「大和型戦艦、一番艦。大和。推して参ります!」
建造されて一番に、私は提督であろう人物に向けて言う。私を建造した提督は女性で、優しそうな人。既に数多くの艦娘達が着任しているみたいで、鎮守府の規模も大きい。
そんな場所で提督の他に慕われている人が居る。人、で良いのかはちょっと分からない。本人は人だって言ってるからそういう事になってるけど、種族的な話で言えば猫だと誰もが思っている。
「大和に任せるよ。それじゃあ、行ってきます」
「お気をつけて、提督」
「……行ってらっしゃい」
お昼が過ぎて、私は彼女と共に提督を見送る。時折提督は鎮守府を離れる事がある。軍人として仕方のない事で、私情の時もあるからその頻度は頻繁と言ってもいいらしい。そこで出て来る話題が提督が飼っているという事になっている存在、ハクちゃんを誰が面倒見るかについて。でもそれはハクちゃんと一緒に居たい艦娘達が『面倒を見る』という要するに建前。普段ならかなり話し合いが行われたり、対立が起こるとの事。だけど今回、鎮守府に着任してまだ浅い私が提督の指名でハクちゃんの面倒を見る事に。
「さて……」
「?」
私自身、少し気になってはいた。提督さんは私達を指揮する要。憲兵さん達は提督さんや私達が問題を起こさない様に見回っている。……だけどハクちゃんは普段何をしているのだろう? 関係者以外立ち入り禁止の鎮守府では、艦娘の誰かと一緒に居るくらいしかない。提督さんの権限で居る事が許されているハクちゃんは基本的に艦娘と同じ生活を送っているけれど、それでも違う存在である事は揺るぎない事実。私生活が少し、気になってしまう。
「普段、何をしているんですか?」
「……何も。……ふぁ~」
「眠そうですね」
「ん……ここ」
「?」
「……座って」
まだ私は見た事があるだけで、ハクちゃんの事を殆ど知らない。話したのも建造された時に提督と共に自己紹介した時くらいで、何故皆がハクちゃんを気に入ったのかも知らない。偶に聞く話では『可愛い』とか『癒される』とかで、確かに戦場に赴く事が当たり前の私達にとって心のケアは大事。でもそれ以上に愛されているのが目に見える。どうしてそこまで愛されているのか……。
「こう、ですか?」
「ん……ふぁ~」
「……え?」
促されるまま、提督の執務室にあるソファへ座った私は膝に頭を乗せて横になってしまったハクちゃんを前に固まってしまう。
暖かい。少し身体を猫の様に丸くしている姿に胸がキュンとする。ちょっと良い寝心地の場所を探して頭を動かしながら目を細める姿が愛らしい。駆逐艦の子達も確かに可愛いけれど、何か艦娘には無いものがある、様な気がする。そもそも駆逐艦の子達だってハクちゃんを愛でている子の方が多いから、私にはわからない可愛いを逸脱した何かがあるのかも……?
「……」
「すぅ……すぅ……」
「……可愛い」
そんな事はどうでもよくて、他の艦娘達がハクちゃんの面倒を見たいと提督へ進言して権利を取り合う事の意味が私にもわかった。この姿を独り占めしたいんだと。得られるものは癒しとかふわふわした感情。無理に言葉で言い表すなら、幸せな時間。つい無意識にハクちゃんの頭を撫でてしまうと、驚いた様子で目を開けてこっちを見て来る。
「あ……ごめんなさい」
「……平気……ん」
「……ふふ、わかりました」
一瞬、機嫌を損ねてしまったと思った。けれどそうじゃなかったみたいで、ハクちゃんは私の手を掴んで自ら自分の頭に乗せる。言葉がなくても分かる、「もっと撫でて」と言いたいんだと。断る理由もない、止める理由もない、寧ろ撫でていたい、可愛い。皆が愛でていたい理由もよく分かった。愛でているつもりなのに、自身が一番癒されるのだから。
「……それだけじゃない」
提督が任せる時以外、誰と居るのかはハクちゃん自身が決めている。この時間を楽しみたい、ハクちゃんを愛でていたいと思う艦娘は自分のところへ自ら来てもらいたがる。だからこそ、『仲良くなる』事がこの時間を頻繁に得られる条件みたいなもの。これはある意味下心になるのかもしれない。
「……すぅ……すぅ」
「……ふぁ~。私も、眠くなってきた……かも……」
ハクちゃんの暖かさを膝周りで感じながら、その髪を撫でて心が癒されていると身体も休みたがる様に欠伸が出てしまう。この姿勢のまま眠るのは流石に少し辛い。ちょうど身体を倒せば肘置き部分が枕になりそうで、私は身体を横にした。すると、ハクちゃんが姿勢を変えて……私の身体に完全に乗ってしまう。私の胸を枕にして横向きの姿勢。頭を撫でる事は出来る上に、しようとしたら抱きしめる事も出来る。即座に私は後者を選択した。
「……お休みなさい」
もう目を開けるのもやっとになって、私はそのまま眠ってしまう。布団で眠るのとは全く違う暖かさと心地良さは確実に忘れられなくなる。今後は私もハクちゃんを任される様に頑張ろう。ハクちゃんは縛られるのを嫌っているから、基本的に自由にして良い事を尊重すれば私のところに来てくれるかもしれない。
「ただいま~って、あれ」
「ぅ、ん……? ……はっ! お、お帰りなさい、提督」
「すぅ……すぅ……」
今日の外出は少し早めの帰宅だったみたいで、私は提督の声を聞いて目覚めた。つまり帰って来る瞬間まで、私はハクちゃんを抱えて寝てしまっていた事になる。時間を確認すれば『
「す、すいません。こんな格好で」
「いいよ、別に。ハクが安心して寝てるんだから、寧ろそのままで居てあげて」
優しく微笑みながら提督はそう言って自身の席に座ると、書類を手に作業を始める。秘書官はどこにも居ないみたいで、書類の量もパッと見た限りだとそんなに多い量じゃなさそう。
「ハクと一緒に居られて少しは肩の力も抜けたかな?」
「え?」
「まだ着任してそんなに経ってないから、色々大変でしょ? 疲れちゃってるかもって思ってさ。そういう意味じゃ、ハクと一緒に過ごすのは効果覿面だからね」
「そんな狙いがあったんですか!?」
「まぁね。あ、言っとくけどハクは何にも知らないよ。もし自分から寝る様に誘ったりしたなら、多分ハクがそうしたかっただけ」
提督の言う通り、私は新しくここへ着任した事で数多くいる艦娘達との顔合わせを始め、鎮守府の構造や約束事。自分がどういうことをするべきなのかを覚えるのに時間を毎日割いていた。勿論、新しく建造されたり移動してきた艦娘達なら誰しもがやる事。だけど大変な事で、疲労していないと言えば嘘。そんな私を気遣っての事だったらしい。
「私が出てからすぐに寝た感じかな?」
「そうですね、20分くらいです」
「なら、そろそろ起きるかもね。起きたら食堂に連れて行ってあげて。寝る場所はハクに任せるから」
「はい、わかりました」
つまりこの後の面倒も私が見ていい、という事なんだろう。しかもハクに任せると提督は仰るけど、私の予想では約束が無い限り態々別の場所にはいかない気がする。となったら自然と私の、正確には私達の部屋に泊まる事になりそう。提督も多分、それを見越して今日一日ハクちゃんを私に預けようとしているんだと思う。同部屋の相手に取られないように、いっその事ずっと抱きしめて……そうすると嫌がって寧ろ離れてしまうかも。
提督は執務を済ませて部屋を後にしていった。私はハクちゃんが起きるまで、その心地よい髪を撫でながらどうやって横から搔っ攫われないかを考える。
……ハクちゃんが愛される理由を知りたかった私は、何時の間にか他の艦娘と同じ様にハクちゃんへ愛を感じていた。そして翌日から、私も皆と同じ様にハクちゃんを自身の傍における時間が来る事を願い求める行動を取る様になっていた。