ハクは既に今の世界で数年以上の時を過ごしていた。もう何名かの欲を満たし、次の対象として出会ったのは
それは長い日々を同じ世界で過ごし、今まで無事に成功させる事が出来て来た事で生じた油断だった。基本的には猫の姿で近づいていたハクだが、少女が学生故に授業へ出ている間は自由な時間。その時間は人の姿で過ごしていたが、ちょっとした拍子でハクは少女に人の姿を知らぬ間に見られてしまったのだ。
余り見慣れない幼女の姿は誰の目にも留まる。当然、欲を満たす対象であった少女の目にも。少女は見覚えのあったその姿や何処か嗅ぎ慣れた匂いを感じ取り、行動するハクの後を自分の力を使って操った者を介して尾行させる事にした。そして、全てを知る。自分と同じ場所に通う学生で唯一心を読めない相手と関わりがある事。巫女服の少女やシスター服を着た少女、そして嘗て自分を共に助けてくれた青年と親しい事も……その全てを。
少女……食蜂 操祈は1人、笑みを浮かべた。自分と長い時を共に過ごして来た猫が、ただの猫では無かった事実に。そして自分が嘗て危ない目に遭った時、青年と共に僅かながらも姿を見せて自分を守ろうとしてくれた少女の姿を思い出して。青年の名前や色々な情報は既に知っている操祈だが、少女の正体はずっと掴めていなかった。だがずっと傍に居たのだ。それが嬉しくて、楽しくて、彼女は笑いを堪えずにはいられなかった。
「ふふ、見ぃつけたぁ~」
瞳に映る星形の目が怪しく光る。手に持つ能力を使用する際に補助として使うリモコンを口に当てて、操祈は誰にも聞こえない様に呟いた。
誰も居ないビルの中で1人、ハクは立っていた。その目は何処か虚ろで虚空を見つめており、そんな彼女の前に制服姿の操祈が姿を見せる。楽しそうに笑みを浮かべる操祈はハクの身体へリモコンを向け、ボタンを押し込む。途端にハクの目には光が戻り、驚いた様子で視線を右往左往させた後に操祈の姿に気付いた。
「……ぇ」
「ふふ、驚いてる驚いてる。まぁ、無理もないよねぇ……実はぁ~、全部知っちゃったんだゾ★」
ウィンクしながら告げる操祈の言葉にハクは目を見開いた。だが静かに目を閉じて動じながらも冷静になろうとしたハクは、彼女の持つリモコンを前に思う。自分がここに居る理由は彼女の力によって操られた結果であると。つまり彼女は既に自分の頭の中を覗いた後なのだと。
食蜂 操祈は心理掌握の力で相手の頭の中を覗く事が出来る。精神を操作する事で思い通りに操る事も可能であり、その人間の過去を知る事も出来る。そして彼女自身の性格は基本他人を警戒しており、傍に居る者の頭の中を必ず1度は覗くと決めていた。今まで猫の姿で傍に居たため、覗かれずに彼女の事を知っていたハク。だが彼女に隠し事はもう不可能である。それどころか話をしなくても、世界や欲の事はもう全て彼女に筒抜けなのだ。ハクは状況を理解してから、再び操祈と目を合わせた。
「……追い出す?」
「え? なんで? 私がそんな事する訳ないよぉ」
「……」
「でも、色々無視出来ない事が一杯あるからぁ……まずはそれから先に終わらせちゃおうねぇ?」
「っ!」
僅かに目を細めてゆっくりとリモコンを自分へ再び向けた操祈の姿にハクは戦慄した。今まで誰かが彼女の手で操られた光景は見て来たが、いざ自分が操られる側になると恐怖を感じずにはいられなかったのだ。だが彼女の力から逃れる術は無く、ハクは思わず目を閉じた……が、何も変化は起こらない。
「……? 何、したの?」
「ん~? ふふっ、さぁ~? 何だろうねぇ?」
再びリモコンが自分に向いた状態で操作される。だがハク自身は何が起きたのか分からず、操祈はそれでも変わらぬ笑みを浮かべながら何度かそれを繰り返し続けた。やがて一旦リモコンを降ろした操祈はゆっくりとハクへ近づきながら、質問する。
「ねぇ、ハク。貴女の名前を教えて?」
「? ……ハク」
「そう。それじゃぁ……
「ぇ…………! なん、で……」
「元の世界の家族はぁ? 友達はぁ? ふふっ」
「!? いや……なんで……なんで……っ!」
その質問が彼女のした行為の答えとなった。ハクは彼女の問いに答えようとして、答える事が出来なかったのだ。さっきまでは確かにあった、元の世界の記憶。それがまるで最初から何も無かったかの様に思い出す事が出来ない。唯一覚えている事は、『自分には帰りたい世界があった』という事だけ。やっと彼女のした事を理解した時、ハクは操祈へ視線を向ける。……そこにはまた、自分へリモコンを向けて笑みを浮かべる操祈の姿があった。
逃れる術は無い。無情にもボタンが押された時、ハクの気付かぬ所でまた1つの記憶が消える。このままでは何もかも消されてしまうと思ったハクは、操祈から逃げる事を選んだ。リモコンは彼女の能力を補助する道具に過ぎないが、その先に居なければ。彼女の視界に入らなければ能力は届かない筈なのだから。
ビルから飛び出たハクは、行き交う人々の間を時にぶつかりながらも全力で走り続ける。背後から追って来ているのかも分からないが、とにかく何処か安全な場所を求めて。彼女の能力が効かない場所や力があれば、これ以上の被害は起こらない。ならそれが出来る人物の元へ。……そう思ってハクは思わず立ち止まった。
「……誰、だった……?」
確かに彼女の能力が効かない人物は存在した。だがその顔も名前も思い出す事が出来なかった。そして誰か頼れそうな人物を思い浮かべるも……ハクの中に残っていた人物は、1人だけ。それはこの状況を作り出した操祈であり、その他の人物に関する記憶は全て消えてしまっていたのだ。
「っ!」
恐怖の余り、震える身体をハクは両腕で押さえる。何処かで自分を知る人物が声を掛けてくれる事を願って。今出来る事は他に無く、唯一記憶の中に残っていた
ハクの居なくなったビルでリモコンを片手に操祈は再び笑みを浮かべる。そして彼女は何事も無かったかの様に自分が過ごす女子寮の部屋へ帰る為に、足を進め始めた。
『ゃ、んぁぁぁ!』
『はい、またイっちゃったねぇ。それじゃあまた1つ、忘れよっかぁ?』
『ぃ、ゃ……ゃめ、て……』
『ふふ。大丈夫。その内、忘れた事すら忘れられる様になるからぁ……ね?』
朝を迎えた頃、私は飼い主である操祈の腕の中で目を覚ました。何か夢を見ていた様な気もするけど、もう思い出す事は出来ない。所詮夢だから、大した事じゃ無いと思うけど。
抱かれた身体は思う様に動かず、私は顔を上げて彼女の顔を確認する。心地良さそうに眠るその姿を前に起こすのは気が引けた。まだ学校が始まるまではきっと時間があるから、このままにした方がきっと良い。私を抱きしめて寝付きが良くなるなら、それは彼女の為に居られるって事。うん、特に問題は無い。
それから少しの間、私は彼女の腕の中でジッと過ごしていた。少し同じ体制でいるのが辛くなって無理に動く時もあったけれど、彼女がそれで起きる事は無かった。何時もの事だから少し慣れたって感じもする。彼女の子供の時からこうして居たから……? 今更慣れるって少しおかしいかも。
「ふぁ~……おはよぅ……ハクぅ?」
「ん……おはよう」
少し寝癖を付けたまま、目を覚ました操祈は私を抱きしめたまま声を掛けて来た。それに返事をすれば、少し寝ぼけた様子で笑みを浮かべて私を抱く腕の力が少し強くなる。時間が沢山あればその内色々始めるけど、今日は遊んで居られる程に余裕がある訳ではない。朝ごはん、用意しないと。
「……何、食べる?」
「ん~? ふふ。私はぁ、ハクが食べたいなぁ」
「……時間、無い。……ぁ」
だけど操祈はそんな事、気にもしない様子で私を押し倒して来た。初めて彼女に迫られたのは何時だったか……もう、覚えていない。でも昔から一緒だった彼女が私を好きだって事が私も嬉しくて、受け入れたんだったと思う。もうこうなってしまったら彼女の気が済むまでして、それから色々始めた方が速い。
私を押し倒した操祈が上半身を私に重ねて動けない様にする。別に逃げるつもりは無いけど、余りに激しいと勝手に身体が動いてしまうからこれが当たり前になってしまった。そしてまず最初にするのは、キス。普段行って来ますやお帰りの他にもおやすみやおはようでキスは頻繁にするけど、このキスはそのどれとも違う意味がある。だってこれから始めるのは、彼女との特別な時間だから。彼女が私を求めて、私が彼女を受け入れる。……そんな時間。
「んっ……今、脱ぐ」
「だぁ~め。私が脱がすからぁ、ハクは何時もみたいに受け入れてくれれば良いんだゾ★」
「……分かった」
もう大分操祈の目も覚めたらしい。それでも止める気が無いとなれば、やっぱり彼女を満足させる他に無い。なら、
「ふふ、いただきまぁ~す♪」
「んっ、ぁ……」
嬉しそうに笑みを浮かべて告げた操祈の顔が私の胸元に落ちた。途端、感じる舌の滑りが乳房を這い回る感覚に背筋がゾッとする。でも同時に紛れもない快感もしっかりと私は感じていた。何度も何度も彼女に身体を委ねて来たせいか、彼女が感じさせたい様に感じてしまう私の身体。絶頂すらも能力を使わずに自由自在なせいで、弄ばれる事も多い。だけど今回は比較的普通にしてくれるらしい。胸から来る刺激が、まだ心地良かった。
「ふぅ、あまぁい……とってもぉ、美味しいわぁ」
「……そう」
私の味なんて私自身が分かる訳もないけど、彼女は私の味が好き。何時もそれを言われると少し恥ずかしくは思うものの、決して不快には思わなかった。寧ろ私が好きって言ってくれてるみたいで、幸せすら感じる。……まぁ、私が好きなのは昔から言ってくれてるからその通りの筈だけど。
「ん~? あ、もう濡れて来ちゃったんだねぇ?」
「……」
私はとても濡れやすい体質らしい。彼女と以外にした事なんて無いけど、今までの経験でそれは嫌でも理解した。そしてそれを言われる度に私は恥ずかしくなってしまう。思わず目を反らしてしまうけれど、操祈はそれが気に入らなかったのか私の顔を強引に自分へ向けさせた。
「余所見はしちゃ駄~目。ずっと、何時だって私を見続けてねぇ」
「……ん」
彼女と共に外へ出る時だって、どんな時だって私は彼女から目を反らしてはいけない。私の視界に彼女が映らない事を、操祈は絶対に許してはくれない。能力で相手の視界すらも把握出来るからこそ、何時だって私は操祈の事を考えている事が約束。それはとても重いかも知れないけれど、彼女に求められているその事実は幸福にも感じる。私は彼女の言葉に頷いて、彼女の特徴的な目と視線を合わせた。満足した様に笑みを浮かべた操祈は、ゆっくりと顔を近づけて来る。そしてキスを始めると同時に、右足の膝を私の水気を帯びた秘部へ宛がい始めた。
「んっ……」
「ぐりぃ、ぐりぃ……ふふ。気持ち良ぃ?」
「……ん。もっと、して」
「当然だよぉ。もっともっと、私に染まってねぇ。あぁ~、この征服力……最高ねぇ」
何で征服力と言ったのかは分からない。別に私は過去に屈服させられた覚えはないから。だけど偶に彼女は私にはよくわからない事を言う。特に今の様に、気分が高まっている時に。詳しく聞きたいと思う事はあるけれど、私はすぐにそんな事を考える余裕は無くなってしまう。彼女に押し付けられる膝の刺激が更に強くなった事で、頭に電撃の様な物が走ったか……ら……。……電、撃……?
「ん、ぁ……み、こと……?」
「…………」
一瞬、操祈とは違う誰かの顔が浮かんだ。名前も浮かぶけれど、それがどんな人物だったかは思い出せない。でも確かに私はその人を知っていて……。
「はぁ……残念。廃人にならない様に外での記憶は少し残したけどぉ、要らなかったかなぁ?」
「み、さき……?」
気付けば彼女の表情から笑みが消えていた。まるで感情を失ったみたいに私から身体を起こした彼女は、何処からともなく彼女が愛用するリモコンを手に取る。そして私に向けるその姿は能力を使う時の仕草。訳も分からず彼女の名前を呼んだ時、操祈はまた少しだけ笑みを浮かべた。だけどその笑みはさっきと違い、少し怖かった。
「はい、改竄♪」
彼女がリモコンを操作する。そしてそれと同時に私の頭の中は真っ白になった。
私は子供の頃、操祈に拾われた。彼女は私を愛してくれて、私を必要としてくれている。どんな時だって私達は一緒。寝る時も起きる時も、生活の中には何時だってお互いが居る。
彼女が学校へ行く時、私は1人で女子寮の操祈の部屋に残る。部屋の中では掃除したり、洗濯をしたりして時間を潰す事が殆ど。1度だって1人で外に出た事は無い。操祈は私が居なくなってしまうと不安で仕方がないからと、出ない様に何時も言っている。別に不便では無いから、特に問題は無いけど……少しは外の世界を見てみたい気もする。操祈が居る時に出れば良いだけだけど。
「?」
ふと、新聞の様な物が目に入った。それは数ヵ月前の古い新聞の様で、操祈がそれを読んでいるとは到底思えない。でも確かにそれは置いてあって、書いてある記事はある少女の名前と能力や詳細について。この学園都市に数人しかいないLEVEL5の少女らしくて、名前は御坂 美琴と言うらしい。
「……」
私の知らない人。暇潰しに記事を読むけれど、特に気になる様な内容は無かった。確かにLEVEL5は凄いけれど、私には正直関係ないから。
しばらくして操祈が帰って来る。彼女は何故か新聞の事を聞いて来たけど、私はゴミとして纏めてしまったと伝えた。内容を読んだか聞かれて特に気になる事は無かったと伝えた時、操祈は物凄い笑顔で頷いていた。結局理由は分からなかったけど、一体何だったのだろう?
「ふふっ。流石私の改竄力……これでハクはぁ、完全に私だけの存在ねぇ」