているわたしは人間らしくどこまでも滑稽だ。愛というものの大半がそうであるように。滑稽と滑稽を積み重ねて愛は形作られる。そんなことを誰かが言ったような気がしている。喜劇は時に、悲劇よりも悲しげだ。
赤城がわたしの背中に腕を回す。視界の端に映る、痛々しい程にほっそりとした首筋は、戦場に向かう彼女とはまるで別人かのように儚げで、堪えがたい感情がわたしの胸に湧き起こる。白く、傷だらけのその腕はひんやりとしていて、その動きはどこか寂しげだ。長い黒髪が肩にかかってくすぐったい。わたしはここにいるじゃないか、そう思いながらわたしもゆっくりと手を動かす。彼女がかすかに震える。わたしもきっと震えている。わたしたちは異質な者同士で、だからわたしは彼女を求める。足りないものを埋めるために。わたしたちは互いを奪い合う。
そっと触れる彼女の身体は傷だらけだ。わたしの指先が背中の裂傷痕をなぞる。
「あっ……」
赤城の身体が弾けるように反り、わたしは彼女の傷を撫でる。腕の傷を、背中の傷を、首筋の傷を、腰の傷を。愛おしく、狂おしく、悶えながら。熱気がわたしたちを包み、思考が染められていく。
ヒトを拒む異形との戦いは彼女から多くのものを奪ったし、わたしはその戦いに勝利するため望んで代価を差し出した。死なないために、彼女の身体は人間であることを辞めなくてはならなかったし、わたしの心は人間であることを辞めなくてはならなかった。17人。わたしの命令で死んだ、わたしの部下の人数。全員の顔と名前と死んだその日をわたしは覚えている。
『8人。私を庇って沈んだ僚艦の数です。34人。還ってこなかった飛行機乗りの数です。忘れてはならないから、こうして毎日思い出すようにしています。無数の死の上に立つ私の命は、もう私だけのものではないから』
笑っているのに泣きそうな顔が脳裏に浮かぶ。目の前の彼女の顔にそれは重なって溶けていく。
『私たちは、救われないんでしょうか』
どちらからともなく、身体が離れていく。汗ばんだ肌に夜の空気が冷たい。わたしはようやく、彼女と目を合わせた。顔を伏せることはしなかった。
醜さを、その眼に晒したくなってしまったから。醜悪な欲望を、肯定してもらいたかったから。赦してほしくなってしまった。それが嘘でも構わない。わたしが信じさえすれば、嘘は嘘ではなくなるから。
彼女の眼は月の光を孕んで息を飲むほど美しかった。ああやっぱり。わたしは赦されていない。赦されたいと願ってしまうほどに醜悪な生き物を、赦さないでください。ねえ。赦して、赦さないで。
赦しも、救いも、わたしには相応しくないから。
だからこれは罪と罪を重ね合わせて、互いの傷を舐めあう儀式だ。儀式というものにつきものの神聖さなら十分だし、儀式というものが孕む愚かしさは言うまでもない。
母を求める幼子のように、わたしたちは何度も何度も唇を合わせた。
「どうして私たちはこうあらねばならなかったんでしょうね」
答えなど初めから期待していないのだろうその問いは、宙に浮いて何度だってわたしたちを切り刻んでいる。わかりやすい答えなんて、そんなものありはしないのだ。それでも問うてしまう気持ちはわたしの中にも存在していて、だから痛い程に突き刺さる。
傷を舐めあって、傷を抉りあう。痛みが伴い、単純な感覚だからこそ妄想の触媒になりうる。わたしと貴女が、同じ感覚を共有しているという、子供じみた妄想の。
わたしは問いに答えない。グッと彼女を抱き寄せると、その唇を奪う。喰らってしまう程に激しく舌を絡ませる。互いの唾液が混ざり合う。熱を持った体液がわたしたちを一つにしていくかのような感覚を与える。激しく口づけをしよう。何も言わないでいい。言葉はいま、必要とされていないから。
沈黙しても構わないのだ。語り得るものすべてを、語らなくてもよいのだ。
互いの乳房が触れ合い、擦れては快感を高めていく。ピンと乳首が硬くなって、触れ合う度に小さく声が零れる。わたしは腰を動かす。わたしたちの局部が擦れている。彼女は腰を振る。呼応してわたしの腰も浮き上がる。汗と、涎と、愛液と。体液を混ぜあい、わたしたちはどうしようもなく神聖で卑俗だ。
ごうごうと風が吹く音が聞こえる。雲が月を隠し、わたしたちは暗闇の中に置き去りにされる。
わたしは赤城の身体をシーツに押し倒す。単純な力比べならわたしに勝ち目はないが、彼女はわたしにされるがままになっている。汗ばんだ髪は乱れて、べったりと身体に貼り付いていた。むっと立ち上る匂いが、わたしの劣情を煽る。
暗闇の中に赤城の白く美しい肢体がぼんやりと浮かびあがり、わたしは奪い尽くし食らい尽くすけもののような乱暴さで、彼女の上に跨った。
わたしは手探りで彼女の身体を撫でる。その乳房を、その傷だらけの腹部を。一つ一つの傷を確かめるように。そしてゆっくりと、わたしは彼女の秘部に手を伸ばす。
「……っ」
押し殺した声が、噛み締めた歯の間から漏れている。わたしは手を止めない。彼女の呼吸音が、喘ぎが、少しずつ大きくなっていく。
わたしは赤城の身体に倒れ込む。唇を重ねては離し、離しては重ねる。猛禽が獲物をついばむように。丁寧に、荒々しく。愛をこめて。
わたしの右手は彼女の秘部を激しく責めており、彼女はまだ声をこらえている。顔を胸にうずめ、その隙間を舌で舐める。さっきから身体が燃えるように熱い。熱に浮かされたように、わたしは赤城を求めている。熱気に突き動かされるまま、わたしはさっきよりも激しく手を動かす。ぬるりとした感触と共にわたしの指が吸い込まれ、ビクンと何度も彼女は身を竦ませる。
肩に鋭い痛みが走る。赤城の指が、爪が、わたしの肩に食い込む。ドロリと生暖かいものが身体の表面を撫で、少し遅れてそれがわたしの血液だと理解する。
肉が抉れていくのを感じて、わたしはえも言われぬ背徳と快感に身体を震わせる。
ああどうか。もっと抉って、もっと愛して。しゃぶり尽くすように、喰らってしまうように。
「うっ……あっ……」
わたしが赤城の乳房に噛みつくと、彼女の手に力が籠る。強く、弱く。激しく、優しく。わたしは歯を立てて、赤城の白い肌に、醜いわたしの証を刻んでいく。失うのを恐れているかのように。
「私も……私も貴女を、全部、食べてしまいたい」
赤城が喘ぎながら、息も絶え絶えに零したその言葉に、わたしは胸の芯が疼くようなざわめきを感じる。それはまるでざらりとした砂を舐めるように痛々しく、甘美で、脳の髄まで溶けてしまいそうで。少し躊躇った後、わたしは無言で同意を示す。彼女の眼が光った。
赤城の頭がぐわりと動いて、わたしの肩に覆いかぶさる。そのままわたしたちはもつれ合い、暴力的にお互いを求めた。気づけば赤城がわたしの上に圧し掛かっている。
そうだ。喰らってほしい。わたしを。わたしの罪を。わたしも貴女を喰らうから。
彼女の白い歯が光って見えた。一瞬あって、左肩に犬歯が突き立てられる。
噛み締めた歯の間から、抑えた呼吸音が零れてひゅーひゅーとうるさい。だらだらと血液が流れだし、肌を切り裂かれ肉を抉られる痛みはすぐに快感へと変わる。
わたしも彼女の肩に噛みつく。白い肌から赤い血が溢れて、わたしたちの肌に筋を刻んでいく。口の周りをべったりと血で汚したけものがふたり、狂おしいほどに互いを求めている。その光景はおぞましく、神聖で、本当はいつだって、どこでだってそうなのだ。
わたしの手は彼女の秘部を撫でまわす。彼女の手がわたしの腰に回り、鼠蹊部をゆっくり下って秘部に触る。噛みつく口とは正反対に、優しく、戸惑っているかのようで、それでもわたしの頭は一瞬で真っ白になる。
声は抑えたつもりだった。できていたかはわからない。
血と汗と涎と愛液と、混ざり混ざってわたしたちは一つの生き物になっていく。少なくともわたしはそう感じている。それはどうしようもなく一方的で、だからどこまでもこれは略奪だ。
一組の罪。互いを食い合い、奪い合い、犯し合う双頭の蛇。
わたしの秘部と、赤城の秘部が優しく重なる。口づけをするように、甘く、優しく、痛々しく。わたしたちは互いを求め、互いを慰め合う。
ピン、とわたしの腰が跳ねる。きっとわたしは笑っている。泣いているように笑っている。死者の数を繰り返し繰り返し数えていた赤城のように。
肌を重ねた回数はわたしの罪だ。赤城の罪であるかどうかは、わたしには判断できない。それは彼女だけが知っている。
お互いの手を、指を絡め合う。激しく腰を振る。口の中に広がる血の味を感じながら、わたしは苦痛に、快感に、苦しみに、愛おしさに悶えている。
「ねえ、これが、愛、なんでしょうか」
途切れ途切れに彼女が言う。言葉を紡ぎながらわたしの肉を傷つけていく。
「私は、愛を、知ることが、できたんでしょうか」
蝋燭の火が一瞬激しく燃え上がるように、身を震わせて彼女は絶頂を迎えた。わたしはまだ激しく、苦しく、静かな悦びの中にある。それもすぐに変わって、わたしは静かに、満たされた心で彼女を感じていく。
もう時間の感覚はなかった。終りだけが唐突に訪れて、わたしはそのことを理解した。重く気怠い余韻が部屋を満たして、起き上がることさえままならない。
「私たちは戦っています」
それは疑問の形を取らない問いかけだ。
「そうだ。君は、君たちは戦っている。君たちは戦い、わたしは卑怯者を決め込んでいる」
「皆が卑怯者です。そして皆が戦っています。提督、貴女も」
戦争は続いている。皆が自分だけの孤独な罪を背負っていて、誰も責任の取り方は知らない。わたしは自分が卑劣だと知っている。誰かを幸せにすることなんてできない。誰を不幸にしてでも、自分だけは救われたいと思ってしまう。
「傷……残っちゃいましたね」
どこからか取り出した清潔なガーゼでわたしの身体を拭いながら彼女は言う。白い布がわたしと彼女の血液で真っ赤に染まっていくのは、まるでわたしたちの生のようで。
「構わない。詰襟を着れば見えやしない。わたしも、君も」
また明日も、明後日も、わたしたちは戦争に身を投じる。ひとりは殺戮者として。ひとりは卑怯者として。
身体の傷は癒える。傷跡が残っても、痛みはじきに薄れてしまう。罪は癒えるということがない。薄れることもない。救われることもない。ならば。
どうしようもなく血まみれで、傷だらけで、罪に塗れたわたしは、貴女一人の幸せを願おう。願うことしか出来ないみたいに。
わたしは彼女を愛している。誰が何と言おうと愛している。だから――
「どこかに救いが、なくていいんだ」
わたしはやっとそれを口にする。どこかに救いがなくていいんだ。わたしたちは救われない。救われなくても、愛していていいんだ。愛されたいと願って、愛されていると信じ込んで、そうやってわたしたちは、勝手に自分を救済する。
雲が走り抜け、月明かりが部屋を仄明るく映し出した。赤城の凛々しく綺麗な瞳からは音もなく涙が溢れ出していて、わたしはそれを黙って見ている。きっとわたしも泣いている。
罪深いふたりの夜が更けていくのを、ただ黙って感じていた。
お読みくださった方、ありがとうございます。