新しい世界。私の世界とは全く違う、剣と魔法の存在する世界。今までに様々な世界を渡って来たせいで、別に驚きもしない。だけどそこで出会う人物には、1人として同じ人物は存在しない。……この世界で出会って、欲望を見つけて、一緒に行動する様になった相手は所謂魔法使いだった。正確には魔術師らしいけど。
「……お腹空きました」
「……」
見た目は中学生くらい。だけど実際の年齢は30を超えていて、それが魔族故の長寿が原因だと本人から教わった。魔術を扱う
「ハクは、美味しそうですよね……」
「っ!」
そんな私達は今、空腹に襲われている。理由は単純。仕事が無くてお金を稼げず、数日食べていないから。私が言える訳ではないけど、普段無愛想な彼女の口元から僅かに涎が垂れる。あの目は不味い。確かに色々あったけど、私の最後が欲を満たす対象の腹の足しになってお終いは御免。
「……あ」
仕事の募集を探して私は必死で周りへ視線を向けた。募集自体は常に存在する。だけど彼女が受けられるか、熟す事が出来るかが問題。そこで眺めていた私は、1つの募集に目が留まった。それはとある家の家庭教師をするというもの。傍に居る間に完璧とは言えずとも覚えたこの世界の字を読んで、私は徐々に近づいて来る彼女の顔に用紙を掴んで叩きつけた。
「……これなら、出来る」
「これは……家庭教師、ですか」
何とか空腹から仕事に思考が動いたらしい。目を凝らしてその内容を確認する彼女を前に、私は何とかして稼ぐ手段を考える必要がある。もしこれが駄目だというのなら、食べられる前に次の候補を探さないといけない。
「よし。これにしましょう」
両手に持った用紙を降ろして、顔を上げながら覚悟を決めた様子を見せる。そして彼女は募集を受ける為に、行動を開始した。他にもその募集を受けようとする人物は数名居て、だけどその中で圧倒的な魔法の扱いを見せながら彼女は結果的に家庭教師の座を勝ち取った。……当の募集を出した家の人が決める訳では無いらしい。
「急いで向かいましょう。場所は……ブエナ村ですね」
「ん」
「……到着したら図々しいですけど、何か食べさせてもらえると良いですね」
「……ん」
これに関して私は反対出来ない。そもそも私が居なければ、彼女はこんなに飢えで苦しむ事は無かったかもしれないから。例え自分がお腹を空かせていても、彼女は私に食べ物を分けてくれた。その結果がこれなら、私が原因と言っていい。最初の印象は良く無い事になりそうだけど、背に腹は代えられない。
グレイラット家。そこが家庭教師をする子供の住んでいる家だった。私はルーデウスと言う名の子供に魔法を教える彼女を遠目で眺めつつ、家の手伝いとして洗濯物を干す作業をする。田舎の家だけど、メイドさんも居るグレイラット家。必要ないと言われもした。でも何もしないで過ごす訳にはいかない。猫の姿で一度、彼女の精霊として話は通してるけど、これは気持ちの問題。
「わぷっ……」
「あ」
考えていた頭が一気に冷たくなる。気持ちじゃなくて物理的に。気付けばバケツの水を被った様にビショビショになっていた私は、原因であろう2人へ視線を移した。……彼女が私に向けて杖を構えた状態で、やってしまったとでも言いたげな表情でこっちを見ている。大体察した。
「……くしゅんっ!」
別に寒くも暖かくも無い普通の気温で水を被ったせいで、比較的寒くなってしまった。くしゃみも出た。来ていたワンピースは濡れて重いし、このままじゃ作業も出来ない。ルーデウスが彼女の後ろから何かだらしない顔でこっちを見て来る中、私の状況を見兼ねたメイドのリーリャに言われてお風呂へ入る事になる。
ロキシーは魔術師として確かな腕を持っている。なのに時折ミスをする事があって、今回もその類。最初にここへ訪れて最初の授業をする際には、ルーデウスの母親が大事にしていた木を魔術の練習で使う的にして直したけど結局怒られたりしていた。長い間一緒に居たから、そんな事に巻き込まれるのは正直慣れてる。彼女の魔法で濡れるのも、別に初めてって訳じゃ無いから怒る気もしない。あぁ、またかって感じだった。
この家は他所者である私達を歓迎して、家族の様に接してくれる。村の人達も比較的親しみやすい人が多くて、彼女と時折小銭を稼ぐ手伝いをする事だってある。今の生活は飢えに苦しんでいた日々を思い出せば、幸せと言って間違い無い。本当にゆっくりだけど、順調に欲望を満たす事も出来ている。何時までこの生活が続くかは分からないけど、彼女の欲望を満たし終えるその時までは一緒。……少し、今の生活の先が楽しみに思える。
この世界の人々は皆、身体に魔力を持っているらしい。と言っても保有している量は人それぞれ。中には殆ど無い人物もいるらしいけど、少なくともあるのが前提。だけど私はこの世界の人間ではなくて、魔術を使った事が無い。試した事はあった。彼女の真似をしたり、直接ルーデウスの様に教えてもらったりした。でも、駄目だった。そもそも私の身体に魔力なんてものは宿っていなかったんだと思う。
「えいっ!」
「っ!」
ルーデウスの父親に見守られる中、ルーデウスが持つ木剣を私は受け止める。ロキシーに魔術について勉強を見てもらっている彼は、父親から剣も教わっているらしい。そこで同じ様な年頃をした私が少しだけ剣を使えるって話をロキシーがした事でこの状況が出来上がった。……確かに剣は使った事がある。憑依召還で力を借りずに、自らの手で。だけどこの世界の剣士もまた、無意識に剣や身体に魔力を流して戦っている。だからこの世界で剣を使って勝てた事は殆ど無かった。
「やぁ!」
「!」
「あ」
でもまだルーデウスは子供で、魔術に魔力を使う事は出来ても剣や身体にそれを思い通り使う事は出来ない様子。そのお蔭で、私は彼と真面に戦う事が出来た。彼の父親は剣士としてかなりの腕前で、はっきり言って強い。だけど同じか少し差がある程度の相手と戦う経験は大事と考えている様で、私はそれに丁度良かったらしい。
空に舞った木剣が地面に転がる。流石にまだ負けられない。彼の手から弾き飛ばした木剣を彼の父親が拾う中、私は自分の手に持つ同じものを見る。……ちょっとだけへこんだ箇所や、罅の入った場所がある。思った以上に時間の問題かもしれない。
父親の擬音ばかりな説明を受けながら、何とか理解しようとするルーデウスの姿を横目に近づいて来るロキシーの姿に気付いた私は振り返った。「お疲れ様です」と労って、私の汗を拭ってくれる。確かに疲れたけど、家事を熟す以上に貢献は出来てる気がした。彼女と同じ様に、ルーデウスを成長させる為の時間。家庭教師と言うよりは、稽古相手だけど。
「よし! それじゃあ、もう1回やるか! 君もそれでいいかい?」
「ん……大丈夫」
彼の父親が笑みを浮かべながら再開を告げる。私はそれに頷いて、離れて行くロキシーを見送ってから再びルーデウスと剣を合わせた。
ある日の夜。寝ていた私は1階から聞こえる物音に気付いて目を覚ました。猫の聴覚を持っているからこそ、聞こえる音。……それはルーデウスの両親が愛し合う音。家庭教師として住み込みで雇われたロキシーと一緒に居る私は、グレイラット家の同じ部屋で寝泊りしている。私にしか聞こえていないのかもしれないと思いながら、何気無くロキシーの寝ているベッドへ視線を向ける。だけどそこには誰も居ない。そもそもこの部屋には、誰の気配も無い。
「……ロキシー?」
こんな夜遅くに何処へ行ったのか。私は目が冴えてしまった事もあって、探しに行こうとベッドから起き上がった。その途端、部屋の扉が開かれる。入って来たのは寝る装いをしたロキシー。でも様子が少しおかしい様に見えた。少し息を荒くして、顔は俯いていてよく見えない。
「……ハク」
「……」
ロキシーが私の名前を呼ぶ。何処か切なげに。そしてゆっくりと上げた彼女の顔は、まるで発情している様に見えた。何となく、察しがついた。多分ロキシーは音に気付いて覗くか何かしたんだと思う。それで切なくなって、もどかしくなって……戻って来た。
「……ぁ」
「はぁ……はぁ……」
私の身体を押して、ロキシーはベッドへ押し倒して来る。赤く染まった頬と熱い息を目の前で感じて、私はまた察した。……これはどうしようも無い、と。
グレイラット家は木造で、防音設備なんか存在しない。だから夫婦の営みも聞こえて来る。そんな場所で私達がすれば、当然音は響いてしまう。今真っ只中の夫婦には聞こえないかも知れない。だけどリーリャやルーデウスは今、寝ている筈。……物音や声を出せば、気付かれてしまう。
「脱がしますよ」
「ぁ……」
だけど性欲に火が付いてしまったロキシーが、それを考えているとは思えない。状況を回避する事も出来無さそう。となれば、私に唯一出来る事。それは彼女の行為を受け止めて静かに終わらせる事。簡単な事じゃ無いのは分かってる。だけどそれ以外に、出来る事は無い。
服を脱がされる。基本的に下着はロキシーが買う時、一緒に購入していた。だから彼女が決めた下着を着けていて、今日は上下共に白い無地の下着だった。私の方が少し胸が大きいから、この姿になると時折嫉妬の視線を彼女から感じる事はある。魔族の年齢はよく分からないけど、ロキシーは多分まだ成長すると思う。だから余り気にする必要は無いと思う。……私の今の身体は成長する様子が無いけど。
「とっても、可愛いです。……んっ、ちゅ……」
私を見下ろしながら言ったロキシーが顔を近づけて来る。そのまま唇に当たる柔らかな感触。続けて入って来る滑りを帯びた舌が、私の口の中を掻き回してくる。たったそれだけの行為なのに、私の頭は一瞬で真っ白になった。なのに、不思議と考える事は出来る。限定された思考。私が考えられるのは、ロキシーの事だけ。
「んっ、はぁ……ロキ、シー……」
ロキシーの事で頭が一杯になる。他の何かを考える余裕も無い程に。ただ彼女にもっと求めて欲しい。もっと、滅茶苦茶にして欲しい。そんな思いが込み上げてくる。何処かで別の自分が『抑えないといけない』と語り掛けて来る様な気もするけど、それに耳を傾ける事も出来なかった。私は感情のままに、ロキシーの背中に手を回して口付けをせがんでいた。
私が抱きしめたと同時に、ロキシーの手が胸に触れる。下着を剥がされて露出した、小さな身体に対しては大きな胸。何時もは嫉妬の視線を向けて来るロキシーが、今はまるでそれを自分のモノとする様に両手で掴んで揉んで来る。彼女の指先から伝わる体温や感触が気持ち良くて、満たされている様な気がした。
「私も、脱ぎます」
胸を揉んでいたロキシーが一度、私の身体から手を離して服を脱ぎ始める。染みの無い綺麗な肌が私の前で曝け出されれば、上下の下着を脱いでロキシーは私を全身で感じる様に強く抱きしめて来た。胸が擦れて、肌が擦れて、もどかしい快感に身体が震える。そしてそのまま、ロキシーは自ら身体を動かして私の肌と擦らせ始めた。潤滑油も何も無い肌同士では、余り滑らない。だけど痛みよりも快感が身体を刺激して来る。
「手を、繋ぎましょう」
「ん……」
言われて、私は背中に回していた手をロキシーの手に近づける。そして一緒になった時、自然と私達は
ロキシーが身体を起こす。気付けば私はあそこを濡らしていた。まだ付けたままだった下着が染みを作っていて、それが恥ずかしくて思わず顔を反らしてしまう。そうしたら、ロキシーは器用に足を使って私の足に掛かる巻かれた部分に指先を入れ、そのまま脱がし始める。左右同時に出来ないせいで、結果的に引っ張られた下着はまるで紙の様に容易く片足部分が千切れてしまった。まだ片足に引っ掛かったままだけど、ロキシーはそのままにして私と足を交差させる様な体勢になる。
「んぁ!」
「動き、ますよ……!」
恋人繋ぎで手を繋いでいた事もあって、ロキシーが引っ張るだけで私のあそことロキシーのあそこが触れ合った。電流が走る様な快感が頭を走って、思わず声が出てしまう。もう周りの音を聞く余裕も無い。もし夫婦が終えていたとしたら、私の声はきっと家に響いた事になる。それは不味いと分かっていても、私はそれを止める事が出来なかった。
「んっ、あ! ハ、クっ! 気持ち、良いですか?」
「ロキ、シー……っ! ひぁ!」
ロキシーが腰を揺らす度に、あそこが擦れて快感が流れ込んで来る。彼女の声も家に響きそうで、このままじゃ気付かれるのは必至。でも、どうにも出来ない。……どうにかしようとも、思えない。もっと彼女と気持ち良くなりたいって気持ちで、一杯になってしまうから。
「あっ! あぁっ! イき、ます! ハクも、一緒にっ!」
「ふ、ぁ! 来ちゃ、う……ロキ、シー……っ! ~~~~っ!」
快感が頂点に達して、私の頭の中はまた真っ白になった。それでも視界にまるで焼き付く様に映るのは、同じ様に絶頂して海老反りになるロキシーの姿。お互いの体液に濡れて、そのまま倒れる様に覆い被さって来たロキシーは発散出来た事もあって少し冷静になった様に見える。……自分のした事に気付いて、慌てていた。
「あ、あの……私は、その……」
「……場所、考えて」
「……はい」
「……別に、怒ってる訳じゃ……ない」
「……え?」
私も少し冷静になれた。ロキシーの事で頭が一杯だった思考がやっと普通に戻って、絶対に聞こえてしまっただろうと不安に感じながらも彼女と繋いだ手を解いて背を向ける。取り敢えず、身体についた体液を拭かないと寝るに寝れなさそう。そう思って、タオルを手にしようとした時。伸ばした腕を横から掴まれる。そして強引に引っ張られて、ロキシーの方へ身体ごと向けさせられて、口付けをされた。貪る様に、布団へ私の頭を押し付けながら。
「もう一回、しましょう」
嫌とは言えなかった。彼女に口付けをされた段階で、私はまた同じ事になっていたから。彼女の求める事に受け入れる用意を身体と頭がしてしまっていたから。
翌日、私達は裸で抱き合ったまま目を覚ました。あれから結局一回では終わらなくて、気を失うまで彼女にされてしまった。身体が途轍もなく怠いけど、今日もロキシーは家庭教師としての時間がある。私も稽古の相手をする約束があるから、休む訳にはいかない。
ロキシーを起こして、お互いの身体を彼女の使う水の魔術で適当に洗う。家の中だけど、迷惑は掛けない様に配慮して。身体の臭いはそれで多分大丈夫。部屋の臭いも換気すれば、何とかなる筈。私達はお互いに身体の怠さを感じながらも、何事も無い様にしてグレイラット家の人達と挨拶を交わした。……ルーデウスの顔が私達を見た時、何時かの様にだらしなくなっていたけど、変な理由は無いと信じたい。