10月31日。前回のハロウィンは彼方此方の友達を回った後、先生の元へと赴いてノアと時間を過ごしたカナデ。今回も同じ様にお菓子を貰う為に、又はちょっとした悪戯をする為の準備は完了していた。外へ出て目に映った友達が居れば、近づいて話掛けるつもりだったカナデだが、目的地が無い訳ではない。やがて奇跡的に誰と会う事もなく、辿り着いた場所。
「シロコ―!」
大声で目的の相手である名前を呼べば、少しの間を置いて姿を見せたのはシロコだった。長い髪に黒いドレス。ホシノから譲り受けたマフラーも付けてはいない。彼女は正しくシロコではあるが、アビドスの2年生として在籍しているシロコとは違う時間軸に生まれたシロコ……シロコ*テラーである。
「ん。おはよう、カナデ」
「えへへ、おはよう!」
彼女がどの様にしてこの世界に存在しているのかはさておき、アビドス高等学校で過ごす全員と付かず離れずの距離で過ごす様になった事でこうして会いに来ること自体はとても簡単であった。この世界のシロコを始め、全員がシロコ*テラーを新しい仲間として受け入れている。そんな中、今回の催しでカナデはまず最初に彼女へ声を掛けると決めていたのだ。
「それじゃあ、シロコ! ト」
「トリック・オア・トリート」
「リック……へ?」
「ん。先に言ったのは私。お菓子をくれないなら、悪戯するよ?」
「えぇ!?」
ハロウィンの常套句を先に言われてしまい、戸惑うカナデへシロコ*テラーは追い打ちを掛ける様に告げる。驚きながらも急いで用意していた籠を見たカナデだが、まず最初にシロコ*テラーの元へ来た事もあって中身は空っぽ。あげられるお菓子は一つも無かった。
「ど、どうしよう!」
「無いの? なら、悪戯決定だね」
「うわぁ!」
何も持っていない事を確認したシロコ*テラーはカナデへ近づくと、その両脇に手を入れて軽々と持ち上げてしまう。シロコよりも一年長く生きている事もあり、その身体は大きく成長している。小さなカナデは彼女の手に掛かれば赤子も同然だった。そしてそのままシロコ*テラーの部屋へと連れ込まれたカナデ。普段寝る時に使われているのであろう布団へ転がされると、そのままシロコ*テラーに覆い被さられる。
「カナデ、私と何か、変な事はした?」
「変な事? えっと……」
シロコ*テラーはカナデが何かされたとしても、それが何かを分からない可能性が高いと知っていた。そしてこの世界の自分が既にカナデへ手を出しているのかの確認も兼ねて質問する。布団に押し倒されて尚、驚きはすれど危機的状況である事を全く認識していないカナデはその質問に過去を思い出しながらも、特に引っかかる事は無かった。答えずともまだ手は出されていないと分かったシロコ*テラーは、微かに笑みを浮かべる。
「それじゃあ、悪戯するね」
「う、うん。何、するの? ひゃ!」
まだ誰にも手を出されていない事を嬉しく思い、シロコ*テラーは不安そうに自分を見上げるカナデを見つめながらスカートの下へと容赦なく手を突っ込み始める。下着越しに触るのは、股関節の部分。普段自分で触る事も、ましてや誰かに触られる事も無いその場所を撫でられて奏の表情は一気に赤く染まる。
「ん。さらさら。それに今日は、縞々パンツなんだ」
「あぅ、くすぐったいよ~!」
込み上げる恥ずかしさとくすぐったさに、先程の元気が嘘の様にカナデは委縮する。その間にスカートを捲り上げてカナデの下着を確認したシロコ*テラーはそのままカナデの下着を脱がしに掛かった。突然脱がされそうになった事に驚くも、抵抗する間もなく奪われた縞々パンツ。手に入れたシロコ*テラーはそれを上に抱えて手中に収めた事をアピールする。
「これは貰うね」
「私のパンツ! 取ってどうするの?」
「気にしなくて良い。これが、私の悪戯。今日はそのままで過ごして。新しいのも履いちゃ駄目」
「そんなぁ! うぅ、スース―するっ!」
下着を取りあげられ、尚且つ新しいのを履く事まで禁止されてしまったカナデ。そんな勝手な決定など破ってしまえば良いだけの話にも見えるが、正式に悪戯としてされた以上、カナデはその約束を守るだろう。
「この後、他の誰かの場所に行くの?」
「うん、そのつもりだよ」
「そっか。なら、気を付けて。気付かれたら、きっと沢山持っていかれる」
「なんで?」
まるで予言の様なその言葉にカナデは頭の上に『?』を浮かべる事しか出来ない。だが確信した様子で告げるシロコ*テラーに取り敢えず気を付けようと思うのだった。
その後、シロコ*テラーの元を離れて彼方此方の友達へお菓子を貰いに向かったカナデ。だが前回の事があったのか、その全てが先程と同様に先制を食らう事となってしまった。度重なる悪戯は人に寄ってそのジャンルも異なり、顔に落書きをする様な可愛いものからしばらく抱き枕の様な状態にされるもの、シロコ*テラーの言葉が予言となる様に着用せずに荷物に入れていたネクタイなどを持っていかれる事も。
――――――もしかしてカナデ、履いてないの!?
「朝、シロコに取られちゃった!」
そして時にはパンツを履いていない事までばれ、先生も巻き込んで小さな騒動にまで発展する。
「疲れた~」
夕方。顔に落書きを付けて荷物を一部失くして下着を奪われて、疲労困憊になったカナデはフラフラとした足取りで帰路を歩く。彼女が用意したお菓子を入れるための籠にはそれなりの量が入っているが、確実に前回と比べて得られたお菓子よりも失った体力の方が多かった。
もう誰の元へ赴くつもりは無かったカナデ。しかしそんな彼女を遠くで見つけた少女が乗っていた自転車のペダルを猛スピードで漕いでカナデへ近づき始める。やがてその横を瞬く間に通過すると、ドリフトする様に横になってカナデの前で急停止。
「ん、カナデ。探した。……トリック・オア・トリート」
「あ、シロコ。えっと、お菓子なら一杯あるよ?」
「ん。要らない。カナデを貰うから」
「ふぇ?」
現れたのは正真正銘、この世界のシロコ。他の誰かと同じ様に先制を取った彼女だが、朝と違ってカナデには貰ったお菓子が沢山あった。それを渡そうとしたカナデだが、漁ろうと籠へ伸ばした手はシロコに止められる。
その後、カナデの姿は消えてしまう。そのまま彼女はその日、家へ帰る事も無かった。
翌日。アビドスに再び姿を現したカナデはとても疲れていたのか、何時も以上に眠る時間を過ごす。一方、傍に居たシロコはとても満足した様子だった。
そして、別の場所。シロコ*テラーの住んでいる場所では。
「すぅー、はぁ。……ん、カナデの匂い」
同じ様に満足した様子で、少し汗を掻きながら服を着崩して布団で転がるシロコ*テラーが居た。部屋には謎の熱気が籠り、かなり長い時間そこに居た事が伺える。その手には大事そうに縞々のパンツが握られており、シロコ*テラーは再びそれを鼻に近づけた。