※この作品はR-18です。

愛され過ぎた少女達   作:ウルハーツ

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【恋姫】 呂布『恋』

「っ!」

 

「……軽い」

 

 それは手加減など全くない、本気の殺し合い。

 

 方天画戟(ほうてんがげき)と呼ばれる武器で軽々と迫る剣を受け止めたのは、呂布と呼ばれる少女。その一方で僅かながら辛そうに顔を歪め、距離を取って再び自身以上の大剣を振るうのは、気付けばこの世界に居た久遠だった。

 

 久遠には元の世界の記憶がある。姉が居た事も、友達が居た事も、全て覚えていた。だが目覚めたと同時に様々な事に巻き込まれ、武器を取る事を余儀なくされる。現実(リアル)では戦った事など無かった久遠だが、不思議とゲームの世界の様にここでは武器を扱えた。人を殺す事にもなり、多くの出来事に遭遇した彼女は今、歴史に残る強さを持つ武人が何故か女体化した呂布と対峙する事になっていた。

 

「お前、弱い」

 

「そんなの……知ってる」

 

 この世界の歴史に残る存在は、その悉くが女性ばかり。自身の知る歴史とは時折違う事に困惑しながらも、久遠は彼女達に救われた事で本当の命を奪い合う恐怖と向き合う事も出来た。だが、久遠は現実で剣を持って一年も経っていない。故に例えどのような経験を積もうとも、幼い頃から武に触れて来たものに太刀打ちは出来ないと久遠自身が分かっていた。

 

「なら、どうして恋の前に立つ?」

 

「そうしないと、駄目だから……っ!」

 

 呂布から向けられる殺気に足が竦むも、久遠は何とか意識を保って答える。他の誰もが分かっていた。彼女が呂布に勝てる訳が無いと。だが、時間稼ぎ(・・・・)は出来るとも思われていた。

 

 

 目の前で明らかに恐怖を感じながらも経ち続ける久遠の姿を呂布はジッと見つめる。……彼女が久遠の姿を見たのはこの時が初めてでは無かった。久遠は気付いていないが、嘗て彼女はボロボロの姿で呂布と出会った事がある。それはこの世界で目覚めて最初の頃、今いる場所で武人達に助けられるよりも前の出来事。

 

 猫や犬といった動物が好きな呂布はその世話をよくしていた。そんなある日、動物達が何かを見つけた様に鳴きながら何処かへ導き始めた先で見つけたのが久遠の身体。一目見て静かな衝撃を受けながら、意識の無い彼女を起こして身体を綺麗にし、雨風の凌げる小屋へ運んだ呂布はずっとその場に留まる訳にはいかないと離れ、翌日食料を持って来れば……そこに久遠の姿は無かった。目覚め、何処かへ行ってしまったのだ。

 

 

「……」

 

「っ!」

 

 震える手の振動によって剣が音を立てる。無事に元気そうな様子で、だが敵として相対してしまった事に呂布は心底残念に思っていた。更に怯える久遠の姿を見て、動物たちの様な愛護心を抱いた彼女は迷う。敵として切る事は容易いが、本当にそうするべきなのかを。

 

「……恋」

 

「?」

 

「真名」

 

「っ! なん、で……?」

 

「……お前は?」

 

「…………久遠。他には、何もない」

 

「分かった。……久遠、痛いから。ごめん」

 

「ぇ……」

 

 いきなり名乗られた真名。それはこの世界に居る者達の誰もが持つ神聖な名前であり、許した者のみが呼ぶ事を許されるもの。許しても居ない者が呼べば、殺されても可笑しくない程のそれをいきなり許された事に久遠は困惑する。嘗てそれを知らずに死にかけた事すらあったが故に、尚更だ。久遠自身に久遠以外の名前は無い為、自身の名を呂布……恋に答えた時、次の言葉の意味を理解する前に恋の姿が消える。

 

 それを最後に久遠の意識は途切れた。

 

 

 久遠の存在を彼女の居た陣営はそれ程大事にしていなかった。身分を示すものも無ければ、武がある訳でも無い。多少の知恵はある様だが、この世界の字を読むのは難しい。そんな彼女を拾った陣営は久遠を雑兵の一人として扱っていた。

 

 そんな彼女が呂布と対峙させられたのは簡単な話。『見た目が子供で、呂布は犬猫が好き』といった油断と同情を誘える事を願って。はっきりといえば久遠の居る陣営は歴史にも残らない、浅はかな考えの目立つ場所。しかし知らずに呂布を足止めするという点では成功していた。

 

 呂布の攻撃は久遠という雑兵の犠牲によって止まった。彼女は果たして殺されたのか、無意味な捕虜として連れていかれたのか……後に消え去る陣営が知る事は無い。

 

 

 

 

 

 そこは小さな小屋。数多くの犬猫が屯するその場所の一角で、恋は胡坐の姿勢で座っていた。そんな彼女の膝上には足を延ばして背中を恋へ預ける様な姿勢で意識の無い久遠の姿が。

 

 一匹の犬が二人の傍へと近寄る。恋は視線を向けても何を言うでもなく、犬の行動を眺めていた。すると犬は久遠の顔に近づき、やがて顎下から目元に掛けてを大きく一舐め。その行動によって久遠は意識を取り戻す。

 

「ぅ、ぅ……ん……? ここ、は?」

 

「……起きた」

 

「ぇ……!?」

 

 目の前には犬。顔の半分が何故か濡れている中、朦朧とした意識の中で聞こえて来た恋の声に久遠の意識は一気に覚める。先程まで対峙していた相手が背後に居ると分かり、久遠は本能の様に逃げ出そうと暴れる。だがそれを見越していた様に恋の手が腹部と肩から脇の下に掛けて回され、抱かれた事で容易く制圧される。

 

「久遠、恋に負けた」

 

「どうする、つもり……?」

 

「久遠のこれからは、恋が決める。お前は恋のモノ」

 

 抵抗しても無力化されると分かって静かになった久遠はその後、恋から自分の処遇について話をされる。

 

 まず久遠に帰る場所は無くなった。近場で見ても明らかに久遠が殺された様に、その身体を吹き飛ばす様な一撃で久遠の意識を刈り取った事で、既に彼女の居た陣営で久遠は亡くなった事になっているだろう。久遠を連れ帰るために呂布が帰った事で、犠牲が出た事など気にもしないで喜んでいるかもしれない。

 

 恋の居る陣営にはまだ、久遠の事を伝えていないとも教えられる。久遠がどの様にして敵対する事になったのか、その経緯などを離せば心優しい者の多い彼女の陣営では受け入れられるかもしれない。だがまだ警戒している状態な久遠はその時ではない、と。まずは(自分)に手懐けるつもりである、と。

 

「セキト、他のみんなも。絶対、逃がしちゃ駄目」

 

「……」

 

 恋の言葉を聞いて一斉に返事をするかの如く鳴き声を上げる犬猫達。要は自分がここで軟禁状態になると察した久遠は、犬猫に警備を任せる恋の姿を見れずとも若干呆れていた。逃げようと思えば何時でも逃げられるが、逃げる先が無い状態。追い込まれているにも関わらず、まるで緊張感を抱けない現状にも。

 

 

 それから恋が居なくなってすぐ、久遠はまず外へ出ようとする。しかし犬猫の群れが雪崩の様に押し寄せては入り口から遠ざけられてしまう。武器もなく、犬猫の機敏さを前に多少訓練した程度の久遠では太刀打ち出来ない。

 

「退いて」

 

『わんっ!』

 

「邪魔しないで」

 

『にゃっ!』

 

「……」

 

 攻防は久遠が疲れ切るまで続いた。犬猫達にも体力があるため、全員が疲れ切った状態で部屋の中に転がる。そうして全てがそのまま眠りについてしまえば、次に目が覚めるのは恋が帰って来た時。

 

「ただいま」

 

「……」

 

「返事」

 

「……」

 

 攫ってきて一日で心を開く訳もなく、恋の帰還に久遠は言葉を返す事もしない。

 

 恋は目覚めた時の様に久遠を背中から抱きながら、口数が少ないながらも時折話し掛け続ける。近づいてくる恋から距離をとっても即座に壁へ行き辺り、抵抗しても無駄だとわからされて抱かれてしまえば、久遠に出来るのは何もしない事だけ。それがせめてもの抵抗だった。

 

「ん、時間。また来る」

 

「……」

 

 現れてから時間になるまで、一時も離す事をしなかった恋。そんな日々が幾日も続く中で、肌の接触や静かな性格が幸いしたのか、久遠は最初に比べて恋への警戒をかなり緩め始めていた。もう犬猫達の妨害を超えてまで外へ出ようとする事も無く、数日の間で友情が芽生えたかの如く戯れる様にすらなり始めていた。

 

「今日は肉まん、かな」

 

『にゃ?』

 

「お腹、空いたね」

 

『わんっ!』

 

 壁際で猫を抱き、犬に身体を預けられながら、久遠は恋が持ってくるであろう食べ物が何かを考える。まだ彼女の前で警戒を解いた姿勢は見せていない。だが次に来た時は返事もして、ちゃんと話もしようと決めて……。

 

 

――――――ただいま

 

――――――お、お帰り

 

――――――っ!




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