リ【アズレン】 ラフィー&ユニコーン
【アズレン】 ブレマートン
ブレマートンとテニスで戦った後日。ハクはとある人物を探して母港を彷徨っていた。時折通り過ぎる他の艦船に相手の所在を知っているか聞きながら回っていると、目的の相手と廊下で遭遇。相手もまたハクを探していた様に、真っ直ぐと近づき始める。
「……ボルチモア」
「どうやら私を探していたらしいな」
他の艦船に聞いて回った事で、自分が探されている事を知ったボルチモアは同じ様にハクを探していたのだろう。無事に見つかった事でハクは彼女に相談を始める。
「なるほど。テニスを上手くなりたい、か」
「ん……リベンジ、する」
ハクはブレマートンに負けた事が悔しかったのだ。だからこそ、運動系の話があればどんな競技でも助っ人に呼ばれる運動神経の良いボルチモアへ強くなる協力を依頼する。話を聞いたボルチモアは納得した様子で頷くと、笑顔でそれを承諾した。
「今からするのか?」
やる気十分なハクはその問いに頷いてテニスコートのある場所へ向かい始める。テニスを楽しむ艦船達の為に専用のロッカーがそこにあり、ハクとボルチモアもテニスウェアは常にそこへ保管してあった。ラケットもある為、荷物を持たずに行っても問題無いのだ。
更衣室へ入り、テニスウェアへ着替えた二人。
「その服装は……ブレマートンのと似ているな」
「……御揃い」
見覚えのある姿はブレマートンのテニスウェアと酷似しており、それが偶然ではない事をハクは答える。彼女用に小さくされた
「なるほど、悪くないな」
「?」
ボルチモアの発言にハクは首を傾げるが、その言葉の意味を彼女が答える事は無かった。
その後、ラケットを手にコートへ向かった二人はテニスを始める。試合としてしっかりやるというよりも、ボルチモアが返すには厳しいものの出来ない訳では無いギリギリの位置へボールを飛ばしてハクの速度と対応力を鍛える様なラリー。ハクは必死にボールを追い掛けてボルチモアに返すので手一杯であり、瞬く間にその額には汗が浮かび始める。
「これは、返せるかな!」
「っ!」
疲労が溜まるハクへ何度目かのギリギリで返せるであろうボールを飛ばしたボルチモアに、ハクは驚きながらラケットを振るう。だが彼女の手は汗に塗れており、勢いよく振った事でラケットが滑り空へ舞い上がった。真っ直ぐに上へと飛んだラケットが、今度は重力に従って落下。しかし一気に疲労してしまったハクは突然の事で動けない。
「!? 危ない!」
「……ぁ」
動かないハクを前に危険を感じたボルチモアは跳躍する様に走り出すと、ネットを超えてハクの元へ。そのままその身体を掻っ攫う様に捕まえると、身体を回転させながら横抱きに抱えてハクをその場から移動させる。落下したラケットがハクの居た場所へ落ちた中、腕の中でボーっとするハクを前にボルチモアは安心の溜息をついた。
「少しやり過ぎたか。休憩にしよう」
「…………ごめん」
気付けばテニスを始めて小一時間が経っており、その間ずっとハクは動き続けていた事になる。彼女を鍛える為にボールを返し続けたボルチモアも十分に疲労はあり、二人はベンチに座って休憩する事に。疲れて余り動けないハクをそのまま運んだボルチモアは、ベンチで彼女を横にして自身の膝上に頭を乗せる。そして飲み物の入ったペットボトルと水筒を手にした。
「飲めるか?」
「ん……ゴクッ」
「ふっ、大丈夫そうだな。私も酸素コーラを……くっ、はー! 身体に、染みるな!」
「……」
「飲んでみるか?」
水筒に入っていたのはハクが何度も飲んだ事のあるスポーツ飲料。この世界の港には本来指揮官が居る筈だった事もあり、人用にちゃんと用意があるのだ。対してボルチモアが飲んでいるのは艦船達が好んで飲む炭酸飲料。艦船用に作られたそれは一見美味しそうに見えるが……ボルチモアの言葉に頷いて、ハクは彼女の差し出したペットボトルに口を付けた。途端、ハクは驚いた様子で身体を起こすと同時に咽始める。
「だ、大丈夫か!?」
「はぁはぁ……不味い」
例えば犬や猫が食べるフードの様に、艦船用に味付けされていたそれは人間の口には合う様に作られていない。余りの不味さに苦しんだハクの姿を見てボルチモアはその背中を擦りながら、膝に無くなった柔い感触に少しだけ寂しさを感じる。そして自分の持つペットボトルを眺めてもう一口。
「私達にとっては美味しいんだがな……っ!」
味覚の違い、種族の違い。そんな難しい事は考えずに改めて美味しいと感じたボルチモアは突如、大きな事実に気付いてしまう。それはハクへ与える為にペットボトルに口を付けさせた事。そしてそれを今、自分が飲んだ事。つまり、間接キスである。
「……ボルチモア?」
「あ、いや、その……なんでもない!」
突然固まり、顔を真っ赤にし始めた姿にハクは気付いて声を掛ける。そこで我に返ったボルチモアは誤魔化す様に頭を強く左右に振って酸素コーラをベンチの隅に強く置けば、ラケットを手に「素振りをしてくる」と言ってコートへ向かってしまった。泡だった酸素コーラをハクは眺めるが、結局その理由には気付けずに残ったスポーツ飲料を飲んでからハクも追い掛ける様にコートへ向かうのだった。
「お疲れ~、今日も何かの助っ人?」
「いや、今日はハクと一緒に居た」
「え!? 何やってたの!?」
夜。ボルチモアは仕切り越しでハクと共にシャワーを浴びてから解散、別の時間を過ごす様になった。そこでブレマートンと出会い、声を掛けられる。彼女からの質問へ正直に答えた時、ブレマートンは驚き食い付く様にハクと何をしていたのか聞き出そうとし始めた。
ハクと共にテニスをした事を始め、ボルチモアは包み隠さずに事実を伝える。ブレマートンにリベンジする為、練習がしたいとハクが言っていた事も含めて。それを聞いたブレマートンは「ふぅん」と一見興味無さそうに反応するが、その表情は明らかに嬉しさを隠し切れていない。自分がテニスへ誘った事が明らかにハクへ影響を与えている事や、自分を思って強くなろうとしている事実が嬉しかったのだ。
「だが、途中危ない場面もあったな。後少しでハクは怪我をするところだった」
「だ、大丈夫だったの?」
「あぁ。何とか救えたよ。余り動けなかったみたいだから、そのまま彼女を膝枕して休憩した」
「何それあんた羨ま……怪我が無いなら良かった~」
「……ブレマートン、これは好きか?」
「? 酸素コーラ? 別に普通だけど」
「普通か……そうだよな」
危険な場面があった事を話した後、ボルチモアは空になったペットボトルをブレマートンに見せる。容器だけで入っていたであろう中身が分かったブレマートンは至極当然の様に答え、それを聞いたボルチモアは納得。その質問の意図もブレマートンが聞けば、その後に起こった出来事をボルチモアは語った。
「確かにハクはアタシやボルチモアとは違うもんね。……あれ? それ、ハクは飲んだの?」
「あぁ。本当に不味かったらしい」
「いや、そうじゃなくて……それで飲んだの?」
「…………」
「空なのは、ボルチモアが飲んだからでしょ? って事は……」
「すまない、急用が出来る気がする。またな」
「は? あ、ちょっと!? どういう言い訳よそれ! 完全に間接キ……」
何かを察し始めたブレマートンから逃げる様に、ボルチモアは急いでその場を離れた。ギリギリ最後まで聞こえない位置まで逃げた彼女はその後、ハクと共に居て起きた出来事に顔を赤くしながらも何処か機嫌良さそうに過ごす。また近い内にハクと練習する時間を約束していたため、その日を楽しみにしながら。