リ【IS】 更識 楯無
「えへへ~、うりうり~!」
その日、IS学園にある学生寮の一室では1人の少女が小さな猫と戯れていた。彼女と相部屋である生徒は日曜という休日である事から別の生徒の元へ泊まり掛けで遊びに出ており、広い部屋を自分達だけで独占出来る空間。少女は表情をだらしなく緩めて、猫を愛で続ける。
「久しぶりだねー、こうして一緒に過ごすの~。ハっちゃんは何時見ても可愛いよ~!」
『……』
少女の名は布仏 本音。IS学園に通う生徒の1人であり、姉は上級生。生徒会長はここへ通い始める前から家絡みで付き合いがあり、生徒会長の妹の御付きという立場にある。生徒会に所属しており、今現在姉や生徒会長は休日でも忙しくしているが……本音はその性格から生徒会役員という立場にありながらも戦力として見なされてはいなかった。その場を温め和やかにする事が出来ても、難しい書類に目を通せば眠るなりしてしまうのだ。
「いっつもかいちょーのところだもんね~」
普段、ハクは生徒会長の元で過ごしている。彼女がこの学園へ入学する際、連れて来られたのだ。その後、上級生になったところで彼女の妹と本音が入学。家族ぐるみの付き合いがあった故にハクの存在は2人も知っており、寧ろ溺愛する程に可愛がっていた事もあって、再会後即座にハクを生徒会長から奪う為の一波乱があった。
「今日はかんちゃんも忙しいみたいだし、お姉ちゃんもかいちょーもお仕事だから……ずぅーっと一緒だよ~♪」
ハクを溺愛する生徒会長は現状、その立場から忙しい。姉も同じであり、生徒会長の妹もやるべき事があると本音にハクを残念そうにしながら預けた。結果、ハクを一人占め出来ると分かった本音は今日一日を何処へも行かずに一緒の部屋で過ごすと決める。
「もふもふ~」
小さな猫の身体を持ち上げてから、ベッドの上で横になったままお腹にその顔を埋めて毛並みを堪能する本音は誰が見ても幸福にその表情を満たしていた。頭を撫でて、背中を撫でて、お腹を撫でてから顔を埋める。それを何度も繰り返しては、幸せそうに笑う本音を前にハクも満更ではない様子を見せる。
生徒会長は時折暴走する。その妹も嫉妬を混ぜて暴走する事がある。本音の姉はしっかり者だが、堅苦しいと感じるところがハクにはあった。つまりハクにとって本音は暴走せずに肩の力を抜いて緩く過ごす事の出来る相手であり、一番一緒に居ても面倒の無い存在なのだ。
「あ、そうだ! えっとね~、あった! こんなのがあるんだ~」
『?』
何かを思い出した様にハクを傍へ置いて、私物の鞄を漁り始めた本音はそこから大きな服を取り出し始めた。普段着ぐるみの様なパジャマや水着を着る本音だが、そのパジャマはその類のもの。しかしサイズが余りにもブカブカであり、優に2人は入れそうな程に中が広い。……つまり、そうやって着るのだろう。
「可愛いでしょ~? 後でこれを一緒に着て、もっとイチャイチャしようね~!」
『……』
本音の提案にハクはジッと彼女の目を見つめ、楽しみと心から思う姿にやがて頷いて返した。
ハクが人に成れる事は既に本音の知っている事実である。生徒会長もその妹も、本音の姉も知っている。なんなら一部の代表候補生や教師も知っている。猫に成れる人、或は人に成れる猫という不思議な存在だ。何処かの天才兎にも筒抜けだろう。余りにも知られている事から、ハクはこの世界で自分を隠す事はしていなかった。
適当に巨大なサイズの服を避けて、本音は再びハクと戯れ始める。果たして彼女の言うイチャイチャが健全なものなのか、淫らなものなのか……それはハク自身もまだ分からない。全ては本音の気分次第であり、そんな彼女の行為をハクは受け入れる程に心を開いていた。
夕食を終えて自室でシャワーを浴びた2人は約束通りに一枚のパジャマを一緒に着始める。人の姿になったハクの身体を抱きしめながらなんとかそれを纏った時、向かい合った二人羽織の状態で本音が主導してベッドへ。そのまま転がれば、掛け布団を掛けて準備は万端である。
「えへへ、ハっちゃん暖か~い」
「……本音、も」
袖から手を引っ込めて服の中でハクの背中に両手を回した本音は、全身でその小さな身体を抱きしめる。布団の中心に盛り上がった大きな膨らみ。その中には2人の少女が居り、密着した状態で抱き合う姿は決して人に見せられるものでは無い。相部屋の相手が居ない今だからこそ出来る事だ。
「さっきみたいに、顔埋めて良い~?」
「……ん」
「やった~、むふふ~!」
「……ぁ……っ!」
本音の言葉に頷いて了承した時、ハクはその身体を少しだけ上へ移動させられる。そして本音はハクの胸に顔を埋め始めた。猫の時と同じ様に、身体の感触を堪能する。それは人の姿になっても本音には変わらずやりたい事であった。服の中で
「すぅー、はぁー……」
「……くすぐったい」
「ハっちゃん、良い匂いがするんだもん。はぁー……なんか、頭がボーっとして来ちゃった~」
猫の時から至近距離で過ごし、剰え顔を埋める等して匂いを存分に堪能していた本音の身体はハクの体質によって十分に魅了され切っていた。だがそれは言ってしまえば何時もの事。普段から抱き着く事も多い彼女は魅了されてハクを襲う事もあるが、のほほんさんと呼ばれる程に普段から緩々な性格の彼女は性的な興奮を感じてもそのまま眠ってしまう事が多々あった。魅了以上に、幸福や眠気の方が彼女にとっては強いのだろう。
「ふぁ~、なんか勿体無いよ~。寝ちゃったら、明日になっちゃう~。そしたらハっちゃんとこうして居られなくなっちゃう~!」
「……大丈夫……また、一緒に……」
「ぅん……えへへ……ねぇ、ハっちゃん……チューしよ?」
「……ん」
緩んだ顔で眠気に誘われながら、それでも本音は口付けをせがんだ。ハクはそれを受け入れて、やがて2人は唇を重ねる。一度だけでは足りないと、離れてからもう1度。今度は舌も絡めてお互いを味わえば、本音は眠りへと落ちる。若干唾液で汚れてしまった口元をそのままに、幸福に満ちた表情で。
「……お休み」
眠ってしまった本音を前に、ハクは静かに告げて最後も一度だけ触れ合う程度の口付けをする。そしてそのまま本音の胸の前で丸くなるように眠れば、寝相で本音に抱かれたまま2人は空が明るくなるまで眠り続けるのだった。
翌日。
「ハっちゃんと一緒に寝ると~やっぱり快眠だね~! 朝もスッキリだよ~!」
「羨ましい」
「会長、しっかりしてください。まだ書類はあるんですよ」
「もう、無理。私もハクと、寝たい……ガクッ」
「……満身、創痍」
「次は私だから。お姉ちゃんは、ハクを1年以上独占してたから駄目」
「お姉ちゃんもだからね~?」
「虚ちゃん……」
「ツケが回って来たのでしょうね……甘んじて受け入れますよ。会長も現実を受け入れてください」
「……」
「あ。返事しなくなった」