私の幼馴染は少し……どころじゃないわね。かなり、変わってる。あ、一夏の事じゃないわよ? 確かにあいつも変わってるって言うか、朴念仁で好きになった子は全員可哀想だな~、とは思うけど。
日本へやって来て、まだ日本語が片言でしか話せなかった頃。小学校に転入するよりも前に、私は一人の友達を作る事が出来た。相手の方が二つ年上の六年生だったけど、まだ先輩後輩なんて感覚は無かったから友達で会ってると思う。名前はエスティ。本当にただの偶然だったんだけど、その後に同じ学校だって知って凄く嬉しかったのは覚えてる。
普通、小学生で違う学年の生徒同士が関わる事ってそんなに多くない。中学生とかになったら部活とかで関わる様になるけど、小学校じゃ仕方ないわよね。でも私は日本語に不慣れって事もあって、同じ学校だって知った彼女に無意識でも頼る事が多かった。同じ学年で友達を作れるまでは、そうする事でしか上手く学校生活を過ごせなかったから。
そんなある日、私が上手く話せないのを良い事に馬鹿にしてくる奴らが現れた。私が六年生の生徒と仲良くしているってのも気に入らなかったのかもしれない。そこで私を助けてくれたのは、一夏と彼女。放課後で、一夏は忘れ物を取りに。彼女は会う約束をしてたのに、中々現れなかった私を心配して来てくれた。そしてその一件で私は一夏と仲良くなって、他にも同学年に友達が出来た。
『来年、居なくなっちゃうんだよね』
『まぁ、俺は中学生になるからな。しょうがないって』
それから年を越して、新学期を迎えるより少し前。私は彼女が小学校を卒業してしまう事で簡単には会えなくなってしまう事が本当に嫌だった。日本で最初の友達で、同性って事もあってかなり心を許してた自覚はある。……正直、もうこの頃から意識はしてたかもしれない。
『うぅ』
『おいおい……はぁ。別に放課後約束すれば会えるって。それに、中学が一緒なら2年後にまた会えるだろ? 1年間だけだけどさ』
『そう、だけど……」
『困ったな……。よし、なら鈴。お前に俺の秘密を一つだけ教えてやるよ。お前しか知らない、俺の秘密だ』
私を慰めるために教えてくれた彼女の秘密。それを聞いた時、私は呆然としてしまった。だって、ありえない事だったから。だけどあの頃はやっぱり子供だったから、単純に私しか知らない秘密って事で少し浮かれて嬉しく思った。
それから小学校を卒業するまで、私と彼女は学校では会えず、会う時は全部放課後に約束して会う様になった。勿論彼女にも人付き合いがあって、会いたいのに会えない時だってあった。だから早く卒業したくて、早く中学生になりたいと毎日の様に思ってた気がする。
『エスティ!』
『よっ、凰鈴音後輩』
『まさか、これからそんな呼び方しないでしょうね!』
『いや、しないけど……お前は一応、言葉遣い気を付けろよ? 俺は良くても、周りにな』
小学校の頃からの付き合いだから、私達の関係はかなり近くて気安かった。だけど中学生になった以上、それなりに態度を変えないといけない。ちょっと面倒だけど、それが仕方ない事なのは分かってる。だから学校ではそれなりに、学校外では何時も通りに接する様にした。
あの頃、両親が喧嘩ばかりだった私は家から逃げたくてエスティのところへ行く事も多くなって、それこそ家に泊まる事だって頻繁。友達って関係がもっと近づいた様な、それこそ姉妹みたいに近い感じになってたと思う。元々子供扱いされる事は多かったけど、結構本格的に。近しい関係になれた事は嬉しいのに、私は理想の関係で無い事にモヤモヤもしてた。
また一年が経とうとした頃、両親の離婚が殆ど確定なところまで来た。また私達は離れ離れに。エスティは中学を卒業して、普通の高校に入るんだったら別に休みの日とかに会えばいい。だけど彼女が入学するのは普通とは違う高校、IS学園。女性にしか扱えないそれを使えてしまった事に、周りから推薦される程適性があった事にエスティ自身は凄い複雑そうだった。当然よね。『本当は男なんだ』なんて馬鹿な事を本気で信じ込んでる癖に、女であると証明しちゃったんだから。
IS学園に入学してしまうと、寮生活で基本的に学園の敷地内から易々と出る訳にいかないのは知ってる。勿論会える機会は無い訳じゃないけど、中国に帰るかもしれない私にはどっちにしたって無理な事。だから、決めた。
『私も卒業したら、IS学園に行くから』
『いや、流石に高校はもう少し考えて決めた方が良いんじゃないか?』
『考えた結果よ! なんだったら、それなりに箔を付けて入学してやるわ!』
ISを学べる学園は一つだけ。中国に戻ったって、進学先をIS学園にしてそれなりに才能を見せつければ誰にも邪魔されない。本当に血の滲む様な努力が必要かもしれない。それでも足りないかもしれない。だとしても、私は諦めない。絶対に、エスティの居る場所に私も行くと決めたから。
『エスティ。も、もし私がIS学園に入れたら、ま、毎日私の作った……酢豚を食べてくれる?』
『酢豚……?』
その勢いで告白までしちゃったけど、私は後悔してない。本気だったから。
そして私は目標としていた場所に到着した。しっかり『中国代表候補生』の箔を付けて。入学式当日には間に合わなかったけど、それでもIS学園にやって来た私は渡された資料を確認する。その内容は事務所へ行くこと。不親切に地図も何もない状態で、それだけ。
「何処にあるのよ!」
思わずもらった資料を床に叩きつける。少し散らばってしまったそれを、結局は拾わなくちゃいけない事に気付いて面倒に感じながらしゃがみ込んだ私は、一緒に資料を集めてくれる手に気付いて顔を上げた。
それは、一番見たかった人の顔。
「ったく、後の事は考えて行動しろっての」
「エスティ!」
「のわっと! ははっ、変わってないな全く」
私は思わず飛びついた。数年前と変わらない大きさ……いや、大分大きくなってるところもあるけど、私がここへ来た目的ともいえる存在に会えた。これからまたしばらくは一緒に居られる! 学年は違うから同級生とかに比べれば少なくても、そんなのは慣れっこ。会えなかった時に比べれば、全然良い!
「ようこそ、IS学園へ。……頑張ったな、鈴」
「当然よ!」
楽しい一年になりそうね!
って感じで終わりそうだけど、まだ少しあるのよね。一度回想が終わったと思わせて、実は今の今までが回想だったり。
落ち着いてからは色々気になる事もあった。どうして私が来たのに合わせてタイミング良く現れたのか? とか、どうして違う学年なのに
「いや、色々あってな。本当に色々あって……俺、生徒会に入ってるんだ。で、お前が今日来るって分かったから迎えに来たって訳だ」
「同部屋なのは?」
「それも生徒会の力でな。……嫌だったか?」
「嫌な訳ないじゃない! でも、平気なの?」
「気にすんな。これは受け売りだけどな? 権力ってのは、使うモノらしいぜ?」
エスティはそう言って悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる。私より年上の癖に、こういう時は子供みたいよね。でも権力を行使してまで私と一緒の部屋になりたかったって事だから、嬉しいけど。って、もしかして!
「あの約束、覚えてる?」
「…………
「そ、そうね。…………」
「曲解してる訳じゃ無いから安心しろ。告白、だったんだろ? なら、答えは……」
私はその後の言葉に溢れ出てくる涙を止められなかった。そのまま勢いよくまたエスティに抱き着いて、それから何をしたのかはあんまり覚えてない。したい事を思ったままにしたんだと思う。あぁ、でも一つだけ目に焼き付いた事はある。
――――――攻められるエスティは誰より女の子だったわ。