変質者ホイホイと言われる程に、久遠はおかしな人物に目を付けられる事が多い。愛が重い者や性癖が特殊な者、常識の通じない者等、彼女を取り巻く存在は何処か普通とは違う何かを抱えている者ばかりだ。
「……」
目を覚ました時、久遠は見覚えのない人形が部屋に置かれている事に気が付いた。それはツインテールの少女を模した人形。買った覚えはなく、不思議に思いながらそれを久遠が手に持った時。突然目が光ると同時に言葉が発せられる。
『あっはは~! おはよう、久遠ちゃん♪』
「!?」
突然喋った事で、久遠は驚きそれを床へと落としてしまう。だが地面に顔を伏せた状態で聞こえるのは自分の名前を呼ぶ少女の声。何処かから直接声が届いているのではなく、何度も同じ言葉を繰り返している事から録音なのだろう。
「なに、これ……」
訳の分からない人形から、知らない人物の声が何度も自分の呼ぶ事に恐怖せずには居られない。やがて恐怖から逃れるために、久遠は人形を拾って窓の傍へ近づいた後に開け放ち、人形を外へと投げ捨てようとして……その異様な光景に気付いた。
「ぇ……」
窓の外に映る景色は久遠の知るモノとはかけ離れていた。それはまるで久遠の居る家、部屋だけが全く違う世界へ来てしまったかの様に。投げ捨てようとした人形が手から零れ落ち、ベッドの下へ転がりながらもその声だけは絶えず響き続ける。そしてそれは徐々に重なるかの様に大きくなり始める。
押し入れから。ベットの下から。机の上から。本棚の上から。扉の向こう側から。何度も聞こえて来るその声は、ずっと変わらずに言い続ける。
――――――あっはは~! おはよう、久遠ちゃん♪
「おやすみ、久遠ちゃん。くふふ!」
「何からしようかな~♪」
「……」
自身の膝上に頭を乗せて眠る久遠の髪を撫でながら、花火は楽しみを堪えきれない様に笑みを浮かべ続ける。相手の境遇がどんな事になろうとも、それは関係ない事。自分が愉しめるのなら、気に入った相手を自分のモノに出来るのなら、花火は行動する。世界を侵し、環境を塗り替えて自分だけの玩具にする。
眠る久遠の全てが今、新しい存在として作られ始めている。友を忘れ、思い出を忘れ、環境を忘れ、残るのは久遠と言う存在だけ。次に彼女が目を覚ました時、真っ新な記憶に最初の色を付けられるのはここに居る花火だけだった。
目が覚めたら知らない場所で、知らない少女が自身の頭を撫でている状況に久遠は困惑する。そしてどうしてこの様な状況になって居るのか、眠る前の事を思い出そうとするが、久遠は自分の名前以外の全てを思い出す事が出来なかった。
「あ、起きた? おはよう~!」
「……」
「あっはは! ちょっとだけ眉が動いた! 困っちゃった顔、可愛い~!」
まるでペットを愛でる様に、目を覚ました久遠を可愛がろうとする花火。そんな事が前にもあった様な気がしながら、久遠は身体を起こして周りを見渡した。何にもない部屋に大きなベッドが一つ。そこに座る知らない少女と、寝ていた自分。その表情は余り変わらないが、言われた通り何も分からずに久遠は困ってしまう。
「誰?」
「ん~? 花火は花火だよ」
「花火……?」
久遠には聞き覚えの無い名前。だが何も覚えていない彼女にはそれが忘れてしまったのか、初めて聞いたのかの区別もつかない。名前以外の何も知らない訳が無い事から、
「ここは、何処?」
「久遠ちゃんと花火の部屋だよ」
「貴女と……? 貴女は、私の……何?」
「花火はなんにでも成れるんだ。友達でも親友でも、姉でも妹でも。最初は友達か親友でも良いかな~って思ってたけど、どうせなるなら……恋人、かな?」
「意味が、分からない。結局、貴女は……っ!」
話をしている最中、突然花火が久遠をベッドへと押し倒す。訳の分からない場所で、全く覚えのない人物に押し倒されてしまった久遠。だが咄嗟に逃れようと力を入れても、花火の身体は押し返せない。ニヤニヤと音が聞こえそうな程に笑みを浮かべた花火がそんな無駄な抵抗をする久遠を見下ろすと、やがてその顔がゆっくりと近づける。
「んっ!?」
「ん、ちゅ……むふふっ! はむっ、じゅる!」
目を見開いて驚く久遠の様子をしっかりと見つめながら、逃れられないその口へ花火は舌も入れ始める。暖かい口内を好き放題に蹂躙して、僅かながらの抵抗に入っていた力すらも久遠は無くしていく。少しの間を置いて、満足した花火が顔を上げた時。二人の口元は唾液に塗れ、荒い息を吐きながら虚空を見つめる久遠が出来上がっていた。
「はぁ~、可愛い。もっと凄い事してあげる。花火と一緒に、楽しもうね?」
身体から力が抜けてしまった久遠はもう、自由に身体を動かす事も出来ないまま、花火の手によって身体を触られる。露出の多い花火は服装をそのままに、久遠だけが脱がされて裸にされてしまった後、何処からともなく取り出した紐でその両腕を後ろ腰に縛られてしまう。
「はい、それじゃあ身体を起こして~。よいしょっと」
「離、して……っ!」
「ダーメ! ふぅ~」
「!?」
久遠の背中へ回った花火は、その身体を後ろから抱き締める様にして座り込む。少し力が入って動かせる様になった身体で身動ぎをしながら逃れようとする久遠だが、両手を後ろで縛られてしまった事で真面に動く事も出来ない。そして花火が耳へ息を吹き掛ければ、背中を走り抜ける様な快感と共に久遠の身体からはまた力が抜けてしまった。
「もーみもーみっ♪」
「っ! ぁ!」
後ろから抱きつく様な姿勢のまま、花火の両手が久遠の胸へと伸ばされる。手の平から溢れるには程遠い大きさだが、それでも確かにある膨らみを指先で揉まれれば、くすぐったさから久遠は反応してしまう。それに気を良くした花火は執拗に胸を刺激し続け、遂にはその人差し指で左右の乳首に狙いを定める。
「はい、カリカリ♪」
「ん、あぁ!」
「カリカリ♪ クリクリ♪ あっはは~!」
反応して身動ぎする身体を抱きしめる事で強引に押さえ込んだまま、花火は乳首のみを弄り続ける。指先で弾く様に、二本の指でつまみあげてそのまま捏ねる様に刺激を与え続けていると、久遠の身体は刺激から逃れる身動ぎから徐々に反応だけを示す様になり始める。
それから長い時間、乳首だけを攻められ続けた久遠。その部分だけでそう簡単に絶頂する訳でもなく、ただ花火が満足するその時までそれは続く。すると花火は久遠の耳元に口を近づけ、愉し気に囁き掛けた。
「久遠ちゃん。前、見てみて?」
「ひっ……ぇ……」
耳に掛かる息と絶えず与えられる刺激を感じながら、言われた通りに前を見た久遠はそこにいつの間にか大きな姿見が置かれている事に気付いた。映るのは裸の自分が服を着た花火に後ろから抱かれ、乳首を弄られながら耳元で囁かれている姿。久遠が姿見を認識したのを確認して、花火は乳首への攻めを更に激しくし始める。
「ほら、見て見て~! 乳首を弄られて、感じちゃってる久遠ちゃんの顔。可愛いね~!」
「!」
一体どれだけの時間攻められ続けていたのか、久遠には何も分からない。だがその刺激から逃れたいと思っていた筈なのに、そこに映る自分の表情は快感を受け入れているかの様に淫らな表情をだらしない程に晒していた。思っているのとは全く違う、気持ち良さを求める女の顔。
「えっちな事、大好きだったんだね~?」
「違、う。私、は……」
「ん~? でも、ここだってもう……ビショビショ、だよ?」
「っ!」
鏡の中で、花火の手が下へと移動する。閉じていた足が軽々と開かれて、少し触れようとするだけで水気を互いに感じさせる程に久遠の大事な場所は何かを受け入れる準備が出来ていた。指に塗った水を久遠へ見せつける様にその目の前へ持って来ると、花火は嗤う。
「もっと気持ち良くなろうね~」
乳首だけの刺激で絶頂する事の無かった久遠の身体に、今度は明確で強すぎる刺激が走る。花火の指を受け入れてしまったその結合部からは水音が聞こえ、姿見に映る淫らな顔をした自分を見ながら久遠は込み上げて来る感覚から逃れられない。
「ほぉ~ら、クチュクチュ♪」
「ぅあぁ! や、だぁ! なに、か……来る!」
「ふ~ん。むふふ~。それじゃあ……イっちゃえ♪」
「っ! ~~~~~っ!」
「ほら、イっちゃえ。イケ、イケ♪」
頭が真っ白になる様な感覚の中、花火の声だけが何度も久遠を絶頂へと導く。一度上り詰めてしまった身体は容易く絶頂出来る様になってしまい、久遠は戻って来れなくなるまでに絶頂を繰り返し経験する事となった。
「壊れちゃう? イケ……もう止めて欲しい? イ~ケ! 良いよ。壊れちゃえ♪」
―――――――イケ♪ イケ♪ イケ♪
久遠の頭の中に木霊する花火の声。それを聞く度に身体は絶頂を迎え、何も考えられないままに久遠はその意識を落としていった。
腕の中でグッタリした久遠を姿見越しに眺め、花火は笑みを浮かべる。
「あーあ。まぁ、最初だから仕方ないか~。ふふっ、また遊ぼうね~!」
久遠は見覚えのある天井を見上げる。身体は異様な程に重く、汗で全身がグッショリと濡れており、不快感を感じずにはいられない。そこは慣れ親しんだ自分の部屋であり、窓を開ければ見飽きる程に見て来た外の景色。
「……シャワー、浴びよう」
まるで悪夢の様な出来事に今の不快感も相まって、最悪な気分だった久遠は部屋を出てシャワーを浴びる為に浴室へと向かう。
身体を洗って気分が楽になった久遠は学校へ行くために支度をする。全ての準備を整えて制服姿で玄関を開ければ、そこには出て来る久遠を待っていたのだろう。ロングヘアの同じ制服を着た少女がカバンを両手で前に持って佇んでいた。互いに目が合えば、笑顔を浮かべる少女。久遠はそんな彼女の元へ近づき、
――――――おはよう、花火
――――――おはよう、久遠ちゃん
久遠の部屋、そのベッドの下にはツインテールの少女を模した人形が今も転がっていた。