【プラエデ】 ショウ
リンは迷っていた。彼女は幼馴染のショウを追って家を飛び出し、彼女が所属するプライドへ在籍。リーダーとしてプライドを纏める人物について行きながらも、基本的には自由に過ごしている。……しかしそんな彼女にも小さな葛藤があった。
「ふぁ~、眠いよ~。でも、まだ寝ちゃ駄目~」
普段以上に間延びした様子で眠気を抑えながら、リンは必死で眠る事を我慢し続ける。『食べて寝て、食べる事が大好き』と自ら公言する程に寝る事が好きな彼女が、それを我慢する理由。それは幼馴染から聞かされたとある昼寝のお話を羨ましく思ったからであった。
「何処~。何処に居るの~?」
もう倒れる寸前。そんな様子を見せながらも、彼女は探し人を求めて街の中を歩き続ける。すると建物の隙間から僅かに姿を見せた小さな少女の姿を見たリンは、目にも留まらぬ速さで駆け出した。正に一瞬の出来事。街にいた者達は小さな少女が謎の影に一瞬で連れ去られ、消える様にして居なくなってしまう瞬間を目撃する暇も無かった。
「ハクちゃ~ん! やっと見つけたよ~」
「……痛い」
「この後、時間ある~? あるよね~? 一緒にお昼寝しよ~?」
自身を抱きしめて駆けるリンにハクが小さな声で抗議するも、走り抜ける速度にそれは掻き消されてしまう。殆ど拒否権の無いリンの提案。例え断ろうとしても、恐らくはこのまま抱かれて何処かで強制的なお昼寝が始まってしまうだろう。こうしてリンがお気に入りのお昼寝スポットへ向かう間、ハクは彼女に運ばれ続けた。
リンは幼馴染であるショウが大好きであると共に、ちょっとした対抗心も抱いていた。プライドに対する功績を競っている訳では無い。……ショウを追ってやって来たプライドで出会ったハクが、ショウに懐いている様に見えた事である。しかしそれは当然の話でもあった。ハクはショウと出会い、その後にリンと出会ったのだ。時間の差は埋められない。
初めてハクと出会った時、リンが彼女に抱いた感情は嫉妬だった。ショウを追い掛けて来た先で、彼女と仲良くするハクを羨ましく思ったのだ。だから最初は目的だった幼馴染と再会して、彼女と過ごす事を優先していたリン。だがその2人の仲へ差し込む様にショウが連れて来るハクという存在にリンが抱いた感情は酷く複雑だった。しかしリンは基本、誰かを嫌う事は無い。ショウが大切にする友達だから、自分も友達になりたいと自然に思い始めた彼女はハクと仲良くなる事を決める。
リンは思った。ハクはショウと同じ様に自分と非常に相性が良い存在だと。ショウはレッドの特性上、常に眠気に襲われている。故に昼寝をする事が多い。自分も寝る事は大好きで、ハクもゆっくりと身を休められる昼寝は好き。同じ好きがある同士、仲良くなる事に然程時間は掛からなかった。
「う~ん、むにゃむにゃ……えへへ~」
「……」
誰かと一緒に寝る事はリンにとってとても嬉しい事だった。心地良い気分と暖かい感情に包まれるこの時間が、リンには至福の時間と言える。不思議な事にハクを抱いて眠る睡眠の質は非常に高く、一度知ったらもう忘れる事は出来ない。尚、リンの大きな胸に後頭部を包まれて眠るハクは時折転がされて窒息しそうになるが、眠るリンは知る由もない。
中途半端に目覚める事も無く、日が暮れるまでグッスリと眠り続けたリンは遂に目を覚ます。既に起きていながらもリンに抱かれたままだったハクは起きた凛へ「おはよう」と静かに告げ、寝起きで隙がある内にリンの腕から逃れる。暖かく柔らかな抱き心地の良いハクが居なくなって少し悲し気に両手を彷徨わせたリンは、立ち上がったハクを見てようやく起きる事を決める。そして立ち上がった。
「ふぁ~。快眠快眠~。やっぱりハクと寝ると、気持ち良いね~」
「そう。……もう、暗い」
「だね~。帰ろっか~?」
リンはそう言って微笑みながら片手をハクへ差し出した。ハクはその手を一度見てから、特に何も言わずに自らの手を重ねる。もしこの場にショウが居れば、きっとハクの反対側の手を自然と握っていた事だろう。リンは自然と手を握れた事で、彼女との仲が深まっている事を感じて嬉しく思いながら帰路を歩き始めた。
「ショウちゃ~ん。ショウちゃんは~、ハクちゃんの事好き~?」
「愚問でござるな。好きでござるよ」
「そっか~。えへへ、あたしも好きだよ~。でもでも~、ちょっと物足りない気がするんだ~」
「物足りない、でござるか?」
ハクが別のレッドと共に行動していた日、リンはショウと話をする。リンは最初、ハクと仲良くなりたいと思った。そしてその結果、一緒に昼寝をする事も手を繋ぐ事も出来る様になった。……しかし、リンはそれで満足出来なかった。果たして仲良くなりたいといった目的の最後は何処へ行きつくのか。子供の頃にショウと仲良くなりたいと思った時とは違う不思議な思いは、リン自身もよく分かっていない。
「もっと、もっと仲良くなりたいなぁ~って思うんだ~」
「……今以上に仲が良いとなれば、それはもう恋仲でござるな」
「恋仲~? 恋仲かぁ~……えへへ、それも良いかもね~」
「良くないでござる」
「ん~?」
ショウの言葉にカップルの様にハクとイチャイチャする光景を頭の中で思い描いたリンは楽しそうに呟いた。しかしその言葉に反応したショウを見たリンは、何処か鋭い眼差しで自分を見る彼女の瞳と目が合う。言葉にせずとも伝わる感情。それを見てショウがハクに対して親愛や友愛とは違う感情を向けている事に気付かない程、リンは鈍く無い。
「それじゃあ、勝負しよっか~?」
「何方が先にハクと添い遂げるか、でござるな」
「相手がショウちゃんでも、負けないよ~!」
幼馴染で大切な人が相手でも、負けたくない事がある。リンは彼女との対決に何時も通りの雰囲気を出しながらも、内心で絶対に負けないと心に決める。当然それはショウも同じであり、同じ存在を求め合う同士は元々仲が良い事もあってその関係に亀裂が入る事は無かった。きっと、互いが互いに勝敗を決した時。相手を祝える程に2人の仲は確固たるものだからだろう。
「よーし、そうと決まったら~!」
「探すでござるよ」
「競うのも良いけど、今日は3人でお昼寝しようね~!」
リンの言葉にショウは頷いて、背にしていた三度笠を頭に被り直す。そして2人は一瞬でその場から消えると、猛スピードで人の隙間や建物の屋根を伝って街の中を移動し始めた。競い合っている訳では無いが、出来れば先に見つけたいと思ったのだろう。
その頃、別のレッドと先程まで時間を共にしていたハクは現在、時間を持て余していた。彼女と一緒に居たレッドに急な仕事が入ってしまい、暇になってしまったのだ。特に誰とも約束した訳では無かったため、それなら1人の時間を満喫しようとハクが思った矢先。自身へ迫る存在に気付いて構える。が、構えたところで止める事は出来なかった。
「捕まえた~!」
「このまま行くでござるよ」
「……急過ぎ。……っ!」
右腕をリンの腕に拘束されて、左腕をショウの腕に拘束されたハクは彼女達と正面を逆にしたまま抗議の声を上げる。だが2人の耳に届く事は無く、彼女はそのまま2人に連れられて街から姿を消してしまった。
その後、草原で1人の小さな少女を挟む様にして横になる2人のレッドの寝顔はとても穏やかで幸せそうであった。