「お仕事? うーん、そうだなぁ~……良いよ☆ うちで雇ってあげる!」
「……よろしく……お願い、します」
「敬語なんて止めてよ! 確かに上司になっちゃうけど、今まで通りにして!」
第二地域にあるカジノ。その支配人兼エリアリーダーでもあるモンスター娘、パパインの元を訪れたハクは彼女の元で働かせて欲しいとお願いをしていた。
新たな世界で出会った者たちの欲望を満たす内にこの世界の危機をも救う事になったハク。数多くのモンスター娘と出会い、その対象を見つけながら過ごしていたハクだが、今の世界においてハクは自身の飼い主とも言える存在が居なかった。飼い主になりたいと言い出す者は居るが、基本的にそれは欲望を満たしたモンスター娘ばかり。まだ世界中に居る誰かを探す上で、その相手の場所に住み続ける訳にはいかなかった。
そこでハクは旅立つ事を決意した。今の街からいずれ離れる事を。だが旅をする為には色々な準備が必要であり、先立つ物を求めたハクは最初に仕事を探す事にしたのだ。運よく共に戦った仲間の中には商売を生業とするモンスター娘のパパインが居た。故にこうして彼女から仕事をもらいに来たのである。
「うちは今、闇堕ちしちゃってたせいでお客さんも従業員も減っちゃったからさ。人手不足で困ってるんだ。ちょうど良かったよ!」
「……何を、すればいい?」
「取り合えずカジノでの接客がうちでは基本かな。これが制服だよ☆」
「…………」
何処からともなく取り出された全体的に黒い服。それは俗にいう『バニーガール』の衣装であった。肩や背中は完全に露出するように生地が存在せず、何故か大人の女性が着るであろうその制服はハクにピッタシの小さいサイズである。
「頭にはうさ耳も付けてもらうけど、猫耳の方がハクの場合はあってるかもね? 一応、用意しておくね!」
パパインの仕事場で仕事をしようと思った以上、こうなる事をハクは覚悟していた。更衣室の場所を聞いてまずは来てみる事になったハクは、小さなバニーガールとなって再びパパインの前へ姿を現す。色気よりも幼気な少女がそれを着る背徳感の様なものを、パパインは見た瞬間に感じる。ハクが無意識に上下を両腕で隠す仕草をすれば、その行為が余計に背徳感を増幅させていた。
「これは……他のお客さんには見せられないかも。『子供になんて格好させてるんだ!』ってクレームが来ちゃうね」
「……私服、だめ?」
「ハクだけ特別扱いはうちの感情ではしたくても、しちゃ駄目な事なんだよ。でもハクの力にはなってあげたいし……そもそも、どうしてお金が必要なの? 今までお金の事なんて何にも言わなかったよね?」
「実は……」
ハクはパパインの質問に対して正直に答える。何時か旅立つ事。旅立つ資金が必要な事を。
「えっ!? じゃあ、いつかハクは何処かに行っちゃうって事!?」
「ん……そうなる」
「そんな……。そんなのって」
パパインはそれを聞いてショックを受ける。そして同時に自分がお金を渡す事で、ハクが居なくなってしまうかもしれないと分かってしまった。しかしそれが嫌だからといって急にお金も上げず雇わないと言えば、ハクから嫌われる可能性も十分にある。そんな思考を即座に巡らせたパパインは少し悩む様な仕草をした後、思いついた様に顔を上げた。その表情は何処か決意した様で、少し言い難そうにパパインは告げる。
「ハク。うちと、個人的な契約をしてみない?」
「……個人的な、契約……?」
パパインからされた仕事の提示にハクは首を傾げるしかなかった。
パパインから提示された仕事、『個人的な契約』。その詳細はとても簡単なものだった。
1.パパインが呼び出した際は必ず来る事。
2.他の誰にもこの契約を知られてはいけない。
3.お金は会う度に支給。その額は日によって変化する。
「……仕事?」
「正直よくない事なのは分かってるんだけど、ハクを独占したいって思ったらこんな内容になっちゃったんだよ……」
「……会ってお金は……駄目。友達、だから……」
「ハクぅ……でも、お金が欲しいんでしょ? だったらうちがあげるから、旅立つまではうちと一緒に居てよ!」
だがこの仕事ともいえない契約を交わしてしまえば、明らかに互いの間に溝が生まれてしまう。お金の関係ともいえる様になってしまうのは、ハクとしても望まない事であった。しかしパパインは必至であり、気に入っているハクが居なくなってしまうが故の提案。
もう提示してしまったからには後に引けない。そんな様子でパパインは言葉巧みにハクとの契約を確約させようとする。彼女は根っからの商売人であり、相手の想いを上手く汲み取って自分の思い通りに進む様に話をするのが得意でもある。ハクはかなり契約に関して渋っていたが、最後にはその交渉によってパパインとの契約を取り付けるに至るのだった。
それから、ハクはパパインの元へ通う様になる。それは勿論契約したからであり、カジノの営業を従業員に任せたパパインは第二地域にある自身の住処へハクを招き入れた。世界を救うまでは宿屋で過ごしていたが、殆どのモンスター娘は自分の住んでいた地域に戻っているのだ。元々住んでいた場所があるため、当然である。
「いやぁ~、今日も繁盛繁盛。でも疲れちゃったよ~」
「……お疲れ」
「うん。はぁ~、癒される~☆」
契約を結んで一緒に居る様になったパパインだが、彼女は決してハクに対して手を出そうとはしなかった。ただ疲れた身体を癒してもらう様に、膝枕や添い寝などが基本。仕事であった出来事やクレーマーといった迷惑な客に対するストレスも、そこで発散しているのだ。今日も帰ってきて早々、ハクの膝に頭を乗せてリラックスし始めていた。
「んぅ~、ハク。頭撫でて!」
「ん…………よし……よし」
「ふぁ~、最っ高……っ!」
ハクに頭を撫でられて心地良さそうに目を細めながら、パパインは幸せを感じていた。邪な思いもあって始めた個人的な契約だが、結局はハクに甘やかしてもらうための契約に過ぎない。健全な内容ばかりだった事で、ハクは自らの想像に少し恥ずかしさを感じつつも安心していた。これが仕事となっているのかは甚だ疑問を抱いているが、パパインはご満悦の様子である。
「今度、秘湯に行かない? 妖精さんに貸し切り出来るか聞いたんだよね。オッケーだってさ!」
「秘湯……貸し切り……ん、行く」
冒険の最中、ハク達は世界を救う過程で各地域に秘湯がある事を知った。最初から人数が多かった訳ではないが、それでも温泉に入るとなれば多くのモンスター娘と一緒に入る事が当たり前。近づいてくる者が必ず居り、破廉恥に胸や身体を触って来る者も居た為に安心して浸かるのは難しい事でもあった。だがパパインと2人だけなら、妙な事をされる心配もないと思ったのだろう。ハクは頷いて了承する。
「やった☆! 他の子には知られない様にね? 絶対、一緒に来るって言い出すからさ」
「分かった……何時?」
「う~ん、そうだなぁ。まだしばらくは経営を立て直すのに忙しいから……」
パパインはハクの膝に頭を乗せたまま、仰向けで両手の指を動かして今後についての計画を立て始める。
ハクは契約から始まったこの時間を少しづつ気に入り始めていた。恥ずかしい事をする事もされる事もなく、自分と同じくらいの女の子を労う時間。パパインの人柄を今まで以上に知る事にも繋がり、ハクは彼女に対してその信頼を徐々に深めていた。……それを変わらぬ表情越しに見透かしたパパインは、天井からハクへ視線を向けて笑みを浮かべる。
「良い調子、良い調子」
「? 何か、言った……?」
「ん~、何にも言ってないよ?」
「……そう」
それがパパインの計画通りである事にハクは気付かない。
何時かハクは知る事となる。甘える事が依存に繋がるのならば、