ハクはとある雑貨屋に住み付いていた。特に欲望の対象と言える存在とも出会えず、店主に拾われてからは招き猫の様な扱いを受けながら日々を過ごす。
そんなある日、雑貨屋に新たな従業員が現れる。それは母性の強いお姉さんの様な女性であり、ハクはその人物が欲望を満たす対象だった事から積極的に接する様になった。客に可愛がられる事も多かったが、女性の傍に居る様になってからは彼女とセットで見られる事も多くなる。美しいお姉さんと小さな子猫の絵は他人から見てとても癒しだったのだ。
「ふぅ……どうしようかな……」
何事も無い1日を今日も過ごし終わり、女性は終業して帰宅の時間を迎える。だが真っ直ぐに帰らず、他の誰でも無いハクを膝に乗せて悩み事を打ち明け始めた。『アイドルにスカウトされた』という事を。彼女自身は雑貨屋でこのまま仕事を続けていたいと思っている様子だが、相手も本気で徐々にその意思が揺らぎ始めていた。
「兼業は大変……でも、やってみようかな。私に何処まで出来るか、分からないけど」
『……頑張れ』
「応援してくれてるのかな? ふふっ、ありがとう」
ハクの声援は猫の鳴き声となって彼女の元へと届いた。そしてその日以降、女性……桑山 千雪の毎日はとても忙しいものに変わる。アイドルとしてのレッスンを終えてからは雑貨屋で仕事をして帰宅。倒れる様に眠り、起きてからはすぐにまたアイドルになるための自分磨き。
徐々に疲弊する千雪の姿を周りに居た人達は心配した。それでも大丈夫だと作り笑顔を見せる彼女の姿を前に、やがて彼女をスカウトしたプロデューサーが動いた。彼女に明らかな疲労が溜まっている事を指摘した上で、アイドルとしてそれでは良くないと告げたのだ。
「このままじゃ、皆に迷惑を掛けちゃうよね……」
何時かの様に雑貨屋での仕事を終えた千雪はハクを抱えながら悩み続ける。しかしハクを抱きながら悩む事数分、やがて決断した彼女は雑貨屋を止める事とした。アイドル活動に専念する為に。雑貨屋の店主もそれを受け入れ、こうしてハクと千雪はもう出会う事が無くなる。
しかし1人と1匹の縁は思った以上に固く結ばれていたと、後に知る事となる。
『前以上に調子が良くなさそうだな』
千雪は帰り道、プロデューサーに言われた言葉を思い返していた。そしてその通り、自分が明らかに不調である事を理解していた。
雑貨屋での仕事を辞めた事で、身体を休める時間をしっかり確保出来る様になった千雪。疲労が少なくなった事で前よりもアイドル活動に精を出せる様になったにも関わらず、彼女は何か大事なものを失った様な気分になっていた。何かが足りない、そう感じる様になっていた。
「雑貨屋に行かなくなって……あの子と、会えなくなったから……?」
仕事を辞めた事で失ったのは雑貨屋での時間。そしてその後に殆ど毎日の様にしていた、
「でも、もう止めてしまったから……あの子には会えないよね」
既に雑貨屋の従業員では無い以上、同じ様な時間を得る事は不可能に近い。千雪はどうしようも無い事実に大きな溜息をついて項垂れる。
そんな時、彼女の元に1本の電話が掛かる。見覚えのある番号。それは辞めた筈の雑貨屋からであり、千雪は驚きながらもその電話に出る事にした。
「もしもし」
電話越しに聞こえて来るのは、辞める前は殆ど毎日の様に聞こえていた雑貨屋店主の声。そしてその内容は……先程まで思い浮かべていたハクに関わる事だった。
その翌日、千雪はプロデューサーに無理を言ってオフにしてもらう。雑貨屋を止めてから直向にアイドル活動に取り組んでいた真面目な千雪の珍しい我儘に無条件で許可を出したプロデューサー。そうして自由な時間を貰った千雪は以前まで働いていた雑貨屋へ向かった。
「こ、こんにちわ……」
辞めた後の店という事もあり、少し入り辛さを感じながらも入店した千雪は客が少ない中で仕事をする店主を見つける。相手も千雪に気付いた後、少し待つ様に言って裏へと入って行き……やがてその腕にハクを抱えて現れた。
『!』
「きゃっ! あ、ふふ……久しぶりだね」
千雪の姿に気付いた途端、ハクは彼女へ飛びついていた。それを受け止めて嬉しそうに毛並みを撫でる千雪を前に、店主は告げる。千雪が居なくなってから、ハクは元気が無かった事を。そして誰よりも、飼い主である自分よりも千雪に懐いていた事を。
「あの、本当に……この子を私が貰っても良いんですか?」
千雪の質問に店主は頷いて答えた。
彼女が雑貨屋を再び訪れた理由。それはハクを譲ってもらえる事になったからであった。千雪がハクと一緒に居る時間を失って不調になった様に、ハクもまた千雪が居なくなって不調になり始めていたのだ。それに気付いた店主は自分よりも千雪と居る方がハクにとって幸せであると察して、千雪に電話を掛けたのである。それは千雪にとっても渡りに船な申し出で、断る理由は一切無かった。
「これからよろしくね、ハクちゃん」
『……よろしく』
こうして離れ離れになった2人は再び再会した後、一緒に住む様になる。
それから千雪の調子は元通りになり、一方に専念する様になった事でアイドルとして輝きを増す様になっていった。
明るい内から夕方まではアイドル活動に。そして帰宅してからは基本的に家でハクと一緒に寛ぐ。その存在が居る居ないで感じる癒しの違いに千雪は最初驚きながらも、充実感を感じていた。
そんなある日、千雪は思わぬ事態に遭遇する。それは何時もよりかなり早くレッスンが終了した事で、珍しく昼過ぎには帰宅出来る様になった日の事。残りの半日はとことんハクに癒されようと思いながら、美味しい物を買って帰宅した彼女は……自分とハクが普段から眠るベッドで気持ちよさげに眠る少女の姿を見る。
「……え?」
「ん……すぅ……すぅ」
それが知らない大人だったりすれば、恐怖を感じて悲鳴を上げていただろう。だが居るのは少女であり、猫のハクを連想させる姿を前に千雪は戸惑ってしまう。猫が人に成る筈は無いと分かってはいても、その少女を前にハクの雰囲気を感じずには居られない。余りの出来事にそのまま固まって居る事数分、遂に少女は目を覚ました。
「ぅ、ん……ち、ゆき……お帰……あ」
眠そうに目元を擦りながら、当たり前の様に千雪にお帰りを告げようとして自分の状況に気付いた少女。暫しの間固まった後、やがて少女は急いでベッドの下へ潜ると……そこからハクが入れ替わる様に姿を見せて迎えの鳴き声を上げる。無理のある誤魔化しを前に、千雪は取り敢えず猫のハクを抱えて問い詰める事にした。
それから数分後。千雪の家には家主である彼女とは別に、正座する少女の姿があった。それは猫から人へと変わったハクの姿であり、千雪はハクから説明を受けて余りにも信じられない様な事実に頭を抱える。
「それじゃあ、今までずっと隠していたんですね。私以外に知っている人は居るんですか?」
「……居ない。千雪だけ」
摩訶不思議な出来事を前に、衝撃的過ぎる事実を知った千雪は一周回って冷静だった。雑貨屋の店主を始めとしたハクを知る面々にこの事実を知っている者が居ないかを確認。結果として自分だけだと知り、この事実を他の誰にも伝えない事を決める。下手に話をしても信じてもらえない可能性の方が高く、心配される恐れもある故に。
「これから、どうしましょう」
「……追い出す?」
「…………ううん、そんな事はしません。私にとってハクはもう、家族ですから」
悩む仕草をする千雪だったが、ハクの質問に彼女の中で答えは即座に決まった。例えただの猫では無かったとしても、ハクの存在は既に自分の中で大切な者となっている。追い出す気は一切無く、そうと決めれば今までと対して変わりはしない。
「でも、今度から家では人の姿で居てくださいね」
「ん……ありがとう」
「ふふ。改めて、これからよろしくお願いしますね」
本当のハクを受け入れて、千雪はその日ハクを相手に1日中喋り続けた。自分の私生活を知り、今まで一方的に話していた事も影響してか誰よりも話しやすい相手だった事で、今まで通り。寧ろそれ以上に話す事を楽しんだ千雪。やがて夜を迎えた彼女は人の姿になったハクとそのまま何時も通りにベッドで眠る。
それからハクはもう隠す事を止めて、千雪の家を当たり前の様に人の姿で過ごす様になる。そして彼女に認識されている事もあり、家の事は代わりに熟す様になっていた。飼い主と猫の関係は変わらず、だが同棲とも言える生活。それが2人の日常となる。
ハクとの同棲が始まってしばらく、千雪はある事に悩む事となっていた。今の今まではハクの存在を猫として認識した上で、それでも彼女を近づけさせずに部屋で密かに行っていた行為。人である以上その欲求は必ず湧き上がるものであり、だがハクが人に成れるという事実を知って以降は我慢せざるを得ない事。
端的にいえば、桑山 千雪は性欲を発散出来ずにムラムラしていた。
「はぁ……」
艶めかしく熱い溜息が千雪の口元から放たれる。見る者が見れば一瞬で虜にされてしまう程に、今の千雪からは扇情的な雰囲気が醸し出していた。
「……千雪」
「っ! な、なんでも無いの……本当に、なんでも無いのよ」
だが現在彼女が居る場所は自宅であり、その姿を見る事が出来たのはハクだけ。千雪の欲望を見る事が出来るハクは何となく察しがつきながらも、自分から切り出す事はしない。出来る限りそれは自分が関わらない様にして、満たしたいと思っているからである。……が、やはりハクの思い通りにはいかない。
千雪が悩む原因はもう1つ存在した。それはハクの存在そのもの。毎日相談する愛らしい存在が、人となった事でその感情は当初複雑なものであった。しかしそれを受け入れた後に千雪の中に生まれたのは、ハクに対する愛情。猫の時に向けたものとは違うその愛情は、普段帰って来る度に迎えてくれる家族へのものと似た様で違った。
「(駄目、ハクちゃんに変な気持ちを抱いちゃ駄目……なのに)」
「……」
発散出来ない性欲と、ハクに対して溢れる家族愛に似た愛情。それが混ざり合ってハクへ向けられる目は何かを懇願する様にも見える。千雪は必死に自分を抑えてこれからも過ごしていく事だろう。だが明らかに最近はそれで様子が悪くなっており、ハクはしばらくの間千雪を見つめた後……彼女の元へ近づいた。もう、待ち続けるのは駄目だと分かって。
「……我慢、しなくて……いい」
「ハク、ちゃん……?」
「千雪、なら……平気」
それが何を指しているのか、千雪も分からない訳では無い。全てをハクが分かった上で受け入れると知った時、彼女が必死に欲望を抑えて続けて来た理性の門が崩壊する。
「っ!」
突然動き出した千雪は真っ直ぐにハクの身体を抱きしめると、そのままその身体を横抱きに抱えて真っ直ぐにベッドへ向かい始める。そして寝かされるなり、ハクの服を脱がせて自分の服も脱ぎ始める。その速度は余りにも速く、ハクからしてみれば気が付いた時には寝かされ脱がされていると思う程であった。
「はぁ……はぁ……もう、止まれないからね」
「……ん」
最後の確認とばかりに息を切らしながらハクを押し倒す様に顔の左右へ両手を突いて告げる千雪を前に、ハクは頷いて両手を広げる。子供が抱っこをせがむ様な姿勢だが、それはハクが自分を受け入れると確信出来る姿でもあった。それが分かった時、千雪はそのままハクの首元に顔を埋めた。
「んぁっ!」
「は、むっ」
自分よりも小さな身体。その愛らしい柔肌を堪能する様に舐めれば、不思議と感じる甘さを含んだハクの味に千雪の顔は蕩ける。そして更に欲しいと思う余り、ハクの身体に舌を這わせ続けた。滑る舌の感触をあちこちで感じてハクが思わず千雪の身体を止めようと手を伸ばせば、その手を掴まれて指を絡められながらベッドへ押さえつけられる。
首筋を、耳を、胸を、脇腹を。千雪が思い当たった部分は余す事無く堪能される。やがて息継ぎをする様に顔を上げた千雪が次に目を付けたのは……口だった。
「んっ、じゅる……ふぁむ」
「んっ! ちゆ、んぐっ」
貪る様に唇を奪われたハクはそのまま差し込まれる舌に口内を味わい尽くされる。一度だけで無く何度も息継ぎをしながら口付けを繰り返す内、千雪の身体は更に火照る様に熱くなり始める。下腹部に感じる熱と水気。千雪の手がハクの身体を撫でながら下へと向かって行けば、同じ様に太腿を撫でられて秘部の濡れ具合を確認される。
「ふふっ、気持ち良いんだね。私も気持ち良くなりたい」
「ぅ、ん……しよ……?」
ハクの言葉に千雪は頷いた後、手をそのままに姿勢を変え始める。ハクの身体を握った手で引ける様にした状態で足を組み合わせ、自らの秘部をハクの秘部に合わせて貝合わせの姿勢に。微かに部屋の中に水音が響き、官能的な声が千雪とハクの口元から漏れる。
「よい、しょっと……それじゃあ、するからね?」
「ん……ふぁっ!」
千雪はハクの両手を引きながら、腰を動かして合わせた秘部を擦り合わせる。身を震わせるハクの身体は千雪に覆い被さられる事で押さえつけられ、漏れ出る声も再び口付けをされる事で全て塞がれる。何もかもを千雪に押さえ込まれる事で、ハクは自然と自分が誰のモノであるのかを思い知らされた。
それがハク自身の望んだ事であり、彼女はこの状況に歓喜していた。
「ち、ゆき……んぁ!」
「ハクちゃんっ!」
最初は欲望の対象として出会い、彼女の傍に居続けたハク。やがて独り言を聞く様になり、彼女の悩み等を知る内にハクの中で千雪に対する想いは大きくなっていった。だからこそ、千雪が雑貨屋を止めた時。彼女が居なくなった事でハクは知らず知らずの内に落ち込んでしまったのだ。
だがこうして同じ家で過ごす様になり、正体も露見した事で更に千雪に対しての思いを強くした。
「好、き……っ! ち、ゆき……」
「っ!? 私もだよ、ハクちゃん!」
ハクからの思いを告げられて驚いた千雪だが、すぐにその顔は笑顔へと変わる。そして同じ想いを打ち明けて、2人は更に行為を続けた。
擦れ合う秘部から鳴り響く水音は更に激しさを増す。ほんの微かに残っていた理性からの遠慮が相思相愛と分かった事で消え去り、千雪が思うままにハクを求める。そしてハクもまた、千雪を求めながら彼女の行為を全て受け入れる。
「き、ちゃうっ!」
「私も、イクから……一緒に、イこうねっ!」
「ぅ、ん……!」
やがて訪れる絶頂の波を前に、ハクは握られた両手を離して千雪の首に回しながらしがみつく。千雪もまた、ハクの背に手を回して抱きしめながら腰を揺らし……遂に訪れたその限界を2人は同時に感受する。更に溢れ出る愛液がベッドのシーツを濡らそうと、止まらない。何度か震えた後、千雪が耐え切れずにハクの横へと力の抜けた身体を転がした。
「はぁ……はぁ……」
「気持ち、よかった……?」
「そう、ね……スッキリ、したかな」
「そう……シたくなったら……また、言う」
「うん。それじゃあ」
「?」
天井を眺める様に少しぼやけた思考の中で会話をしていたハクだが、最後の言葉を切っ掛けに再び千雪が覆い被さり始める。ハクは千雪の溜めた性欲を甘く見過ぎていた。自分が満足したからといって、彼女が満足出来たとは限らない。
「もう一回、しよっか?」
「……ん」
千雪の求める声にハクは静かに頷いて受け入れる。その後も部屋には少女と女性の甘い声が響き渡り、ハクは気を失うまで千雪に求められる事となった。