クロスベルの歓楽街にある劇場では現在、クロスベルで知らない人は居ない程に有名なイリア・プラティエを初めとした劇団、アルカンシェルが練習を行っていた。誰も居ない観客席を前に舞う様に踊る者達が居る中、全く同じ時間に劇場の裏でハクは衣装が沢山用意された部屋に立たされていた。
「……踊れない」
「んなの分かってるよ。でもイリアさんからこの衣装を着せろって言われたんだ」
「……何で?」
「そりゃ、士気を上げる為だろ?」
「?」
首を傾げるハクの姿に説明しようとし乍らも、頭を掻きながら言いよどむのは1人の少年……にも見える少女。名をシュリ・アトレイドと言い、彼女はイリアの元である出来事を切欠にお世話になっていた。本来ならば彼女もまた、現在練習している劇団員達同様に劇の練習をしなければいけない。が、彼女がイリアから指示を受けたのは『特注で用意した衣装をハクに着せて見て』と言う内容であった。シュリはイリアの思惑を何となく察する事が出来、露出度の高い見覚えのある衣装を着るハクの姿を見る。
「絶対喜びそうだもんな」
「……喜ぶ?」
目の前に映る光景を自分以外の劇団員達に見せた時、劇団員の殆どはその姿を可愛く思うだろう。だがシュリはその中で1人だけ間違い無く別の反応をするであろう1人の女性を思い浮かべる。その人物はハクの飼い主であり、シュリがイリアの元で世話になり始めるよりも先に居た姉の様な存在。
「シュリちゃん?」
「あ……ちょっと俺、隠れるから!」
「?」
気付けば舞台で聞こえていた練習の音が無くなっており、衣裳部屋に響いた女性の声にシュリは瞬時に全てを理解する。今現在入り口に居るであろう女性から身を隠す為に体勢を低くして移動し、ハクとその周辺が見える位置で様子を伺う。……全く自分と同じ事をして居るであろうイリアの姿を思い浮かべながら。
「イリアさんの話だとここに居る筈なん、だ……け……ど」
「……リーシャ」
「は、ハク? その格好……」
返事が無い事で衣裳部屋の中へ入った女性……リーシャ・マオはポツンと立ち尽くすハクの姿に気付いて目を見開いた。今現在リーシャの恰好は月の姫という役で着る衣装であり、対するハクの姿も全く同じ物であった。何時そんな物が用意されたのかは定かでないが、何故かピッタリなその衣装。リーシャはその姿を前に理解するまで固まり、理解した後は早かった。逸る気持ちを抑えて軽く周囲を目視だけで確認し、ハクに近づいてその両手を自分の両手で掴むと膝を曲げて目線を同じ高さにする。唯の劇団員では無い彼女がしっかりと気配を確認すれば、部屋の中に多数の気配があった事に気付く事も出来ただろう。だが、今この時彼女はそれを怠った。
「ハク……んっ」
「ん……ぁ」
それは優しい口付けだった。同じ格好のまま唇を重ねたリーシャはゆっくり顔を離すと、ハクの露出した肩や脇腹を撫でる様に指先でなぞる。隠れて様子を伺っていたシュリはこのまま致し始めるかも知れないと固唾の飲んでその光景を見続け、やがてリーシャはハクの身体を横に……する前にその手が止まる。
「流石に衣装は汚せない……。ハク。今日帰ったらその、良い?」
「……ん」
現在リーシャが着ている衣装は本番でも使用する衣装であり、リーシャの役は2人居る主役の1人であった。特注の衣装故に汚す訳には行かず、汚れるであろう事をする訳には行かない。故にリーシャは何とか溢れる気持ちを抑えてハクに確認をした後、お礼を言ってもう1度口付けをした後に立ち上がる。……それを合図に衣裳部屋の入り口から1人の女性が姿を見せた。
「残念ね。ラブラブなところ、見たかったのに」
「イリアさん……! そこに居るのはシュリちゃん?」
それはハクを着飾る様にシュリへ指示を出し、リーシャがハクを押し倒す事に期待をしていた全ての元凶……イリアであった。彼女の登場にリーシャは全てに合点が行き、それと同時に部屋の中にあったもう1人の気配にも気付く。呼ばれたシュリは何とも言えない表情で頬を掻きながら姿を見せ、リーシャは2人の姿に溜息をついた。
「イリアさんが仕組んだんですか?」
「えぇ、まぁね。貴女がハクの事を溺愛してるのは知ってるから、ちょっとしたサプライズよ」
「サプライズ……あの、この衣装は?」
「それ、ハクに合う様作った特注だってさ」
「因みにハクに出て貰う予定は無いから、持って帰っても平気よ。何なら今貴女が着てるのも1着は予備もあるし、今からでも始めて構わないのよ?」
「こ、この状況で出来る訳ないじゃないですか!」
「あぁ、そうだった。今日帰ってからするんだもの、ね?」
既にハクと特別な関係にある事は劇団員全員が知る事実であり、リーシャもそれは知っていた。だがまさか致す行為まで見ようとするとは思わず、イリアの言葉に顔を真っ赤にし乍ら答える。その後、ハクに私服へ着替える様に言って練習に戻ったリーシャ。しかし彼女の頭の中には練習の事とは別に衣装を着たハクの姿が蘇るのであった。
夜。練習を終えて旧市街にある自宅へハクと共に帰宅したリーシャは部屋の電気を付けて一息。気付けばハクがお風呂の用意を済ませて夕飯の準備を始め、リーシャはその姿を見てから用意されたお風呂で疲れを出来る限り湯と共に流す。お風呂を済ませば料理が用意され、リーシャはそれを食べた後にベッドへ。ハクもお風呂に入り、同じベッドで横になって1日を……。
「ここに持って帰って来た衣装があるの」
「……」
終える事は出来なかった。見せられるのは劇場でシュリに着せられたハク用のミニ月の姫衣装。イリアの言う通りに持って帰って来た彼女は言葉では言わずとも着て欲しいと言う思いを伝える。何も無ければそのまま眠るつもりだったハクはリーシャが覚えていた事で覚悟を決め、その衣装を受け取ると着替える為に離れようとする。が、離れるよりも前にリーシャはその手を掴んだ。
「ここで着替えれば良いじゃない。…………ハクの生着替え」
最後の言葉は殆ど声になっておらず、ハクの耳でも聞き取る事は出来なかった。だがリーシャの目はジッとハクの身体を見つめており、ハクは自分の置かれた現状に半ば諦め乍ら着ていた服を脱ぎ始めた。初めて出会った頃との違いを痛い程に感じ乍ら。
着替えを終えたハクはリーシャに向き直り、彼女から向けられる視線に少しだけ恥ずかしく思いながら晒された脇腹等を隠す。だがその仕草までもがリーシャを刺激し、ゆっくりとベッドから手を伸ばしてハクの手を掴んだ彼女はその身体を引きずり込む様に引っ張った。普段から身体を鍛えているリーシャにハクの身体を持ちあげるのは容易い事であり、意図も簡単に引き込まれたハクはベッドの上で対面する様に座らされる。
「はぁ、ぅ!」
劇場の衣裳部屋で初めて見た時にも感じた思いが溢れ、リーシャはハクの身体を自分の身体一杯に抱きしめる。あの時は場所が場所故に我慢する必要があり、衣装の心配もあった。だが現在居る場所は自宅であり、誰にも見られていない。服装も私服故に汚れても誰に迷惑が掛かる訳でも無く……つまりリーシャは抑える必要が無かった。
「ハク」
「っ! ん……」
雛鳥に食べ物を分け与える親鳥の様に、名前を呼んで自分を見るハクへリーシャは口付けを落とした。衣裳部屋とは違い、唇を離す事無くそのままハクを抱きしめていた手で露出した背中や腹部を撫で、やがてその手はハクの胸を纏う小さな布に触れる。練習の時には全く同じ様なものを着けているリーシャ。羨ましがられる事も欲望の目を向けられる事も多い自分の胸に複雑な感情を抱く事もある彼女だが、ハクの胸を前にして思う。……おっぱいは良い物であると。
「ハク。私を脱がせてくれる? 私もハクのを脱がせるから」
「? 着た意味、無い」
「最初から裸でするのと脱がせて裸にするのは違うと思うの。それにその格好は月の姫。お姫様を脱がせるのは……興奮するでしょ?」
そのお姫様の役を普段やっているのはリーシャである。ハクは彼女の言葉にそう考えながらも、答えを聞かずに衣装の胸を隠す部分をずらし始めたリーシャの行動に言われた通り脱がす為、手を伸ばした。リーシャが寝る為に着ていた服は前にボタンが並んでいる種類であり、大きすぎる胸にその胸元は留められていない。ハクは留められた部分だけを外し、下着が見えるその光景にリーシャへ一度視線を向ける。既に自分の胸は素肌まで晒されており、ハクはリーシャの背中へ手を伸ばして外す為に弄る。その際、ハクが自分から抱き着いた事で感じる人肌と胸の感触にリーシャの顔は恍惚とした。
「……取れた」
ハクの声にその表情を元に戻したリーシャは胸元にある下着に振れる。谷間の部分に指を引っかけて引けば簡単に外れたそれをベッドの外へ放り投げ、そして大きく両腕を広げて抱き留める体制になる。まるでそれはハクを迎え入れる様に。
「ふふっ、おいで」
「……」
その言葉にハクが自ら身体を預けた時、再びリーシャの手が優しくその身体を包み込む。そしてそのままベッドに横になった時、2人は何も言わずにまた口付けを交わした。正し先程と大きく違うのはリーシャが片腕でハクの身体を抱きしめ、空いた片手でハクの臀部を撫でている事である。脱がして晒したハクの胸は自分も上半身を脱いだ故に抱きしめるだけで感じる事が出来る。自分の大きな胸をハクの自分より一回り程小さな胸に押しつけ、リーシャは布越しに臀部を撫でる。……が、当然それが永遠に続く訳では無かった。
「んっ……」
「可愛い」
左右には無い前後を隠すスカートの様な布地を捲らずに手を入れ、その中にあった下着にまで手を入れたリーシャは優しく肌を撫でる。くすぐったいのか身を捩るハクの姿にリーシャは耳元で囁き、その綺麗な声と息を耳に感じてハクの身体が微かに反応を示す。するとリーシャは撫でる手を前へ移動し始め、その指はハクの秘所を軽くなぞる。そこは既に水気を帯びており、その事実にリーシャは再び耳元で口を開いた。
「ハクも期待してくれてるのね」
「……」
ハクは少しだけ顔を動かして目を合わせ、恥ずかしいからか目を反らす。その動作を愛おしく感じたリーシャはハクに聞こえる音量で優しく微笑むと、自らの身体をハクに傾けて体制を変える。ハクは仰向けとなり、その横からリーシャが体半分覆い被さる様な体制に。小さな身体を自分の身体でベッドに押し付け、リーシャは後ろ首に手を回して口付けを落とし始める。一方、ハクの秘部をなぞった指の1本が中へ侵入を開始した。
「んっ! んん!」
「ふふっ、もっと感じて」
リーシャの住むアパルトメントの壁に防音効果は無い。故に淫らな行為を本格的に行う際、必ずリーシャはハクと口付けをし乍ら行う様にしていた。押さえつけられた声は弱々しく部屋にだけ響き、リーシャは安心してハクの膣内に入れた指を動かし続ける。そして到頭片手でハクの履いていた下着を脱がしたリーシャは足でハクの膝までそれを降ろし、ミニ月の姫衣装のスカート部分を残してハクは快感に乱れる。普段とは違う恰好はそれだけで普段以上の興奮をリーシャに齎した。
「んっ、ぁ……りー、しゃ……」
「そろそろ限界? イきたい?」
「……」
弱々しく名前を呼ぶハクの姿にリーシャは分かっていながらも質問し、頷くその姿に笑みを浮かべる。ハクには彼女がこの後何を言うのか、嫌でも分かっていた。
「それじゃあ、何時もの通りお願いしないと。ほら、聞かせて?」
「リーシャの、んっ! 手、で……ぁ……イか、せて……くださ、ぃ」
「ふふっ、良く出来ました。んっ」
教え込まれた言葉。身体に与えられる快感に頭の中が真っ白になってしまい、唯快感の頂きに達したいが為にハクはそれを口にする。優しく耳元で褒めたリーシャは何度目かも分からない口付けでハクの声を奪い、止めを刺す様にハクの膣内を擦り上げる。強い快感が引き金となり、その身体が跳ねて絶頂を迎えるまで。
「ふぅ……」
「……」
満足気に息を吐いたリーシャの腕を枕に彼女へ身体を向けて横になるハクは、リーシャと初めて出会った時の事を思い出す。彼女が今もまだ続けている劇団とは違う仕事。その仕事で傷を負った彼女と出会ったハクは、彼女が対象だった故にその傷を癒して着いて行く事にした。最初は困った様子で『危ないから着いて来ない方が良いわ』と言われたハクだが、使命の為にそれを受け入れずに彼女の傍に居続けた。結果、長い時の中でリーシャはハクと居るのが当たり前となる。……そんなある日ハクは彼女の知らない所で人の姿で行動し、その姿で彼女と出会う。そしてその際、彼女に言われたのだ。
『? あの子と同じ気配……?』
仕事上、気配等に途轍もなく敏感なリーシャは一目で人型のハクが猫型のハクと同じ存在であると気付いてしまった。言い訳する事も出来たが、猫のハクを心配した彼女に人気の無い所で何故同じ気配がするのかを語る様お願いと言う名の脅迫を受け、ハクは自分の正体を明かした。……そしてハクの存在と使命を聞いたリーシャは新たに行動した。
『今から貴女を躾ます。取り敢えずまずは私から離れられない様にするので、覚悟してください』
長い時間を1人で過ごし続け、ハクと出会って1人と1匹になったリーシャはもうハクを手放す気が無かった。何れ別の世界へ消える。自分の元から離れる。その事実を知った時、彼女がとった行動はハクを自分無しでは生きていけない身体にする事だった。持っていた暗器の鎖を用いて拘束し、ハクが誓うまで何度も何度も絶頂させ、一時の気の迷いで終わらぬ様に必ず最後には決まった言葉を言わせる。何度もそれを繰り返し、気付けば言葉だけだったそれはハクの身体と心を確実に侵食し始めていた。
「明日も早いから、もう寝ましょ?」
「……ん」
既にハクの心から元の世界へ帰るという強い決意は失われていた。堕とされたハクの今は毎日の様に繰り返される彼女との日々が当たり前であり、これからも続いて行くと信じて彼女の傍に居続ける。……それが全てであった。