※この作品はR-18です。

愛され過ぎた少女達   作:ウルハーツ

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【プラエデ】 ドロイア

 ある村にハクは使命を果たす為、降り立った。そこで出会ったのはまだ幼い少女であり、ハクは彼女の欲望を満たす為に傍で過ごす様になる。誰の飼い猫にもならず、村に住み付いた猫の様な存在となって。

 

 その村は自給自足の生活を送っており、毎日を過ごす事で一杯一杯の決して裕福とは言えない場所だった。しかしある時、気候や天候による災害で村は飢饉となってしまう。少女の両親も食料の貯えを削りつつ、状況が良くなる事を願ったが……現実は非常だった。

 

 ハクは食料の為に、と何度か襲われる事になった。しかし決して捕まらずに逃げ続けていた時、突然村に若い男性が現れる。白衣を着た明らかな研究者。その男は村に居る者達へ告げた。『子供を差し出せば、食うに困らない金貨を渡す』と。つまり、子供を売れと言ったのだ。

 

 村の者達の殆どはそれを受け入れなかった。自らの子供を差し出す等、馬鹿げていると。だがハクの使命に関係する少女の両親は、飢えに耐え切れずに少女を研究者に売り渡してしまった。嫌がる少女は眠らされて、そのまま男の元へ。沢山の金貨を受け取る少女の両親は泣きながら眠った娘に謝り続ける。

 

 研究者は少女を村から連れて行ってしまう。ハクは少女を追い掛けて村を後にするが、途中で姿を見失ってしまい、必死で痕跡を探して少女の行方を追った。……そしてハクが研究所を見つけたのは、少女が売られて数週間程経った頃だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また、実験。私をレッドにする為だと、あの男達は嫌がる私の身体を押さえつけて薬を打つ。身体が焼ける様に熱くなっても、激痛が走っても、止めてくれない。

 

 両親に売られて、私は実験動物になった。最初は叫び続けた。だけど誰も助けてなんてくれない。三日もすれば、叫ぶ事が無意味なんだって分かる様になった。寧ろ叫べば叫ぶほど、喉が痛くなって、叫ぶ元気があるんだって思われる様になる。

 

 きっと私を売ったお金で、2人は飢えに苦しまない生活をしているんだ。大好きだった人の姿が霞んで行った。もう、顔を思い出せない。思い出したく、ない。

 

 楽しかった村での記憶。薄れてしまう過去。薬の影響なのかもしれない。あれから何日経ったのかも、私には分からない。私はこのまま、この人達の実験体として生き続ける事になるの? 誰も、私を助けてなんて……。

 

「? ぇ……」

 

 突然、足に何かフワフワなものが触れた様な気がした。蹲って顔を伏せていた私は、それを確認しようと顔を上げて……居る筈の無い存在に気付いた。

 

 思い出した村での記憶。可愛い小さな白猫と戯れた癒しの記憶。私はこの子が大好きだった。懐いてくれていたと思う。でも、こんな場所まで私を追ってくるなんて思いもしなかった。嬉しいけど、怖くも感じる。もし誰かに見つかったら……逃がさなきゃ。

 

「逃げ、て……ぁ」

 

 何処から入ったかなんてわからない。だけど私は必死で身体に力を入れて、この子を逃がそうとした。だけど私は立ち上がる事も出来なくて、そんな私を心配するみたいに逃げようとしてくれない。……っ! 誰かの足音が聞こえる。ここで聞こえる足音の正体が誰かなんて、考えるまでもない。

 

「ぁ」

 

「なんだ、立ち上がろうとしたのか? もう元気みたいだな。時間を早めるか」

 

 檻の外から、私を見つめる研究者。眼鏡の向こう側に見える目は、私を人と思ってない。

 

 それだけ言って、その人は何処かへ行ってしまった。この子の事に気付いていない様子で、私はホッとする。でも同時に何でばれなかったのか疑問にも感じる。答えは簡単だった。研究者の人が見えない位置に、隠れていたみたい。まるで見つかったら不味いって分かってるみたいに。

 

「ぁ……」

 

 私から離れて、人では絶対に通れない檻の隙間から外へ出て行ってしまう。居なくなってしまうと分かって感じる孤独感に私は辛くて、苦しくて……そんな私に聞こえて来た声は、不思議と私の心に入り込んで来た。

 

「……必ず、助ける」

 

 あの子の姿はもう、見えない。だけど私はきっと助けてもらえるって、信じられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験は続いた。私は突如としてレッドの力に目覚めてしまった。もう、純粋な人間じゃない。研究者達は、一様に喜んでいた。人為的にレッドを作る研究、だったんだから当然なんだと思う。……これで、私は研究から解放される。実験から、解放される。そう、思っていた。

 

 人為的にレッドとなった私への研究はまだ続いた。レッドの進化や繁殖なんかも調べるって、そう言っていた。私は誰かが助けに来てくれるまで、永遠に逃げられないんだって……そう悟った。

 

 『必ず、助ける』。その言葉が私の拠り所だった。誰か分からないけど、何故か信頼出来るその言葉。私を思ってくれる誰かがきっと居るんだって。そう思わないと、心が耐え切れなかったから。音も無く、だけど軋む様に壊れそうな心を繋ぎ止めてくれている。

 

「なんだ? うわぁぁぁぁ!」

 

「!」

 

 突然、檻の向こうから男の人の悲鳴が聞こえて来た。何時かの様に座って蹲っていた私は、いきなりの事に驚いて顔を上げる。

 

 何かが割れる様な音がした。何かを裂く様な音がした。悲鳴が聞こえて来る。でも、すぐにそれは収まった。何時もの静寂が返って来るけれど、檻の向こうで何かが起こったのは間違い無い。私はレッドになった事で最初に比べて動ける様になった身体を立たせて、檻の傍に近づいた。

 

 何かの金属がぶつかる様な音が、徐々に近づいて来る。それが鍵束の音だと気付いたのは、何時も私をここから連れ出す研究者がそれを持っていたから。誰かが私をここから出す為に近づいて来ているのは明白で、だけどその速度は余りにも遅い。ゆっくり、ゆっくり、その音は近づいて来る。

 

「……」

 

「……」

 

 やがて見えて来たその人の姿に、私は声が出なかった。ここに居るのは研究者の男の人達だけ。私よりも小さな女の子が居る筈なんて無い。もし居たとしても、私と同じ様に実験体にされている筈。だから、ここに居た人じゃない。それに……こんなに血に濡れてる(・・・・・・)筈もない。

 

 女の子が鍵束を使って、檻を開けようとしてくれる。何度か鍵を交換して、数本目でやっと檻の開いた音がした。その子は檻を開けて、私と目を合わせる。そして中に入って来て……私に凭れ掛かる様に倒れて来た。驚きながらも咄嗟に受け止めたその身体はとても軽くて、暖かかった。

 

「……助けに……来た」

 

「っ! ぁ……ぁ……ぅあぁ!」

 

 声にならない声が漏れて、涙が溢れて来る。女の子の声は、私がずっと縋って来た言葉の声と全く同じだったから。私を思ってくれる誰かが、この子なんだって分かった。会った事は無い。もしかしたら忘れてしまっているのかもしれないけど、この子は私を助けに来てくれた。

 

「ぇ……」

 

 ふと、受け止めて抱きしめた手が血に濡れているのに気付いた。まだ乾いていない血。女の子の姿は血みどろで、それがこの子自身の血だと私は初めて気付いた。

 

 それからは必死だった。檻の中にあったベッドのシーツや水を使って、出来る限りの処置をする。医療の知識も無いから、嘗て両親がしてくれた事を朧げに思い出しながら。何とか出血を止める事が出来たと分かって安心した時、その子の身体が突然光り始めて……見覚えのある小さな白猫がそこに転がっていた。

 

「貴女、だったのね……」

 

 フワフワの毛並みも今は赤く染まっていて、それでもこの子が私にとってどんな存在だったのかは鮮明に思い出せる。驚きはしているけど、それ以上に安心感が私の中にあった。ここへ来てから出会った時。ううん、きっとそれより前から私を助けようとしてくれていた。

 

 出来れば怪我をしたこの子を安静にさせておきたいけど、今はきっとここから出た方が良いんだと分かる。だって、この子は私を逃がす為にこんな怪我を負ってまで助けに来てくれたのだから。私は子猫になった小さな身体を抱えて、檻から外へと飛び出した。

 

 外へ出る途中、酷く荒れた部屋を通り抜けた。薬品の入っていた瓶が殆ど落ちていて、人も倒れている。中には私に実験をしていた人も倒れていて、生きてるのか死んでるのか分からない。恨みはある。もし出来るなら、この手で……そう思っても、今はそんな事をしてる場合じゃないって思って、すぐにその場を後にした。

 

 こうして、私は小さな小猫の手によって地獄の日々から解放された。もう、村へ戻ろうとは思わない。大人を信用しようとも、人を信用しようとも思わない。私の心を支えてくれて、私を救いだしてくれたこの子だけが、私の信じられる全てだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、眩しい光に目が眩む。……随分、懐かしい夢を見ていた様な気がする。私にとって最低で、だけど私にとって一番大事な存在を認識出来た過去の夢。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「良かった。貴女と一緒に、居られて」

 

 隣で眠る小さな白猫の姿に、私の中にあった不安が無くなって行くのを感じる。私はその身体を起こさない様に抱き締めて、敏感過ぎるその羽の部分を痛くない様に撫でる。根元を残して失った(・・・・・・・・・)彼女の羽。あの後、目を覚ました彼女は何かに気付いた様に涙を流していた。でも、その後に私を見て言った。『……無事で、良かった』って。私を助ける為に、彼女が何か大事な物を失ったんだってすぐに分かった。

 

 あの出来事からもう数年が経っている。私達は2人で協力して生きて来た。人に恐怖を感じる様になってしまった私を、彼女は支え続けてくれた。今では知らない人と出会っても支障が無いくらいに話は出来る様になったと思う。そのお蔭で、とあるプライドに入る事にもなった。

 

 皆、優しい人。リーダーの人もレッドに対して差別や偏見を持っていなくて、所属するレッドは皆笑っている。それはとても優しくて、私の求めた世界なのかもしれない。……だけど、時々怖くなる。プライドに入ってから、私達に関わって来るレッドは多くなった。私じゃなくて、ハクを目当てに近づいて来るレッドも。

 

「貴女が私の傍から離れてしまったら、きっと私は私のままじゃ居られなくなってしまう」

 

 こうして一緒に眠り、一緒に起きる事が出来なくなってしまったら、私は壊れてしまうかもしれない。あの時壊れかけた心を支えてくれたのは彼女で、今もそれは続いているのだから。

 

 それに、私は気付いている。あの時、私を助けてくれた後。何かを失った事に気付いて涙した彼女は、その日から私の傍を離れた事が無い。きっと私とは別の、私の知らない何かを失って折れそうになった心の支えに私は成れた。……ううん、そうするしか無かったのね。

 

 私達はお互いを支えに生きている。どちらかが欠けてしまえば、二度と立ち上がる事の出来ない関係。ある人に共依存と言われた事がある。それはよくない事だとも。だけど、私はこれで良い。これが、良い。私には彼女が必要で、彼女には私が必要なの。これからもずっと、私達は一緒に居る。それだけで、幸せだから。




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