――――――思ったんだけどさ。
「どうしましたか? 管理人」
――――――チェンとクオンって何か凄く距離、近いよね。
「師妹関係。とも少し違いますが、お互いに高め合う良きパートナーなのだと思います」
――――――いつも二人は一緒だよね。
「そうですね。とても仲は良いと思いますよ」
――――――ちょっと羨ましいかも。ペリカは?
「私、ですか? いえ、特には。二人程では無いですが、仲は良好だと思っていますので」
快晴な空の下、心地よい風が吹く草原の上を猛スピードで駆け抜ける二人の影。その速さは常人を優に超え、影が重なっては離れる事を繰り返す。その度に鳴り響くのは鈍い木のぶつかり合う音。やがて影が止まった時、二人の勢いに揺れる髪がゆっくりと地上へ向かって垂れ下がる。
「その剣、重くない?」
「重い」
「うーん。やっぱりクオンはあたしみたいに二刀流、とかの方が良くない?」
二本の木剣を掲げながら、チェンは目の前で大剣型の木剣を抱えるクオンへ話しかける。その姿には明らかに不釣り合いの大剣。身長と同程度かそれ以上の長い刀身に、傍から見れば振り回されている様にしか見えない戦い方。だが何度も剣を交えて来たチェンはそれが我武者羅な戦い方ではなく、ちゃんと考えられた戦法である事を知っている。
「一点突破の勢いが大事」
「分かるんだけどさ。ちょっと危なっかしくて」
「チェンに言われたくない」
「むぅ! あたしに負け越してる癖にー!」
「今日は、勝つ」
大剣を抱えて攻撃の姿勢に入ったクオンの姿に、チェンは身構える。
二人の戦いの結末は殆どがチェンの勝利に終わっている。その実力には埋めようのない差があれど、クオンはそれで諦めようとはしなかった。寧ろ少し頑固なところのある彼女は何度もチェンへ挑み、チェンも喜んでそれを受け入れている。
「(ふぅ。うんうん! やっぱり、楽しいなぁ)」
「っ!」
強い相手と戦う事は、チェンにとって楽しい事。果たしてクオンが彼女を満たすだけの強さを有しているのかは分からないが、少なくともチェンは今の時間を楽しんでいた。必死に自らの攻撃をその華奢な手で抱えた大剣を盾にする事で防ぎながら、連撃の終わる隙を伺っている姿。いつだって噛み付く準備はバッチリとばかりにジッと見つめて反撃を狙うその姿は、明確にチェンを倒す為だけに思考を向けている。
「せいっ!」
「っ! ここ!」
「っとと! 甘いよっ!」
チェンが重い一撃を入れて出来た隙を突く様にクオンが攻撃を繰り出すが、それを華麗な回避で避けると同時に背中へとチェンが回る。大剣の弱点とも言える重さによって身軽さを基本的には殺しているクオンでは、到底追いつけない速さだ。
「まだ」
「おぉ!」
だがそうなる事は想定の内だったのか、クオンは大剣を地面に突き刺して自らその上に逆立ちをする。後ろに回ったチェンの一撃は空を切り、大剣の反対側へ降りたクオンは地面から抜くと同時に距離を取る。大剣の重さと自らの軽さを活かした回避にチェンは堪らず感嘆の声を上げた。
「今のは取ったと思ったんだけどなー! うんうん、良いね!」
初めてクオンと剣を交えた時の事を、チェンは鮮明に覚えていた。そして今戦う中で彼女があの頃よりも遥かに強くなっている事を身をもって実感する。
「それじゃあ、少しペース上げちゃおっかな!」
「手加減、無用……っ!」
再び二人の姿は影の様に消えさり、ぶつかり合う木の音が草原に響き渡る。最終的な勝敗はやはりチェンの勝利に終わった。速度と勢いを増した彼女の攻撃を抑えきれず、体制を崩されたところで額に木剣の先を突きつけられてクオンは負けを認めるしかなかった。
――――――お疲れ。
「あ、管理人! ペリカも!」
「もう鍛錬は終わっているみたいですね」
「ん。疲れた」
戦いは一度の決着では終わらない。何度も繰り返した末に疲労困憊となったクオンとチェンは草原の上で大胆に寝転んで身体を休めていた。そこに掛けられる声。相手は管理人であり、その傍にはペリカの姿もある。チェンが声に反応する様に上半身を起こして近づいて来る二人へ左手を振る中、クオンは倒れたまま覗き込んできた管理人とペリカの顔を見る。
「ねぇねぇ、今日はどこ行くの?」
管理人へ話し掛けるチェンの姿をペリカは見ていると、そんな彼女を伝う様にしてクオンへと視線が流れていく。それは彼女達が互いに寝転がって休憩している間、片手をしっかりと繋いでいるのが原因だった。簡単には解けない様に指を絡めたその握り方は世間一般に恋人繋ぎと呼ばれ、管理人と話をしている間もチェンはその手を離さない。
「本当に仲が良いんですね」
「? ん」
ペリカの呟きはクオンの耳に届いていた。その内容を否定する理由もなく、久遠自身チェンと仲が良い事は認めていた為に頷きながら肯定する。
管理人から行先を聞いたチェンは移動する為に立ち上がる。すると当然手を握っていたクオンも引っ張られて強引に立ち上がらされ、それから移動する間もチェンはその手を解こうとはしなかった。流石にアンゲロスやランドブレーカーと言った敵性存在が現れるまでだが。
「ねぇ、やっぱり二刀流。やってみない?」
「どうして?」
「うーん。なんかさ、御揃いって感じで良くない? 」
「御揃い。ん、分かった」
「ほんとに!」
敵性存在が出た時の為に、木剣から真剣へと武器を切り替える中で再びクオンはチェンから二刀流を勧められる。過去に何度も勧められた事はあるが、その度に断って来たクオンはその理由を聞いて考え始める。過去に友達といった存在に少なからず憧れを抱く時期があった彼女は、特に仲の良いチェンとの御揃いに少なからず魅力を感じたのだ。
「管理人!」
――――――分かった。クオンの武器も用意しておくよ。
「ん、ありがとう」
チェンやペリカ、クオンといったオペレーターと呼ばれる立場にある人物の武器は基本的に管理人が決めている。チェンなら片手剣を、クオンなら大剣を。戦闘時に使う武器を大剣から変更するのなら、クオンに見合った片手剣を管理人が決める必要がある。
「あ、決めるのは一本で良いよ! もう一本はあたしが決める! ねぇ管理人、良いでしょ?」
――――――それじゃあ、そうしよっか。
「やった! うんうん! どんなのが良いかなぁ?」
「やってみる。でも、今すぐは無理」
「そうですね。大剣とではやはり使い勝手が違う筈ですから、それなりに鍛錬を経て慣れない限り実践では到底使えません」
何度も勧め続けた結果が遂に実を結び、クオンが二刀流を使い始める事にチェンは大喜び。今まで剣を交える中で感じていた二刀流の強みはクオンも勿論知っている為、それ以外のコツや戦い方、戦闘時の考え方についての説明をクオンは道中で永遠とチェンからされつづける事になった。
途中で面倒になって逃げたくても、握った手は未だに解けていない。危険な存在と分かっていても、解放される為にクオンは早く敵が出て来ないかと思ってしまうのだった。