この世界で特に珍しくも無い冒険者。その一人としてアークは活動していた。自分の身の丈を優に超える大剣を背中に携え、先陣を切って相手へ攻撃を仕掛けるアタッカーとして真面目に過ごしていた彼女。ソロで過ごす事もあるが、時折臨時でパーティーを組む事もある。
その日も何時も通り、依頼書に書かれたモンスターを倒す為に滞在していたアクセルの街を出る。同じ様に依頼を探していて、その見た目からか心配した様子で話しかけて来た二人の女性と共に。
「それじゃあ、お手並み拝見といこっか?」
「ん……任せて」
「本当に大丈夫なのか? そんな大きな剣を使い熟せるとはとても……」
モンスターの群れを前に、臨時でパーティーになった
一方、クリスと共に居た
実際に見つけたモンスターの群れを前に、いまだ心配そうなダクネスを置いて駆け出したアークは大剣の柄に手を掛ける。そしてモンスターが気付くよりも早く、奇襲を仕掛ける様にそれを力強く振り下ろした。重く速い一撃で一体のモンスターを仕留めると、周りに居たモンスターが一斉にアークへ飛び掛かる。
「邪魔」
「へぇ」
「……っ!」
空中に並んだモンスターへ大剣を自身の身体ごと回転させて薙ぎ払い、ぶっ飛ばしながらモンスターを処理する。間近で見るアークの強さにクリスが感心する中、ダクネスはその姿を目に焼き付けて息を呑む。
その後も襲い掛かるモンスター達を薙ぎ払う様に戦い続け、気付けばアークだけでクエストは完了。冒険者としての強さは十分だとクリスが確信するなか、ダクネスは少しずつアークへ近づき始める。最後の魔物に大剣を突き立てて見下ろすその瞳は冷たく、無慈悲なもの。そして元々余り表情の変わらないその瞳は、近づいてきたダクネスへゆっくりと向けられる。
「っ~~~~っ! あぁ、冷たく汚物を見る様なその目。最高だ!」
「?」
「あぁ! 冷たさが! さっきの目を私に向けてくれ! モンスターを見つめていたあの目を!」
「あ~、気にしないで。一種の発作みたいなモノだから」
「発作?」
声を掛けられて徐々にその視線から冷酷さが薄れた時、それを惜しいかの様に話すダクネスにアークは困惑する。クリスは全てを分かっているかの様に告げるが、ダクネスの勢いは止まらなかった。
その後、帰り際に何度も自分を見る様に言うダクネスにアークは言われた通りにする。
「違う! その目じゃない! もっと汚物を見る様な目で、邪魔者を見る様な目で見て欲しいんだ! さっきのモンスターに向けていた様な目だ!」
「……」
「そう、その目だ!」
「……クリス」
「ごめん。取り敢えず、ギルドまで我慢して欲しいかな」
見る度に否定されて、ダクネスが何をしたいのかその言葉から嫌でも分かり始めたアーク。クリスは話し掛けられても目を逸らしながら助けようとはせず、ダクネスの求める事が分かってしまった事でアークの彼女に対する感情は無から冷めたモノへと変わっていった。だがそれは結果的に、ダクネスを悦ばせる事になる。
ギルドに到着すればパーティーは解散。元々アークの実力を心配したダクネスが半ば強制的に組んだパーティーの為、仕方が無い事だった。しかし報告と同時に解散しようとするアークに待ったを掛けるダクネス。その目的を即座に察して無視したアークに、彼女は再び悦ぶ事になる。
「さようなら」
「くっ、仕方ない。また会おう!」
「ほんとにごめんね、色々と」
一期一会の出会い。もう関わる事は無いと早々に離れたアークは、明らかに再会を心待ちにするダクネスの事は気にしない様にする。
しかし残念ながら、一度
「おはよう、アーク!」
「……」
「~~~~っ! 朝から、その冷たい目は……!」
「…………」
「そして私の存在を無い者の様にっ! くぅ!」
翌日になり、依頼書を確認しに来たアークへダクネスは話し掛ける。前日の出来事から彼女に対する感情は冷たくなった事もあり、向けてしまう冷えた視線。それを受け止めて楽しむ彼女に、アークは関わらない様にすると決めた。それすらもダクネスにはご褒美でしかなかったが。
それから頻繁にダクネスと出会う事になってしまったアーク。嫌でも出来てしまった縁は求めずとも深まって行く。お節介なお姉さんから変態へとその印象を格下げして、更にはストーカーとすら思う様になってしまった頃。アークのダクネスに対する感情はマイナスを振り切っていた。
「ふぅーっ! ふぅーっ!」
「来ない、でっ!」
「むぐっ! むふふ! 最初から、こうすれば良かったんだな!」
正しく腐れ縁となってしまったダクネス。そんな彼女が本気で迫れば、アークにとって恐怖でしかない。どんな理由があろうとも剣で人を切りつける訳にはいかず、アークに出来たのは必死に抵抗する様に足を出してその身体を押し返す事。しかしアークの足を顔面で受けて尚、悦ぶダクネスは止まらない。自分を汚い者を見る様な目で見て貰うには何をすればいいのか、ダクネスは分かってしまったのだから。
「今、私を満たしてくれるのはアークだけなんだ!」
「っ!」
足を受け入れた上で更に抵抗を欲しがるダクネスに自然と向けてしまう軽蔑の眼差し。それこそが彼女の狙いであり、そうしてしまう事で悦ばせてしまうのだとアークも分かっている。だが気持ちが悪いと本気で思ってしまうのだからどうしようも無い。そう、ダクネスは自分がしたい事を隠さずにアークへぶつければ、
「さぁ、私を見ろ! 醜い豚を見る様に、私を! さもないと、この足を舐めるぞ!」
「ひっ!」
「っ! 良いぞっ! もっとだ!」
片足を掴まれて脅迫された事でアークの表情は変わる。その額から目元までを青くして心底気色の悪いモノを見る様に。その目に快感を得ながらダクネスはゆっくりと靴下を脱がした後、アークへ見せつける様にその素足へ舌を近づけ始める。当然舐められたくはないとアークは抵抗して、もう片方の足でダクネスを押し返す様に何度も蹴りを入れる。今度は物理的な
「れろっ」
「んぃ! 止め、て……っ! 変態!」
「ふふふっ!」
本当に舐められて更に気色悪く思い、抵抗しながら無意識に行ってしまう攻撃は逆効果。痛みも蔑みも、全てを快楽へと変換してしまうダクネスが本気で行動すれば怖いモノは無いのだろう。その標的にされた者はトラウマレベルの思い出を残す事になってしまうが。
「ダクネースっ!」
「むっ、クリスか」
「いや、『むっ、クリスか』じゃないでしょ! 何やってるの!」
「こ、のっ!」
「ぐはっ!」
「あ……大丈夫?」
「…………」
そんなアークを救ったのはクリスだった。突然扉を開けて現れた彼女に意識を逸らしたダクネスは、アークから何度目かの蹴りを受けると共にその手に掴んでいたアークの片足を離す。自由になった途端、ダクネスと距離を取ったアークはクリスの後ろへ。その姿は明らかに怯えており、クリスは同情しながら自らも壁となってダクネスの間に入る事にした。
「流石に看過できないかな! やりすぎだよ! アーク、凄い怯えちゃってるよ!」
「……」
「済まない。熱くなり過ぎてしまった様だ。アークの目が余りに良質だったモノで、つい」
「言い訳しない! 取り敢えず、しばらくアークに近づいちゃ駄目だよ!」
「なっ! それは流石に酷いのではないかっ!?」
「こんな怯えてる姿を見たら、それでも足りないくらいだよ!」
冷静になったダクネスはそれからアークに謝罪をするが、足を掴まれ舐められた恐怖は簡単に消える事は無いだろう。その縁が切れる事は無いかもしれないが、アークは本気でダクネスから距離と取るとこの日に決める。それと同時に助けてくれたクリスに対して信頼を向ける様になるのだが、それはまた別の話。
そしていつの日かアークは嫌でも理解する事になる。