「ほら、おいでっ!」
「……っ!」
竹藪が茂る山の中、目の前で拳を握って構える相手の言葉にハクは駆け出した。嘗て自分に襲い掛かって来た男を吹き飛ばした蹴りを意識して、走る勢いを利用しながら地面を蹴り、身体を宙で回転させてハクは回し蹴りを放つ。力の弱いハクでも放てる強い蹴り技だが、相手はそれを軽々と受け止めてしまう。
「それは何度も見てるから! それっ!」
「!?」
両手で足をガッシリと掴まれたハクは、そのまま一周回されてから空へ投げ飛ばされる。驚きながらも空中で姿勢を立て直したハクが地に足を付けた時、顔を上げたその瞬間に眉間へ拳が寸止めされた。
「もっと攻撃のパターンを増やさないと。ハクの場合は元々力があんまり無いから勢いを乗せる方法を考える必要があるかな?」
「……難しい」
「そうね。簡単じゃないけど、練習あるのみ!」
脇を締めて両腕の肘を手前に引きながら告げる女性、ヒトミの姿を前にハクは頷いた。
この世界で自分の力が如何に弱いのか、ハクはその身を持って知っている。決して優しさだけでは無い世界。ハクは背中に生えた羽、その幼げで目立つ見た目から金を目的にした危険な存在に狙われた。追手から必死に逃げ回り、紆余曲折を経て救われたハクは今、空手道を嗜むヒトミの元で力を付けようとしていた。
「取り敢えず、腰をしっかり落として正拳突きから。ふぅ……はっ!」
「……えいっ」
「もっと気合を入れて! はぁ!」
「……ん!」
しかし傍から見れば子供が大人の真似をする様な光景であり、ハク自身の鍛錬も結果が出ている様には見えない。決して無駄な事では無いとしても、自分の身を完璧に守れるまで強くなれる日が来るとは到底思えない。
「う~ん……まぁ、仕方ないか。何かあったら、私が守ってあげれば良いよね」
「……やっ」
ヒトミもそれは理解していた。ハクは強くなろうとしているが、そう簡単に強くなれる訳ではない。まだ何年も掛けて鍛錬をして、やっと勝てる相手が現れる程度の強さだ。奥の手を使えば人の力を超えた強さを身に着けられるが、制限時間と力が入らなくなってしまうデメリットを考えると安易に使用は出来ない。
危ない目にあったハクの事を知っているヒトミは放っておけなかった。ボロボロだった猫の姿、少女の姿をどちらも見ている彼女は改めてハクを守ると心に決める。
「ほら、ここに打ってみて」
「ん……っ!」
「……うん。もうちょっと頑張ろっか?」
ハクの前に立ち、彼女の正拳突きをヒトミは片手の平で受け止める。自分よりも一回り以上小さく華奢な手が繰り出すパンチが手の平に触れると、痛みも衝撃も弱いそれにヒトミは少し嬉しそうにしながら続きを促す。
ハクはヒトミにとって妹の様であり、弟子であり、特別とも言える存在。だが何時かは居なくなってしまう。今の日々を楽しく感じているヒトミはそれを想像すると怖くなる。傍に居る存在が居なくなる事への恐怖は誰にでもあるが、ハクに対しては人一倍の恐怖を感じていた。
『……バイバイ』
「待って……行かないで…………っ!」
夢の中、ハクが別れを告げて消えてしまう姿を前にヒトミは受け入れられず手を伸ばした。何時かその時が来たとしても、優しく見送るつもりだったのにも関わらず。そしてそのまま夢から覚めたヒトミは暗い部屋の中、天井に向けて手を伸ばしていた。彼女の隣には人の姿でスヤスヤと寝息を立てるハクの姿もあり、身体を起こした彼女はハクの姿を見て一安心した様に溜息をついた。
「私、このままだと笑顔で送り出せないよ……」
自身が思った以上にハクが居なくなる事に対して怖がっていると自覚したヒトミ。今のままでは良くないと分かっていても、彼女は眠るハクの姿を前に抑えきれなかった。起こさない様にハクの入っている布団へ侵入して、ヒトミはハクの身体を抱きしめる。
「暖かい……はぁ……」
猫の姿で無いにも関わらず、ふわふわとした感覚を全身で抱いたヒトミはそのまま襲い掛かる睡魔に身を任せる。
朝を迎えた時、ヒトミは自分の顔が何かに包まれているのを感じながら目を覚ました。後頭部には優しい手の感触。自分が最後にどの様な寝方をしたのか思い出した時、それがハクの手である事を理解したヒトミは自然と自分がハクに抱きしめられていると察した。
「……起きた?」
「え、えぇ。おはよう。……これは、一体?」
「……私は、知らない。……ヒトミが、潜り込んだ。……何かあった?」
小さな身体に抱きしめられながら、ヒトミはハクが言いたい事を理解する。普段から潜り込む様な事を一切しなかったヒトミが自らの意思で布団に入る込む。それは何かしらの理由があるからであり、それを知らないハクが出来る事はヒトミを安心させる事だけ。そしてその方法としてハクがした事は優しく抱きしめる、であった。
「私、気付いちゃったんだ。ハクとずっと、一緒に居たい」
「? ……居る」
「今はそうでも、何時かハクは居なくなっちゃうかもしれないでしょ? 自分の身を自分で守れる様になったり、ハクが出会った時に言った目的が果たせた時は……」
「……」
ハクは自分の事を既にヒトミへ打ち明けていた。猫と人の姿を取れる不思議な生き物である事を知られており、一時的に戦う力を持つ事も知られている。そこまで知られているならと、自分の全てを明かしたのだ。……だからこそ、ヒトミはハクが目的を果たした末に世界を離れてしまう事を。自分の前から消えてしまう事を知っていた。
「覚悟はしてる筈だった。けど、やっぱり駄目。私はハクが居ないと、耐えられない」
「……ヒトミ」
依存している事はヒトミ本人も分かり切っていた。それでもハクの存在が自身の中で如何に大きく、それを失う事がどれ程恐ろしい事なのか分かってしまった彼女は懇願する様にハクを見つめる。真っ直ぐに想いを告げられたハクはそんな姿を前に、やがてもう一度ヒトミの髪を撫でる。
「……望むなら……傍に、居る」
「ぇ……それって」
「……ん」
「っ! ハクっ!」
巡り続ける世界。自分の居場所へ戻る事を目的としつつも、それが何時叶うか分からない現実を前にハクの決意は揺れて始めていた。それは彼女にとって求めるに相応しい居場所があれば、諦める切っ掛けになってしまう程に。
自分を求めるヒトミ。彼女の傍で過ごす日々はハクにとっても満たされるものであり、確実にこの世界で自分の居場所になろうとしていた。『元の世界』と『今の世界』。ハクの中で天秤に掛けられた時、決意が揺れる事で重さを失った『元の世界』は軽々と『今の世界』に負けてしまう。
「……私も、強くなる。……でも、何かあったら……ヒトミが、守って」
「うんっ! 絶対、守るから!」
ヒトミはハクがこの世界に、自分の元に残ると決めた事を知って喜びながらハクの身体を抱きしめる。ハクよりも一回り以上大きな胸でその頭を抱きしめれば、そのまま勢い余って布団の上へ倒れ込んでしまう。喜びで心が浮いている様な感覚のまま、ハクと見つめ合う事数秒。ヒトミは頬を微かに染めた。
「ハク、大好きだよ」
「ん……私も」
自然と惹かれ合う様に、想いを口にしながらヒトミはハクの顔に自らの顔を近づける。……そして二人はその意思が本物か確かめる様に、口付けをした。
最初は触れ合う程度の口付け。一度顔を離してお互いを見合えば、何も言わずにもう一度。今度は舌を互いに伸ばして絡め合う様に。互いの息遣いと唾液が齎す水音が響く中、徐々にその気になり始めたヒトミは着ていた物を脱ぎ始める。ハクも自ら服を掴み、やがて2人は生まれたままの姿で再び布団へ入り込んだ。
「このまま、しよっか?」
「……ん」
結ばれた瞬間、抑えていた理性を解放した2人は本能のままに互いを求め合う。
ハクとヒトミは布団の中で互いを見つめ合う。やがてヒトミがハクの背中に手を回せば、そのまま腕の力で容易く引き寄せて二人は密着した。大きなヒトミの乳房と、幼げな見た目に反してそれなりにあるハクの乳房が触れ合う。そしてヒトミの中へ飲み込まれる様に、形を変えてハクの乳房は包み込まれた。
「またキス、しよ?」
「……ん」
擦りつける様な行為はせず、相手の柔らかさを胸や身体で感じながら幸せをヒトミは堪能する。そして更に相手を感じられる様に、口付けを願う。ハクはそれに頷いて、少しだけ身体を上に動かして下からヒトミに顔を近づけた。その体格差故にヒトミが少し丸くなる様な姿勢を取り、二人は再びお互いの味を求め合う。
恋人とも言える関係になった瞬間から、ヒトミはハクを求める事に我慢をしようとは思わなくなっていた。口付けをしながらもハクの腕を片腕で引き寄せながら、もう片方の腕がゆっくりと布団の中でハクの下半身へと向かって行く。密着している為、ハクはそれに気付いていた。だが何をされると分かっていても、それを受け入れる覚悟は出来ていた。
「んっ!」
「ぁ、大丈夫?」
「……平気」
ヒトミの指先がハクの秘部に優しく触れた瞬間、ビクッと身体を動かしたその様子にヒトミは触れるのを止める。だがハクは動かし難い首を少しだけ横に振って、平気だと答える。そのまま言葉を紡ぐ事は無かったが、暗に続けて欲しいと言われた様な気がしたヒトミ。彼女はハクを見つめながら、もう一度秘部に触れる。
布団の中では音も聞こえない。しかしその中は二人の体温によって微かに蒸れており、まだ始めたばかりと言う事もあってそこは濡れる前であった。膣内に指を入れるにはまだ早い。そう思ったヒトミは敏感であろう秘部の周りを優しく撫でる。時折震えるハクの身体をヒトミは再び引き寄せて、自身もその震える感触を味わいながら。
時間を気にする必要は無かった。長い時間を掛けて、ヒトミはハクの秘部周りを撫で続ける。まだ下準備とも言える段階でありながら、ヒトミはその行為を楽しく感じていた。例え相手が同性であっても、刺激を受け続けたハクの身体は受け入れる準備を終えていた。
「入れるよ」
「ん……来て……ぁ、あっ!」
ヒトミの言葉にハクは目を強く閉じながら答える。途端、身体の中へゆっくりと入って来るヒトミの指に強い快感を感じる。一方ヒトミも人差し指を試しに入れたにも関わらず、一定のリズムで脈打つ様に締めつけるハクの膣内の感触にその指だけで気持ち良くなりつつあった。
ゆっくりとヒトミは人差し指を引き抜き、今度は中指をハクの膣内に挿入する。動かしやすく奥まで届くその指はハクを確実に刺激すると共に、ヒトミをも気持ち良くさせる。もう十分に濡れて受け入れる準備の出来ていたハクの身体。ヒトミはハクの耳元に口を近づけて囁き掛ける。
「少し激しく行くよ」
「っ!」
ヒトミの手が本格的にハクを攻める為に姿勢を整える。快感に暴れてしまうであろうハクの身体を改めて抱いてから、ヒトミは膣内に入っていた中指を震わせる様にして刺激を与え始めた。予想通りにハクの身体は大きく震えるが、ヒトミの抱く力はそれを軽々と抑え込む。
「んあぁ! ひっ、んんっ!」
「んっ、私の手で気持ち良くなってっ!」
喘ぎ声を漏らすハクの口を自らの口で塞ぎながら、ヒトミは自分の手でハクが感じている事実に想いを昂らせる。
布団の中は熱気に包まれ、ハクの秘部からヒトミの指によって掬い出された愛液で濡れてしまっている。布団の中であっても微かに聞こえる水の音。やがてハクが一際大きく身体を震わせた後、ヒトミに抱かれた後腰から反対側へ反る様に身体を仰け反らせる。
「ひっ、あぁぁぁぁぁ!」
「ぁ……イっちゃったんだ」
誰が見てもそれはハクが絶頂した瞬間に他ならない。身体を震わせたハクはやがて力無くヒトミの腕の中で荒い呼吸をする様になり、ハクを絶頂させた事実にヒトミ自身は嬉しく感じていた。そして絶頂したばかりのハクに強い刺激を与えない様に、ゆっくりと入れたままの中指を引き抜く。
荒い呼吸がやがて静かになった時、ハクは眠ってしまっていた。無理に起こしてまでヒトミは続けようと思わず、そのままハクの身体を抱いて暖かさに包まれながら眠りにつく。足元が少々濡れたせいで心地悪いが、そんな事は最愛の人を腕に抱きながら眠る幸せに比べれば些細な事であった。
その日から二人の日々に一つの変化が生まれた。それは鍛錬を終えて疲れた身体で即座に眠るのではなく、疲れついでとばかりにヒトミがハクを寝る前に絶頂させる事。時にはハクから攻めようとする事もあるが、結果的には簡単に抑え込まれてヒトミの成すがままとなる。
そんな淫らな時間が大きな一日の疲れを癒す大事な時間となる。