※この作品はR-18です。

愛され過ぎた少女達   作:ウルハーツ

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【原神】 蛍

 私は今まで、数多くの世界を巡って来た。そこで出会った人達の欲を満たし、新しい世界へ旅立つ事を繰り返して来た。全ては元の世界へ戻る為に。だけど、果たして私の世界を巡る旅に終わりは来るのだろうか。終わりの見えない旅。その果てに元の世界へ帰れると無条件に信じたあの頃の私は、もう居ない。

 

 この世界は広かった。過去にも広い世界を巡った事はあったけれど、見渡す限りの大地と開放感は今まで以上の広さを感じさせる。私は夜に高台の崖から、世界を見下ろす。スライム、ヒルチャール族、ゴーレム。近い所から遠い所まで、暗くても私の目にはその姿が映った。……だからこそ、私にはもう何も分からない。こんな広い世界で、一体誰の欲望を満たせば良い? 一体、後何人の欲望を満たせば良い? なにも、分からない。

 

「おーい!」

 

「……」

 

 後ろから掛けられた声に振り返る。宙を浮かびながら近づいて来る謎の生き物と、その隣を歩く少女。この世界で出会った人達であり、他に行く宛の無い私は彼女達の旅に同行していた。

 

「?」

 

「随分酷い顔をしてるな? あんまり変わんないけど、オイラ達には分かるぞ!」

 

 私を見て怪訝そうに首を傾げたのは、蛍。私がこの世界で最初に出会った人。彼女は離れ離れになってしまった兄を探してこの世界を彷徨っていて、偶然出会った私達は行く宛の無い者同士、自然と行動する様になった。そして私の周りを飛び回りながら言ったのは、非常食(友達)のパイモン。旅の途中で釣りをしてたら釣り上げた魚……魚? 多分、違う。

 

「何かあった?」

 

「……大丈夫」

 

 心配そうに私の顔を覗き込みながら蛍が声を掛ける。少し悪い事ばかり考えてしまっていた私の表情は心配される程だった様子。パイモンの言葉通りなら、変わって無いらしいけど。でも彼女達に打ち明けたところで、何かが変わるとは思えない。だから私は適当に誤魔化して、2人が歩いて来た方へ足を進めた。

 

 旅をする上で食事や休息は欠かせない。今は一時旅を止めてそれを取ろうとしている時で、私の目の前には火に掛けられた鍋があった。因みに寝袋も何も無いから、寝る時は地面で。最初は抵抗もあったけれど、正直慣れてしまった。それと私は準備をサボっていたのではなく、単に順番を決めて今回は蛍の番だっただけ。パイモンは流石に難しいから、適当な手伝いのみ。

 

「今日はシチューだぞ! う~ん、良い香りだなぁ!」

 

「美味しそう」

 

「中々上手く出来たと思う」

 

 そう言って蛍が容器に入れたシチューを受け取り、私達は食べる。彼女の言葉通り、会心の出来とも言えるシチューはとても美味しかった。何度か繰り返し容器に追加しては食べる内に、すっかり空になった鍋。火も消えてしまった事で、私達の周りは暗くなる。だけど完璧に真っ暗とはならない。何故なら、この世界の空は輝く星で溢れているから。星の光が、夜でも明るく大地を照らしているから。

 

「ふぅ~、オイラは満足だ!」

 

「片付けたら寝よう。明日もある」

 

「……ん」

 

 何処へ向かっているのか? と聞かれれば、私達はきっと何処にも向かっていないのだろう。だけど足を止めてしまえば、何も変わらない。この世界の何処かに私達の目的があると信じて、それを探す為の旅がこれからも続く。時には危険な敵を相手に戦う事だってあるのだから、出来る限り疲れは取り除いておきたい。……最近、身体を洗った覚えも無いから、そろそろ街でも湖でもあれば良いなとは思う。少し、臭う気がするから。

 

「くぅ~、くぅ~」

 

 鍋を触る度に甲高い音が響くにも関わらず、お腹を満たしたパイモンはもう眠ってしまっていた。私も眠気は感じていて、片付けを終えてから横になる。慣れたと言っても髪に砂が混じるのは流石に嫌だったから、荷物である袋を枕の代わりにして。すると、背後に人の気配を感じた。別に私達以外の誰かが来た訳じゃない。ただ片付けを終えた蛍が近づいて来ただけ。そして彼女はまるで当たり前の様に後ろで横になると、私の身体に手を回して来る。いつ頃からなのかは覚えていないけれど、私は彼女の抱き枕になる事が当たり前になっていた。

 

「すぅ~……ふぅ」

 

「……大分、臭う」

 

「そんな事無い。良い匂い……おやすみ、ハク」

 

「……おやすみ」

 

 髪に顔を埋めて大きく息を吸い込むのも、いつもの事。地面で寝るのと同じ様に最初は抵抗があったけれど、もう慣れてしまった。

 

 綺麗な星明りの下、私達は眠る。明日は何か私達の旅に進展がある事を願って。

 

 私の旅にもしも終わりがあるとするなら、それは元の世界へ帰る時。だけどそれが叶わないのなら、何処かで私は別の終わりを見つけなくてはいけない。そう考えた時、私にとって元の世界へ帰る事を諦める程に価値のあるものは何なのか。……今は何も思い浮かばなかった。

 

 

 

 

 

「……ぃ……ろ! ……おい! ……おい! 起きろ!」

 

「……?」

 

 何処か焦った様なパイモンの声に私は目を覚ました。少し周りが騒がしい様な気がして、私は閉じてしまいそうな目を擦りながら周りを見る。……そしてヒルチャール族に囲まれて戦う蛍の姿が映った。まさか起きて早々、戦いの現場に遭遇するとは思わなかった。

 

「よし、起きたな! オイラ達も蛍に加勢するぞ!」

 

「ん……力を、貸して……憑依召還……!」

 

 パイモンの言葉に私は急いで立ち上がり、蛍に加勢する為に走り出した。それから少しの間、この場所は戦場になった。相手の人数は優に10を超えていたけれど、蛍はそんなの関係ないとばかりに周りの敵を軽々と吹き飛ばす。パイモンも相手に体当たりしては振るわれる武器を避けて相手を挑発し、私は迫って来る相手を取り敢えず無力化し続ける。出来る限り相手の命は奪わない様にしているけれど、正当防衛である事は間違い無いから容赦はしない。近づいた相手を蹴り飛ばせば、何匹かを巻き込んで崖の下へ。生きてても、きっとここへは戻って来ないだろう。

 

「風神!」

 

 聞こえた敵の悲鳴。蛍の手から放たれた力が相手を吹き飛ばし、先程落ちて行った彼らの後を追う様に崖の下へ落ちて行く。多少荒れはしたけれど、敵はそれが最後だった様で私達は一気に脱力した。そして同時に私の力が終わりを迎え、倒れてしまう。

 

「よっと、お疲れ様」

 

「……ん。……気付くの、遅れた」

 

「蛍があんだけ戦ってても、気付かず眠ってたもんなぁ。よっぽど昨日は疲れてたのか?」

 

「そうなの?」

 

「……分からない」

 

 私を受け止めてくれた蛍に謝れば、パイモンの言葉を聞いて彼女はまた心配そうに私の顔を覗き込んだ。そこまで自分が疲れていたとは思わないけど、分からなかっただけなのかもしれない。やっぱり連続で野宿は疲れを残してしまうのかも。

 

「街を探そう。安全な場所でしっかり休もう」

 

「そうは言っても、街なんて何処にあるんだ? ずぅっと先まで見えるけど、それらしいのは何にも見えないぞ?」

 

「ハク、お願い」

 

「……分かった」

 

 蛍も野宿の連続に限界を感じたのか、そう提案した。だけどパイモンの言う通り、私達は今高台の崖に居る。そしてそこから見下ろす限り、街も村も見当たらなかった。この場所から街か村を探すとすれば、更に高い所から遠くを見る必要がある。……つまり、私は適任だった。

 

「よし、オイラもついて行くぞ!」

 

「着地は任せて。ちゃんと受け止める」

 

「……!」

 

 羽の力を使い、私はその場から大きく空へ飛び上がった。パイモンが一緒について来る中、私達は雲の傍まで上がって周りを見渡す。パイモンは小さな望遠鏡を使って遠くを確認。私の羽には時間制限があるため、私達で180度ずつ見回し続ける。その結果、1分半程掛けて遂にパイモンがそれらしきものを見つけた様子で声を上げた。

 

「あっちに建物が見えるぞ! やったなハク、っておい!」

 

 でもそれと同時に羽の力が切れてしまう。1度目(1分)2度目(30秒)3度目(15秒)と今日の飛べる力を使い切ってしまった私はその落下に身を任せるしか無かった。パイモンが必死に引っ張り上げようとしてくれるけど、流石に彼女の力で私の落下はどうにも出来ない。だけどこうなる事は当然想定済みで、私は大きく両腕を広げて待ち構える蛍へ視線を向ける。……そして彼女は私を抱き止めて地面へ尻餅をついた。

 

「ふぅ。何度やっても焦るよな、これ。まぁ、そのお蔭でパパっと見つけられるんだけどな!」

 

「その様子だと、見つかったんだ」

 

「おう! こっからずぅっと西の方に建物が見えたぞ! それにチラっとだけど湖もあったのが見えたな!」

 

「ありがとう……行こう」

 

「ぁ……うん」

 

 パイモンの報告が終わり、私は受け止めてくれた蛍にお礼を言って離れる。その時微かに残念そうな声が聞こえたけど、いつまでも抱かれていては進めないから仕方の無い事。歩き出した私の後を追う様にパイモンが、そして蛍が少し速足で追って来て私の隣に並ぶ。それから私達はパイモンが見た建物を目指して、旅を再開した。

 

 

 

 

 パイモンが遥か上空で望遠鏡を使って確認出来た建物。当然そこへの道は短くない。道中ではスライムの様な敵とも遭遇したけれど、難なく倒して歩き続けた私達は遂に建物の存在を肉眼で確認する。……でも建物があると聞いてやはり町や村を私達は想像していた。だけど実際は小屋が一軒だけ。しかも、中に人の気配は全くしない。それどころか、人が住んでいる様子も無い。

 

「開いてる」

 

「うわぁ、埃だらけだなぁ……もう長い間使われて無さそうだぞ?」

 

「……」

 

 遠慮なく蛍が扉を開けて中へ入り込んだ。続けてパイモン、私も入り込めば扉が開いた事で舞い上がった埃に襲われる。パイモンの言う通り、明らかに誰も住まなくなってかなりの日が経っている。本来の家主は今どこで何をしているのかは分からないけれど、今の私達からすればこんな場所でも助かる。

 

「……雨風は、凌げる。魔物も、居ない」

 

「うん。今日はここを使おう。確か、傍に湖があったって言ってた筈」

 

「おう、確かに見たぞ! あっちの方だな!」

 

 パイモンの指差した方向を眺め、私は小屋を出る。そして少し歩けば、確かに大きな湖がそこにはあった。気配を探ってもスライムの様な敵は居ない様子。水も綺麗だから、安心して水浴が出来る。……久しぶりに、汚れが落とせる。

 

 私は着ていた服を傍に生えていた草むらに纏め、ゆっくり足先から湖に入った。太陽の下で照らされ続けていた湖は冷た過ぎず心地良い。深さはそれなりにある様で、中心へ行けば大体胸半分まで身体が水に浸かってしまった。少し潜って髪にも水を浴びせて、私は誰もいないのを良い事に浮かんでみる。すると、何かが駆け寄る気配に急いで体勢を整えた。

 

「もう入ってるんだ」

 

「……お先に」

 

 近づいて来たのは蛍だった。小屋の中を確認していた彼女も、ここへ来た目的は同じ。パイモンの姿が無いのは、きっともう小屋で休んでいるからだと思う。

 

 蛍は私の姿を見て少しだけ笑みを浮かべると、自分も服を脱いでから湖の中へ入って来た。そして優雅に泳ぎながら私の傍へ近づいて来れば、お腹まで沈んだ彼女が私の隣に並ぶ。すると彼女は私の傍へ到着すると同時に、水の中で身体へ手を回して来た。動く水と急に触れられた事で、くすぐったさに思わず身体が反応してしまう。

 

「蛍?」

 

「こうすれば、暖かいから」

 

「……冷たくない」

 

 水の温度を理由にするのは流石に無理がある。だけど蛍がくっ付いて居たいと思っている事は分かった。別に嫌な訳では無いから、逃げようとは思わない。だから自然と私は彼女に背中を預けて、蛍と共に心地良い水で浸かり続けた。

 

「ハクは旅の目的を果たしたら……どうするの?」

 

「……」

 

 私は蛍の質問に答えられなかった。私の目的が果たされた時、きっと私は彼女の傍には居ない。今はただ『相手の分からない誰かを探している』としか説明していないけれど、それ以上の事を説明したとして何かが変わるとは思えなかったから。

 

 何も答えない私に抱き続ける蛍の手が少しだけ強くなる。言葉にせずとも、顔を見ずとも今彼女が不安を感じている事は伝わって来た。私に関係している不安である事も、よく分かった。……私と蛍が出会ってから、まだそんなに長い時が過ぎた訳では無い。だけど同じこの世界を彷徨う者、何処か他人とは思えないのも事実だった。

 

「居なくなったり、しない……?」

 

「……」

 

 また、私は答えなかった。兄と離れ離れになってしまった蛍にとって、もう別れは経験したくない事なのかもしれない。だけど私は今までにも沢山の人達と出会い、別れて来た。人はいつの日か、1人になる。彼女と別れる時もきっと……。

 

「ハク」

 

「っ!」

 

 それは余りにも突然だった。名前を呼ばれると同時に私の身体を抱いていた蛍の腕が私を反転させ、頭を両手で掴んで強引に口付けをした。離れようと自分の腕に入れた力も、口の中へ入って来る舌にまるで奪われるかの様に入らなくなってしまう。頭の中が真っ白になって、蛍が満足気に口付けを止めた時。私はただ彼女に持たれて脱力してしまっていた。そして顔が柔らかな彼女の胸に触れる中、蛍が私の耳元で囁く。

 

「今の私に出来る事は、これしか無いから」

 

 背中に回された手が軽く押されれば、自然と顔が上を向いて彼女と視線が合う。どこか申し訳なさそうで、だけど覚悟を決めた様なその金色の瞳に私は吸い込まれそうになった。そしてもう1度口付けをされれば、私には抵抗する事も出来ない。ただ彼女の想いを受け止めつつ、終わりの見えない旅の終わりに迷うだけ。

 

「んっ」

 

「っ! ……んっ……ふぅ」

 

 蛍が前屈みになって更に深く、強く口付けをする。私は彼女の体重を支えきれず、蛍も抱きしめていた腕の力を抜いた事で、私達は自然と湖の中へ沈んだ。それでも蛍の口付けは止まらず……私も無意識に彼女の口付けを受け入れ、舌を伸ばしていた。水面を背後に驚いた様子で目を開けた蛍も、やがて気持ち良さそうに目を閉じて更に激しくする。それから息が続くまで、私達は口付けを続けて……やがて浮上すると同時に私達は再び抱き合っていた。

 

「ハク、今……」

 

「……」

 

 本当に無意識だった。彼女の口付けに答え、彼女が満たされてくれる事を私は望んだ。欲望の対象では無い彼女を満たす必要は無いにも関わらず。それがどんな意味を持つのか、分からない訳じゃない。だけどそれを認めてしまったら、私の中の大きな決意が。元の世界へ帰る意思が消えてしまいそうで、とても怖い。

 

「迷うなら、可能性はあるって事」

 

「……」

 

「なら諦めない。必ず、貴女の心を私のモノにしてみせる」

 

 胸の前で右手の拳を握りながら言い切った蛍に、先程まで見せていた不安の様な感情は一切感じられなかった。それどころか彼女は私の不安や迷いを見透かした様に、決意した瞳で見つめて来る。それが少し嬉しい様な、怖い様な、複雑な気持ちになった私は彼女から離れて水面に浮かんだ。……私の旅にもしも別の終わりがあるのなら、それはここで生きる事になるのかも知れない。

 

「……それも、悪く無い……かも」

 

「今、なんて……?」

 

「……なんでも無い」

 

 思わず呟いた言葉に反応した蛍が近づいて来る。さっきの決意が籠った凛々しい雰囲気から一転、ちょっと興奮気味で鼻息の荒い蛍から取り敢えず逃げる事にして、私は湖を泳いだ。




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