久遠はとあるゲームを『アーク』という名前でプレイしていた。それはソロプレイから協力プレイ、対人戦も可能なアクションRPG。素材を集める為に一人では倒せない敵は協力して。時にはお互いのプレイスタイルや実力で何方が上かをハッキリさせる為に競い合う。
「……むぅ」
「私の勝ちだね」
そのゲームのネットワークは世界を選ばない。相手がどこに住んでいるのかは当然、同じ世界に住んでいるのかも分からない。そんな限りなく広い中で、久遠が出会った友達。それが銀狼だった。最初の出会いは同じ時間に同じ目的を持った者同士が勝手に組む野良でのプレイから。銀狼とのプレイはとても遊びやすく、自然と息も合い、銀狼も同じ事を思ったのかメッセージでのやり取りが切っ掛けで共に遊び始める。
「それじゃあ、今日は私の欲しい素材を集めに行こう」
「ん、分かった」
お互いの性別も、年も分からないゲーム越しでの出会い。だが共に遊ぶ様になってからしばらくして、ある日突然銀狼からお互いの声を入れて話しながらゲームをする
一週間の内、三日四日程度は同じ時間で遊ぶ様になった久遠。アークとして銀狼と共に遊ぶ時間は日々の楽しみになっており、それは銀狼も同じ様子だった。最初は何をしたいかお互いに提案した後に二人で対人戦を行い、勝った方の提案した内容を次は協力プレイで遊ぶ。
「あ、そうだ。アーク、今周りに誰か居る?」
「? 居ない。家族、出掛けてる」
「なら丁度良いや。ベッドの方、見てみなよ」
「ベッド? ぇ……」
銀狼の言葉を聞いて不思議に思いながらも部屋にあるベッドへ振り返った時、久遠は目の前に何時の間にか存在していた存在に驚かずにはいられなかった。
それは一人の少女がベッドに腰掛けた姿勢で悪戯が成功した子供の様に笑みを浮かべて自分の見つめている光景。だがその姿は何処か青白く、本体がそこに居ないのが一目瞭然であった。一種のホログラムであり、しかしそれを映し出す機器などは周りに存在しない。
「銀狼……?」
「そう。一応、面と向かっては初めまして。久遠」
「! 私の、名前」
振りがあった事で、それが銀狼である事に気付けた久遠。だが名前を言われた事で困惑すると、銀狼は自身のハッキング能力等で大体の事を把握していると語る。それはきっと一般人である久遠にとって危険で、良くない事態なのだろう。だが渦巻く不安と同時にそれを上回る遊んでいた人とホログラムとはいえ面と向かって話せる事へのワクワクが久遠にはあった。
「もう少し危機感持った方が良いんじゃない?」
「何かする……?」
「別に。友達なのに、私が一方的に知ってるのはフェアじゃないと思っただけだから」
「なら、良い」
「信頼し過ぎ。まぁ、悪い気はしないけど」
ベッドに座っていた銀狼が何処か嬉しそうに笑みを浮かべながら久遠に近づき、その隣に座る。椅子の無い場所で座る姿勢になっているのがかなり不自然ではあるが、恐らく彼女の方ではしっかりと椅子に座っているのだろう。ホログラムを消すつもりは無い様で、久遠は初めてゲーム越しに出会った友達と隣り合って遊ぶ経験をした。そしてこの日から、銀狼がホログラムで久遠の前に度々姿を現す様になった。
ホログラムとはいえ、本人の姿がそこにはある。時には同じベッドで横になってダラダラとゲームをして、時には机に向かって真剣にゲームをして、銀狼との仲が深まる程に久遠のゲームをする時間は多くなった。余りにゲームへのめり込んでしまう為、一種の禁止令が家族から出されるまで。
「じゃあ、明日から出来ないんだ」
「ん……ごめん」
「まぁ、仕方ないか。……因みに、何て言われて禁止になったの?」
「勉強しないと、将来大変」
「ふぅん。じゃあ逆に将来が安泰だったら、ゲームしても良いんだ?」
「そう……なのかな?」
「うん、うん。その理由で安心した。それなら何とかなりそう」
「……何するの?」
「心配しなくても、毎日好きなだけゲーム出来る様にしてあげる」
「……」
そういってホログラムを消してしまう銀狼。何かとんでもない事が起こりそうな予感と、それを自分ではどうする事も出来ない事に久遠は頭を抱える。
そして翌日、久遠は家族に呼び出される。しかし呼び出した家族も困惑している様子であり、何かを知っている可能性が高い久遠に話を聞きたかったが為の呼び出しだった。話を聞かされて同じ様に困惑しながら、心当たりがある銀狼の話をした久遠。驚愕に困惑、そして少しの恐怖を家族全員で抱きながらも解放された久遠は自室に戻り……待ち構えていた銀狼と対面する。
「……口座に、お金が一杯入ってたって」
「ふぅん」
「メッセージ付き。『久遠を縛るな』って」
「それで? 何か言われた?」
「好きに、しろって……言われた」
「じゃあ、今日からまたゲーム出来るね」
とても近しい年代のゲーム友達は久遠にとってだけでなく、銀狼にとっても貴重な存在だったのだろう。その存在を簡単に手放す気はなく、行った方法は一般人からすれば常軌を逸している。既に銀狼に目を付けられた時点で、久遠に逃げ場は無かったのだ。久遠と遊ぶためなら、その時間を作るためなら足の付かない方法で大金を他人の口座へ入れる事など銀狼には容易い事だった。
それからしばらくの間、少し怖がりながらも銀狼とゲーム三昧の日々を過ごした久遠。それも一月程度経った頃には当たり前の様になっており、知らない内に久遠は銀狼へ染まり始めていた。流石にこのままでは不味いと家族が銀狼の警告を無視して行動しようとする寸前、『馬鹿な真似はしない方が良い』とそれを察した様に送られて来る釘を刺す様なメッセージ。
だがそれも時間稼ぎにしかならないと思った銀狼は次の行動に移る。
「久遠。楽しんでる?」
「? ん。銀狼となら、楽しい」
「うんうん。……それじゃあさ」
それは突然の事だった。家からごっそりとPCやゲーム機の他、部屋にあった家具が部屋の主である久遠と共に消失したのだ。家族や久遠を知る者の記憶だけを残して。捜索を願い出ても戸籍すら残っておらず、久遠が存在した事実そのものがこの世界から全て消え去ってしまっていた。
「ふふん。私の勝ち」
「……もう一回」
「良いよ」
「足、痺れて来た」
「私に勝てたら、膝枕止めても良いけど。勝てるかな?」
「むぅ……絶対、勝つ」