※この作品はR-18です。

愛され過ぎた少女達   作:ウルハーツ

118 / 222
【ライザ】 キロ・シャイナス

 水を奪われた世界。そこでフィルフサと呼ばれる怪物を相手に、毎日戦いを続ける1人の少女が居た。オーレン族と呼ばれる少女の種族は人間に比べて遥かに長寿であり、孤独の中で戦いを続ける少女の永遠とも思える戦いに終わりは見えない。……そんな少女はある日、思い掛けない出会いをする。

 

「誰か、襲われてる……?」

 

 フィルフサの気配を感じて倒す為に近づいた少女は、何かがフィルフサに襲われている事に気が付いた。フィルフサには知能があり、仲間同士で戦い合う事は殆ど無い。つまり襲われているのはフィルフサとは全く違う生き物である事が確定する。そして自然がとある原因で殆ど滅び掛けているこの世界に、野生の生き物は殆ど生息していない。滅び掛けた世界で新たに生まれた新種の生き物か、はたまた異界から迷い込んだ存在か。少女は警戒しながら、フィルフサの元へ近づいた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「!」

 

 襲われている相手を確認した時、少女は衝撃を受ける。そこに居たのは自分達オーレン族とは違いながらも、綺麗な白い肌を土で汚した幼い子供。真っ赤な瞳で目の前に立つフィルフサを警戒しつつ、相手の出を伺うその様子は既に満身創痍にも見えた。恐らく異界から迷い込んだ人間。そう考えた少女は子供を助ける為に動き出した。が、その寸前で先に動いたフィルフサが子供へ襲い掛かる。

 

「っ!」

 

「駄目!」

 

 フィルフサの一撃を子供は躱し切れなかった。死には至らない様に急所を外す努力はしたものの、小さな身体に叩き込まれた一撃を受けて子供は地面を転がる。少女は急いで子供とフィルフサの間に立てば、彼女の代わりにフィルフサの相手を始めた。何度も倒して来た相手だ。少女にとってそれは凶威でも何でも無かった。

 

 戦いを経て巨体が倒れる姿を前に、少女は子供の様子を気にして振り返った。しかし、地面を転がった子供の姿は何処にも無い。明らかに動けない程の攻撃を受けていた子供が、戦いの最中に逃げ出せる余裕があると少女には決して思えなかった。……そして気付く。少女の転がった場所に、小さな翼の生えた猫が転がっているのを。

 

「まさか、この子が……?」

 

 人の姿とは違うが、ボロボロな事に変わりは無い。先程の一撃を受けた場所は目に見えて痛々しい血が流れており、少女は困惑する。野生の生き物がこの世界で生きている筈が無く、人間が動物に変わる等といった話も聞いた事が無い。だが他に可能性が無いのなら、それを信じる他に少女が出来る事は無かった。

 

 傷ついた小さな命を放ってはおけない。少女はそう考えて、その猫を苦しませない様に抱え上げる。そして自分が拠点として居る場所へ連れて行き、治療する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な出会いから数日。少女は自身の拠点で紫色の空を見上げる。嘗ては綺麗な青空と美しい景色があった世界は、異界からやって来た者達によって壊されてしまった。少女は自分の知る美しい世界へ戻す為に、異界からやって来た者達が呼び寄せ残した置き土産……この世界の文明を滅ぼしたフィルフサを1体でも倒すと誓って戦いを続ける。

 

「……お腹、空いた」

 

「もう少し待ってて。一応、食べられる物はあるから」

 

「ん……」

 

 そんな孤独な戦いを続けていた彼女の元に、新たな人物が付き従う様になった。あの時フィルフサにやられて瀕死の状態になっていた猫、ハクである。ハクは欲望を満たす相手を探して異界を巡った末にこの滅び掛けた世界へ迷い込み、襲われてしまったのだ。そして少女に助けられて、何処へ行く宛も無かった事で彼女と共に行動する様になっていた。

 

「うん。もう大丈夫。食べても良いよ」

 

「……キロは?」

 

「私はまだ、大丈夫」

 

 自然が殆ど崩壊したこの場所で食べられる物を選ぶ事は出来ない。中にはフィルフサを食べる事だってあり、その見た目はお世辞にも美味しそうとは思えないものだった。しかし他に食べる事も出来ない為、ハクは意を決して作られたそれを口に入れる。……その表情は余り変わらないものの、微かに歪んだのが少女、キロには分かった。

 

「すぐに慣れるよ。それは中々のご馳走だから」

 

「……ん」

 

 与えてもらっている身で文句を言う程、ハクは図々しくなれない。キロの言葉に頷いたハクは、我慢してそれを食べ続ける。味は微妙ながらも食べ終わった頃には十分にお腹も満たされて、ハクは手を合わせる。

 

「ご馳走様」

 

「お腹は一杯になった?」

 

「ん……ありがとう」

 

「ふふ。君が満足してくれたなら、良かった。……君はこれから、どうするの?」

 

「……」

 

 キロは助けたハクの怪我が治るまで、看病を続けるつもりだった。しかしフィルフサに作られた怪我も殆ど治り掛けており、ハクの今後について彼女は質問する。行く宛も頼る伝手も無いハクに出来る事は、キロの傍でそれを見つけるだけ。幸いにも目の前で質問するキロには満たすべき欲があり、ハクは意を決して告げた。

 

「……傍に、居させて」

 

「私の? 一刻も早く、君は異界に。元の世界へ帰るべき」

 

「……異界は……私の居る場所じゃ、無い」

 

「? どういう事?」

 

 欲望を満たす相手を探していた旅の末に辿り着いたこの異界。そしてそこで出会ったオーレン族の少女、キロ。……彼女は紛う事なきハクが欲望を満たすべき対象であった。故に彼女を傍を離れる訳にはいかず、ハクは彼女と共に居る事を願う。しかしこの世界にはもう、フィルフサしか居ない。自分の様に何処かで過ごしているオーレン族が居る可能性もあるが、少なくともキロはそれを知らなかった。だからこそ危険な場所からは一刻も早く出た方が良いと思っていたキロだが、ハクの言葉に思わず聞き返してしまう。

 

「……向こうに、居る理由……無いから」

 

「それでも、ここに居るよりは安全の筈」

 

「……やだ」

 

「…………」

 

 まるで最後は駄々っ子の様に拒否するハクを前にして、キロは困った様子で悩み始める。何時までも子供を守って戦い続けられると彼女は思っていない。出来ればこの世界から異界へ早く送り出して、またフィルフサと戦うだけの日々へ戻りたいとさえ思っていた彼女だが、そう簡単にはいかないと思うしか無かった。そしてそんな彼女の様子を見てハクは立ち上がると、突然何処かに向かって歩き始める。

 

「何処に行くの?」

 

「私も……戦える」

 

「フィルフサは危険な存在。それは君も身を持って経験した筈」

 

「ん……もう、失敗しない」

 

「……はぁ。流石に放ってはおけない」

 

 1人で行動してしまうハクを追ってキロもその場を移動すれば、やがて徘徊するフィルフサと遭遇する。キロが倒す為に構える中、その前を塞ぐ様に立ったハクが左手の甲に砂時計の絵を光らせる。そして姿を変えて、2本の剣を手に飛び出す姿を見てキロは呆気に取られてしまった。

 

 高速の連撃をフィルフサに浴びせて、ハクは戦いに勝利する。最初に出会った際、戦っていなかった事でそもそも戦えないと思っていたキロは予想外の出来事に唖然。しかし同時にどうしてあの時戦わなかったのか疑問に思い、その答えを今知る事となった。

 

「……っ」

 

「っ! ハク!」

 

 ハクの姿が元に戻り、それと同時に倒れてしまうその身体を見てキロは素早く駆け出した。明らかに疲労した様子を見せながら、ハクはそれでもキロへ告げる。

 

「私、も……戦え、る……」

 

「どうして。どうしてそこまで君は……」

 

「……一緒に、居て」

 

「ぁ……」

 

 その言葉を最後に、ハクは気を失ってしまう。フィルフサを相手に勝利を収めたハクの力は、それ相応に代償がある事が見て分かったキロ。そんな力を使って自らの能力を示してまで、一緒に居ようとするハクの姿に彼女は困惑せずにはいられなかった。だがそこまでして願うハクの思いを無下に出来る程、キロは薄情にはなれない。

 

 何時かの様にその小さな身体を抱え上げて、キロは自分達の拠点へハクを連れて戻った。

 

 その後、目を覚ましたハクと話をした彼女は折れる形でハクと共に行動する事を許す。そしてその日から、孤独だったキロの戦いには小さな仲間がついて来る事になる。彼女の戦いは、孤独では無くなったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 果たしてどれ程の時が経ったのか、長寿故に自身の年齢を考える事もしないキロと考えたくないハクはフィルフサの居るこの世界を2人だけで戦い続けていた。今まで1人で全てを熟して来たキロは最初、誰かが傍に居る事に中々慣れなかった。しかし日を重ねる毎に違和感も無くなって行き、長い時の中でハクが傍に居る日々を当たり前と思う様になる。

 

「……暑い」

 

「君はとっても抱き心地が良いから、仕方ない」

 

 拠点で最初は距離のあった2人も今ではくっ付いている事が殆ど。自身の膝にハクを乗せて、後ろから抱きしめながらその温もりを感じる事がキロの大きな癒しになっていた。戦いに明け暮れる日々に現れた癒しを齎す小さな猫の存在が、彼女に目には見えない力を与える。

 

 突然、大きな音が2人の耳に届いた。既にハクも慣れてしまった、フィルフサの齎す破壊の音。ハクを抱いていたキロはその音を聞いて、溜息をつきながら立ち上がる。そしてハクを解放すると、フィルフサを倒す為に動き始めた。

 

「無粋も良いところ。早く終わらせて、また君を抱きしめる」

 

「……勝手にして」

 

 終わりの無い戦いに小さな目標を手に入れたキロの戦いは今まで以上に圧倒的だった。フィルフサに反撃の機会も与えず、一方的な戦いで勝利を収めた彼女は目に見えない程の速度でハクの後ろへ回り、再び抱きしめ始める。余りにも速い戦いの終わりに、ハクは自分の身体を全身で感じるキロを感じながら、倒れたフィルフサの味を思い出してお腹を空かせるのだった。




常時掲載

【Fantia】にも過去作を含めた作品を公開中。
没や話数のある新作等は、全話一括で読む事が出来ます。
https://fantia.jp/594910de58
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。